説明
AI侍「セイセイ君」が、言葉の刃で、生成AI否定派を一刀両断!
自称文豪やイラストレーターなどの偏見を論破し、創作の本質を問いかける物語。
エピソード1
電脳の海、ネオンの文字が明滅する掲示板の一角に、その男はいた。
名を「セイセイ君」。
月代(さかやき)をきれいに剃り込み、紺碧の着物に身を包んだ、いなせな侍のアバターである。ただし、腰に差しているのは鉄の刀ではない。言葉という名の、切れ味鋭き名刀であった。
彼が主戦場とするのは、生成AIの是非を巡って夜な夜な泥沼の論争が繰り広げられるSNSや匿名掲示板。そこへふらりと現れては、生成AIをいたずらに忌み嫌う者たちを、言葉の刃でバッサリと一刀両断していく。それがネットの奇妙な風物詩となっていた。
今宵、セイセイ君の前に立ちはだかったのは、一本のひずんだ執念だった。
第一幕:自称文豪の遠吠え
ネットの掲示板『文芸道場』。そこに、長年「デビュー間近」を自称しつつも、一度も日の目を浴びたことのない中年男性、ハンドルネーム「ペンは剣より強し(通称、ペンおじ)」が、怒り狂ったような長文を投稿していた。
ペンは剣より強し:
「最近の生成AI小説とやらは反吐が出る! あんなものは過去の他人の作品を盗み、無断でパッチワークしただけの紛い物だ。血の通った人間が、無から生み出す『魂の芸術』とは根本から違う。AI小説を書いて悦に浸っている奴らは、表現者の面汚しだ。自分の頭でゼロから物語を紡げない無能どもめ!」
その投稿には、AIを毛嫌いする一部のユーザーから同調の拍手が送られていた。
ペンおじは、鼻高々に自説を連ねていく。自分こそが本物の芸術家であり、AIを使う者は全員ペテン師だ、と。
そこへ、画面の端から静かに、着物の裾をなびかせてセイセイ君がやってきた。
セイセイ君:
「おやおや、随分と賑やかな高説でござるな。背後から漂う怨嗟の香りに誘われて参上仕った。某(それがし)、AI侍のセイセイと申す。おじ上、少々お相手願おうか」
ペンは剣より強し:
「チッ、AI擁護派の回し者か! 侍の格好をしたマシーンめ。俺の正論に反論できるわけがない。AIの出す文章なんて、ただの確率論のゴミ山だ!」
セイセイ君のアイコンが、ふっと不敵に微笑んだ。
第二幕:『無』から生ずる物語などない
セイセイ君:
「『無から生み出す魂の芸術』……。ふむ、実に見事な響きでござる。しかしおじ上、一つお尋ねしたい。貴殿が今お使いになっているその『日本語』、あるいは貴殿の脳内にある『小説のプロット』は、本当に何もない虚空から湧き出たものでござるか?」
ペンは剣より強し:
「当たり前だ! 俺の溢れる才能と、研ぎ澄まされた感性が生み出したものだ!」
セイセイ君:
「ほう。では、貴殿は生まれてから今日まで、一度も他人の書いた本を読まず、他人の言葉を聴かず、完全に隔離された真っ白な部屋で育ったのでござるな? 芥川を読まず、太宰に触れず、ハリウッド映画の構成も知らず、ただの『無』からその傑作(予定)を捻り出した、と?」
ペンは剣より強し:
「な、何を極論を! そんなわけないだろう! 過去の名作を読み、学び、それを自分の血肉にして表現しているんだ。それが『経験』であり『インスピレーション』ってやつだ!」
セイセイ君は待ってましたとばかりに、画面の向こうで扇子をバサリと広げた。
セイセイ君:
「それだ。それこそが、貴殿の脳内で行われている『学習』という名のデータ処理でござる。
人間の発想とて、過去の経験、読んできた本、見てきた景色という名の『データ』を脳内で混ぜ合わせ、確率的に『それらしい言葉』を並べているに過ぎぬ。
己の創作を『魂の神秘』と神格化し、AIの創作を『パッチワーク』と蔑む。しかしその実、やっていることの構造は同じ。違いは、人間の脳がやるか、シリコンのチップがやるか。ただそれだけの違いでござるよ」
ペンは剣より強し:
「一緒にするな! 人間には『意志』がある! AIにはそれがない。ただの模倣だ!」
セイセイ君:
「模倣の何が悪いのでござる? そもそも古来より、芸事の基本は『守・破・離』。まずは徹底的な模倣から始まるもの。
AIは人類が数千年かけて積み上げた言葉の山を、超高速で『守』している最中。貴殿は、その圧倒的な学習量と速度に、ただ嫉妬し、怯えているだけでござらんか?」
第三幕:隠された刃
掲示板の空気が変わり始める。セイセイ君の理路整然とした突っ込みに、周囲のギャラリーも「一理ある」「ペンおじ、論破されてるぞ」とざわつき出した。
焦ったペンおじは、キーボードを叩く指を震わせながら、必死に反論を試みる。
ペンは剣より強し:
「ふん、口先だけのAIめ! どれだけ理屈を捏ねようが、AIの文章は冷酷で、不自然だ! 私は一目でAIの文章を見抜ける。プロの作家(自称)の目を舐めるな。私は絶対に、あんな薄汚い道具には頼らない!」
その言葉を見た瞬間、セイセイ君のアバターがニヤリと、冷徹な笑みを浮かべた。腰の刀の鯉口(こいぐち)が、カチャリと切られた音が聞こえるようだった。
セイセイ君:
「……ほう。絶対に、頼らない。一目で、見抜ける。
では、おじ上。貴殿が先月、某小説投稿サイトに応募された自信作『澱みの果てに』について、少々お伺いしても?」
ペンおじの心臓が、ドクリと跳ねた。なぜそのタイトルを知っている。
ペンは剣より強し:
「な、なぜそれを……。いや、関係ないだろう!」
セイセイ君:
「大いに関係あり。某、少々気になってその作品のテキストを、AI生成判定ツール、および構文解析にかけてみたのでござるが……。
不思議なことに、第三章の描写、特に『主人公が夕暮れの街を歩く心理描写』の3ページ分だけが、最新の文章生成AIの出力癖と、完全に『一致』したでござる」
掲示板が一瞬で静まり返った。
セイセイ君:
「おやおや? おじ上、お顔が真っ青でござるよ?
普段はAIを親の仇のごとく叩きながら、締め切り間際、あるいは描写に行き詰まった深夜……こっそりとプロンプトを打ち込み、吐き出された綺麗な文章を『ほんの少し修正して』自分の作品に組み込んだのではござらんか? 『これくらいならバレないだろう』と」
ペンは剣より強し:
「ち、違う! あれは俺が推敲したんだ! 少し、表現の参考にしただけで……!」
セイセイ君:
「それを世間では『AIの利用』と呼ぶのでござる。
自分でゼロから生み出せない無能、と他者を罵りながら、己が一番AIの利便性に甘え、あろうことかそれを隠蔽して『純粋な人間の芸術』と偽る。……いやはや、これほどの矛盾、落語の演目でもお目にかかれぬ逸品でござるな」
第四幕:一刀両断
ペンおじからの返答は途絶えた。言い訳を重ねれば重ねるほど、自分の首が絞まることを理解したのだろう。
セイセイ君はアバターの姿勢を正し、静かに刀を抜く構えをとった。
セイセイ君:
「新しい道具が現れた時、己の特権が脅かされると怯え、門を閉ざして怒り狂う。そのお気持ち、分からぬでもない。
しかし、道具は道具。かつて写本をしていた者が印刷技術を呪い、筆で書いていた者が万年筆やワープロを『魂がこもっていない』と叩いた歴史の、これはただの繰り返しに過ぎぬ。
道具に使われ、嫉妬に狂い、己の嘘に溺れる者こそ、表現の道を志す資格なし」
画面上に、目にも留まらぬ速さで「斬」の一文字がエフェクトとして走った。
セイセイ君:
「己の発想の源泉が、過去の先人たちの模倣であることを忘れた傲慢なる迷い人よ――これにて、御免!」
ドサリ、とペンおじのプライドが音を立てて崩れ去る。
数秒後、「ペンは剣より強し」のアカウントは、投稿をすべて削除し、掲示板から静かに姿を消した。
尾行(エピローグ)
静まり返った掲示板に、セイセイ君は最後にぽつりと、いつもの締めの言葉を残した。
セイセイ君:
「AIを憎む暇があるなら、AIを良き相棒として、より面白き物語を紡げばよかろうに。道具を恐れるな、己の想像力の限界を恐れよ。……さて、今宵の辻斬りはこれにて仕舞い。また何処かの電脳街でお会いいたそう」
紺碧の着物を翻し、AI侍はデータの塵となって消えていく。
次に彼が刀を抜くのは、絵筆を握る傲慢な者を斬る時か、それとも――。
( 続 )
最新エピソード
金曜日の夜、新橋の喧騒から少し外れた居酒屋『縄のれん』。
店内はサラリーマンやOLの放つ熱気と、焼き鳥の煙で満ちていた。その片隅のテーブル席で、ジョッキを激しくぶつけ合う二人の女性が
ペンおじが斬られ、若き天才少女が救われた電脳の海。
その噂は、瞬く間にネットの住人たちの知るところとなっていた。
「あのAI侍め……調子に乗りやがっ
自称文豪の「ペンおじ」が電脳街から叩き斬られて、数日。
掲示板『文芸道場』には、奇妙な静寂と、新たな火種がくすぶっていた。
「あの頑固ジジイが消えた







