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身代わり婚のスパイス

身代わり婚のスパイス

更新日時: 2026-09-15 01:50:41
言語:  日本語16+
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説明

姉の身代わりとして、隣国の完璧な紳士・カーティス伯爵へ「お試し婚」に臨んだ男前な妹・ソフィ。


しかし夜の館で目撃したのは、人見知りで疲れ果てた伯爵の超ヘタレな素顔だった!


ヘタレ伯爵と、肝の据わった身代わり妹が紡ぐ、可笑しくも温かい新婚ラブコメディ!


エピソード1

その朝、ブラウン家の食卓から、いつもの賑やかさが綺麗に消え失せていた。


窓の外では小鳥がさえずり、うららかな陽光が差し込んでいるというのに、室内の空気だけが凍りついたように重い。ソフィがバターナイフを握ったまま固まっている前で、母は青ざめた顔で一枚の便箋を握りしめ、父は無言で天井を仰いでいた。


「——隣国の、カーティス伯爵家からの縁談、ですか」


ソフィが確認するように呟くと、母は何度も小さく頷いた。


「ええ……。カーティス伯爵と言えば、隣国きっての名門よ。そこの現当主様から、我が家の長女エレナを妻に迎えたいと、直々に申し出があったの。断れるはずがないわ……」


「ですが、お母様。エレナ姉様には、将来を誓い合ったルーカスさんがいます」


ルーカスは、近隣の騎士団に所属する誠実な青年だ。幼い頃からブラウン家に親しく出入りし、エレナだけでなく、妹のソフィのことも本当の妹のように可愛がってくれた。エレナとルーカスがお互いを想い合う温かい眼差しを、ソフィは誰よりも近くで見てきたのだ。


「そんなこと、分かっているわよ!」


母は手をオロオロと振るわせ、すがりつくように夫——ソフィたちの父を見た。


「でも、あちらは泣く子も黙る高位貴族。爵位も財産も、我が家とは比べものにならないのよ? もしお断りして、先方の機嫌を損ねたら我が家がどうなるか……! あなた、何とか言ってください!」


「う、うむ……。しかし、エレナの気持ちを無視するわけにも……。だが、伯爵家の怒りを買うのは確かに恐ろしい……ああ、どうすればいいのだ」


父は額の汗を拭いながら、助けを求めるように視線を彷徨わせる。貴族の面目と娘の幸福の間で、両親は完全にパニックに陥り、ただ右往左往するばかりだった。


その時、ばたん、と激しくドアが開く音が響いた。


「私は絶対に、行きません!」


現れたのは、ソフィと一歳違いの姉、エレナだった。

二人は一卵性の双子かと思われるほど顔立ちが酷似していたが、エレナの方がいくぶん胸元が豊かで、華やかな雰囲気をまとっている。普段は穏やかな姉が、今は瞳に激しい怒りの炎を宿して両親を睨みつけていた。


「お父様もお母様も、私の気持ちなんてどうでもいいのね!? 会ったこともない、どこの誰とも分からない隣国の男に、家のために私を売り払うつもりでしょう!」


「エ、エレナ、落ち着きなさい! 売るだなんて人聞きの悪い——」


母が宥めようとするが、エレナの反発は止まらない。


「ルーカスを裏切ってまで、知らない国へ行くなんて絶対に嫌! そんな縁談、こちらから突っぱねてちょうだい!」


「そうは言っても、相手は伯爵家なのだぞ……!」


父が情けない声を上げ、姉がさらに激昂する。実家のリビングは、瞬く間に泥沼の修羅場と化していった。


その様子を冷ややかに見つめていたソフィは、小さくため息をつくと、トーストを飲み込んでおもむろに立ち上がった。椅子の脚が床を擦る高い音が響き、全員の視線が彼女に集まる。


「お父様、お母様、そしてエレナ姉様。——私が、代わりにその伯爵家へ行きます」


一瞬、部屋の中が静まり返った。


「……は?」


最初に我に返ったのはエレナだった。妹の顔を凝視し、呆然と声を漏らす。


「ソフィ、あんた正気なの? 身代わりなんて、そんな大それたこと……!」


「正気よ。お姉様と私は顔がそっくりだし、ドレスで着飾って、初めから『エレナ』として振る舞えば、そう簡単にはバレないわ」


「ダメよ、絶対にダメ! 相手がどんな恐ろしい男かも分からないのよ!? もし、凶暴な変質者だったらどうするの!」


涙を浮かべて制止する姉に対し、ソフィは腰に手を当ててキッパリと言い放った。


「その時はその時よ。だから、今回の縁談はあくまで『お試し期間』という条件付きで臨むわ。私が実家を代表して、まず先方の人間性を吟味しに行くの。もし中身がとんでもないろくでなしだったら、その時は即座に荷物をまとめて、馬を盗んででも帰ってくるから大丈夫!」


男前すぎる妹の宣言に、エレナは開いた口が塞がらない。

一方、両親はさらにパニックを極めていた。


「あ、あの、ソフィ、身代わりなんて、もしバレたら我が家は不敬罪で……!」


「でも、でも……ソフィが行ってくれれば、伯爵家への面目は立ち、エレナの縁談も壊さずに済むのでは……?」


「いやいや、しかしだな! もし本当にろくでもない男で、ソフィが逃げ帰ってきたら、その後の落とし前はどうするんだ!?」


「ひええ、どうしましょう、どうしましょう!」


二人の娘の勢いに完全に気圧された両親は、お互いの服の袖を引っ張り合いながら、室内を文字通りオロオロと右往左往している。その頼りない姿を見て、ソフィはふっと不敵な笑みを浮かべた。


「お父様、お母様、オロオロしている暇があったら、さっさと伯爵家へ『前向きに承諾するが、まずは婚約前の交流期間として娘を滞在させたい』と返事を書いてちょうだい。我が家の平和と、お姉様の幸せは、この私が守ってみせるわ」


こうして、ブラウン家の存亡をかけた(?)前代未聞の「お試し身代わり婚」が、ソフィの手によって強引に決定されたのだった。


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