説明
「あと二十四時間、ね。誰にも邪魔させない」
ゾンビウイルスによって地獄と化した街。
機能停止した無線機から流れたのは、「明日の14時、ヤニヤビル屋上で救助ヘリが待つ」という最後の広域通信だった。
残された時間は24時間。
極限状態のなか、圧倒的な美しさと強い意志を持つ女性サクラは、生き残りをかけたある「完璧な計画」を画策する。
果たして彼女は、無事にヘリへ乗り込み、この街を脱出できるのか!?
エピソード1
プラスチックの割れた筐体から、砂嵐を引き裂くような雑音が吐き出されている。
乾いた電波のうねり。幾重にも重なるノイズの奥で、男の声がかすかに震えていた。低く、酷く疲弊したその声は、かつて世界を回していたはずの秩序の残骸だ。
「……救助を寄越す。明日の十四時にヤニヤビルの屋上のヘリポートで待て」
ぷつり、と心臓の鼓動が止まるような短い音がして、受信機は沈黙した。緑色のインジケーターランプが静かに消える。衛星通信の、完全な切断だった。
部屋を支配するのは、窓から差し込む斜陽と、床に積もった灰色の埃だけだ。
サクラはしゃがみ込み、動かなくなった無線機を指先でつついた。右手の人差し指。爪の付け根の皮が、わずかに白く剥がれかけている。
「十四時。あと二十四時間、ね」
声は静かな室内に、思いのほか滑らかに響いた。
生存者たちがヘリでこの街を脱出する。それだけなら、どうぞご自由に、と手を振って見送ることもできた。しかし、彼らが抱えているものは、この街を地獄に変えたウイルスの極秘データと、生きた検体だ。
それが外の安全な世界へ届き、解析されればどうなるか。
待っているのは、確実な特効薬の完成。あるいは、このウイルスの「根絶」だ。
それはつまり、今の自分という存在の消滅を意味している。
サクラは立ち上がり、背筋を伸ばした。窓ガラスの破片に、自分の姿が映っている。
左の肩から先はない。破れた長袖の袖口が、安全ピンで無造作に留められている。それでも、頬の血色はまだ十分に良く、瞳には生気が満ちていた。半分死んで、半分生きている。この奇妙で、最高に都合の良い身体。
「せっかく手に入れた第二の人生だもん。誰にも邪魔させない」
薄い唇を持ち上げ、窓の中の自分に笑いかける。
部屋の隅、影の落ちる場所に、三つの人影が立っていた。いや、人影と呼ぶには、その姿勢はあまりにも崩れ、生気がない。灰色に変色した皮膚。濁った瞳。彼らはただ、じっと立ったまま、喉の奥で小さく「ぐるる」と低い音を鳴らしている。
すべて、男のなれの果てだ。
「聞こえた? みんな。お仕事の時間だよ」
サクラがそちらを向いて、ハキハキと声をかける。
すると、三体のゾンビが一斉に頭を揺らし、濁った眼窩をこちらへ向けた。彼らには知性などひとかけらもない。しかし、サクラの言葉にだけは、まるで訓練された猟犬のように従う。男という生き物は、脳が腐り果てても、女の命令に耳を傾けるようにできているらしい。
「まずはヤニヤビル。荷物をまとめて、引っ越し準備ね」
サクラは軽やかな足取りで、埃っぽい部屋を後にした。背後から、ずるずると靴を引きずるような、重苦しい足音が三対、規則正しくついてくる。
最新エピソード
静寂が戻った階段室で、貪るような音が響く。
温かい肉が喉を通るたび、サクラの体内で劇的な変化が起き始めていた。右脇腹の抉れた傷口から、新しい肉の繊維が急速に伸び
「そこまでだよ、お疲れ様」
十階、屋上へ続く重い鉄扉の数段下。サクラは手すりに寄りかかり、上がってきた男を見下ろした。
男は足
時計の長い針が、文字盤の上でわずかに傾く。正午を過ぎて、空気の乾燥がいよいよ増してきた。サクラは人差し指の腹で右の頬をなぞる。指先に引っかかる、紙のような乾いた感触。爪の先で少し強めに掻くと、白
ヤニヤビルは、かつて商業テナントやオフィスが入っていた十階建ての複合ビルだ。
周囲の建物に比べて頭一つ抜けて高く、屋上には錆びついたヘリポートがある。生存者たちがここを指定した理由は







