黒蓮の贖罪:浄罪の館連続殺人事件
説明
“存在しない”殺人事件。一通の“神”からの招待状。 十年前の少女の死に纏わる禁断の真相を暴くため、探偵・神城達也は、吹雪に閉ざされた孤島の館“浄罪の館”へと誘われる。そこに集められたのは、曰く付きの七人の“罪人”。彼らは、“神”を名乗る何者かが主催する、最後の審判ゲームへの参加を強いられる。
ゲームのルール:24時間ごとに、一人の“罪人”が生贄に捧げられる。
その手口は、全てが“不可能犯罪”――舌を抜かれた死体が完全な密室で嗤い、とうに死んだはずの執事が亡霊の如く雪の中を歩き、氷の彫像と化す…完璧な自動殺人トラップが、全員に鉄壁のアリバイを付与する…
生き残る唯一の方法は、自らが次の生贄となる前に、七人の中に潜む“神”の正体を暴くこと。
だが、誰もが“狂人”を演じるこの舞台で、一体、誰を信じられるのか? ――本物の悪魔ほど、最も無垢な仮面を被るものだから。
エピソード1
雨は降り止まず、東京全体を色褪せた古い写真のように浸していた。神城達也の事務所は煙が立ち込め、安物の煙草と黴臭い書類が混じった、滅入るような匂いが空気に満ちていた。
彼は、机の上の、もう数え切れないほど広げた新聞の切り抜きを睨んでいた。十年になる。写真に写る小夜子という名の少女の命は、あの雪の夜、あまりにも唐突に終止符を打たれた。公式の見解は「鬱による自殺」。彼が永遠に信じることのできない嘘。その強引にねじ伏せられた疑念は、最終的に彼に警察の制服を脱がせ、以来十年間、繰り返し彼を苛む悪夢となった。
電話のベルが耳障りに鳴った。家主からの家賃の催促だ。神城は苛立ちながらそれを切り、再び希望のない思索に沈もうとした瞬間、ドアのベルが鳴った。差出人のない巨大な段ボール箱が、彼に手渡された。
封を切り裂くと、紙幣特有のインクの香りがした。銀行の帯封で固く束ねられた一万円札の束が、箱の中に静かに鎮座している。札束の一番上には、一通の封筒。冷たい活字体が、まるで刻み込まれた傷跡のように並んでいた。
『お前は真実を見逃した。小夜子の死は、殺人だ。私がお前のために全てを準備した。全ての「必要な人員」も、含めて。――「浄罪の館」へ来い』
封筒の底には、一枚の黒鉄で鋳造された蓮の紋章があった。薄暗い照明の下、不吉な冷たい光を放っている。神城はそれを握りしめた。冷たい金属が掌を刺したが、同時に、十年もの間、一度も揺らぐことのなかった彼の血を燃え立たせた。これは地獄への招待状かもしれぬ。だが、十年もの間、闇を彷徨い続けた男にとって、深淵に射すどんな光も、命を懸けて追いかける価値があった。
***
神城の旧式の車は、伊豆半島の奥深くへと続く海岸道路を走っていた。天候は急速に悪化し、陰鬱な雨は猛吹雪へと変わる。カーラジオからは、「過去十年で最強の寒波」を知らせる警報が途切れ途切れに流れていた。携帯電話の電波は一時間前に完全に途絶え、この世界はまるで縮小していき、最後には彼と、彼の目的地だけが残されるかのようだった。
ナビの終点が、ついに崖の上にそびえる一つの荘園を指した時、神城は自分が道を間違えたのではないかとさえ思った。それは、極めて奇妙な様式の建築物だった。日本の寺院のような反り返った軒と斗栱(ときょう)、そして西洋の洋館のような巨大なフランス窓が、ひどく不調和に縫合され、まるで沈黙した怪物のように、鉛色の空の下、不気味にそびえ立っていた。「浄罪の館」。
彼はドアベルを押した。しばらくして、仕立ての良い燕尾服を着た老執事が現れた。その顔色はまるで雪に浸されたかのように青白く、視線は泳ぎ、声は風に震えていた。「神城様でございますか?ご主人様が、お待ちかねでございました」
重厚なオーク材の扉が開かれる。古びた木材、寺院の薫香、そして暖炉の灰が混じり合った暖かい空気が、顔に吹き付けてきた。ホールは天井が極めて高く、薄暗い。ただ、巨大な暖炉で燃える炎だけが、そこにいる全員の影を引き伸ばし、歪め、地獄絵図が描かれた古い壁画の上に、投影していた。
そして、彼は、彼らを見た。
暖炉の前、ソファに、三人、二人と、何人かの人間が座っていた。彼らの顔は、揺らめく炎の光の中で、明るくなったり、暗くなったりしている。大和田議員、今や政界で順風満帆の男。北原医師、東京で最も有名な外科の権威。ジャーナリストの相田、今や著名な社会部記者。小説家の結城、小夜子の元恋人。そして、早川夫人、小夜子のかつての親友。十年もの間、彼の脳裏に焼き付いていた顔ぶれが、今、全員、生きていた。この、籠の中に。
「どうやら、最後のお客様もお着きのようだ」大和田議員が立ち上がり、政治家特有の、非の打ち所のない笑みを浮かべ、自ら神城へと歩み寄った。
神城は彼を無視した。彼の視線は人々の群れを越え、隅で縮こまっている老執事に注がれた。彼は震えていた。それは寒さのせいではない。魂の奥底からの恐怖によるものだ。
窓の外では、風雪がにわかに激しさを増し、鬼の哭き声のような咆哮をあげている。老執事の唇が震え、ほとんど声にならない。「橋が…は、橋が…外に通じる橋が、おそらく、大雪で、封鎖されてしまいました」
大和田の携帯電話には、電波が一本も立っていなかった。彼は振り返り、全員に向かって、口元の笑みを、意味深なものに変えて言った。「どうやら、この謎めいた『ご主人様』がお出ましになるまで、我々は誰も、ここから出られそうにないな」
神城は、背筋を這い上がる、抑えきれない悪寒を感じた。これは審判ではない。これは、粛清だ。そして、屠殺者は、この七人の中にいる。
最新エピソード
神城は、目の前の、一口しか飲んでいない紅茶と、そして、すでに生命の気配を失った大和田の死体を見つめた。
彼は、勝った。
そして、彼もまた、負けたのだ。
早川夫人の言葉は、音のない弾丸のように、的確に、標的を射抜いた。
大和田議員の顔から、血の気が、一瞬で、引いた。彼の、あの、万事を掌握しているかのような、余裕が、初めて、肉眼でも、
結城は、ソファに縛り付けられたまま、完全に意識を失っていた。あるいは、彼自身が、もう、目覚めることを、拒否していた。彼は、このゲームから、リタイアしたのだ。
刃の先に暖炉の炎が映り、橙色の稲妻のようにきらめいた。
結城の狙いは、探りでも、脅しでもない。致命的で、一切の躊躇いのない刺殺だ。神城達也の瞳孔は一瞬で針先の







