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星の運行者

星の運行者

更新日時: 2026-08-21 03:28:32
言語:  日本語16+
4.3
12 評価
60
エピソード数
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ファイナルファンタジータクティスのファンフィクション。(※2026-08-20更新) ※エンハンスドの設定優先していますが所々PS版・PSP(獅子戦争)版のような設定が入っております。FF12の設定はほんのり乗せ程度。あと捏造改変マシマシです。


現代日本で生きていた女性『大和 璃子』はある日、死を迎えた。死因は過量服薬による自殺。 彼女はずっと孤独に苛まれ、心根の優しさに漬け込まれ利用された挙げ句裏切られるということを繰り返され、家族にも心を理解されない絶望を抱えたまま、その死を選んだ。 もう二度と目が覚めないように、もう二度と命あるものに生まれない様に願いながら。 しかし目を覚ましたのは、中世の様な世界。そこは剣と魔法があり、機械や科学などといった技術はほぼ進歩していない世界だった。 そして、彼女はそんな世界にあるイヴァリースという国の下級貴族の家に生まれた。レディアント家の長女として。 『ステラ』と名付けられ彼女には兄が二人、弟が一人。 ステラが貴族学校へ入学を考える時期、国内では王家の跡目争いの火種が燻り始めていた。兄二人は黒獅子公と呼ばれるゴルターナ公の陣営で騎士として戦地へと向かった。 そんな折、二人の兄の相次ぐ死の知らせが届く。ステラは貴族のお嬢様としての教育を受けるのではなく、弟が安全に家督を継げる様、そして万一のスペアになることを両親に提案した。 それは、士官アカデミーに通い男性としても振る舞えるよう学習するということだった。 両親は渋々だったが、長男と次男を立て続けに失い、三男も失うわけには行かぬとそれを了承し、ステラは貴族学校ではなく士官アカデミーへと入学するのだった。 そこでステラは類稀なる魔法の才を持っていたのが判明する。士官アカデミーで教官である魔道士が放った魔法を一目で見ただけで覚えてしまい、完璧にそれを使いこなしてしまうのだ。 それを知った両親はステラの士官アカデミー卒業間際に、ある懸念を覚えた。そんな才能を持つなら、どこの陣営に所属しても喜んで戦地へ送り出すだろう。 敬虔なグレバドス教の信徒である両親はあることを思いついた。あの騎士団であれば、政争にやたらと関与することはないだろう、と。 その考えが、ステラの人生と、イヴァリースの行方に大きな影響を与えることを、誰も予想していなかった。


エピソード1

「ステラ」という名前は、彼女がかつて生きていた世界では『星』を意味する言葉だった。


夜空を見上げるたび、彼女――大和 璃子(やまと りこ)であった頃の記憶を持つステラは、自嘲めいた笑みを浮かべる。もう二度と生まれ変わりたくない。消えてなくなりたい。そう願って自ら命を絶ったはずが、どういうわけか、赤子として再び生を受けてしまった。


目の前に広がるのは、剣と魔法が息づく中世ヨーロッパによく似た世界、イヴァリース。科学も機械も存在しない代わりに、人々は魔法の力を当たり前のように使い、貴族が平民を支配し、グレバドス教への信仰が深く根付いていた。


(冗談じゃない……)


赤子の小さな体を動かすこともできず、意味のない泣き声を上げながら、璃子の意識は絶望に沈んでいた。前世で信じた人々に何度も裏切られ、心がずたずたに引き裂かれ、誰のことも信じられなくなった。家族との関係も冷え切っていた。だから、もう終わりにしようと思ったのだ。なのに、どうして。


ステラ・レディアントとして生を受けた彼女は、前世の絶望を抱えたまま、心を固く閉ざして成長した。今度こそ、誰にも期待しない。誰のことも信じない。そして、できるだけ早く、苦しまずに死のう。


幸い、この世界は好都合だった。五十年にも及ぶ長きにわたる戦争がようやく終わったというのに、今度は王の跡目争いをきっかけに国内が二つに割れ、貴族たちが泥沼の内乱を繰り広げている。下級貴族であるレディアント家も、その渦中から逃れることはできない。騎士団にでも入れば、嫌でも戦地に送り出されるだろう。そこでなら、自害という後味の悪い手段を選ばずとも、あっけなく命を散らせるに違いない。


それが、彼女が見出した、この世界で最も効率的な死に方だった。


その計画を実行に移すきっかけは、唐突に、そして悲劇的な形で訪れた。ステラが十五歳になった年の秋、ざあざあと冷たい雨が降りしきる日のことだった。


「兄様たちが……戦死?」


母の嗚咽と、父の口から兄たちの死を告げる、絞り出すような声が、がらんとした広間に重く響く。兄が二人いた。どちらも家のために騎士となり、黒獅子公の軍に従っていた。その二人が、同じ戦で命を落としたという報せだった。


父は顔を覆い、母は侍女に支えられながらその場に崩れ落ちる。残されたのは、まだ幼い弟と、そしてステラだけ。家督を継ぐのは弟だろう。だが、このままでは弟も兄たちと同じ道を辿ることになる。戦地に送られ、犬死にする。その光景が、ありありと目に浮かんだ。


(死ぬのは、私だけでいい)


それは同情ではなかった。愛情でもない。ただ、自分の計画のついでに、無駄な死が一つ減るのなら、それも悪くないと思っただけだ。一種の合理的な判断。冷たい計算。ステラは静かに立ち上がると、震える両親の前に進み出た。


「お父様、お母様。私を士官アカデミーに行かせてください」

「何を……何を言っているんだ、ステラ!お前は女だろう!」

「兄様たちの代わりを務めます。弟を戦場に出さないためにも、私が盾となりましょう。アカデミーでは、男としての振る舞いも、剣の使い方も、すべて学んでみせます」


彼女の瞳には、涙一滴浮かんでいなかった。そのあまりに落ち着き払った、感情の欠片も感じさせない声に、両親は言葉を失う。娘の申し出は無茶苦茶だったが、同時に、追い詰められた彼らにとって唯一の蜘蛛の糸にも思えた。しばらくの沈黙の後、父は力なく頷いた。


「……わかった。そこまで言うのなら」


こうして、ステラはレディアント家の男子の代わりとして、王立の士官アカデミーの門を叩くことになった。


アカデミーでの生活は、彼女の特異な才能を白日の下に晒すことになった。それは、魔法の実技訓練でのことだった。


「いいか、訓練生ども!今から俺が放つ『ファイア』をよく見ておけ!魔力の流れ、呪文の構成、そのすべてを体に刻み込むんだ!」


教官が詠唱と共に右手を突き出すと、その先からごう、と音を立てて炎の球が生まれ、的めがけて飛んでいく。他の生徒たちが「おお……」と感嘆の声を漏らす中、ステラはただじっとその光景を見ていた。不思議な感覚だった。教官の魔法を見ていただけなのに、その術式、魔力の練り方、魔法が形を成すまでの全工程が、まるで昔から知っていたかのように、すっと頭の中に流れ込んでくる。


「よし、次は貴様だ、レディアント!やってみろ!」


指名され、ステラは無感情に一歩前に出る。深呼吸も、祈りも、気負いもない。ただ、先ほど見た教官の動きをなぞるように、右手を突き出した。


「――ファイア」


彼女の口から零れたのは、たった一言。すると、手のひらの先に、教官が放ったものよりも遥かに大きく、安定した炎の球が瞬時に形成され、的を黒焦げにした。


訓練場が、しんと静まり返る。ラーニングという、魔法をその身に受けて初めて習得する能力を持つ者は稀にいる。だが、ステラのはそれとは根本的に違った。ただ視認するだけで、呪文すら聞かずとも、魔法の本質を完全に理解し、己のものとしてしまうのだ。


その日を境に、ステラは「神童」あるいは「怪物」として、アカデミー中の注目を集めることになった。一度見ただけでどんな魔法でも使いこなし、しかもその威力はオリジナルを凌駕する。その噂はすぐに両親の耳にも届き、新たな悩みの種となった。


「ステラ……卒業後は、どうするつもりなの?」


束の間の休暇で実家に戻った彼女に、母が不安げな顔で問いかけた。


「どう、とは?」

「その力……あなたのその異常なまでの魔法の才能のことよ。黒獅子公も、白獅子公も、そんな力を持つ者を放っておくはずがないわ。どちらの陣営に付こうと、あなたは喜んで最前線に送り出されることになる。危険な任務に、使い潰されるまで……!」


母の言う通りだった。むしろ、それこそがステラの望むところだ。だが、彼女はそれを口には出さず、黙って紅茶をすする。


「私たちは、もう子供を戦で失いたくないの。兄さんたちだけで……もう十分よ」母が、縋るような目で言った。それに続けて父も胸を痛めているかのように零した。「だから、ステラ。お願いだ。どちらにも属さない、政争に関わらない騎士団に入ってくれないか」

「……政争に関わらない騎士団、ですか」

「ああ。グレバドス教会の神殿騎士団だ。あそこなら、王家の内乱には基本的には干渉しない、異端者の対応や聖地の守護、教会の要人警護が主な仕事となるだろう。公爵たちの争いからは距離を置いている。お前の力を醜い争い事のために使うこともないはずだ」


神殿騎士団。その名を聞いて、ステラは思わず眉をひそめた。死ぬために騎士になるのに、最も戦争から遠い場所へ行けと言う。本末転倒もいいところだ。


(どこまで、私の邪魔をするんだ……)


心の中で毒づきながらも、彼女は両親の憔悴しきった顔を見た。アカデミーへの入学を許してくれた恩もある。弟を守るという約束もした。そして、娘らしい生き方をさせてやれないという、彼らなりの罪滅ぼしの気持ち。それらが、重い枷のように感じられた。


「……わかりました」


長い沈黙の末、ステラは静かに答えた。


「アカデミーに通わせてくれたご恩もあります。お父様とお母様の言う通りにしましょう。卒業後は、神殿騎士団の入団試験を受けます」


その言葉に、両親はほっと安堵の息を漏らした。まさか、その神殿騎士団こそが、内乱の裏で最も暗く、深く蠢いている組織だとは夢にも思わずに。


ステラは、差し出された新たな運命を、ただ静かに受け入れた。戦場で死ぬという最短ルートは閉ざされた。少し、遠回りになるだけだ。そう自分に言い聞かせながら、彼女は窓の外に広がる、見慣れない空を見つめた。あの星空の下に帰りたい、と願った魂は、今や教会の星の紋章の下へと導かれようとしていた。皮肉なものだと、彼女は唇の端を歪めた。

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