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討伐王と依頼成功率No.1は距離が近い

討伐王と依頼成功率No.1は距離が近い

更新日時: 2026-04-13 02:00:54
By: Ayane
完結
言語:  日本語16+
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6 評価
7
エピソード数
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説明

依頼成功率No.1を誇る人気パーティ「ファイヤーサイド」の魔法使い・リゼ。今回の依頼は沈没船探索と行方不明者の捜索。一方ライバルの孤高な討伐王・ゼクトは元凶と思われる海の魔物に挑む。互いに素直になれないライバル冒険者のリゼとゼクトが、暗い海の底でお互いの弱さと本心を認め合う冒険ラブコメ。


エピソード1

ぱちぱちと心地良い音を立てて、暖炉の炎が揺れている。


冒険者ギルドの談話室は、いつも通りの穏やかな熱気に満ちていた。使い込まれた木のテーブル、壁に飾られた数々の武具、そして仲間たちの笑い声。


その一角で、ギルドの看板パーティーでもある「ファイヤーサイド」のリーダー、カイルが眉間に皺を寄せ、テーブルに広げられた海図を睨んでいた。


「――というわけだ。依頼は『沈没船海域の調査と行方不明者の捜索』。難易度は相当高い」


彼の向かいに座るのは、彼の妹であり、パーティーの頭脳でもある魔法使いのリゼ。そして、幼馴染のヒーラー、ミリアだ。


青い瞳の視線を海図に落としながら、リゼは冷静に情報を分析する。


「沈没船は“魔の三角水域”として知られる場所。潮の流れが複雑で、視界も悪い。行方不明になったのは、調査に向かった別のパーティー……三人のうち一名ね」


「ああ。今回の依頼がきている捜索者は一名。……だが、同様の事件はこの海域で頻発している。ただの事故じゃない。何かがいる」


カイルの重い声に、ミリアがこくりと頷く。


「魔物、だよね。それも、かなり厄介な……」


「ええ。だからこそ、作戦は慎重に立てる必要があるわ。まずは風の魔法で海流を調査し、安全な進入ルートを確保する。その後……」


リゼが淀みなく完璧な計画を口にしかけた、その時だった。



「――その計画、少々変更を頼む。助っ人の追加だ」



重々しい声と共に、談話室の扉が開かれる。そこに立っていたのは、屈強な体躯を持つギルドマスターだった。


「マスター、どういうことです?」


カイルが訝しげに尋ねる。ギルドマスターは、どこか申し訳なさそうな、それでいて安堵したような複雑な表情で口を開いた。


「依頼の後半部分……つまり、原因となっているであろう魔物の討伐だがな。奴が、単独で請け負うと言ってきた」


「奴……?」


その一言で、リゼの胸が微かにざわめいた。ギルドに「奴」と呼ばれるほどの圧倒的な実力者など、一人しかいない。


「『討伐王』ゼクト……!」


カイルが吐き捨てるようにその名を口にする。


途端に、ギルドマスターの言葉がリゼの肌を粟立たせる。

ゼクトが?あの、誰とも群れることを嫌い、ただひたすらに己の力のみを信奉する孤高の剣士。


「……確かに、彼の剣があれば魔物討伐の成功率は格段に上がるでしょうね」


リゼは努めて冷静に、事実だけを口にした。


唇の端が、少しの悔しさで引き結ばれるのを自覚しながら。


また自分たちのパーティーだけで完遂できたかもしれない依頼を、彼に頼らないといけないのか。


「しかし、協調性のかけらもない男だぞ……水中での連携はどうするんだ」


カイルが苛立ちを隠さずに声を荒らげる。その兄の腕を、リゼはそっと宥めるように掴んだ。


「兄さん、落ち着いて。決まったことなら仕方ないわ。私たちは私たちの仕事……捜索と救助に全力を尽くすだけよ」


その声はあくまで平静だったが、リゼの腹の底では、ゼクトという存在に対する熱い何かが渦巻いていた。


期待か、反発か、それとも――。



ギルドの訓練場は、出発前の冒険者たちの熱気で満ちていた。武具を打ち合わせる音、鬨の声、そして魔法の詠唱。


リゼもまた、愛用の杖を点検し、予備の魔道具をポーチに詰め込んでいる。


「リゼ、ポーションの補充、終わったよー」


ミリアが駆け寄ってくる。その背後から、緊張顔のカイルも続いた。


「よし、これで……」


リゼが立ち上がろうとした、その瞬間。


影が、落ちた。



すぐ目の前に、長身の男が立っていた。


黒い軽装鎧に、背負うのは身の丈ほどもある大剣。

陽光を浴びて艶めく黒色の髪に、何を考えているのか読めない灰色の瞳。



「討伐王」ゼクト。



その圧倒的な存在感は、訓練場の喧騒をまるで別の世界の出来事のように感じさせた。



「……何か用かしら」


リゼは平静を装い、冷ややかに問いかける。


ゼクトの唇が、挑戦的な笑みに歪んだ。


「足手まといになるなよ、優等生」


吐き捨てられた言葉は、剃刀のように鋭い。


リゼの表情から、すっと温度が消えた。彼女はゆっくりとゼクトを見据え、形の良い唇をわざとらしく綻ばせる。


「あなたこそ、水の中で火も使えないのに独断専行で動いて仲間を危険に晒さないでよね、討伐”王”様?」


声は氷のように冷たいのに、語尾は妙に甘く、媚びるような響きを帯びる。

それはゼクトにしか見せない、リゼの挑発だった。

火を使えない、という彼の核心を的確に穿つ、鋭利な言葉の刃。


「……っ」


ゼクトの喉が、く、と鳴った。彼の視線が、一瞬だけリゼの潤んだ唇に落ち、すぐに逸らされる。


二人の間に、目に見えない火花が散る。

それは敵意だけではない。もっと熱く、湿り気を帯びた何か。


この二人はいつもそうだ。

共闘し、2回の死線を乗り越えて、お互いに認め合い距離が近くなったと思いきや

素直になれず、すぐに憎まれ口を叩く間柄に戻ってしまう。


自分が相手の一挙手一投足に翻弄されているとは悟られたくない。

互いの領域を侵し、支配しようとする本能のぶつかり合い。


周りの喧騒が嘘のように遠のき、世界に二人だけしかいないような、濃密な緊張感が空気を満たした。



「またやってる……てぇてぇ(尊い)な……」


その緊張を破ったのは、リゼの傍らで頬を染めていたミリアの小声だった。

ぽつりと漏れた呟きは、しかし的確にカイルの耳に届く。


「どこがだっ……!」


妹と忌々しい男の間に流れる、明らかに普通ではない空気に気づきながらも、それを断じて認めたくないカイルが、ぐっと声を詰まらせて眉間の皺を深めた。


そのやり取りが聞こえたのか、ゼクトは小さく舌打ちし、苛立ったように踵を返した。


その背中は、どんな魔物よりも雄弁に「近寄るな」と語っていた。


誰のことも見向きもせず、一人、さっさと船着き場の方角へ歩いていく。


その大きな背中に向かって、リゼはため息を漏らす。


その息が少々熱っぽい気がして、リゼは自分に苛立ちを覚えた。



船は、穏やかな波を切り裂いて進んでいく。


目指すは「魔の三角水域」。空はどこまでも青く、カモメの鳴き声がのどかに響く。


パーティーの仲間たちは、ひと時の平穏を楽しむように談笑していた。


「見てリゼ!イルカだよ!」


「本当ね、可愛いわ」


ミリアやカイルと笑い合いながらも、リゼの意識は別の場所にあった。


船首。


そこに、ゼクトが一人で立っていた。


海風が彼の髪をさらい、黒い衣装をはためかせている。仲間たちの輪に加わることなく、ただ一人、前方の海だけをじっと見つめている。その姿は、まるで世界から切り離された孤高の彫像のようだった。


(……何を見てるのかしら)


談笑の合間に、リゼはちらりと船首に立つゼクトの様子を窺う。


時折、ほんの一瞬だけ視線が交錯する。


すぐに逸らされてしまうが、その度に、二人の間の空気がピンと張り詰めるのを感じた。


言葉は交わさない。


互いに距離を置いている。


それなのに、この見えない緊張感はなんだろう。


海鳥の鳴き声と、波の音だけが響く船上。


これから始まる過酷な任務を前に、リゼとゼクトの間には、誰にも踏み込めない、静かな緊張の糸が張り巡らされていた。


船は進む。


二人の運命が待つ、深く暗い海域へと。

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