Synopsis
掃除当番をサボろうとする男子と「脱衣じゃんけん」勝負をすることになった女子大学生の運命や如何に?
Chapter1
放課後の教室は、西陽が差し込んで床の埃を金色に照らし出し、奇妙なほど静かだった。チョークの乾いた匂いと、ワックスの微かな光沢が、まるで時間が止まった聖域であるかのように錯覚させる。
「ねえ、ハヤシ君」
その静寂を破ったのは、腕まくりをして窓際の雑巾がけをしていたアイの声だった。床に座り込み、スマートフォンをいじっている影に、彼女は苛立ちを隠せないでいた。
「今日、私たち掃除当番なんだけど。見てるだけ?」
ハヤシはゆっくりと顔を上げた。悪びれる様子もなく、むしろ面白がっているような笑みを浮かべている。「いやあ、アイちゃんは掃除が丁寧だからさ。俺がやると雑になっちゃうし、任せた方がいいかなって」
「そういう問題じゃないでしょ。当番なんだから、ちゃんとやって」
「えー、やだなぁ。今からいいところなんだよ、このゲーム」
ハヤシの言い草に、アイのこめかみがピクリと動いた。真面目な彼女にとって、こういう不真面目な態度は何よりも我慢がならない。彼女は腰に手を当て、毅然とした態度で彼に詰め寄った。
「じゃあ、どうしたらやってくれるわけ?」
「んー、そうだなぁ…」ハヤシはわざとらしく顎に手を当てて考える素振りを見せる。そして、悪戯っぽい光を瞳に宿して、とんでもないことを口にした。「じゃんけん、しない?俺が勝ったら、今日の掃除はアイちゃん一人で全部。その代わり、俺が負けたら真面目に手伝う」
「はぁ?なんでそんな…」
「それだけじゃつまらないか」ハヤシはアイの言葉を遮り、さらに続けた。「負けた方が、一枚脱ぐってのはどう?脱衣じゃんけん」
教室の空気が、一瞬で変わった。西陽が作り出す光と影のコントラストが、まるで舞台照明のように二人を照らし出す。アイは一瞬、言葉を失った。馬鹿げている。ふざけてる。だが、彼の挑戦的な視線が、彼女の妙な負けん気に火をつけた。それに、今日はこの後、大学の屋外プールに行くつもりだった。その準備は、既にしてある。
「…いいよ」アイは自分でも驚くほど、はっきりとした声で答えていた。「その勝負、受けた。絶対に勝って、ハヤシ君に床をピカピカに磨かせてやるんだから」
「言ったな?じゃあ、早速始めようか」
ハヤシが立ち上がり、アイと向き合う。二人の間に、見えない火花が散った。
「「最初はグー、じゃんけん、ぽん!」」
声が重なる。アイが出したのはパー。ハヤシは、グー。
「よしっ!」
幸先の良いスタートに、アイは小さくガッツポーズをした。ハヤシはつまらなそうに舌打ちをすると、着ていたパーカーを脱いで椅子に放り投げた。Tシャツ一枚になった彼を見て、アイは少しだけ優越感を覚える。
「ほら、次!どんどん行くよ!」
「望むところだ」
しかし、幸運はそこまでだった。
「「じゃんけん、ぽん!」」
あいこ。もう一度。
「「あいこで、しょ!」」
また、あいこ。焦りが心に滲む。彼のニヤニヤした顔が、やけに腹立たしい。
「「あいこで、しょ!」」
結果は、ハヤシのパーが、アイのグーを包み込んでいた。
「あ…」
「はい、アイちゃんの負け。一枚、どうぞ」
ハヤシが勝ち誇ったように言う。アイは顔に熱が集まるのを感じながら、渋々羽織っていたカーディガンを脱いだ。薄手のニットが滑り落ち、白いキャミソール姿があらわになる。まだ大丈夫。まだ、平気。自分に言い聞かせる。
「…もう一回!」
だが、流れは完全にハヤシに傾いていた。続く勝負も、アイはあっさりと負けた。
「はい、スカート、いただき」
「くっ…!」
悔しさに唇を噛みながら、アイは制服のスカートのホックに手をかけた。カチャリ、と小さな音がやけに大きく響く。スカートが床に落ち、キャミソールの下に隠れていた足が露わになった。幸い、丈の長いキャミソールのおかげで、太ももの上半分は隠れているが、それでも肌の露出が増えたことで、羞恥心が胸を焼く。
ハヤシの視線が、上から下へと、じろりと自分を舐めるように動くのを感じた。
「…もう、やめる」連敗の末、アイの心は完全に折れていた。「私、この後用事あるの思い出したから!悪いけど、後はお願い!」
これ以上、この屈辱的なゲームを続ける気にはなれなかった。踵を返して逃げ出そうとしたアイの背中に、ハヤシの冷ややかな声が突き刺さる。
「へえ、逃げるんだ。根性ないな、アイちゃん。優等生は、途中で投げ出すのが得意なんだっけ?」
足が、縫い付けられたように止まった。その挑発は、彼女のプライドの最も脆い部分を的確に抉った。振り向くと、ハヤシが嘲るような笑みを浮かべてこちらを見ている。
「…やってやろうじゃない」
怒りに震える声で、アイは勝負の場に戻った。もう後には引けない。
「「じゃんけん、ぽん!」」
祈るような気持ちで出したチョキは、無情にもハヤシのグーに打ち砕かれた。
「…あ…」
終わった。アイの頭は真っ白になった。次に脱ぐのは、キャミソール。それを脱げば、残るのは…
「ほら、どうしたの?約束だろ」
ハヤシが催促する。アイはぎゅっと目を瞑った。指先が震える。もうどうにでもなれ、と自暴自棄な気持ちで、キャミソールの裾を掴んだ。ゆっくりと、頭の上へと引き抜く。ひんやりとした教室の空気が、直接肌に触れた。
一瞬の沈黙。
恐る恐る目を開けると、ハヤシが息を呑んで固まっているのが見えた。彼の視線は、アイの胸元に釘付けになっている。アイは自分の姿を見下ろし、そして、ふっと口元に笑みを浮かべた。
そこにあったのは、下着ではなかった。清潔な、白いビキニ。
「ざ・ん・ね・ん、でした!」
アイはわざと一音ずつ区切って、勝利宣言のように言い放った。形勢は、一瞬で逆転した。予想外の光景に呆然とするハヤシを見て、アイの胸はすっとする。
ハヤシはじっとアイの体を見つめている。その視線はもはや嘲りではなく、熱を帯びた好奇心の色をしていた。視線に焼かれそうになりながらも、アイはわざと胸を張って強がってみせた。
「な、何よ。下着じゃないんだから、別に恥ずかしくないもん。ただの水着だもん」
本当は恥ずかしくて死にそうだ。心臓が早鐘を打っている。でも、ここで弱気を見せたら、本当に負けだ。
「…へえ」やがて、ハヤシがにやりと口角を上げた。その瞳には、さっきまでとは違う、獰猛な光が宿っている。「面白いじゃん。準備がいいことで」
「う、うるさい!」
「じゃあ、次で本当に最後だ」ハヤシは身を乗り出し、挑戦的に告げた。「俺が勝ったら、今日の掃除はアイが一人で全部な。もちろん、そのビキニも――」
ハヤシの言葉に、アイはごくりと唾を飲んだ。これが、最後の勝負。
彼が、ゆっくりと右手を持ち上げる。アイは覚悟を決め、震える手を、同じように持ち上げた。二人の視線が、熱く絡み合う。
「「最初はグー…」」
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