説明
高1の夏。テニス部のアオイは、同じ中学出身のバスケ部男子・ユウトからの急な接近に、淡い恋心を抱き始める。しかし、距離が縮まった夕暮れの帰り道、彼から告げられたのは予想もしない「ある質問」だった――。近づくほどに切ない、嘘のない友情と初めての片思いを描いた、ひたむきで爽やかな青春ストーリー。
エピソード1
新調したローファーのかかとが、アスファルトに何度も跳ね返る。校門をくぐるたびに感じる、薄い膜に覆われたような違和感は、六月に入ってもまだ消えてくれない。
県立瑞穂高校。
中学の同級生のほとんどが隣町の公立へ進む中、アオイがこの学校を選んだのは、母親の出身校であるという、ただそれだけの理由だった。
「はい、そこ、もっと膝落として!」
テニス部の先輩の声が、乾いたクレーコートに響く。
アオイは額の汗を手の甲で拭い、ラケットを握り直した。ポニーテールに結んだ髪が、首筋にまとわりつく。じりじりと照りつける太陽は、すでに夏の匂いを孕んでいた。中学の頃から使っている年季の入ったラケットだけが、この見知らぬ場所で唯一、自分の体の一部として馴染んでいる。
放課後の部活動が終わると、昇降口のあたりはいつも、運動部特有の熱気と泥の匂いで満ちる。
スクールバッグを肩にかけ、靴を履き替えようとしたときだった。
「お疲れ、アオイ」
背後から降ってきた低い声に、肩がびくりと跳ねる。
振り返ると、水色の上履きを履いた大きな足元が目に入った。視線を上げると、少し濡れた短い黒髪と、白い歯が見える。
ユウトだった。
「……あ、うん。お疲れ」
アオイは小さく会釈をして、自分のスニーカーに足を滑り込ませる。
同じクラスの坂上ユウト。
中学時代、彼は常に学校の中心にいた。男子バスケットボール部のキャプテンで、背が高く、他校からも名前が知られているような存在。同じ学年というだけで、三年間で言葉を交わした記憶など片手で足りる。廊下ですれ違う際、その高い頭頂部を目で追うだけの、文字通り遠い存在だった。
それなのに、この新しい高校で同じクラスになった途端、ユウトの距離感は奇妙なほど縮まっていた。
「今日の練習、きつそうだったな。外コート、日除け何もないし」
ユウトは自分の大きなスポーツバッグを肩にかけ直し、歩調を合わせてくる。歩幅が広い。アオイが二歩進む間に、彼は一歩で追いついてしまう。
「まあ、夏前だしね。そっちは? 体育館、蒸し風呂でしょ」
「死ぬよ。サウナの中でダッシュさせられてるみたい」
ユウトは首にかけたタオルでがしがしと頭を拭き、破顔した。その屈託のなさに、アオイは少しだけ目のやり場に困る。
同じ中学出身というカードは、このアウェイな環境において、想像以上に強力な接続詞になるらしかった。クラスの他の男子はまだ、互いに牽制し合うような微妙な距離を保っているというのに、ユウトだけは最初から「身内」のような顔をして話しかけてきた。
「あ、そうだ。数学のプリント、あそこの大問三解けた?」
「……まだ見てない。帰ってからやるつもりだけど」
「見せてよ、明日。俺、あそこの公式からしてさっぱりで」
合流した通学路の坂道を下りながら、ユウトがひらひらと手を振る。
彼の手のひらは、ボールを扱い慣れているせいか、驚くほど大きくて厚みがあった。
「気が向いたらね」
アオイはそう言って、少しだけ歩幅を早めた。
並んで歩く影が、夕暮れの道路に細長く伸びている。ユウトの影がアオイの影の肩のあたりに重なり、それがなんだか落ち着かなくて、アオイは爪先を少し外側に向けた。
同じ中学だった。
本当に、ただそれだけのはずだった。
最新エピソード
校庭の隅にある桜の木からは、最後の力を振り絞るような蝉時雨が降っていた。頭上を覆う青空は徐々に濃いオレンジ色に染まり、長い影が校庭の白いラインを横切って伸びている。
夏休みも終盤に入ると、夕暮れの訪れが少しずつ早くなる。
西日に照らされたテニスコートは、昼間の熱を抱いたまま乾いた匂いを放っていた。アオイはベースラインの後ろに
夕立が去った翌日からも、夏休みは容赦なく熱気を提供し続けた。
瑞穂高校の体育館は、女子バスケ部と男子バスケ部が合同で使う練習日が年に数回ある。この日も、午前中か
踏切の赤い警告灯が、アオイの視界を交互に赤く染める。
電車の轟音は耳の奥で濁った塊になり、鼓膜を激しく叩いていた。ユウトの口から出た「アカリさん」という名前が、湿った空気の中に白く浮







