説明
トラック事故で異世界転生したお嬢様・九条院明日香。転生先は、悲劇の断頭台へ向かう「悪役令嬢」の身体!? 媚びるなんて九条院家の誇りが許しませんわ! 魔法至上主義の不条理を己の知恵と気品でねじ伏せる、強気でツンデレな悪役令嬢の大逆転劇が幕を開ける!
エピソード1
痛む頭を押さえながら重い瞼を開けると、そこは病院の白い天井——ではなかった。
天蓋から垂れ下がる豪奢なシルクのカーテン、部屋の隅に置かれた絢爛豪華なアンティーク家具、そして鼻をくすぐる上質な薔薇の香り。まるでヨーロッパの高級ホテル、あるいは我が九条院家の本邸をさらに大袈裟にしたような悪趣味な部屋だった。
(……わたくし、大学からの帰り道で暴走トラックにはねられたはずですけれど?)
「あ、アリア様! お目覚めになられたのですね!」
メイド服を着た少女が、涙目になりながら駆け寄ってくる。その呼び名を聞いた瞬間、脳内に強烈な電流が走った。怒涛のように流れ込んでくる見知らぬ記憶。そして、自分が置かれた状況の異常さに、わたくし——九条院明日香は即座に思い至ったのだった。
(……嘘でしょう? これ、昨日読み終えたばかりのライトノベル『聖女の輝きと魔法の王国』の世界ではありませんの!?)
しかも、よりによって転生した先は、主人公の聖女をいじめ抜き、権力者を怒らせて最後は断頭台で首を跳ね飛ばされる悪役令嬢、アリア・フォン・ローゼンベルク。
記憶を整理すると、現在のアリアは十六歳。この世界は「魔法適性」の高さがすべてを決める魔法至上主義の社会だ。ローゼンベルク公爵家という至高の血筋に生まれながら、アリアの魔法適性はほぼゼロ。その劣等感から性格が歪み、我儘の限りを尽くし、周囲を見下し散らしてきた真っ最中らしい。
「アリア様……? お顔の色が優れませんが、やはり体の具合が……」
おどおどとこちらを窺うメイドの姿に、わたくしは深く溜息をついた。
「……静かにしなさい。頭に響きますわ」
「ひっ! も、申し訳ございません!」
怯えて縮み上がるメイド。なるほど、平素のアリアの素行の悪さが伺える。
だが、嘆いている暇などない。このまま原作のシナリオ通りに進めば、数年後には冤罪を着せられ、国民の歓声の中で断頭台の露と消えることになるのだから。
(ふざけるのも大概にしなさいな。九条院家の人間が、他人の書いたシナリオ通りに惨死するなど、冗談ではありませんわ!)
恐怖で震えるなど論外。怒りと誇りが、わたくしの胸を熱く焦がした。
生き延びるためなら、権力者に媚びを売り、聖女に涙ながらに謝罪して許しを乞う——そんな「ありがちな悪役令嬢の生存戦略」など、この九条院明日香のプライドが絶対に許さない。
媚びる? 泣きつく?
冗談でしょう。わたくしに悲劇の断頭台など、金輪際似合いませんのよ!
「鏡を回しなさい。それから、わたくしのスケジュールの確認を」
シャキッと背筋を伸ばし、命じる。鏡に映ったのは、燃えるような金の髪と、鋭くも美しい翡翠色の瞳を持つ、完璧な造形の美少女だった。性格の悪さが顔に出ていたようだが、わたくしの意思が宿ったことで、凛とした気品が備わっている。うん、悪くない顔立ちだ。
「は、はい! 本日は午後から、婚約者であられる第一王子・ルイス様との執務室でのご面会が予定されております」
第一王子、ルイス。
原作ではアリアの横暴さに呆れ果て、後に覚醒した聖女へと心を移し、最終的にアリアに処刑宣告を下す中心人物の一人だ。
「……なるほど。いきなり最初の関門というわけね」
わたくしは口元に不敵な笑みを浮かべた。
魔法が使えないからとバカにされ、歪んで自滅したのが元のアリアなら、わたくしは違う。現代日本で叩き込まれた九条院家の教養と帝王学、そして折れない心がある。
魔法が使えなくても、誰もが平伏せざるを得ない「圧倒的に有能で高潔な令嬢」になって差し上げますわ。
「着替えの準備をしなさい。一番仕立てのシガレットラインが綺麗な、気品あるドレスを。今日から、わたくしのやり方でこの世界を攻略させていただきます!」
「ア、アリア様……なんだか雰囲気が……」
戸惑うメイドを余所に、わたくしは扇子を優雅に開いた。
断頭台の運命など、わたくしの踵で踏みつぶして差し上げますわ。見ていらっしゃい!
最新エピソード
——ピコン、ピコン、ピコン……。
規則的な電子音が、暗闇の中に響いていた。
消毒液の特有の匂い。肌を撫でる清潔で少し硬いシーツの感触。そして、ゆっく
「ぬははは! 狂え、爆ぜよ! 異端の令嬢もろとも、この王宮は灰燼に帰すのだ!」
狂気に取り憑かれた子爵が掲げた黒い魔導具から、脈打つような不気味な漆黒の光線が噴
わたくしが進めた治水事業と領地改革は大成功を収め、領民たちの生活は劇的に改善した。しかし、それを面白く思わない者たちがいた。魔法至上主義に固執し、利権を貪ってきた保守派の悪徳貴族たちだ。
あの気味の悪い王子たちの熱視線から這う這うの体で逃げ出したわたくしは、公爵家の自室へ戻るやいなや、固く扉を閉ざして深呼吸をした。
「……ハァ、ハァ……。あの男た







