幸運を奪う母親~絶縁した家族に、倍返しで復讐します~
説明
実の母に“幸運”を吸い取られ、不幸のどん底を生きてきた少女が、ある日その呪われたカラクリを“視る”力を得たことから、自らの人生を食い物にしてきた強欲な“寄生家族”へ、知略の限りを尽くし、奪われた以上の絶望で全てを“倍返し”していく壮絶な復讐の物語。
エピソード1
運というものがもし実体を持つならば、私、朝日奈里美の人生は、生まれた瞬間から鉛色のそれに完全に浸されていたのだと思う。まるで神様が気まぐれに用意した巨大な不運の壺に、頭から突き落とされたかのように。物心ついた頃から、私の日常は些細な怪我や原因不明の体調不良と常に隣り合わせだった。クラスメイトが遠足ではしゃいでいる時、私は決まって高熱を出して保健室のベッドに横たわり、運動会のリレーでは、なぜか私の番になると決まって足がもつれて転んでしまう。人々が当たり前に享受するはずの幸運は、私にとって辞書の中にしか存在しない言葉だった。
対照的に、父の朝日奈亮は、母と出会うまでは絵に描いたような幸運の持ち主だったと聞いている。若い頃の父は、その明るい性格と不思議な強運で、どんな困難も乗り越えてきたという。宝くじに当たった経験は一度や二度ではなく、仕事でも重要なプロジェクトを次々と成功させ、同期の中でも最速で昇進街道を駆け上がっていたそうだ。そんな父の人生の歯車が狂い始めたのは、母、須藤明美と結婚してからだった。父が大切にしていた幸運の星が、まるで母という名のブラックホールに吸い込まれるかのように、急速にその輝きを失っていったのだ。順調だった仕事でのミスが目立つようになり、些細な不注意から始まった災難は、最終的に父を工場での重大な事故へと導いた。その事故で父は左足に生涯残る障害を負い、輝かしい未来は賠償金という名の無機質な数字の束に変わってしまった。
私の記憶の中の父は、いつも窓辺の椅子に座り、力なく外を眺めている姿だった。かつての幸運の星と呼ばれた男の面影はどこにもなく、そこにはただ、人生の重みに打ちひしがれた一人の男がいるだけだった。そして、そのすべての不幸の始まりに、いつも母の存在が影のように寄り添っている。この相関関係に私が気づいたのは偶然ではない。それは、十八年間浴びせられ続けた冷たい視線と、棘のある言葉が、私の心に刻み込んだ動かしがたい事実だったからだ。
母の明美は、私と父に向ける顔とは全く別の顔を、彼女自身の家族、特に甥の須藤健太に見せていた。私の前では常に不機嫌で、私の些細な失敗を鬼の首でも取ったかのように責め立てる母が、電話の向こうの健太と話す時だけは、蜂蜜を煮詰めたように甘ったるい声色に変わる。健太は、私の知る限り、勉強もせず、働かず、ただ親のすねをかじって生きているような、絵に描いたようなろくでなしだった。しかし、不思議なことに彼の運気だけは異常なほどに良く、パチンコで大勝ちしたり、道で高価な財布を拾ったりといった幸運な出来事が絶えなかったという。そんな健太を、母はまるで自分の息子であるかのように溺愛し、その愛情は常軌を逸していた。
その歪んだ愛情が最も醜悪な形で現れたのは、父が事故で得た二百九十八万円の工傷賠償金を、母が独断で弟の須藤健二に「貸した」時だった。名目は、健太が無理やりレベルの合わない重点高校に入るための、高額な「擇校費」だという。それは「貸す」という言葉で巧みに糊塗されていたが、あの金の亡者のような叔父が、一度手にした金を返すはずがないことを、私は子供心に理解していた。二百九十八万円。それは父が失った左足と、輝かしい未来の対価だったはずだ。それが、母の身勝手な偏愛によって、何の価値もない無頼漢の未来への投資に消えた。私はリビングのドアの隙間から、母が叔父に意気揚々と電話で金の工面がついたことを告げ、受話器の向こうで叔父が卑屈な感謝を述べるのを聞いていた。怒りと絶望で、体の芯が氷のように冷たくなったのを今でも覚えている。あの時、私は母という人間が、私たち家族を食い物にして自分の実家を肥えさせる寄生虫なのだと、はっきりと認識してしまったのだ。
そんな家庭環境から一刻も早く抜け出したかった私は、大学受験に全てを賭けていた。この家から、母の支配から物理的に遠く離れた場所へ行くことだけが、私の唯一の希望だった。しかし、運命の女神はここでも私に微笑まなかった。受験当日に限って、私は三十九度の高熱に見舞われたのだ。朦朧とする意識の中、私は執念だけで試験問題を解き続けた。結果は、決して満足のいくものではなかったけれど、それでも長年の努力の甲斐あって、県外のそれなりに名の知れた国立大学の合格ラインにはなんとか届いていた。震える手で合格通知を確認した時の安堵感は、今でも忘れられない。やっと、この息苦しい場所から出られる。
そして、大学の志望校をオンラインで提出する最終日の夜が来た。私は自分の部屋で、何度も何度も入力内容を確認し、あとは送信ボタンを押すだけという状態にしていた。少し心を落ち着かせようとリビングに水を飲みに行き、数分後に部屋に戻った時、信じられない光景が私の目に飛び込んできた。私の机の前に、母が座っていたのだ。彼女は背中を丸め、まるで泥棒のようにこそこそと私のパソコンのマウスを操作していた。画面に映し出されていたのは、私が見たこともない大学の名前。それは市内に新設されたばかりの、評判も偏差値も低い三流私立大学だった。
「何してるの?」
私の声は、自分でも驚くほど低く、冷たく響いた。母はビクッと肩を震わせ、ゆっくりとこちらを振り返った。その顔には、罪悪感ではなく、むしろ計画を邪魔されたことへの不満が浮かんでいた。
「里美……起きてたの。ちょうど良かったわ。お母さん、あんたの志望校、こっちの大学に変えておいたから。市内だから通いやすいし、あんたの体も弱いんだから、遠くに行くなんて無理よ」
彼女の言葉は、まるで親切心からの行動であるかのように繕われていたが、その一言一句が私の神経を逆撫でした。画面に目をやると、私が血の滲むような努力の末に掴み取ったはずの国立大学の名前は跡形もなく消え去り、代わりにその三流大学の名前が入力され、送信完了まであと一歩の状態になっていた。全身の血が、頭のてっぺんから足の先まで、一瞬で凍りつくような感覚に襲われた。これは単なるお節介ではない。これは、私の未来に対する明確な破壊行為だ。
「どうして勝手なことをするの!」
今まで押し殺してきた全ての感情が、堰を切ったように溢れ出した。私の怒声に、母は一瞬怯んだが、すぐにいつものように被害者の仮面を被った。
「なによ、その言い方!お母さんはあんたのためを思って……」
「私のために?私のために、私の人生を勝手に決めるの?私がどれだけ努力して、やっとこの家から出られると思ったか、お母さんにはわからないでしょうね!」
「家から出るですって?なんて親不孝な子なの!お母さんがどれだけ苦労してあんたを育ててきたと思ってるの!それに比べて健太はなんて孝行息子かしら。いつもおじさんやおばさんのことを気にかけて……」
まただ。また健太の名前が出てくる。私の怒りは、沸点を超えていた。母の口からその名前が発せられるたびに、私の存在価値が否定され、あの無価値な男のための生贄にされているような気分になる。母の涙ながらの訴えは、もはや私の心には全く響かなかった。それは自分を正当化し、私を罪悪感で縛り付けるための、使い古された手口に過ぎない。
言い争いがエスカレートし、母がヒステリックに叫び声を上げたその時、リビングのドアが静かに開いた。松葉杖をついた父が、険しい表情でそこに立っていた。
「もうやめろ、明美」
父の声は低く、しかし部屋の隅々まで響き渡るような重みがあった。それは私が今まで聞いたことのない、断固とした響きを持っていた。
「あなた……。あなたまでこの子を甘やかすの?この子は私に反抗して、遠くへ行こうとしてるのよ!」
母が父に泣きつこうとする。しかし、父は冷たい視線で彼女を一瞥するだけだった。
「里美の人生は、里美自身のものだ。お前が勝手に決めていいものではない。里美はよくやった。自分の力で未来を切り拓こうとしているんだ。お前のくだらない見栄や、弟一家への歪んだ愛情のために、この子の未来を潰すことだけは、俺が絶対に許さん」
父はゆっくりと私の方へ歩み寄ると、私の肩に力強く手を置いた。その手は震えていたが、間違いなく私を支え、守ろうとしていた。長年の苦労と絶望で失われたはずの力が、娘を守るという一点において、再び父の内に宿ったようだった。
「里"美、やりなさい。お前が行きたい場所へ行きなさい」
父の言葉に後押しされ、私は母を睨みつけながら、彼女を乱暴に椅子から突き飛ばした。そして、パソコンの前に座り直すと、震える指でカーソルを動かし、「志望校」の欄を元の国立大学の名前に戻した。母の呪詛のような罵声が背中に突き刺さる。だが、もう私の心は揺るがなかった。私は迷うことなく、送信ボタンを、力強くクリックした。
最新エピソード
床に転がり、狂ったように泣き叫び続ける母親の姿を、私はもう一度、冷え切った視線で見下ろした。彼女の絶叫は、もはや意味のある言葉をなさず、ただただ自分の存在意義が根こそぎ奪われたことへの、動物的な恐怖と
私の復讐劇から数日後、須藤家にまつわる最後の報せが、ニュース速報という形で私のスマートフォンに届けられた。それは、私の描いた脚本にはなかった、あまりにも唐突で、しかし必然とも言える破滅のフィナーレだっ
三百万の入金通知は、私の計画の最終段階を告げる号砲だった。その数字の羅列を冷ややかに一瞥した後、私はすぐにエージェントに連絡を取り、ある人物の情報を手に入れた。須藤健二、私の愚かな叔父が入れあげている
私の冷たい宣告は、この狭いアパートの空気を一瞬で凍てつかせた。床に崩れ落ち、虚ろな目で私を見上げる母。「あなたのせいよ」という怨嗟の言葉も、今の私には心地よいBGMにしか聞こえない。叔父と健太は、五千







