王様にリベンジするはずが、大王様に拾われて最強の武器になりました
説明
「大王様」及川徹の、「チームを一体と化す」強さに憧れた日向翔陽は、烏野高校ではなく青葉城西高校への進学を選ぶ。しかし現実は厳しく、憧れの及川本人からは「チビちゃん」と揶揄われ、その劣悪な基礎技術を徹底的に弄ばれる日々。青城という精密機械の中で、彼は噛み合わない歯車だった。
及川の執拗な嫌がらせと、副主将・岩泉一からの厳しい励ましを支えに、日向は悔しさを原動力に変えて猛練習に打ち込む。やがてその執念と才能は、ついに及川に、この不屈の「小さな化物」のためだけの神業の速攻を「戴冠」として捧げさせる。
だが、青葉城西が烏野高校との練習試合に臨んだ時、青と白のユニフォームをまとった日向は、ネットを挟んで因縁のライバル・影山飛雄と対峙する。黒いカラスと青い若葉が激突し、二人の天才セッターが彼を「最強の武器」として認識した時、日向翔陽の物語はどこへ向かうのか?
エピソード1
四月。宮城県の桜が満開の季節。風が吹けば、淡いピンク色の雨が舞い上がる。日向翔陽は自転車を漕ぎ、見慣れた坂道を駆け上がっていく。その心には、例年とは全く違う、興奮と不安が入り混じった感情が渦巻いていた。
身にまとっているのは、中学時代のありふれた学ランではない。ぱりっとした新品の白いブレザーに、ミントグリーンのチェック柄スラックス。それは、青葉城西高校の制服だった。
この選択は、数ヶ月前の、あの心を揺さぶる春高予選決勝戦から始まった。
テレビの前で、日向は青葉城西と白鳥沢学園が繰り広げた、体育館の屋根を吹き飛ばさんばかりの死闘を目の当たりにした。彼は、かの「大王様」と称されるセッター、及川徹が、その神業のようなトスで、チームの全てのスパイカーのポテンシャルを二百パーセント引き出す様を見た。青葉城西の強さは、絶対的な一人のエースに依存するのではなく、極限まで高められたチームワークと、セッターによる戦局の完全な支配の上に成り立っていた。
「すっげえ……」日向は当時、そう呟いていた。「もし……もし、あの人のトスを打てたら……」
その考えは一度根付くと、凄まじい勢いで成長していった。彼は勝利に飢えていた。その有り余るほどの跳躍力を存分に発揮できる舞台を渇望していた。そして、「六人」で強いバレーを極限まで体現する青葉城西は、彼にとって、光り輝く約束の地に見えた。
だから、彼は死に物狂いで勉強し、奇跡的に、県内でも有数の進学校であるこの高校に合格した。
しかし、巡礼者のような敬虔な気持ちで、初めて青葉城西の広々とした明るい体育館に足を踏み入れた時、現実は彼に強烈な平手打ちを食らわせた。
「い……一年、日向翔陽です!よろしくお願いします!」緊張のあまり、声が興奮で上擦る。深々とお辞儀をした。
体育館の中では、背の高い先輩たちが品定めするような視線を投げてくる。その中に一つ、ひときわ突き刺さるような視線があった。栗色の髪で、顔立ちは整っているが、どこか軽薄な笑みを浮かべた男。彼こそが、及川徹だった。
「おや?今年のルーキーには、こんなチビちゃんもいるんだ」及川は腰に手を当て、首を傾げて日向を値踏みする。その眼差しは、まるで狼の群れに迷い込んだチワワを見るかのようだ。「身長……160ある?ギリってとこかな」
日向の顔が瞬時に真っ赤に染まる。「お、俺は162.8センチです!それに、跳べます!」
「跳べる?」及川は笑った。その笑顔には、隠そうともしない嘲りが含まれている。「へえ?そりゃあ、ぜひ見せてもらわないとね」
その「見せてもらう」とは、基礎練習のことだった。
そしてそれは、日向にとって地獄そのものだった。
彼の運動能力と反射神経はトップクラスだ。しかし、基礎技術は、見るに堪えないほどに酷かった。
バシッ!
それほど速くもないオーバーハンドパスが、まっすぐ彼の顔面を直撃する。
ボフッ!
簡単なアンダーハンドレシーブ。勢いを殺しきれず、ボールは奇妙な角度で天高く舞い上がり、コートの外へと飛んでいった。
ドンッ!
先輩たちの真似をして助走をつけてスパイクを打とうとしたが、ステップを間違え、もう少しでネットに頭から突っ込むところだった。
体育館に、抑えきれないひそひそとした笑い声が響き始める。日向の顔はますます赤くなり、汗と羞恥心が混じり合って、地面に穴を掘って隠れたい衝動に駆られた。
「わお」及川の声が、まるで砂糖をまぶしたナイフのように、のんびりと聞こえてくる。「すごい『才能』だねえ、チビちゃん。うちのバレー部に入ってきて、まともにレシーブもできない奴なんて、俺、初めて見たよ」
「黙れ、クソ川」
低い声が響いたかと思うと、「ゴンッ」という音と共に、一球のバレーボールが正確に及川の後頭部に命中した。
及川は大げさに悲鳴を上げ、振り返って怒鳴る。「痛っ!岩ちゃん、何すんだよ!」
黒い短髪をツンツンに立てた、鋭い目つきの男が歩み寄ってくる。引き締まった筋肉に、剛毅な顔つき。青葉城西のエーススパイカーであり、副主将の岩泉一だった。
岩泉は及川の文句を無視し、日向の前に立つと、顔を真っ赤にして泣き出しそうなオレンジ色の髪の少年を見下ろした。
日向は緊張してユニフォームの裾を握りしめる。
「おい」岩泉が口を開いた。声は荒々しい。「あの阿呆の言うことは気にするな」
「……はい」日向は小声で答えた。
「お前のレシーブは確かにクソだが」岩泉は容赦なく指摘する。しかし、すぐに言葉を続けた。「だが、お前の跳躍力……さっき見た。跳ぶ時、余計なことは考えるな。全ての意識をボールに集中させろ。お前の全力で、ボールを叩け」
彼は一拍置いて、付け加えた。「その有り余る体力を、まずはコート中を走り回ってボールを拾うのと、基礎の対人パスに全部使え。いつかボールを安定して返せるようになったら、その先のことを考えろ」
そう言うと、彼は背を向けて歩き去った。去り際に、及川をもう一度睨みつける。まるで、いい加減にしろと警告しているかのようだった。
日向は呆然と立ち尽くしていた。岩泉の言葉は厳しかったが、まるで温かい流れのように、心の中の寒気の一部を追い払ってくれた。彼は深呼吸をし、再びバレーボールを拾い上げる。
「はいっ!」彼は大声で叫んだ。その声には少し涙が混じっていたが、それ以上に、再燃した闘志がみなぎっていた。
青葉城西の体育館は広く、天井は高い。青と白のユニフォームをまとったオレンジ色のチビ、日向翔陽は、まるで巨大で精密な機械の傍らで噛み合わない歯車のように、不器用に、しかし頑固に、彼自身の回転を始めた。
最新エピソード
第八章:王様からの意外な誘い
試合の硝煙が徐々に薄れ、体育館には両チームが片付けをする騒々しい音だけが残っていた。青葉城西の選手たちの顔には勝利の安堵が浮かび、三々五々、先ほどの試合
第七章:終局の無言の対話 体育館の空気はまるで凝固したかのようで、ただ、バッシュが床を擦る「キュッキュッ」という音と、ボールが何度も強打される爆音だけが響いていた。 後半の試合は、「化物」たちの対決
第六章:ネットを挟んだ化物たち 影山飛雄は、自分の脳が重いハンマーで殴られたかのように、ガンガンと鳴り響くのを感じていた。 彼は先ほどの光景が理解できなかった。 中学時代、最も基本的な対人パスすら
第五章:黒鴉と青葉の交響曲 「お願いします!」 両チームの大きな声と共に、練習試合の幕が切って落とされた。 最初の一球は青葉城西のサーブ。及川徹だ。彼はエンドラインに立ち、ボールを高くトスする。そ







