説明
人間は、どこまでも残酷になれる。
3つの物語と9つの結末。
エピソード1
「ねえ……なんであんたなの?」
真夏の午後の教室。耳障りな蝉の鳴き声が、校舎を激しく揺らしていた。
放課後の誰もいない部屋で、私を見下ろしていたのは、かつて親友と呼び合っていたはずの女子生徒だった。彼女の顔には、今まで見たこともないほど歪んだ嘲笑と、隠しきれない強い嫌悪感が浮かんでいた。
事の発端は、ほんの些細な……けれど彼女にとっては許しがたい出来事だった。
前日、彼女はずっと片思いをしていた男子生徒に意を決して告白し、あっけなく振られたのだという。傷ついた彼女が「どうして私じゃダメなの?」と理由を問い詰めた際、彼が平然と口にしたのが私の名前だった。
「だって俺、あいつのことが好きだから」
ただそれだけのことだった。私自身は何も知らず、その男子生徒と特別親しかったわけでもない。だが、その一言によって、私が築いてきた穏やかな学校生活は音を立てて崩れ去った。
当時の私は、同年代の女子に比べて大人びた容姿をしていた。少しふくよかな胸の膨らみや、女性らしい体のライン。それまでは単なる自分の身体的な特徴に過ぎなかったものが、その日を境に、すべて「男を弄ぶ不潔で淫らな女」というレッテルへと変貌を遂げた。彼女を中心とした女子グループの嫉妬は、瞬く間に学級全体、そして学年全体へと拡大していった。
毎朝、学校につくと靴箱にはドロドロの汚水が注がれていた。
机の引き出しを開ければ、カッターの刃でズタズタに切り裂かれた教科書やノートが詰め込まれていた。
廊下を歩くだけで、すれ違いざまに聞こえよがしの暴言が飛んでくる。
「男を誘惑して楽しんでいる」「媚びを売るのが上手い」「汚い女」
反論すればさらに激しい嫌がらせが返ってくることを知っていた私は、ただひたすら視線を落とし、唇を噛み締め、じっと耐え続けるしかなかった。胸の中で「私は何も悪くない」と叫びながらも、現実の私はあまりにも無力だった。
やがて季節は過ぎ、凍てつくような冬が訪れた。大学受験の当日。
人生をやり直すための第一歩になるはずだったその日、街には激しい吹雪が吹き荒れていた。
視界を遮る白い雪の中、寒さに震えながら横断歩道を渡っていた私の視界に、突如として眩しい光が飛び込んできた。
甲高い悲鳴のようなブレーキ音。
視界を真っ赤に染め上げるトラックのヘッドライト。
激しい衝撃とともに、私の体は宙を舞い、冷たいアスファルトの上へと力なく叩きつけられた。
身体の感覚が急速に失われていく。視界が暗転し、遠くで誰かの叫び声が聞こえた。
(ああ……これで、やっと全部終わるんだ)
暗闇に呑まれながら、私はどこか安堵していた。私を苦しめ続けた嫉妬も、嫌がらせも、孤独も、すべてから解放されるのだと信じていた。
――だが、死の淵の闇を抜けた先に待っていたのは、安らかな無ではなかった。
「……目が覚めたか、異邦の娘よ」
しわがれた老人の声で目が覚めたとき、私は見知らぬ無骨な木造の部屋に横たわっていた。
体を起こし、壁に立てかけられた姿見の鏡を覗き込んだ私は、息を呑んだ。
そこに映っていたのは、かつての私の姿ではなかった。
透き通るように美しい白磁の肌、柔らかな光を放つ艶やかな黄金の髪。そして、以前の身体以上に豊満で魅惑的な胸と、キュッと引き締まった細いくびれ。異世界の言葉であるはずなのに、なぜか自然と意味が理解できる不思議な感覚。
鏡の中の美しすぎる自分を見つめながら、私は一瞬だけ胸を躍らせた。
神様が新しい人生をくれたのかもしれない。この美しさがあれば、きっと新しい世界で愛され、今度こそ幸せになれるのではないか――と。
しかし、それはあまりにも愚かで甘い幻想に過ぎなかった。
この世界において、特別な魔力を持たない異邦の人間は「家畜」や「道具」と同等に扱われていた。ましてや、過剰なまでに際立った美貌を持つ存在は、力を持った男たちの卑しい欲望を激しく刺激する、格好の標的でしかなかったのだ。
追われるように逃げ出した先の、黒々とした暗い森の中。
私は荒い息を吐く男たちに追い詰められていた。
「へっ、とびきり上等な女じゃねえか。そんな煽るような体をしていて、無事でいられると思ったのか?」
松明の炎を揺らしながら迫ってくる三人の男たち。その瞳には、隠そうともしない醜い欲望がギラギラと渦巻いていた。
夜の冷気、湿った草の匂い、そして男たちから漂う生温かい汗と酒の臭い。恐怖で背筋を冷や汗が滑り落ちる。
「やめて……お願い、来ないで……!」
私の震える声は、夜の森に虚しく消えた。膝の力が抜け、地面に倒れ込む私を、男たちは嘲笑いながら囲い込む。太く汚れた手が私の首筋へ伸び、着ていた衣服の襟ぐりを力任せに引き裂いた。
ビリッという乾いた布の裂け音が、私の心に決定的な亀裂を入れる。
誰も助けに来ない。逃げ場もない。
元の世界と同じ……いや、暴力が剥き出しになっている分、前世以上に惨めで悲惨な現実に、心が砕けそうになる。
その時だった。私の頭の中で、何かが激しく弾けた。
――異世界に来てまで、私はただ奪われ、踏みにじられるだけの存在で終わり続けるというの?
私は震える手で、地面に転がっていた冷たく硬い石を、死に物狂いで握りしめた。
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・巡る車輪
最新エピソード
照射された容赦のない緑色のレーザー光線が、私の右耳を根元から激しく焼き切った。
「ぎゃああああああああっ――!?」
肉が焦げ、
迫り来る緑の光線が、私の耳の皮膚を焼き切るまさに直前、機械の出力が急速に落ち、光線が消え去った。
「待て。軽々に破壊するな。商品価値が下がるだろうが」
目元にまで迫る、眩い緑色の光線。焦熱が皮膚に伝わり、じわじわと自分の耳が焼けていく不快な匂いが鼻を突く。極限の恐怖に目を背けたその瞬間だった。
「ギャァァァ
少年の身体から解き放たれた無色の波動が、薄暗い坑道の闇を一瞬で切り裂いた。
少年の手から放たれた絶対拒絶の波動は、襲いかかってきた先頭の巨大ムカデ数匹を、一瞬にしてただの黒い灰へと昇







