混沌に揺れる女戦闘員Jの憂鬱-“IP チャレンジ #7”応募作品
説明
戦闘員と仮面ライダー。 普段交わることがない2人の女性に起きる物語。 2人を結びつけたキーワードは美容雑誌。
エピソード1
深淵図書館「アーカイブ・ゼロ」。
永遠に閉ざされた書架の隙間のような、
冷たく、そしてどこか甘い退廃の香りが漂う空間。
そこが、世界停滞打破結社「エントロピア」の心臓部であり、そして私の寝所でもある。
私は鏡の前に立ち、ゆっくりと身体をなぞった。
極薄の黒い戦闘スーツが、Gカップの豊かな胸の膨らみと、引き締まった五十八センチのウエスト、そして緩やかな弧を描くヒップラインを、まるで陶器の包み紙のようにタイトに拘束している。
鏡の中の自分は、完璧だ。
高校生の頃、あの息苦しい平穏の中で感じていた
「何か足りない」という乾きは、今のこの、死と隣り合わせの緊張感の中に身を置くことで、ようやく凪(なぎ)へと変わった。
かつての私は、委員長として優等生を演じ、空虚な日々をただ消費だけの命として過ごしていた。
あの頃の私は常に憂鬱だった。
だが今は違う。
壊すこと、乱すこと。
この組織が掲げる「リブート」という甘美な概念に、私は自分を捧げた。
名前も、感情も、未来も全てを。
「……また、雑誌を読んでいるの」
私はサイドテーブルに置かれた美容雑誌を手に取る。
戦場に出る前のルーティン。
肌の調子、髪の艶。
ここは悪の組織のアジトであり、理不尽が支配する暴力の揺り籠だ。にもかかわらず、私はここで女としての形を保つことに執着している。
誰かに見られるためではない。
鏡の中の自分が、かろうじて「私」であることを主張し続けるためだ。
ふと、胸の奥で小さな棘が疼く。
仮面ライダーένα(エナ)。
あの忌々しいヒロイン。
破壊を謳う私たちにとっての最大の障害であり、そして、私を最も強く苛む存在。
時折、彼女と戦場で対峙するたび、私は自分自身に違和感を覚える。
彼女を倒さねばならない。
なのに、なぜか彼女のアシストをしてしまうような、奇妙で倒錯した衝動が湧き上がる。
私が彼女を倒すことは、この世界を救うことになるのか、それとも、私のたった一つの「生きる理由」を奪うことになるのか。
「ねえ、ένα(エナ)……あなたが見ている世界は、私が見ているこの灰色の空よりも、少しはマシなの?」
部屋の静寂を切り裂くように、壁の電子モニターが鈍い音を立てて起動した。
警告灯が禍々しい赤色に染まり、広大な私室を血の海のように染め上げる。
モニターの中に浮かび上がったのは、悪魔のような美貌を湛えた女、第二幹部「アリア」の顔だった。
彼女の瞳は獲物を待ちわびる獣のように愉悦し、その唇は狂気を孕んで歪んでいる。
『J、準備はいい? 愛しのエナが、また私たちの庭を荒らしに来たわ』
アリアの声は、歌うような抑揚を持っていた。
それは心地よい響きであると同時に、戦場への死の招待状でもある。
私は持っていた美容雑誌をデスクに放り投げ、黒い手袋を指先まで整えた。
スーツの素材が皮膚と擦れる、艶やかな音が部屋に響く。
『今すぐ広域エントロピー発生炉へ向かって。彼女の首を差し出すのが、今日の私のリサイタルの幕開けよ。もし遅れたら、あなたの大好きなその顔に、一生残る傷を刻んであげるから』
通信が切れる。
心臓が、高揚感で脈打つ。
憂鬱は消え去り、そこには残酷なまでの充足感だけが残っていた。
私は鏡を見つめ、唇に軽く指を添える。
「……ようやく、会えるのね」
仮面ライダーένα(エナ)。
あなたを破壊するのか、それともあなたに破壊されるのか。
私は黒いタイツに包まれた足で床を強く蹴り、アジトの奥深くへと駆けていった。戦場という名の舞台へ向かうために。
廊下の角を曲がると、第二幹部のアリアが待っていた。
彼女は真紅のローブを翻し、戦場への扉の前で不敵に微笑んでいる。
「遅いわよ、私の小さなお人形さん」
アリアが私を指先でなぞりながら、耳元で囁く。
最新エピソード
窓外に広がる白咲邸の庭園には、季節を寿ぐ色とりどりの花々が咲き誇り、初夏の柔らかな陽光がそれらを優しく包み込んでいた。
数ヶ月前、世界の理さえも書き換えようとし
深淵図書館「アーカイブ・ゼロ」の心臓部は、今や悲鳴を上げていた。
天井を彩っていた記憶の結晶たちが、重力異常に耐えかねて次々と砕け散る。
<
「記憶の回廊」の空気は、既に重く湿っていた。
床を流れる過去の残滓が、英玲奈の足元でどす黒い渦を描く。彼女と美雨の願いは、目の前に立つ優雅な支配者には届かない。
深淵図書館「アーカイブ・ゼロ」の中枢、「記憶の回廊」。
そこは、かつて私たちが歩んできた道のりが、無数の鏡となって壁面を埋め尽くす場所だった。







