説明
清純派アイドルとして人気絶頂の詩織は、バリ島で初めての写真集とイメージビデオの撮影に行くことになる。
エピソード1
東京の夜景を背に、蛍光灯の白い光が静かにスタジオを満たしている。
照明の熱が、まだ肌に残っている。メイクを落としたばかりの顔は、鏡の中ですこしだけ幼く見えた。目の下の薄い疲労の色。それでも、肩の力が抜けている。今日のCM撮影は無事に終わった。カメラの前で笑い、歌い、スタッフに頭を下げて――詩織の日常は、そうやって形作られている。
「お疲れ様でした」
詩織は礼を言いながら、ドレッサーの椅子から立ち上がった。隣の部屋からはプロデューサーやマネージャーの話し声が聞こえている。かばんを手に、楽屋のドアノブに手を伸ばした。そのとき。
「詩織くん」
ドアの向こうから顔を覗かせたのは、事務所の重役だった。禿げ上がった頭に脂の浮いた笑顔。後ろには、もう一人――
「ちょっと、話があるんだ。こっちに来てくれるかな」
アロハシャツにハーフパンツ。サングラスを頭に押し上げ、麦わら帽子を手に持った初老の男。細い目が、詩織の全身を舐めるように動いた。詩織は背筋を伸ばし、動きを止める。指先が、かばんの取っ手を握ったまま、微かに震えている。この男のことは知っている。青山。芸能界で知らぬ者のいない、美少女専門カメラマンの大家だ。
言い知れぬ胸騒ぎを覚えながらも、詩織は重役たちの後に続いた。
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スタジオからほど近い、事務所の応接室。
重厚な扉が閉まると、外の物音は完全に遮断された。窓のない密閉された空間。磨き抜かれたテーブルと、革張りのソファ。空調の音だけが静かに唸っている。
詩織はソファの端に腰掛け、両手を膝の上で揃えた。正面には重役と青山が並んで座っている。マネージャーは、詩織の隣に立ったまま、無言で床を見つめている。
「急に呼び出してすまなかったね、詩織くん」
重役が口を開いた。手元の封筒を取り出し、テーブルの上に滑らせる。
「君のキャリアにとって、非常に重要な話だ」
詩織は封筒を見つめた。開けない。
「……グラビア、ですか」
小さな声で、詩織は言った。重役は一瞬、言葉を詰まらせた。隣の青山が、静かに笑う。
「さすがだね、詩織くん。話が早い」
青山の声は、低く、よく通る。皺の深い顔に浮かんだ笑みは、しかし目にまで届いていない。
「本格的な写真集だ。ロケ地はバリ島。きみの清楚なイメージと、南国の開放感のコントラストを、アート作品としてまとめる。私が自ら撮る」
詩織は、膝の上で組んだ指を、ゆっくりと握り締めた。
「……水着に、なるんですか」
言葉にした瞬間、喉の奥が熱くなった。青山の目が、もっと細くなる。
「もちろん、そういうカットもある。だが、これはアートだ。単なる水着グラビアとは違う。きみの美しさを、最も高尚な形で残す作品だよ」
重役が身を乗り出した。
「詩織くん。青山先生といえば、あの業界の巨匠だ。先生が君に目をつけてくれたんだ。芸能界で生きていくなら、これは絶対に逃せないチャンスだ」
「……アート、なのですか」
「もちろんです」
マネージャーが、ようやく口を開いた。その声には、萎縮した色が滲んでいる。
「青山先生の写真集は、どれも芸術作品として高く評価されています。詩織さんのイメージを崩すようなものでは、決して……」
「そう。イメージを崩すなんて、とんでもない」
青山が、ソファから立ち上がった。ゆっくりと、詩織の正面に回り込み、テーブルに手をついて身を屈める。距離が縮まる。なま暖かい呼気が、詩織の前髪を揺らした。
「むしろ、逆だ。清純派のきみが、ほんの少しだけ大人の色気を見せる。そのギャップが、きみを更に上のステージへと押し上げる。そうは思わないか」
詩織の視界の中で、青山の顔だけが、異様に大きく映った。皺。シミ。加齢臭。吐き気が込み上げるのを、喉の奥で必死に押し殺す。手のひらに、じっとりと汗が滲んだ。
「……考えさせて、ください」
拳を握り締めたまま、詩織は言った。
青山がゆっくりと距離を取り、再びソファに腰を下ろす。重役と視線を交わし、口元だけで笑った。
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三十分後。
マンションのエントランスで、詩織は公人と対峙していた。幼馴染の顔は、街灯の下で蒼白く浮かび上がっている。
「……グラビアだって?」
公人の声は、震えていた。
詩織は、うつむいたまま黙っている。アスファルトの上に落ちた自分の影が、やけに小さく見えた。
「嫌なんだろ。お前、絶対に嫌なはずだ。そういう、性的な視線に晒されるのを、一番嫌がってたじゃないか」
「……仕事だから」
「仕事って、そんな」
「決めたの。私が」
顔を上げて、詩織は無理やりに笑った。公人は何かを言おうとして、しかし言葉を見つけられず、ただ口をぱくぱくと動かした。
「それで、ロケはどこなんだ。期間は」
「バリ島。一週間」
「海外かよ……。よし」
公人は突然、アスファルトを蹴って駆け出した。詩織が止める間もなく、事務所の方向へ走っていく。細い背中が、夜の闇に吸い込まれていく。
翌日。
事務所で公人がバイトスタッフとしての同行を直訴し、警備員に取り押さえられそうになったまさにその時、偶然通りかかった青山が足を止めた。一瞬だけ公人を一瞥した青山の、細い目が、わずかに見開かれる。それから、深い皺を更に深めて笑ったのだ。
「いいでしょう。私が許可します。連れて行きましょう」
その不可解な笑みの意味を、その場の誰もが理解できなかった。
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ロケの出発日まで、二週間。
「打ち合わせ」と称して、詩織は青山のスタジオに何度も呼び出された。
最初の呼び出しは、青山のプライベートスタジオだった。都心の雑居ビルの地下。階段を下りていくと、ツンと鼻をつく現像液の匂い。壁一面に貼られた、少女たちの写真。どれも年端もいかない少女たちが、恥ずかしげなポーズを取らされている。笑っている顔。泣きそうな顔。
「ようこそ、詩織くん」
部屋の中央で、青山は三脚を組み立てていた。傍らには、ハンガーラックに吊るされた数着の衣装。白いワンピース。セーラー服。薄いピンクのベビードール。
「今日はカメラテストと、簡単な衣装合わせだ。これも仕事のうちと思って、付き合ってくれるね」
詩織は返事をしなかった。ただ、背筋を伸ばして部屋の中央に歩み寄る。青山はカメラを構えることなく、まず衣装を手に取った。
「まずは、これから試そうか」
差し出されたのは、白いワンピースだった。透けるほど薄い素材。手に取ると、下着のラインが見え透いてしまうのがすぐにわかる。
「……これ、下に何も着られません」
「大丈夫だ。試着だけだ。誰も見ていない」
青山の目が、ゆっくりと詩織の身体を這い降りる。胸元。腰のくびれ。太腿。その視線の先が、まるで湿った指で触れられているようだった。
マネージャーは、いない。事務所の重役も、いない。いるのは詩織と、青山だけだった。
「……わかりました」
決心して、詩織は着替えを始めた。背を向け、制服のブラウスのボタンを外す。震える指先。ホックを外し、スカートを下ろす。背中に、青山の視線が突き刺さる。
その時だった。
「……きれいな背中だ」
すぐ背後で、声がした。振り返ろうとしたとき、もう肩に指が触れている。素肌に直接触れる、ゴツゴツと節張った指。冷たい。
「ひっ……!?」
「動かないで。後ろホックを留めてあげよう。この衣装は、後ろで留めるタイプだ」
背中のホックに指がかかる。しかし、その指は留め金を探すことなく、ゆっくりと背骨をなぞって下りていく。腰のくびれのところで、指先が止まった。
「や、やめて……」
「何を言っている。撮影中も、こういうサポートは必要だ。今のうちに慣れておきなさい」
声を出そうとした。唇が震えるだけで、言葉にならない。身体は硬直し、指が背中を這う感触だけが、異常に鮮明に感じられた。
その日、詩織はファーストキスを奪われた。
衣装合わせの最中、不意に顎を掴まれ、上を向かされた。青山の顔が近づき、生暖かい舌が、唇をこじ開ける。歯列をなぞり、逃げ惑う舌を捕まえ、吸い上げられる。
頭の中が真っ白になる。吐き気。嫌悪。それと同時に、初めて知る他人の粘膜の感触が、身体の奥の何かを、微かに震わせる。その震えを、青山は見逃さなかった。
「純情だな、詩織くんは」
唇を離し、青山は糸を引く唾液を指で拭った。詩織はその場にしゃがみ込み、唇を押さえて声もなく震える。
「だが、これから、もっと色々なことを教えてあげよう。撮影が、より良いものになるためにね」
その日の帰り道。電車の窓に映る自分の顔。唇が、まだ気持ち悪い。誰にも言えない。公人にも、絶対に。そう思うと、身体の芯が冷え切った。
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二度目、三度目の呼び出しでは、青山の接触はいっそう露骨になった。カメラテストと称して、薄い衣装のまま様々なポーズを取らされ、そのたびに青山の手が身体のあちこちに伸びてきた。
「ここは力を抜いて。そう、もっと自然に」
肩に置かれた手が、ゆっくりと鎖骨をなぞり、そのまま胸元へと下りていく。
「……!」
詩織が身を強ばらせると、青山は耳元でささやいた。
「邪魔なものを取るだけだ」
ブラウスのボタンが、ひとつ、またひとつと外されていく。指先からは想像もつかないほど、手際の良い動きだった。貞操を守っていた下着のフロントホックが外され、Fカップの乳房が、白い肌着の下から零れる。淡いピンク色の乳首は、まだ誰にも触れられたことがない。空調の風に当たって、硬くしこり始める。
青山の人差し指が、その先端に触れた。
「いやっ……!」
はじめて声が出た。青山は微笑んだまま、指の腹で乳輪をなぞり始める。ゆっくりと、何かを確かめるように。時計回りに、ゆっくり、ゆっくり。
「感じているんだね。乳首がこんなに硬くなっている」
「ちが……やめて……」
身体が、言うことを聞かない。逃げ出したいのに、足が動かない。契約、違約金、事務所の人たちの顔が頭をよぎる。青山の指が触れているところから、得体の知れない熱がジワジワと滲んで広がっていく。
青山はもう一方の手を、スカートの裾から忍び込ませた。太腿の内側を這い上がり、ショーツの上から秘部をゆっくりと撫でる。
「ここは、まだ誰も触ったことがないんだろうね」
詩織は答えなかった。代わりに、嗚咽が漏れる。身体は正直だった。布地を通して感じる指の圧力に、腰が勝手に引けてしまう。
「初めての感覚に戸惑っているだけだ。怖がることはない。これは、とても気持ちの良いことなんだ」
青山の声はひどく優しく、有無を言わせぬ強さがあった。指が動くたびに、下着のクロッチ部分に湿り気が滲み始める。自分でも信じられなかった。
「いや、いやぁ……」
声はもう、抵抗の形をなしていない。
やがて青山の指が下着の上から敏感な突起を見つけ、そこを執拗に愛撫し始めた時、詩織は初めて知ったのだ。自分の身体に、こんなにも淫らに反応する場所があったことを。背筋を走る、雷に打たれたような衝撃。視界が白く明滅し、膝から崩れ落ちそうになる。
「これが、気持ちいいということだよ、詩織くん」
耳に吹き込まれる声は遠く、自分の荒い息だけが、スタジオに響いていた。
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その夜。
詩織は自宅のマンションに帰ると、玄関にへたり込んだ。
身体が、熱い。青山に触られた場所が、まるでまだ指が這っているかのように、ジンジンと疼いている。バスルームに直行し、シャワーを全開にした。熱い湯を浴びても、身体の内側から湧き上がる熱は、ちっとも冷めやらない。
ベッドに倒れ込む。天井がぼんやりと滲んで見えた。カーテンの隙間から差し込む月明かりだけが、部屋を薄明るく照らしている。枕元のぬいぐるみたちが、一斉にこちらを見ているようで、すべてを壁の方へ向けて伏せた。
目を閉じる。瞼の裏に浮かぶのは、青山の節張った指。耳元で囁く低い声。
『これが、気持ちいいということだよ』
下半身が、また熱くなる。ショーツの中で、秘部が脈打っている。どうしても、気になってしまう。ショーツに手をやる。布地はもう、とっくに濡れそぼっていた。
指が、自分の意思とは無関係に動き出す。これはきっと、身体がおかしくなってしまったのだ。そう思うことにした。
ショーツを脱ぎ捨てる。月明かりに晒された太腿の付け根は、ほのかに汗ばみ、濡れた秘部がてらてらと光っている。恐る恐る、指を伸ばした。青山が撫でたところ。まだ誰にも触られたことのない、一番敏感な突起。
指先が触れた瞬間、身体がビクンと跳ねた。
自分で触るのと、誰かに触られるのとでは、感覚がまったく違う。これは、自分で自分を調べるような、どこか倒錯した行為だった。脳裏に浮かぶのは、依然として青山の顔。あの皺だらけの顔。細い目。嫌悪とともに、身体の奥がまた、熱く疼く。
どうして。
わからない。ただ、指が止められない。
突起の周りを、ゆっくりと円を描くようになぞる。青山がそうしたように。硬くしこった突起を、指の腹で押しつぶす。ぬるぬるとした愛液が指を伝い、シーツに染みを作る。最初は恐る恐るだった動きが、次第に大胆になっていく。
「ん……っ」
唇の隙間から、熱い吐息が漏れた。その声は、自分でも驚くほど甘ったるい。もっと、と身体が欲している。青山に教え込まれた、未知の快楽の続きを。
もう片方の手を、乳房に伸ばした。指で乳首をつまみ、こね回す。胸と下腹部、二つの場所から同時に走る快感の電流が、背骨を駆け上がり、頭の中を空っぽにする。
何も、考えられなくなる。
青山の顔も、事務所の重役の顔も、公人の心配そうな顔も、みんな消えていく。この小さなベッドの上で、ただ快楽だけが、世界のすべてだった。
「あ、ああ……っ」
指の動きが加速する。腰が浮き、太腿が痙攣する。登りつめる瞬間が近づいているのを、身体が知っている。初めての感覚だった。怖い。怖いけど、
もっと、欲しい。
公人のことを考えた。幼馴染の、真っ直ぐな瞳を。私を守る、と言ったあの声を。次の瞬間、その記憶は快楽の奔流に押し流されて消えた。やってはいけない、と深層心理が警鐘を鳴らすのに、指はもっと深く、もっと強く、秘部を刺激する。
「い、いく……っ、ああっ……!」
全身が硬直し、弓なりに反り返る。声にならない叫びが、喉の奥からほとばしった。頭の中が真っ白になる。何も見えない。何も聞こえない。ただ身体の中心から、とめどなく溢れ出す快楽の波が、手足の先まで痺れさせていく。
どれほどの時間が経ったのか。
荒い息を繰り返しながら、詩織は天井を見つめていた。指はまだ、愛液に濡れて光っている。身体は甘く怠く、指一本動かすのも億劫だった。
初めての自慰。初めての絶頂。それは、青山という男によって、無理やりにこじ開けられた快楽の扉だった。そして、詩織自身がその扉を自ら押し広げ、中に踏み込んでしまったのだ。
目尻から、一滴の涙が伝い、こめかみを濡らして枕に吸い込まれた。
どうして、こんなことに。
心の声に、答えるものは何もない。シーツの冷たい感触だけが、虚しさを埋めるように詩織の肌を包んでいた。
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週に二度、三度と呼び出されるたびに、青山の調教はエスカレートしていった。
カメラの前でポーズを取らされ、その姿勢のまま、背後から手を入れられる。胸を揉まれ、乳首をつねられ、スカートの中に手を差し込まれる。最初は強く抵抗の意思を示していた詩織も、回を重ねるごとに、抗うことの虚しさと、逆らうことへの恐怖、そして何より、自分の身体が反応してしまうことへの諦めを覚え始めていた。
「今日は、とても良い表情だ」
青山の指が、詩織の秘部をまさぐりながら、耳元でささやく。愛液で濡れた指を引き抜き、それを詩織の眼前に突きつける。指と指の間で、透明な糸が月明かりのように光っている。
「見てごらん。君の身体がどれほど悦んでいるか」
詩織は顔を背けた。青山はその顎を掴んで無理やり正面に向けさせる。視界の中で、ぬらぬらと光る自分の愛液が、異様に卑猥で、直視できなかった。その夜も、詩織は自宅で自慰行為に耽った。もはや日課のようになっていた。青山の与える快楽と、自分で自分を慰める行為が、地続きになっている。それが何よりも、自分自身を汚しているようで、それでも止められなかった。
ある日のこと。青山はスタジオに詩織を呼び出すと、一枚の紙を差し出した。
「撮影の構成表だ。目を通しておきたまえ」
そこには、バリ島での撮影スケジュールと、衣装の一覧が細かく書かれていた。制服。テニスウェア。ワンピース。そして――
「……全裸、ですか」
声が上擦った。青山は平然と頷く。
「もちろんだ。芸術的なヌードだ。アートのためだよ。君の完璧な肢体を、余すところなく作品として残す」
「そんな……聞いてません」
「今、言ったじゃないか」
青山は笑った。その笑顔には、もはや一片の良心も感じられない。完全に自分は、この男の手中にある。詩織は初めて、その事実を明確に認識した。絶望が、冷たい水のように全身に広がっていく。
「それと、これは事前に渡しておこう」
青山がもう一枚、写真を差し出した。薄い衣装をはだけられ、胸をまさぐられている自分の姿。
「もし、撮影を途中で投げ出したりしたら、この写真がどうなるか……わかっているね」
詩織は写真を受け取ると、その場にへたり込んだ。目の前が真っ暗になった。声も出ない。涙も出ない。ただ、自分の身体が、とてつもなく大きな力に押しつぶされていくのを感じていた。
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出発の三日前。
青山のスタジオに呼び出された詩織を待っていたのは、カメラ機材でも、衣装でもなかった。
「今日は、新しいことを教えてあげよう」
ソファに深く腰掛けた青山は、ゆっくりと自らのベルトに手をかけた。ハーフパンツの前を寛げ、下着をずり下ろす。現れた陰茎は、黒ずみ、血管が浮き出て、すでに硬く勃起している。亀頭は赤黒く濡れ光り、ツンと鼻をつく雄の臭いが、空調の風に乗って詩織のもとへ届いた。
胃の底から、こみ上げるものがある。詩織は一歩、後ずさった。
「……何を」
「撮影中、カメラマンに感謝の気持ちを伝える方法は色々ある。君もアイドルなら、ファンへの感謝を示すだろう。同じだ。これは仕事の一環だ」
青山は、詩織の手首を掴んだ。そのまま引き寄せ、ソファの前に跪かせる。膝に床の冷たさが染みる。目の高さに、青山の陰茎がある。臭い。熱気。鼓動さえ感じるほど近い。
「さあ、口を開けて」
震える唇を、固く結んだまま、詩織は首を振った。青山は、詩織の顎を乱暴に掴み、強制的に口を開かせる。顎関節が、ギシリと軋んだ。
「歯を立てたら、どうなるかわかっているね」
ゆっくりと、亀頭が唇に押し当てられる。異様な熱さ。ぬめり。口の中に、苦い液体の味が広がる。亀頭が前歯を乗り越え、舌の上にのしかかる。
「う、うぇ……っ」
咽頭反射。吐きそうになる。青山は構わず、腰を前に突き出した。陰茎が口腔内を満たし、喉の奥を圧迫する。息ができない。鼻から必死に空気を吸い込むが、それでも足りない。涙と唾液と、先走りの汁が混ざり合って、口の端から顎へと伝い落ちる。
「そうだ、上手だよ。舌を使うんだ」
青山の指が、詩織の髪を掴み、頭を前後に揺さぶり始めた。陰茎が、口の中をピストン運動で出入りする。粘膜の擦れる生々しい水音が、静かなスタジオに響いた。喉の奥を亀頭が突くたびに、えづきが込み上げる。目の前がチカチカと点滅し、酸欠で思考が朦朧としていく。
どれだけの時間が経ったのか。
青山の呼吸が、急激に荒くなる。腰の動きが速まり、陰茎が口腔内で更に膨張する。
「出すぞ、詩織くん……っ」
喉の奥に、熱い塊が叩きつけられた。生臭い。苦い。とてつもなく濃厚な粘液が、口腔全体に広がり、気管を塞ぐ。咳き込みたいのに、頭を押さえつけられて動けない。
「全部、飲み干しなさい。一滴も残さずに」
青山の言葉が、遠くで響く。涙で歪む視界の中で、青山の顔だけが、異様に鮮明だった。口の中に溜まった精液を、喉が反射的に飲み下す。気管に入り込んだ精液にむせ返り、咳き込む。それでも、口の中から無くなってしまうまで、嚥下を繰り返した。
青山が、ようやく陰茎を引き抜いた。
生暖かい精液の余韻が、舌の上に残っている。口の中が、青山の臭いで満たされている。詩織は床に両手をつき、咳き込みながら嗚咽した。唾液と精液が、糸を引いて床に落ち、小さな水たまりを作る。
「良い子だ、詩織くん。これで、撮影の準備は万端だ」
青山はティッシュで陰茎を拭きながら、満足げに笑った。詩織は、声もなく震える。何かが、決定的に壊れた。
その夜、詩織は何度も歯を磨いた。それでも、舌の奥にこびりついた味は、どうしても消えなかった。鏡の中の自分の顔を見る。口元が、ひどく卑猥な形に歪んでいるように見える。公人の顔を思い浮かべようとして、できなかった。あの、真っ直ぐな瞳が、怖かった。
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バリ島出発前夜。
携帯電話の着信音が、静かな部屋に響いた。画面に表示された名前を見て、詩織の指が一瞬止まる。高木公人。幼馴染の名前は、今の詩織にとって、遠い遠い、手の届かない場所にある光のように感じられた。通話ボタンを押す。
「……もしもし」
『もしもし、詩織? 俺、公人だ』
電話越しの声は、ひどく純粋で、真っ直ぐだった。
『明日、出発だろ。準備とか、大丈夫か』
「うん。だいじょうぶ」
『それならいいんだけどさ……。あのさ、詩織』
公人の声が、急に真剣なものになる。
『何かあったら、絶対に俺が守るからな。絶対にだ。俺、そのために行くんだからな。危ないこととか、嫌なこととか、なんでも言えよ』
ぎゅっと、胸が締め付けられる。守る、という言葉が、こんなにも痛い。公人は、何も知らない。私がもう、どれだけ汚れてしまったかも。私が自ら、その汚れに溺れていることも。何も知らない、純粋なままの目で、私の一番遠い場所から、手を伸ばしてくれている。
「……ありがとう」
詩織は、声を震わせながら、それだけを言った。
『おう! じゃあな、明日、空港で!』
電話が切れた。ツー、ツー、という無機質な電子音だけが、部屋に響く。スマートフォンを握りしめたまま、詩織はベッドに倒れ込んだ。天井を見つめる。視界が滲む。涙なのか、単なる疲労なのか、自分でもわからない。
身体はもう、疼き始めている。
今日もまた、青山のスタジオに呼び出されていた。新しい「大人の奉仕」と称して、唇だけでなく、陰茎に舌を這わせ、裏筋を舐め上げ、雁首にキスをし、陰嚢を口に含むことまで仕込まれたのだ。拒否権はなかった。ただ、言われるままに動くことで、これ以上の暴力から身を守る。そうすることでしか、自分を保てなかった。
身体の芯が、熱い。
心は冷え切っているのに、子宮のあたりが、鈍く痛むように欲している。これが、快楽だと刷り込まれた身体の悲鳴なのか、自分自身の淫らな本性なのか。
もう、区別がつかなかった。
詩織は、ゆっくりとショーツに手を伸ばした。指先が布地に触れただけで、身体が期待に震える。これが、明日から始まる一週間の前夜。楽園への招待状は、すでに地獄の底へと繋がっている。
それでも指は、止まらなかった。
最新エピソード
タバコの自販機のあかりだけが、やけに明るかった。深夜のコンビニには客が一人もいない。公人はレジに凭れかかり、ぼんやりと床を見つめている。床には、さっき自分がこぼしたコーヒーの染み。モップで拭いた
部屋の中に、もう時間は流れていなかった。
カーテンは閉じられたまま、何日もそのままだった。昼も夜もなく、ただテレビだけがついている。モニターからこぼれる青白い
汗が、冷えていく。背中とシーツのあいだに、湿った冷たさが層を作っていた。詩織は仰向けのまま、ぼんやりと天井を見つめている。まだ、下腹部の奥深くが、自分のものではないように、小さく規則的に痙攣を
『……私の、処女を。捧げます』
昨夜の、あの誓いの言葉が、まだ耳の奥で反響している。意味のない音の羅列。なのに、頭蓋骨の内側をノックするように繰り返す。公人は







