「復讐は何も生み出さない」らしいので魔物に苦しめられている人々を救うことにした結果w
简介
「復讐は何も生み出さんぞ。そんな毒々しい感情に身を任せては、お主の魂が腐ってしまう」
「復讐は虚しいだけじゃ。憎しみの連鎖は、誰の心も救わん。どん底にある時こそ、人々に尽くすべきなのじゃ。与える者こそが、真の救いを得る……」
……だそうだ。
国王暗殺の濡れ衣を着せられ、すべてを失った俺、ステイド。
元・世界最強の勇者だ。
怒り、屈辱、絶望。
俺の胸を渦巻くのは、ただ一つ。
__復讐してやる。
そう決意した俺の前に現れたのが、無理解なボケろ……じゃなくて、ありがた~い賢者様だった。
そうして賜ったのがさっきのセリフだ。
正直、かなりイラッとした。
だが、俺は賢い。
賢いので、直ちに「改心」することにした。
「復讐なんて、そんな虚しいことに時間を使うべきじゃない。俺は……俺はただ、もう一度人々のために役に立ちたいだけなんだ。」
こうして俺は、魔物を討伐する旅に出た。
人々を苦しめる魔物を斬り。
作物を荒らす魔物を斬り。
村を脅かす魔物を斬り。
__八つ当たり?
まさか。
これはれっきとした、崇高なる人助けだ。
「この村の恩人です! なんと感謝すればよいか……!」
「……ああ、勇者様! 本当に、本当になんと感謝申し上げればよいか……!」
「ステイドさま、ありがとう!」
……ああ!
「いいこと」をするのは、なんて気持ちがいいんだろう!
人々から感謝され、報酬をもらい、名声まで手に入る。
しかも、魔物を倒せば倒すほど、俺の心はどんどん穏やかになっていく。
そう。
俺はもう、「復讐」なんて考えていない。
__そうだろ?
俺はただ、人々を救っているだけなのだから。
さあ、今日も行こう。
世界中の困っている人々を救うために。
そして__
俺の「救済」を、たっぷりと見せてやろうじゃないか。
章節1

ひゅうひゅうと、喉を鳴らすような風が鳴り響いている。
荒野。
というか、ただの泥の海だ。
空はどんよりと重たい灰色で、今にも泣き出しそうな顔をしている。
いや、泣きたいのは俺の方だっての。
べちゃり。
足元で不快な音がした。
自慢のブーツはもうボロボロで、泥水が容赦なく侵入してくる。
ぐちょぐちょ。
気持ち悪い。
最悪だ。
「……クソが」
吐き捨てた言葉は、暴風にかき消された。
俺の名前はステイド。
元・ルチ王国直属の勇者だ。
かつては『紅蓮の勇者』なんて派手な二つ名で呼ばれ、国民の期待を一身に背負っていた男だ。
それがどうだ。
今の俺は、髪に泥がこびりつき、体中が傷だらけのボロ雑巾だ。
金もない、仲間もいない、ついでに言うなら聖剣も叩き折られた。
残っているのは、腹の底でドロドロと煮えくり返る屈辱と、怒りと、ほんの少しの絶望だけだ。
◇
__思い出すだけで、胃の奥がキリキリ痛みやがる。
つい数日前まで、俺は英雄だった。魔王軍との戦争?
ああ、ずっと最前線で剣を振るっていたよ。
巨大なドラゴンをぶった斬り、魔王軍の幹部を次々と地獄送りにした。
この手で何度も王国を救ってやったんだ。
それなのに。
ある日突然、俺は『国王レオニード暗殺未遂』の罪人に仕立て上げられた。
「ステイド、お前の部屋から毒の塗られた短剣が見つかった。言い逃れはできんぞ」
玉座にふんぞり返ったレオニードが、冷え切った声で吐かしやがった。
「へ、陛下? 何をおっしゃいますか!私がそのようなことをするはずがございません!」
必死に訴えたさ。
俺は国を愛していたし、アイツらのことも信じていた。
だが、状況は最悪だった。
偽の目撃証言、偽造された王家魔法の記録。
外堀は埋め立てられ、俺は逃げ場を失っていた。
「……これほど証拠が揃っているのなら、無実だと考える方が難しい」
レオニードがあきれたように首を振る。
その目は、冷酷な計算高さで光っていた。
それでも、俺には仲間がいた。
共に戦ってきた奴らなら、俺を信じてくれるはずだ。
そう思ったんだがな。
「先輩……ショックっすよ。まさかあなたが、裏でそんなことを考えてたなんて」
後輩のトースが、軽蔑の視線を俺に投げた。
一番可愛がってやった後輩が、真っ先に俺を疑いやがった。
そして、アリス。
一緒に何度も死線を潜り抜けてきた姫君。
彼女なら、と思って視線を送ったが__。
彼女は、ただ静かに目を逸らした。
あの瞬間の絶望といったらなかったぜ。
心臓が凍り付くってのは、ああいう感覚なんだろうな。
結局、俺の聖剣《テルース》はレオニードの手で無慈悲に叩き折られ、俺は国外追放となった。
城門から引きずり出される時、国民や兵士たちは一斉に手のひらを返しやがった。
「裏切り者め!」
「死ね! 偽りの勇者!」
昨日まで俺に花束を投げていた奴らが、今日は石を投げてくる。
ごつん、と頭に当たった石の感触が今でも残っている。
挙句の果てには、国境の砦で兵士に背中を蹴っ飛ばされ、俺はこの荒野へと放り出されたわけだ。
◇
「……あいつら全員、ぶっ殺してやる」
ぶつぶつと、呪詛のように呟きながら歩く。
レオニードも、トースも、アリスも、石を投げてきた国民も。
一人残らず、俺の前に跪かせて、泣いて謝らせてやる。
いや、謝らせるだけじゃ足りないな。
どう料理してやろうか。
だが、現実は非情だ。
俺の手には武器すらない。
空っぽの掌をぎゅっと握りしめるが、爪が食い込むだけだ。
腹が減った。
喉も乾いた。
怒りは燃えているのに、体は冷え切っていく。
「__おやおや。なんとも凄まじい顔をしておるな」
突然、風の音に混じって声が聞こえた。
びくん、と肩が跳ねる。
俺は反射的に身構え、声の主を睨みつけた。

いつの間にそこにいたのか。
灰色の視界の中に、一人の老人が立っていた。
剃髪した頭に、雪のように白い長い髭。
茶色の古ぼけたローブを纏い、樫の杖を突いている。
どこからどう見ても、ただのよぼよぼの爺さんだ。
「……誰だ、アンタ」
「わしか? わしはウーラ。ただのしがない賢者じゃよ」
ウーラ? 聞いたこともない名前だ。
俺は警戒を解かずに名乗った。
「俺はステイドだ」
「ほう、最近噂の『元』勇者殿か。こんな場所で何をしておる?」
俺は鼻で笑った。
「見ての通りだ。濡れ衣を着せられて、剣を折られて、追い出されたのさ。国のために戦ってきた結果がこれだぜ。笑えるだろ?」
俺は首を絞めるジェスチャーをしてみせた。
「見てろよ、いつかあそこの奴ら全員、こうしてやってやるんだ。あいつらの絶望する顔を想像するだけで、飯が三杯は食えそうだぜ」
すると、ウーラとかいう爺さんは、深いため息をついて首を振った。
「復讐は何も生み出さんぞ、ステイドよ。そんな毒々しい感情に身を任せては、お主の魂が腐ってしまう」
「はあ? 腐る? 上等だよ。もう腐ってるんだよ、中身も外見もな!」
俺は食ってかかった。
何を綺麗事を。
こっちはどん底なんだよ。
「復讐は虚しいだけじゃ。憎しみの連鎖は、誰の心も救わん。どん底にある時こそ、人々に尽くすべきなのじゃ。与える者こそが、真の救いを得る……」
爺さんの説教が始まった。
もう、耳にタコができそうだ。
イライラする。
なんだこの慈愛に満ちた目は。
俺が欲しいのは説教じゃない、あいつらを殴り殺すための力が欲しいんだよ!
俺はウーラを鋭く睨みつけた。
いっそ、このままこの説教じみた爺さんをぶち殺してやろうか。
その樫の杖を奪えば、少しは武器になるかもしれない。
俺の中で殺意が黒く渦巻いた、その時だ。
ぴかっと、脳内に何かが閃いた。
……待てよ?
こいつは『賢者』と名乗った。
慈悲深い賢者様なら、困っている元勇者に何か恵んでくれるんじゃないか?
俺の口角が、無意識に吊り上がった。
にやり。
「……ああ、そうだ。アンタの言う通りだ、ウーラさん」
俺は急にトーンを変え、神妙な顔つきを作った。
「俺が間違っていたよ。復讐なんて、そんな虚しいことに時間を使うべきじゃない。俺は……俺はただ、もう一度人々のために役に立ちたいだけなんだ。裏切られて、少し心が荒んでいたみたいだ」
(へっ、寝言言ってんじゃねーよ糞ジジイ。心の中で何度中指立てたと思ってんだ?)
俺の内側の声とは裏腹に、演技には自信があった。
なにせ長い間『勇者』という役職を演じてきたんだからな。
ウーラは目を見開いて、深く頷いた。
「おお……そうか! わかってくれたか! お主のような類まれなる腕を持つ者が、復讐の鬼にならずに済んで本当に良かった」
「ああ、俺も晴れ晴れした気分だよ。でも、今の俺には武器がない。これじゃあ、魔物に襲われている人たちを助けることもできないな……」
わざとらしく肩を落とし、折れた聖剣があった腰のあたりを寂しそうに撫でてみせる。
作戦開始だ。かかれ、老いぼれ。
ウーラは満足げに微笑むと、自分の背負っていた袋の中から、一本の剣を取り出した。
その瞬間、周囲の空気が一変した。
「これは……」
鞘に入った状態でもわかる。
桁外れの魔力だ。
装飾は質素だが、ただならぬ威厳を放っている。
「この剣の名は、聖剣《アステラ》。長らく相応しい持ち主を探しておったのじゃが……どうやら見つかったようじゃな」
ウーラは恭しく、その剣を俺に差し出した。
「絶望に打ちひしがれ、裏切りの雨に打たれながらも、高潔な心を失わなかったお主にこそ、この剣を持つ資格がある。ステイドよ、このアステラを正しき道のために振るうのじゃ」
「……いいのか? こんなに凄いものを」
俺は感極まったような声を出し、震える手で剣を受け取った。
(っしゃああ! 大金星だ! チョロすぎるだろ、このジジイ!)
「ありがとう、ウーラさん。この剣にかけて誓うよ。俺は必ず、困っている人たちを……『俺の方法』で救ってみせる」
「うむ。その決意、忘れるでないぞ。では、わしは行くとしよう。お主の旅に光があらんことを」
ウーラは満足げに頷くと、杖を突いて、風の中へと去っていった。
俺は、その背中が十分に見えなくなるまで見送った。
そして__。
「ぺっ!」
ウーラの姿が消えた瞬間に、勢いよく舌を出してやった。
「バァーカ! 誰がそんな話聞くかよ! 高潔な心だぁ? そんなもん、とっくの昔にルチ王国のドブに捨ててきたっつーの!」
俺は手にした聖剣《アステラ》を引き抜いた。
シャリィンッ。
美しい音が荒野に響く。
刀身は透き通るような白銀で、驚くほど軽い。
なのに、振れば世界を両断できそうなほどのパワーを感じる。
「最高だ……! サンキューな、クソジジイ! おかげで最高の商売道具が手に入ったぜ!」
俺はルチ王国のある方角を見据えた。
あの忌々しい城。あの傲慢な王。裏切り者の仲間たち。
首を洗って待ってろよ。
「復讐はしない……そうさ、爺さんの言う通りだ。復讐なんて、バカなことはしない」
俺は聖剣を高く掲げ、天に向かって吠えた。
「俺は、復讐をせずに復讐をしてやる! あいつらが一番嫌がる方法で、人生の全てをめちゃくちゃにしてやるんだ!」
ゴロゴロ、ドカンッ!
近くに雷が落ちた。
嵐がいよいよ激しくなり、雨が俺の体を打ち据える。
だが、冷たくない。
むしろ熱い。
心臓の奥が、どくどくと高鳴っている。
「はーっはっはっはっ! 見てろよレオニード! これから本当の地獄を見せてやるからな!」
土砂降りの雨の中、俺は狂ったように笑い続けた。
こうして、世界で一番タチの悪い勇者の、華麗なる『復讐しない復讐劇』が幕を開けたのである。

最新章節
【ステイドの視点】
どんよりとした灰色の雲が、空一面をご丁寧に埋め尽くしている。
【国王レオニードの視点】
最後更新: 2026-10-11
【ステイドの視点】
どん、と大きな音を立てて魔王城の最深部、玉座の間の扉を蹴り開けた。
【アリス姫の視点】
バチバチッ、と指先から弾けた雷光が、泥まみれのゴブリンを黒焦げに変える。
鼻を突く嫌な臭い。
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