説明
クレジットカードで際限なく課金するギルドの奴らにぼこぼこにされるミハエル達!
メンバの平均課金額一か月1,000ウサギ(=円)の課金額のミハエル達はクレカ勇者(メンバーの平均一か月の課金額300,000万ウサギ)をどう攻略する!?
エピソード1
ヴァーレンス王国の公爵、ミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒの執務室は、夕刻の斜光に照らされ、琥珀色の静寂に包まれていた。磨き上げられた黒檀の机の上には、最新鋭の魔導携帯端末と、アリウスが設計した「白緑の翼」社製の魔導PCが鎮座し、冷却用の魔力が微かな震動と共に青白い燐光を放っている。部屋の主であるミハエルは、金糸の唐草模様が施された黒いコートの裾を揺らし、重厚な肘掛け椅子からゆっくりと身を起こした。彼の左目を覆う金髪の間から覗く青い瞳には、理知的な光と、それ以上に深い、悪戯めいた愉悦が宿っている。
「でもカーラの言う通りだよな。この前のGvG、わざわざ無敵の効いてない復活地点まで来て、わたしたちを何度も皆殺しにするくらいの念の入れようだったぞ、クレカ勇者の奴ら」
ミハエルは、自身の握力70キロを誇る指先で、端末の表面を軽く叩いた。
その言葉には、公爵としての威厳よりも、一人のゲーマーとしての執念が滲んでいた。
窓辺に立ち、夕闇に溶け込みそうな長い黒髪を揺らしていた水鏡冬華は、着慣れたセーラー服の襟を整え、呆れたように肩をすくめた。彼女の背後には、竜神の因子を持つ者特有の、重く湿った霊波動が微かに漂っている。
「まあね……。あの時のチャット欄の荒れようと言ったらなかったわ。画面が札束で殴り合うエフェクトで埋め尽くされて、わたしの呪禁道でも防げないほどの視覚的暴力だったもの」
水鏡冬華の隣では、桃色の十二単を翻した桜雪さゆが、扇子で口元を隠しながら「おほほ」と場違いな笑い声を上げた。富士の火口から生まれた雪女である彼女にとって、人間の、それも仮想世界での争いなど、上質な「おままごと」に過ぎない。
「ええ、それはもう、執執(しゅうしゅう)に。桜はね、生者を祝う意味もあるけれど、あの時は死屍累々の復活地点を弔うための鎮魂歌が必要なほどでしたわん。ももももーん! あの金に飽かせた無粋な連中、今思い出しても笑いが止まりませんこと」
桜雪さゆの瞳が桃色に輝き、周囲の気温が数度低下する。一方で、部屋の隅にあるカウチで、山盛りの甘味を頬張っていたブラックヴァルキリー・カーラが、漆黒の翼を苛立たしげに羽ばたかせた。彼女の黄金の目が、不機嫌そうに細められる。
「ふん、魂を導く役目を捨てた、わたしから見ても、あの連中の魂は薄汚れていた。
努力も技術もなく、ただ数字を積み上げただけの暴力。
あんなものに『タン塩女帝』たるわたしが膝を屈したままなど、ヴァルキリーの誇りが許さない。ミハエル、さっさと次の戦場を用意しろ。わたしの槍が、あいつらの虚飾に満ちた鎧を貫きたがっている」
カーラは、手近なマカロンを口に放り込み、慇懃無礼な口調で言い放った。
ミハエルは、親友のアリウスがネトゲサイトを見て紹介した「スターナイトオンライン」の起動画面を魔導PCの空間投影ディスプレイに映し出した。壮麗な城郭と、空を舞う飛竜のグラフィックが、現実の部屋の壁を塗り替えていく。
「よし、移住先は決まりだ。今度は『聖天使猫クラウリト』として、慈悲深い回復を届けてやるとしよう。もちろん、死ぬよりも苦しい、生殺しの慈悲だがな」
ミハエルの宣言と共に、四人はそれぞれの魔導端末に手を触れた。指先から流れ込む魔力が、意識を細分化し、情報の海へと沈潜させていく。肉体の重みが消失し、代わりに高解像度のテクスチャと、精密な物理演算が支配する仮想世界が、彼らの感覚を掌握した。
――「スターナイトオンライン」、サーバー第一。
広大な草原の中央に位置する「始まりの街」の広場に、四つの影が実体化した。
先頭に立つのは、背中に小さな白い翼を生やし、猫耳のフードを被った奇妙なヒーラー、聖天使猫クラウリト。その後ろには、巫女装束に身を包み、腰に一振りの日本刀を帯びた水鏡。漆黒の重鎧を纏い、身の丈を超える長槍を携えたタン塩女帝。そして、場違いなほど華麗な十二単を纏い、空中に浮かぶ桜雪さゆ。
「……さて、まずはあいつらのギルド『ゴールデン・ルピー』が領地化している北の廃都へ向かうか。あそこはドロップ率が良いせいで、奴らが初心者を排除して独占しているらしい」
クラウリト(ミハエル)の声は、ボイスチェンジャーを通しているはずだが、どこか公爵らしい傲岸さを保っていた。彼は杖を軽く振ると、自身に「移動速度上昇」ではなく、なぜか「攻撃力極大上昇」のバフをかけた。
「ちょっと、クラウリト。あなたはヒーラーでしょう? なんで自分を物理アタッカーにするのよ。頭病めそう」
水鏡(冬華)が呆れたように呟くが、彼女自身もまた、抜刀の構えを解かない。彼女の周囲には、ゲームのシステムを超越した「霊波動」にも似たプレッシャーが渦巻いている。
「水鏡、君は分かっていないな。最大の治療とは、傷の原因を根絶することだ。死人は怪我をしない。これこそが究極の予防医学だよ」
「屁理屈だけは一流ね。……まあいいわ。さゆ、援護は任せたわよ」
「もももーん! お任せあれ。わたくしの氷は燃え上がり、そして爆発しますのん。正義に燃えるわたくしの氷が、勇者の心を粉砕して差し上げますわ!」
さゆは、即興で変な歌を歌いながら、空中を不規則に舞った。彼女の操作精度は異常だ。ゲームのコントローラーではなく、魔導端末を通じて自身の妖力を直接流し込んでいる彼女にとって、キャラクターの挙動は肉体そのものに等しい。
四人が廃都の入り口に到達した時、そこには金色の装備で固めた十数人のプレイヤーが、門番のように立ち塞がっていた。彼らの頭上には、課金額の多さを誇示する「VIPランク・極」の称号が輝いている。
「おいおい、なんだこの変な集団は? 猫耳に十二単に、真っ黒なヴァルキリーか。ここは『ゴールデン・ルピー』の領地だ。無課金のゴミ共は、大人しく森でスライムでも狩ってな」
リーダー格の男が、高価な課金アイテムである「黄金の巨剣」を肩に担ぎ、嘲笑を浮かべた。その言葉が終わるか終わらないかのうちに、空気が凍りついた。
タン塩女帝(カーラ)が、一切の予備動作なく踏み込んだ。
彼女の槍は、ゲームのモーションを無視した速度で突き出され、リーダーの男の喉元を正確に捉えた。システム上の「ノックバック」が発生する前に、彼女は槍の柄で男の腹部を強打し、地面へと叩き伏せる。
「ゴミだと? 魂の重みも知らぬ金貨の奴隷が、よくも回らぬ舌で吠えたものだ。きさまらの肉はタン塩にする価値もない。ただの消し炭がお似合いだ」
カーラの冷徹な声が響く。男は慌てて回復アイテムを使おうとしたが、その手首を、目に見えないほどの速さで飛来した氷の礫が粉砕した。
「おっと、手が滑りましたわ♪」
さゆが、指先を吹いて悪戯っぽく笑う。彼女はわざと相手を即死させない。装備の耐久値を削り、精神的な摩耗を強いるために、関節や武器の接合部ばかりを狙って、細かな氷弾を連射している。
「くそっ、囲め! たかが四人だ、課金バフ全開で圧殺しろ!」
周囲の課金兵たちが一斉に抜刀し、エフェクト過多なスキルを放とうとした。だが、その中心で、クラウリト(ミハエル)が優雅に杖を掲げた。
「呪禁道・第十六節――『全ての幸福を禁止する』」
彼が唱えたのは、ゲームのスキル一覧には存在しない、現実世界の術理をプログラムの隙間に流し込んだ「バグ」に近い干渉だった。突如として、課金兵たちの画面がノイズで埋まり、全ての強化エフェクトが消失した。それどころか、彼らのキャラクターは「極度の不幸」状態に陥り、移動するだけで転倒し、武器を振れば自分に当たるという、物理演算の崩壊を引き起こした。
「な、なんだこれは!? スキルが発動しない! 運営、不具合だぞ!」
「不具合ではないよ。君たちの『運』というリソースを、わたしが少しだけ書き換えただけだ。さあ、水鏡。あとの掃除は任せる」
クラウリトが猫耳フードを揺らして微笑むと、水鏡が静かに一歩前へ出た。
彼女の刀は、鞘から抜かれる瞬間に、銀色の閃光となって廃都の門を切り裂いた。それは、幕末の動乱を生き抜いた本物の剣客が放つ、迷いのない一撃。課金によって得た高いステータスなど、彼女の「千鳥」や「燕返し」の技術の前では、ただの柔らかい豆腐も同然だった。
一閃。
リーダーの男の首が、ポリゴンの火花を散らして宙を舞った。
二閃、三閃。
逃げ惑う課金兵たちの背中を、水鏡の刃が冷徹に撫でていく。彼女の動きには無駄がなく、流れるような演武のようでもあった。
「……ふう。やっぱり、実体のある刀の方が手に馴染むわね。このゲームの物理エンジン、少し重心の設定が甘いわ。後でアリウスに文句を言っておかなきゃ。頭病めそう」
水鏡は、血の付いていない刀を鮮やかに納刀した。周囲には、無残に散らばった課金装備の残骸と、消滅していくプレイヤーの光の粒子だけが残されていた。
「ももももーん! 圧勝ですわん! あー、清々いたしました。やっぱり、おままごとは本気でやってこそ楽しいものですわ」
さゆが空中でくるくると回り、十二単の裾を広げる。彼女の妖力によって、廃都の一部は完全に氷漬けにされ、幻想的な美しさを醸し出していた。
タン塩女帝は、倒れた敵が落とした「高級干し肉」を拾い上げ、毒味もせずに口に運んだ。
「……悪くない味だ。このゲーム、料理の再現度だけは認めてやろう。ミハエル、次はあっちの大きな城を落とすぞ。あそこにはもっと美味いものがあるはずだ」
漆黒の翼を大きく広げ、カーラは城の最上階を指差した。そこには、「ゴールデン・ルピー」の本拠地である巨大なギルドハウスが、夕闇の中に聳え立っている。
クラウリトは、猫耳フードを脱ぎ、現実世界のミハエルと同じ不敵な笑みを浮かべた。
「ああ、行こうか。わたしたちの『暴れまわる』は、まだ始まったばかりだ。何しろ、わたしの嫁たちが待っているヴァーレンスに帰る前に、この世界の秩序を一度、根底からひっくり返しておかないとな」
四人は、静まり返った廃都を抜け、巨大な城へと歩を進めた。
背後では、さゆが即興で作った「桜雪さゆロボ」の歌が、夜の静寂を切り裂いて響き渡っていた。
「俺の氷は燃え上がる~~そして爆発するぜ~~……」
その歌声は、次に蹂躙される者たちへの、残酷で陽気な宣告だった。
城門の前に立ち、クラウリトは杖の先を城壁に向けた。
彼の内側から溢れ出す霊波動が、仮想世界の空を紫色に染め上げ、雲を渦巻かせる。重課金という「金」の力で築かれた偽りの城が、本物の「魂」の重みを知る者たちの前で、微かに震え始めた。
ミハエルは、隣で刀の柄に手をかける冬華の、凛とした横顔を一瞥した。
「冬華、準備はいいか?」
「ええ。いつでもいいわよ、公爵様」
冬華の唇が、微かに弧を描く。
次の瞬間、城壁を揺るがすほどの爆発音が響き、四人の影は光の奔流となって、巨大な城へと吸い込まれていった。
広場に残されたのは、折れた黄金の巨剣と、そこへ静かに降り積もる、季節外れの桃色の雪だけだった。
最新エピソード
新宿駅の高架ホームから降り立ったミハエルたちの足元には、アスファルトの熱気が淀んだ空気と共に立ち昇っていた。先ほどまでの、システムに「無視」されたという屈辱感は、彼の理知的な精神の表面に、油
ヴァーレンス王国の公爵、ミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒの意識が、魔導PCの接続端子を通じて情報の奔流へと溶け出していく。感覚の再構成が完了した瞬間、彼の鼻腔を突いたのは、慣れ親し
ヴァーレンス王国の公爵、ミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒの執務室は、夕刻の斜光に照らされ、琥珀色の静寂に包まれていた。磨き上げられた黒檀の机の上には、最新鋭の魔導携帯端末と、アリ
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