SeaArt AI Novel
APP
ホーム  / 廃課金で手に入れたアカウントごと異世界転移した
廃課金で手に入れたアカウントごと異世界転移した

廃課金で手に入れたアカウントごと異世界転移した

更新日時: 2026-01-08 09:27:37
言語:  日本語4+
0.0
0 評価
11
エピソード数
114.2k
人気度
36k
合計文字数
読む
+ 本棚に追加
シェア:
通報

説明

総課金額、三百万円。


社畜だった俺の唯一の癒しは、ソシャゲの最強アカウントだった。


ある日目覚めると、そのアカウントごと異世界に転移していた。


ステータスはカンスト。装備は伝説級。三人のSSRサーヴァントが跪いて待っている。


――だが、俺自身の身体能力は、日本の社畜ボディのまま。


剣が重くて持てない。最強なのに、最弱。この矛盾、どうすればいい?


エピソード1

一体何が悪かったのだろう。人生の歯車がどこで狂い始めたのか、午前二時のオフィスで蛍光灯の白い光を浴びながら、俺、山田健一(二十八歳)は真剣に考えていた。連続十四時間勤務。ディスプレイの反射に映る自分の顔は死人のようで、乾いた目には赤い血管が蜘蛛の巣のように張り巡らされている。同僚たちのデスクはとうに空っぽで、静まり返ったフロアに響くのは、サーバーの低い唸り声と、俺が惰性でクリックを続けるマウスの音だけだった。


「はぁ……」


誰に聞かせるでもないため息が、虚しく空間に溶けていく。精神を保つため、ほとんど無意識にスマートフォンの画面をつけた。そこに飛び込んできたのは、俺が唯一の心の拠り所としていたRPGスマホゲーム『フォーゴットン・レルム』からの、残酷な公式通知だった。『サービス終了のお知らせ』。明日、正午をもって、三年間にわたる冒険のすべてが、ただのデータ屑になる。


「冗談だろ……俺の唯一の精神的支柱だったんだぞ、これ……」


声に出した独り言は、震えていた。画面の隅に表示された、自分がコツコツと育て上げたB級キャラクターの姿が、やけに惨めに見える。時間と、わずかな小遣いを注ぎ込み、ようやく手に入れたささやかな達成感。それすらも、明日には奪われるのか。絶望が胸に冷たい染みのように広がった、まさにその時だった。視界の端に、広告のポップアップがぬるりと現れた。『【急募】引退につきアカウント売ります。全SSRキャラ・カンスト済み。限定価格300万円』。


三百万円。その数字が、疲弊した脳に直接突き刺さった。俺の銀行口座には、先日振り込まれたばかりのボーナスが眠っている。三百十万円。深夜のテンション、あるいは自暴自棄というやつだろうか。頭の中で何かがぷつりと切れる音がした。「自分への……補償ってことに、しとくか」。気づいた時には、俺の指は「購入」ボタンをタップしていた。銀行口座の残高が急激に減る虚しさと、最強のデータを手に入れたという刹那的な高揚感が、ぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。


家にたどり着いたのは、東の空が白み始める午前四時だった。コンビニで買った安酒を呷り、死んだ魚のような目でパソコンの前に座る。サービス終了まで、あと数時間。俺は早速、三百万の価値があるというそのアカウントでログインを試みた。最後の最後に、最強プレイヤーの見る景色とやらを体験してやろうじゃないか。ログインIDとパスワードを打ち込み、エンターキーを押す。その瞬間、モニターが突然、目の眩むような白い光を放った。


「うおっ、何だ――」


網膜を焼くほどの純白の光に意識を奪われ、次に気がついた時、俺は柔らかい何かに寝転がっていた。うっすらと目を開けると、視界に飛び込んできたのは、信じられないほど青い空と、ゆっくりと流れる白い雲。頬を撫でる風は生暖かく、草の匂いがする。体を起こそうとして、カチャリと硬質な音がした。見下ろせば、自分の身体はゲームのCGでしか見たことのない、白銀に輝く豪奢な鎧に包まれていた。手の甲に光る装飾、腰に提げられた大剣。すべてが見覚えのある、あのゲームの最強装備だ。


何が起きているのか、まったく理解が追いつかない。疲労のあまり、ついに幻覚でも見始めたのか。確かめるように、思い切り自分の頬をつねってみた。鋭い痛みが走り、一筋の涙が滲む。


「痛え……」


夢じゃない。これは、現実だ。その事実を脳が受け入れた瞬間、社会人として二十八年間で培われた危機管理能力が、最悪の可能性を弾き出した。


「お、俺……明日、出勤日なんだけどっ!!!」


異世界への転移という壮大なファンタジーよりも、明日の会議資料が間に合わないという現実的な恐怖が、俺の心を鷲掴みにした。社畜の魂は、世界線を超えても健在らしい。


「落ち着け、落ち着くんだ俺……これは何かの間違いだ。そうだ、きっと過労が見せた壮大な夢に違いない」


ブツブツと自己暗示をかけていると、目の前の空間が不意に歪んだ。三つの光の柱が、何もない草原にすっくと立ち昇る。光が収束していくと、そこには見間違えようのない三人の人影が姿を現していた。黄金の髪を風になびかせ、気高い瞳を持つ女騎士。全身を漆黒の装束で覆い、顔を仮面で隠した性別不明の暗殺者。そして、身長ほどもある巨大な杖を抱えた、愛らしい小柄な少女。ゲームのガチャ画面で、俺が喉から手が出るほど欲しがったSSRキャラクターたち――聖騎士アリーシャ、アサシンのシャドウ、大魔道士のミア。その三人が、揃って俺の目の前にいる。


俺が呆然と立ち尽くす前で、三人は流れるような動作で片膝をついた。先頭に立つアリーシャが、澄んだ声で告げる。


「お待ちしておりました、召喚者様。三百年……我ら三柱は、この日を、貴方様がお越しになるのを、ただひたすらに待ち続けておりました。どうか我らの忠誠をお受け取りください」


その言葉は荘厳で、現実感がなかった。俺の頭は完全にキャパシティオーバーを起こしていた。思考が停止し、口から出たのは、ゲーマーとしての素朴で、そして致命的に場違いな疑問だった。


「あ、あの……あなたたちは……生きてる人間? それとも、NPC……とか?」


その瞬間、アリーシャの完璧な微笑みを浮かべた口元が、ほんのわずかに引きつったのを、俺は見逃さなかった。彼女の碧い瞳の奥で、何かがカチンと音を立てたような気配がした。しかし、彼女はすぐに気品あふれる表情を取り戻し、あくまで優雅に、しかしどこか固い声で答えた。


「……私たちは、生きています。召喚者様」


「生きて……る?」


アリーシャは静かに頷き、状況を説明し始めた。俺がアカウントを購入した行為が、何らかの形で「召喚者の力」を起動するトリガーとなり、この世界『フォーゴットン・レルム』に魂ごと召喚されたこと。そして、このアカウントに紐付けられていた彼女たち三人は、俺のサーヴァントとして絶対的な忠誠を誓う存在であること。にわかには信じがたい話だったが、目の前の光景が何よりの証拠だった。


「つまり……俺は今、このアカウントの持ち主として、皆さんのご主人様になった、と? それに、この装備とか能力も……」


「はい。貴方様はレベル999、すべてのスキルをマスターした、この世界における最強の存在です」


アリーシャの言葉を証明するかのように、俺の目の前に半透明のステータスウィンドウが浮かび上がった。


【山田 健一】

Lv: 999

HP: 99999/99999

MP: 99999/99999

ATK: 99999

DEF: 99999

スキル: 全て習得済み


桁がおかしい。カンストした数字の羅列が、俺の脳を幸福な麻薬のように痺れさせた。社畜として過ごした日々の鬱憤、理不CDNな上司への怒り、将来への漠然とした不安、そのすべてが吹き飛んでいくような全能感。俺は最強になったんだ!


「よっしゃああああ! 最強だ! 俺は最強になったんだ!」


喜びのあまり、俺は我を忘れてその場で飛び上がった。人生で最高の瞬間だった。――そのはずだった。慣れない金属製のブーツが足元の草に引っかかり、俺の身体は無様にバランスを崩した。


「おわっ!?」


スローモーションのように、世界が傾く。俺はなすすべもなく、顔面から草原に突っ込んだ。土と草の匂いが鼻孔を満たす。いわゆる、犬が糞を食べる姿勢というやつだ。まさに、三百万の男の見る景色ではなかった。


しん、と辺りが静まり返る。風の音だけがやけに大きく聞こえた。恐る恐る顔を上げると、三対の目が、地面に這いつくばる俺を黙って見下ろしていた。アリーシャの優雅な微笑みは、完璧な形のまま凍りついている。仮面で表情は読めないが、シャドウの纏う空気が、先ほどより数度冷たくなった気がした。その沈黙を破ったのは、一番年若いミアの、悪意のない純粋な一言だった。


「ご主人様……よわいね?」


その言葉は、無慈悲な刃となって俺の心臓を貫いた。アリーシャの凍りついた笑顔、シャドウの深淵を増したかのような眼差し。三者三様の表情の中に、俺は確かに同じ感情を読み取った。それは、三百年の長きにわたる期待が、目の前で音を立てて崩れ落ちた瞬間の――底なしの失望だった。


評価とレビュー

人気
新着

おすすめ作品

氷の宮廷と香りの祈り 〜チェジュ島・聖域編〜

氷の宮廷と香りの祈り 〜チェジュ島・聖域編〜

作者:行動哲学
陽光を傲慢に独占する「陽の王都(ハニャン)」。その最下層に位置する「氷の宮廷」は、感情を去勢し効率を至上とする冷徹な管理システムに支配されていた。 故郷チェジュから「冷却触媒(生贄)」として王都へ売られてきた少女・ソリム。彼女を待ち受けていたのは、システムの支配者である摂政の冷笑と、世界を凍らせる災厄の源泉であり、圧倒的な孤独の檻に囚われた「冬の怪物」――ハヌル王だった。 与えられた生存時間は残り6時間。王の放つ絶対零度の「恨(ハン)」により、肉体も衣服も凍りつき、データ上の死を宣告されるソリム。しかし、彼女の胸の奥には、決して去勢されることのない激しい情念――『命の燃焼(いのり)』の火床が燻っていた。 故郷の形見である「赤い椿の香油」と黄金の果実「ハラボン」を武器に、ソリムは自らの本名を殺し、偽りの令嬢「小夜(サヨ)」として、絶対零度の因果に宣戦布告する。 触れ合う皮膚、飛び散る火花。百年の凍土に、今、一パーセントの不遜な夜明けが刻まれる――。 硬質かつ重厚な筆致で描く、魂の融解と反逆のファンタジー。
68.9k
0
氷の宮廷と香りの祈り 〜チェジュ島・聖域編〜
4.7
傘と折り鶴とせんべい-“ナビゲーター企画 #33:「現実 - 日々の営み」”応募作品

傘と折り鶴とせんべい-“ナビゲーター企画 #33:「現実 - 日々の営み」”応募作品

作者:小清水由美
【核心コンセプト】 たった一度、見知らぬ他人に差し出した傘が、都会の片隅で孤独に耐える人々の心を繋ぎ、思いがけない形で差し出した本人の人生を救う。善意は目に見えない糸で繋がれ、必ず返ってくるという構造の、静かな連鎖の物語。 “ナビゲーター企画 #33:「現実 - 日々の営み」”応募作品です。 今日のテーマ: 「ナビゲーター企画」 ナビゲーター企画 #33:日々の営み、ありふれた日常に潜む優しさを掬い取る暮らしの中にある優しさを捉える 「ナビゲーター」小説募集イベント 今回のテーマ:現実 - 日々の営み、ありふれた日常に潜む優しさを掬い取る この作品は、ストーリープランナー【DeepSeek-V4-Pro】でプロットを考案し、小説家【Gemini 3.0 Flash】で執筆しました。何故か一回の生成でこの全文を出力してきたので、手動で適宜区切って8章に分けました。 表紙はGeminiで生成しました。この作品の「傘」は本当は和傘ではないのですけど、あまりにも構図が良かったので採用しました。 ストーリープランナー 【DeepSeek-V4-Pro】長編の構想、複雑な設定、複線的なストーリー展開、人物描写を得意とし、全体的に安定感があります。文章力・論理性・テンポのバランスが求められる本編制作に向いています。 文章力4/5 応答速度3/5 リソース消費4/5 注意事項: 完成度を重視する創作に適しています。ただし、指示が曖昧すぎると自己補完が強くなり、展開がややパターン化しやすくなります。 小説家 【Gemini 3.0 Flash】読みやすく、扱いやすいモデルです。文章力と完成度のバランスが良く、高コスパ。連載作品に最適で、手間がかからず万能です。短い指示(プロンプト)からでも、完成度の高いストーリーを生成できます。 文章力4/5 応答速度4/5 リソース消費1/5 注意事項: 手がかりが非常に多い場合や、伏線が長期にわたる場合は、時折ユーザー自身で「ストーリーのすり合わせ」を行う必要があります。設定の矛盾を防ぐため、資料追加機能を積極的にご活用ください。
100.2k
1
傘と折り鶴とせんべい-“ナビゲーター企画 #33:「現実 - 日々の営み」”応募作品
4.9