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藤堂慎吾が名言集をひっぱて再登場。ー探偵は依頼が多すぎてテンパっている(シリーズ)

藤堂慎吾が名言集をひっぱて再登場。ー探偵は依頼が多すぎてテンパっている(シリーズ)

更新日時: 2026-10-20 04:24:25
言語:  日本語4+
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説明

「失敗とは敗北ではない。まだ請求書が届いていないだけの保留だ」


推理力はS級、事件の解決率は100%! だが……解決するたびに現場の壁や強化ガラスをド派手にぶち破り、売上年商1000万円にして手元キャッシュは衝撃の120円!?


自作の『名言集・第二版』を懐に、泥臭い屁理屈と圧倒的な手腕でどんな難解なバグも解き明かす名探偵・藤堂慎吾。 彼を待っていたのは、山のように積まれた感謝状と、それを倍以上の標高で圧倒する巨額の「現場修繕費・損害賠償請求書」の山だった!


電卓を連打する経理少女・チョリカと、工具を握りしめるバディ・イチリを悲鳴をあげさせながら、今夜のたまごパック(198円)のために慎吾の「再翻訳」が爆発する!


エピソード1

# 『探偵は依頼が多すぎてテンパっている』

### 第1話:名言集は突然に

——あるいは、年商一千万で今夜のたまごが買えない件について


---


### 1. 感謝状と、三百万の惨劇

 西新宿の一角。古びた雑居ビルの2階に居を構える「藤堂探偵事務所」。

 そのデスクの上には、二つの異様な「山」がそびえ立っていた。

 左の山は、大手IT企業や警視庁からの【感謝状】**と、100万円単位の額面が印字された**【解決報酬の小切手】**。

 そして右の山は、それを倍以上の標高で圧倒する、真っ赤な文字の**【現場修繕費・損害賠償請求書】の山脈だった。

 使い古された合皮のソファに深々と腰掛け、藤堂慎吾はボロボロのノート——『名言集・第二版(手書き増補ログ)』に、マッキーペンで朗々と文字を書き殴っていた。

「……ふっ。完璧だ。我が言葉に狂いなし」

「慎吾。」

 事務所の静寂を切り裂いたのは、氷のように澄んだ、しかし怒りで微かに震えるチョリカの声だった。彼女は電卓を叩き割りそうな勢いで打鍵しながら、書類の山から顔を上げた。

「先週解決した『IT企業連続データ強奪事件』、相手方から成功報酬の小切手**50万円**が届いたわ。」

 慎吾はボロボロのコートを翻し、キメ顔で鼻から息を吐いた。

「ふっ、当然だ。俺の『名言集』にかかれば、どんな高次元暗号もゼロ除算よ。……どうだチョリカ、俺の鮮やかな推理力に改めて惚れ直したか?」

「……で。」

 チョリカの目が、血走った般若のそれに変わる。

「なんでその事件の請求書の中に、『オフィスビルの特注強化ガラス弁償代:120万円』が入ってるのかしらぁぁッ!?」

**「ガタタッ!」** とチョリカがデスクを叩く。

「50万稼いで120万壊したら、**70万の赤字**じゃない!! 先月の『金庫強奪事件』も解決報酬100万で現場の壁の修理代250万! その前の『絵画盗難事件』も150万稼いで高級絨毯のケチャップ染み抜き代200万!! 今月のトータル収支、**マイナス320万円**よ!! 働けば働くほど借金が増えてるじゃない!!」

 慎吾は頭に巻いたアルミホイルをぎちぎちに締め直すと、懐から『名言集・第二版』をバッと開き、堂々とドヤ顔で言い放った。

「賢者は言った……**『ガラスとは透明な壁ではない。俺たちの情熱が突き破るために存在する薄い氷なのだ』**……!! 現場を壊さずに解決する推理など、スパイスの入っていないスープと同じだ!」

「格言風に居直ってんじゃねえ!!」

 部屋の隅で、壊れたパイプ椅子をハンマーでトントンと叩き直していたイチリが、重い息を吐きながら立ち上がった。その腕には、昨日の現場でついた生々しい擦り傷がある。

「慎吾さん。講釈はいいですから、今すぐ現金を出してください。銀行口座は差押えで使えませんし、僕の手持ちもゼロです。……このままだと、今夜の夕飯のたまごパック(198円)すら買えないんですよ! 僕たちの肉体的な限界が先に来ます!」

「う……ッ! た、たまごだと……!?」

「ええ、たまごです! 解決率は100%なのに、手元のキャッシュが0円なんです!!」


---


### 2. 現金(キャッシュ)三千円の奇跡

 その時——。

**バガァン!!!!**

 事務所の木製ドアが、豪快な悲鳴を上げて蹴破られた。

「ハローーーーー!! 慎吾! チョリカ! イチリ! オーマイガーな一大事よ! LAの風が凍りつくほどのクライシスが起きたの!」

「我が社の新規リスクマネジメント案件として緊急持ち込みいたしました。この深刻な事態は、弊社における昨年度のクーデター未遂事件に酷似しております!」

「ハムスターが消えた。……それは故郷の冬の原野のように、あまりに突然で、冷徹な空白だった。」

 ビューティー三笑姫星(メロディー、アグネス、アナスタシア)の3人が、台風のように室内へ雪崩れ込んできた。

 チョリカがこめかみを押さえ、即座に胃薬を飲み込む。

「また扉のノブが吹き飛んだ……! 弁償しなさいよ弁償を!」

「ノーノー! 弁償より依頼よ! うちの愛しい愛しいファミリー、ゴールデンハムスターの『大元帥(だいげんすい)』が行方不明なの!」

 慎吾はわざとらしくフンと鼻を鳴らした。

「ふっ……ハムスター探しだと? くだらん。俺は世界を揺るがすS級事件で多忙を極めているのだ。小物の捜索など——」

「報酬は、【現金(ナマサツ)で3000円】ですわ。」

 アグネスが、ピンと伸びた3枚の千円札をテーブルの上に提示した。

 静寂。

 慎吾、チョリカ、イチリの3人の視線が、同時にその3千円札へと突き刺さる。

 口座は凍結。手持ちはゼロ。今夜のたまごパックとカップ麺を買うための、喉から手が出るほど欲しい「即金(キャッシュ)」。

「「「**受注(それ)採用!!!!**」」」

3人の声が、奇跡のトリプルハモりを奏でた。


---


### 3. ハッタリと、大炎上

 新宿中央公園。

 うだるような猛暑の中、三笑姫星の支離滅裂な証言(「LAの風のような情熱」「モスクワの氷点下40度」)に振り回され、慎吾は早々にベンチで白目を剥いて倒れていた。

「……無理だ。たまごのために地球の裏側まで思考を飛ばせるか……。俺はただ……3000円でたまごかけご飯が食べたかっただけなんだ……」

 そこへ、優雅な足音が響く。

*コツ、コツ、コツ……。*

 最高級のダージリンティーのカップを手にした、悪役令嬢探偵・九条麗華(エレノア)が涼しげに歩み寄ってきた。

「おほほほ! これは奇遇ですわね、藤堂慎吾。先ほど1000万円の高級宝石盗難事件を華麗に解決してきたところですの。……あら? あなた、そんな猛暑のベンチで何をなさっていましての?」

 慎吾はガバッと跳ね起き、汗を拭いながら見栄を張りまくった。

「な、なに、九条か……! 俺か? 俺は今、世界を揺るがす『国際動物密売組織』の極秘アジトをこの公園の地下に見つけ出し、最終突入のタイミングを計っていたところだ!」

「……は? 国際動物密売組織……? おほほ、またそんなハッタリを!」

「ふっ、我が『名言集』に記されし真実は凡人の理解を超えている! この公園の地下にはな、数千匹の凶悪なハムスター兵士が眠っているのだ!!」

 そのやり取りを、近くの電柱の陰から白峰ユウト(断理ノード)が冷徹に見つめていた。

「……地下ハムスター軍団の生息確率、0.00%。藤堂慎吾の発言の虚偽率は99.8%。……相変わらず非論理的な虚勢ですね」

 だが、慎吾のハッタリを聞いた三笑姫星がスマホを掲げて大騒ぎを始めた。

「オーマイガー!! 地下組織なの!? SNSで拡散よ!!」

*『【速報】名探偵・藤堂慎吾、新宿地下の国際動物密売組織(ハムスター軍団)と最終決戦へ!! #藤堂慎吾 #大元帥危機一髪』*

 インフルエンサーである彼女たちの投稿は、瞬く間に万リツイートされ、公園の周囲にはマイクを持った報道陣と野次馬が殺到。

「……や、やった……俺は3000円のために世界規模のデマを流した大罪人として処刑される……ッ!」

 青ざめた慎吾は、事務所へ命からがら逃げ帰った。


---


### 4. 捨てた見栄と、泥だらけの手

 事務所で頭を抱える慎吾に、ユウトが窓の外から静かに告げた。

「……藤堂慎吾。あなたの構造的な虚勢と、論理の破綻を検知しました。……消去(デリート)を推奨します」

 ユウトの「論理の破綻」という言葉を聞いた瞬間、慎吾の脳内で何かがカチリと噛み合った。

(待て……? ハムスター、LAの風(温風)、モスクワの冬(冷風停止)、地球のコアの熱……?)

「……おい!」

「何よ遺言なら警察に行って言いなさい!」とチョリカ。

「いや……三笑姫星の支離滅裂な証言は、ハムスターじゃなくて……**エアコンの室外機**のことだ!!」

 慎吾は窓から向かいのボロアパートを指差した。

「あそこの共有室外機、ファンが壊れて熱風を吐き出してる! ハムスターの『大元帥』は地下組織にいるんじゃない、あの室外機のカバーの隙間に挟まって干からびかけ分かっているんだよ!!」

「「「なんだってーーー!!?」」」

 全員でアパートの裏手へ全速力で急行すると、確かに室外機の奥から*「キュウ……キュウ……」*と弱々しい鳴き声が聞こえていた。

 だが、室外機のカバーは頑丈なネジで固定され、周囲の住民たちは冷ややかな目を向けている。

「さっきニュースでデマ流してた変な探偵だろ? 勝手に壊されたら困るね」

 住民たちの冷絶な拒絶。見栄を張り、ハッタリをかまし続けたせいですっかり信用を失っていた。

 万策尽きた。このままでは大元帥が熱風で焼き上がってしまう。

 その時——慎吾は頭のアルミホイルを乱暴に引きちぎり、地面に叩きつけた。

 彼は『名言集』のカッコいい言葉も、国際的探偵のハッタリもすべて捨て去り、泥だらけの靴のまま、住民たちに向かって頭を地面に擦り付けた。

「……頼む!! 俺はカッコつけてばかりで、現場を壊して借金ばかり作ってる情けない探偵だ!! だけど……! あの小さな命を見捨てたら、俺は本当にただのクズになっちまうんだよ!! 力を貸してくれ!!」

 その剥き出しの必死さに、周囲の空気が静まり返る。

「……チッ、分かったよ! うちの工具箱貸してやるから、そこの体のデカい兄ちゃんと何とかしな!」

「任せてください!」

 イチリが卓越した身体性と工具捌きで室外機カバーを精密に外し、慎吾が泥まみれの手を突っ込んで、そっと大元帥を救い出した。

*――キュウッ!*

 無事に保護された大元帥が、慎吾の手のひらで元気良く鳴いた。


---


### 5. 3000円と、冷たい麦茶

 夕暮れの藤堂探偵事務所。

 テーブルの上には、無事に手に入った**ピン札の3000円**と、イチリが走って買ってきたたまご2パック(396円)が置かれていた。

「はぁ〜……。これで今夜はたまごかけご飯が食べられるわね……。あ、でもドアの修理代でまたマイナス2万円だけど」

 チョリカが電卓を叩きながら、呆れつつもどこか嬉しそうに呟く。

 慎吾はソファでボロボロの白シャツを丸め、『名言集・第二版』を開いた。

 何かカッコいい言い訳を書き込もうとペンを握るが——

 ふと、ペンを止めた。

 彼は何も書き込まず、静かにノートを閉じて棚の奥へしまった。

 カチャン。

 チョリカが何も言わず、慎吾の前に氷の浮かんだ冷たい麦茶のグラスを置いた。

「お疲れ様、名探偵。……今日のところは、その『名言集』閉じといてあげたら?」

「……フン、当たり前だ。賢者は無駄な言葉を語らないのだよ」

 慎吾は麦茶を一気に煽り、ニッと鼻血混じりの歯を見せて笑った。

 働けば働くほど現場を壊して赤字が増える。

 明日にはまた300万の請求書が届き、追われる日々が始まる。

 それでも、不便で、不格好で、泥くさい彼らの日常は、今日もしぶとく続いていくのだった。

(第1話・完)

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