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「復讐は何も生み出さない」らしいので魔物に苦しめられている人々を救うことにした結果w

「復讐は何も生み出さない」らしいので魔物に苦しめられている人々を救うことにした結果w

更新時間: 2026-10-11 13:47:58
語種:  日本語4+
4.6
5 評分
6
章節数
6.9k
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简介

「復讐は何も生み出さんぞ。そんな毒々しい感情に身を任せては、お主の魂が腐ってしまう」


「復讐は虚しいだけじゃ。憎しみの連鎖は、誰の心も救わん。どん底にある時こそ、人々に尽くすべきなのじゃ。与える者こそが、真の救いを得る……」


……だそうだ。


国王暗殺の濡れ衣を着せられ、すべてを失った俺、ステイド。


元・世界最強の勇者だ。


怒り、屈辱、絶望。


俺の胸を渦巻くのは、ただ一つ。


__復讐してやる。


そう決意した俺の前に現れたのが、無理解なボケろ……じゃなくて、ありがた~い賢者様だった。


そうして賜ったのがさっきのセリフだ。


正直、かなりイラッとした。


だが、俺は賢い。


賢いので、直ちに「改心」することにした。


「復讐なんて、そんな虚しいことに時間を使うべきじゃない。俺は……俺はただ、もう一度人々のために役に立ちたいだけなんだ。」


こうして俺は、魔物を討伐する旅に出た。


人々を苦しめる魔物を斬り。


作物を荒らす魔物を斬り。


村を脅かす魔物を斬り。


__八つ当たり?


まさか。


これはれっきとした、崇高なる人助けだ。


「この村の恩人です! なんと感謝すればよいか……!」


「……ああ、勇者様! 本当に、本当になんと感謝申し上げればよいか……!」


「ステイドさま、ありがとう!」


……ああ!


「いいこと」をするのは、なんて気持ちがいいんだろう!


人々から感謝され、報酬をもらい、名声まで手に入る。


しかも、魔物を倒せば倒すほど、俺の心はどんどん穏やかになっていく。


そう。


俺はもう、「復讐」なんて考えていない。


__そうだろ?


俺はただ、人々を救っているだけなのだから。


さあ、今日も行こう。


世界中の困っている人々を救うために。


そして__


俺の「救済」を、たっぷりと見せてやろうじゃないか。


章節1


 ひゅうひゅうと、喉を鳴らすような風が鳴り響いている。


 荒野。


というか、ただの泥の海だ。


空はどんよりと重たい灰色で、今にも泣き出しそうな顔をしている。


いや、泣きたいのは俺の方だっての。



 べちゃり。



 足元で不快な音がした。


自慢のブーツはもうボロボロで、泥水が容赦なく侵入してくる。


ぐちょぐちょ。


気持ち悪い。


最悪だ。



「……クソが」



 吐き捨てた言葉は、暴風にかき消された。



 俺の名前はステイド。


元・ルチ王国直属の勇者だ。


かつては『紅蓮の勇者』なんて派手な二つ名で呼ばれ、国民の期待を一身に背負っていた男だ。



 それがどうだ。


今の俺は、髪に泥がこびりつき、体中が傷だらけのボロ雑巾だ。


金もない、仲間もいない、ついでに言うなら聖剣も叩き折られた。



 残っているのは、腹の底でドロドロと煮えくり返る屈辱と、怒りと、ほんの少しの絶望だけだ。



◇



 __思い出すだけで、胃の奥がキリキリ痛みやがる。



 つい数日前まで、俺は英雄だった。魔王軍との戦争? 


ああ、ずっと最前線で剣を振るっていたよ。


巨大なドラゴンをぶった斬り、魔王軍の幹部を次々と地獄送りにした。


この手で何度も王国を救ってやったんだ。



 それなのに。



 ある日突然、俺は『国王レオニード暗殺未遂』の罪人に仕立て上げられた。



「ステイド、お前の部屋から毒の塗られた短剣が見つかった。言い逃れはできんぞ」



 玉座にふんぞり返ったレオニードが、冷え切った声で吐かしやがった。



「へ、陛下? 何をおっしゃいますか!私がそのようなことをするはずがございません!」



 必死に訴えたさ。


俺は国を愛していたし、アイツらのことも信じていた。


だが、状況は最悪だった。


偽の目撃証言、偽造された王家魔法の記録。


外堀は埋め立てられ、俺は逃げ場を失っていた。



「……これほど証拠が揃っているのなら、無実だと考える方が難しい」



 レオニードがあきれたように首を振る。


その目は、冷酷な計算高さで光っていた。



 それでも、俺には仲間がいた。


共に戦ってきた奴らなら、俺を信じてくれるはずだ。


そう思ったんだがな。



「先輩……ショックっすよ。まさかあなたが、裏でそんなことを考えてたなんて」



 後輩のトースが、軽蔑の視線を俺に投げた。


一番可愛がってやった後輩が、真っ先に俺を疑いやがった。



 そして、アリス。


一緒に何度も死線を潜り抜けてきた姫君。


彼女なら、と思って視線を送ったが__。



 彼女は、ただ静かに目を逸らした。



 あの瞬間の絶望といったらなかったぜ。


心臓が凍り付くってのは、ああいう感覚なんだろうな。




 結局、俺の聖剣《テルース》はレオニードの手で無慈悲に叩き折られ、俺は国外追放となった。



 城門から引きずり出される時、国民や兵士たちは一斉に手のひらを返しやがった。



「裏切り者め!」


「死ね! 偽りの勇者!」



 昨日まで俺に花束を投げていた奴らが、今日は石を投げてくる。


ごつん、と頭に当たった石の感触が今でも残っている。



 挙句の果てには、国境の砦で兵士に背中を蹴っ飛ばされ、俺はこの荒野へと放り出されたわけだ。



◇



「……あいつら全員、ぶっ殺してやる」



 ぶつぶつと、呪詛のように呟きながら歩く。



 レオニードも、トースも、アリスも、石を投げてきた国民も。


一人残らず、俺の前に跪かせて、泣いて謝らせてやる。


いや、謝らせるだけじゃ足りないな。


どう料理してやろうか。



 だが、現実は非情だ。


俺の手には武器すらない。


空っぽの掌をぎゅっと握りしめるが、爪が食い込むだけだ。



 腹が減った。


喉も乾いた。


怒りは燃えているのに、体は冷え切っていく。




「__おやおや。なんとも凄まじい顔をしておるな」



 突然、風の音に混じって声が聞こえた。



 びくん、と肩が跳ねる。


俺は反射的に身構え、声の主を睨みつけた。




 いつの間にそこにいたのか。


灰色の視界の中に、一人の老人が立っていた。



 剃髪した頭に、雪のように白い長い髭。


茶色の古ぼけたローブを纏い、樫の杖を突いている。


どこからどう見ても、ただのよぼよぼの爺さんだ。



「……誰だ、アンタ」


「わしか? わしはウーラ。ただのしがない賢者じゃよ」



 ウーラ? 聞いたこともない名前だ。


俺は警戒を解かずに名乗った。



「俺はステイドだ」


「ほう、最近噂の『元』勇者殿か。こんな場所で何をしておる?」



 俺は鼻で笑った。



「見ての通りだ。濡れ衣を着せられて、剣を折られて、追い出されたのさ。国のために戦ってきた結果がこれだぜ。笑えるだろ?」



 俺は首を絞めるジェスチャーをしてみせた。



「見てろよ、いつかあそこの奴ら全員、こうしてやってやるんだ。あいつらの絶望する顔を想像するだけで、飯が三杯は食えそうだぜ」



 すると、ウーラとかいう爺さんは、深いため息をついて首を振った。



「復讐は何も生み出さんぞ、ステイドよ。そんな毒々しい感情に身を任せては、お主の魂が腐ってしまう」


「はあ? 腐る? 上等だよ。もう腐ってるんだよ、中身も外見もな!」



 俺は食ってかかった。


何を綺麗事を。


こっちはどん底なんだよ。



「復讐は虚しいだけじゃ。憎しみの連鎖は、誰の心も救わん。どん底にある時こそ、人々に尽くすべきなのじゃ。与える者こそが、真の救いを得る……」



 爺さんの説教が始まった。


もう、耳にタコができそうだ。


イライラする。


なんだこの慈愛に満ちた目は。


俺が欲しいのは説教じゃない、あいつらを殴り殺すための力が欲しいんだよ!



 俺はウーラを鋭く睨みつけた。



 いっそ、このままこの説教じみた爺さんをぶち殺してやろうか。


その樫の杖を奪えば、少しは武器になるかもしれない。



 俺の中で殺意が黒く渦巻いた、その時だ。



 ぴかっと、脳内に何かが閃いた。



 ……待てよ?



 こいつは『賢者』と名乗った。



 慈悲深い賢者様なら、困っている元勇者に何か恵んでくれるんじゃないか?



 俺の口角が、無意識に吊り上がった。



にやり。



「……ああ、そうだ。アンタの言う通りだ、ウーラさん」



 俺は急にトーンを変え、神妙な顔つきを作った。



「俺が間違っていたよ。復讐なんて、そんな虚しいことに時間を使うべきじゃない。俺は……俺はただ、もう一度人々のために役に立ちたいだけなんだ。裏切られて、少し心が荒んでいたみたいだ」



 (へっ、寝言言ってんじゃねーよ糞ジジイ。心の中で何度中指立てたと思ってんだ?)



 俺の内側の声とは裏腹に、演技には自信があった。



なにせ長い間『勇者』という役職を演じてきたんだからな。




 ウーラは目を見開いて、深く頷いた。



「おお……そうか! わかってくれたか! お主のような類まれなる腕を持つ者が、復讐の鬼にならずに済んで本当に良かった」


「ああ、俺も晴れ晴れした気分だよ。でも、今の俺には武器がない。これじゃあ、魔物に襲われている人たちを助けることもできないな……」



 わざとらしく肩を落とし、折れた聖剣があった腰のあたりを寂しそうに撫でてみせる。



 作戦開始だ。かかれ、老いぼれ。



 ウーラは満足げに微笑むと、自分の背負っていた袋の中から、一本の剣を取り出した。



 その瞬間、周囲の空気が一変した。



「これは……」



 鞘に入った状態でもわかる。


桁外れの魔力だ。


装飾は質素だが、ただならぬ威厳を放っている。



「この剣の名は、聖剣《アステラ》。長らく相応しい持ち主を探しておったのじゃが……どうやら見つかったようじゃな」



 ウーラは恭しく、その剣を俺に差し出した。



「絶望に打ちひしがれ、裏切りの雨に打たれながらも、高潔な心を失わなかったお主にこそ、この剣を持つ資格がある。ステイドよ、このアステラを正しき道のために振るうのじゃ」



「……いいのか? こんなに凄いものを」



 俺は感極まったような声を出し、震える手で剣を受け取った。



 (っしゃああ! 大金星だ! チョロすぎるだろ、このジジイ!)



「ありがとう、ウーラさん。この剣にかけて誓うよ。俺は必ず、困っている人たちを……『俺の方法』で救ってみせる」



「うむ。その決意、忘れるでないぞ。では、わしは行くとしよう。お主の旅に光があらんことを」



 ウーラは満足げに頷くと、杖を突いて、風の中へと去っていった。



 俺は、その背中が十分に見えなくなるまで見送った。



 そして__。



「ぺっ!」



 ウーラの姿が消えた瞬間に、勢いよく舌を出してやった。



「バァーカ! 誰がそんな話聞くかよ! 高潔な心だぁ? そんなもん、とっくの昔にルチ王国のドブに捨ててきたっつーの!」



 俺は手にした聖剣《アステラ》を引き抜いた。



 シャリィンッ。



 美しい音が荒野に響く。


刀身は透き通るような白銀で、驚くほど軽い。


なのに、振れば世界を両断できそうなほどのパワーを感じる。



「最高だ……! サンキューな、クソジジイ! おかげで最高の商売道具が手に入ったぜ!」



 俺はルチ王国のある方角を見据えた。



 あの忌々しい城。あの傲慢な王。裏切り者の仲間たち。



 首を洗って待ってろよ。



「復讐はしない……そうさ、爺さんの言う通りだ。復讐なんて、バカなことはしない」



 俺は聖剣を高く掲げ、天に向かって吠えた。



「俺は、復讐をせずに復讐をしてやる! あいつらが一番嫌がる方法で、人生の全てをめちゃくちゃにしてやるんだ!」




 ゴロゴロ、ドカンッ!



 近くに雷が落ちた。


嵐がいよいよ激しくなり、雨が俺の体を打ち据える。



 だが、冷たくない。


むしろ熱い。


心臓の奥が、どくどくと高鳴っている。



「はーっはっはっはっ! 見てろよレオニード! これから本当の地獄を見せてやるからな!」



 土砂降りの雨の中、俺は狂ったように笑い続けた。



 こうして、世界で一番タチの悪い勇者の、華麗なる『復讐しない復讐劇』が幕を開けたのである。


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