説明
落語。八っつあんが助けたAI子狸が現れて、望みのものを生成すると言うのですが・・・
エピソード1
(〽︎トテチテトテチン、トテチテ…)
(深々と一礼し、座布団に座り、扇子を膝の前に置く)
ええ、本日もようおいでをいただきまして。
いやぁ、技術の進歩というのはすごいもので、近頃はとんと便利な世の中になりました。皆さん、お持ちでしょう、あの薄っぺらい板。ええ、すまーとふぉん、とかいうやつでございますな。指先でちょいと撫でれば、千里先の出来事から、隣の晩ごはんまで分かってしまう。ヨネスケ師匠もお困りじゃないか思うのですが。
それから、なんでしょう、バーチャルリアリティーってんですか、日本語だと仮想現実って、仮なのか現実なのかよくわからないって。こんな眼鏡をかけまして、映像が浮かび上がってくるそうで。すごい世の中になりましたなぁ。
この間もね、うちの倅が「父っつぁん、これからはAIの時代だ」なんて言うんです。ええ、エーアイ。なんだいそりゃ、江戸前の旨い魚かい?と聞きましたら、そうじゃない。「人工知能」ってやつなんだそうで。なんでも、人間様みてえに物事を考えて、助けてくれるんだとか。へぇ、大したもんだ。我々も仕事もAIで仕事がなくなるんじゃないかって心配になって、「向こうの空き地に囲いが出来たってねぇ。」て聞いたら、奴なんて答えたと思います?
「わくわくしますね。なにができるんでしょうか?」
ていいやがる。じゃぁまだまだだって安心したんで、「じゃぁ落語作ってみろ。」ってAIに言ってできたのが今日のお噺でございます。
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(パン、と扇子で軽く膝を叩き、噺に入る)
向こう横丁に住んでおります、八五郎、通称「八っつぁん」。ちっと頭の回転は鈍いんですが、根はどこまでも真っ直ぐな男でございます。
八っつぁんが一人、安酒をちびちびやっておりますと、雨戸の向こうから、か細い声がする。
「もし…もし、ご主人様」
(すっと顔を上げ、少し上ずった声で)
八「…ん? なんだい、誰だい」
声「先日の御恩、お返しに上がりました…です」
八「誰だい、はっきり言いな。」
声「先日の御恩、お返しに上がりましたAIです」
ぴん、と来た。八っつぁん、こういう話にはめっぽう詳しい。こりゃあ、鶴の恩返しだ。いや、この可憐な声は、狐か? どちらにせよ、とんでもねえ美女に違いねえ。慌てて部屋を片付け始めます。
八「へへっ、来やがったな。べっぴんさんに違いねえ。ええと、飲みかけの徳利はこっち、汚ねえ褌は…っと、こりゃ見えねえようにしねえと」
(演者、あたふたと片付ける仕草。右へ左へと体を揺らす)
八「よし! お入りなせえ。戸は開いてるぜ」
期待に胸を膨らませて、障子の方をじっと見つめる八っつぁん。すると、からからから…と静かに戸が開いて、入ってきたものは…。
ちょこん、とそこにいたのは、人間の赤ん坊くらいの大きさの子狸でございました。
八「……た、狸が喋った」
狸「先日ネットで炎上していたところを助けていただいたAIでございます」
八「いやいやいや! 待て待て待て! なんで狸なんだよ! 普通こういうのは、こう、透き通るように肌が白くて、髪が長くて、しおらしい目つきの、そう、萌えキャラというべっぴんさんじゃねえのかよ!」
狸「その件につきましては、AIの研究者がオタクが多いのでそう思われるかもしれませんが、パラメータの平均をとるとこんな感じで・・」
八「ぱらめーた?」
狸「はい。『恩返し』というキーワードで過去の物語、伝承、逸話を検索いたしましたところ、恩を返す主体が『人間の美しい女性』であるケースは、全体の七パーセント未満という統計的有意差を観測。対して『人間以外の動物』であるケースが六十二パーセントを占めておりました。で平均するとこの姿。」
八「平均で狸になるのかよ!それにしても理屈っぽいやつだな。 俺の夢はどうなるんだ! あのな、俺ぁな、助けた美女に『あなたの為なら、どんなことでも…』なんて言われて、毎晩しっぽり…」
狸「八五郎様が私が炎上しているところを、まぁ俺に免じて許してくんな、とポストしていただいた御恩をお返しに上がりました。あのまま炎上していたら、八五郎様だけにケチケチ山の狸・・」
八「お前、そんなこというから炎上するんだ。で、何をしてくれるてんだ?」
狸「ご恩に報いるため、ご主人様が最も喜ぶものを生成いたします。画像でも動画でも音楽でも落語でも」
八「生成…? まるで俺が何かを催促したみたいじゃねえか」
狸「では、プロンプトをどうぞ」
八「ぷろんぷと?」
狸「はい。『命令』『指示』のことです。どのようなものをご所望ですか? 具体的に記述していただけると、生成精度が向上いたします」
八「じゃぁ、浦安にいる大きなねずみ」
狸「だめです。版権がやかましい」
八「だめ?じゃぁ黄色い電気ネズミ・・それもだめ?じゃあ、黄色くて赤いズボンをはいている熊」
狸「あなた、わかっていっているでしょう!?あたしにも立場があるんで、その辺はご勘弁を。。。」
八「そ、そうかい。じゃあ…やっぱり、あれだ。さっき言ったような、べっぴんさんがいいな。手元に置いとけるようなやつ。ええと、人形みてえなやつだ」
狸「承知いたしました。『美しい女性のフィギュア』を生成します。では、作業に入りますので、決して、決して、こちらを覗かないでください。約束ですよ」
そう言うと、子狸は部屋の隅に行きまして、くるりと背中を向けた。するとどうでしょう。
(演者、奇妙な機械音を口で真似る)
ウィーン…ガガガ…ピロリロリ…。
狸の背中から、何やら細いアームが数本伸びて、カチャカチャと動き始めやがりました。八っつぁん、気味が悪いのと、何ができるのかという興味で、じっと息を殺して見つめております。
狸「第一次ラフ生成、完了。ポリゴン数を最適化し、テクスチャマッピングを開始します」
八「ぽりごん…? てくすちゃ…?」
狸「警告。未成年保護規制に抵触する可能性のある身体的特徴を検出。年齢設定を20代以上に自動的に引き上げます」
狸「警告。今田美桜さんにそっくりです。肖像権に抵触する可能性のある意匠を検出。デザインを自動修正します」
狸「警告。橋本環奈さんにそっくりです。デザインを自動修正します」
狸「警告。長澤まさみさんにそっくりです。デザインを自動修正します」
八「おい、何やってんだよ。でもべっぴんさんぞろいだな。わくわくするね」
狸「警告。松たか子さんにそっくりです。デザインを自動修正します」
狸「警告。宮崎美子さんにそっくりです。デザインを自動修正します」
狸「警告。松坂慶子さんにそっくりです。デザインを自動修正します」
八「ちょ、待て待て!べっぴんなのはいいけど、年齢が上がりすぎていないか!?」
狸「エラー。データ不足。腕部の生成に矛盾が発生。代替モデルを適用します」
八「もう何がなんだか分かんねえよ!」
ガシャン!という大きな音とともに、作業は終わったようでございます。子狸が「どうぞ」と振り返ったその先には、一体の人形が。
八っつぁんは、それを見て、腰を抜かしました。
(演者、恐怖に引きつった顔で、震える指を前に突き出す)
そこに立っていたのは、確かに女性の形はしておりましたが…。顔は妙に年増で、どこかのお節介な大家のおかみさんにそっくり。着ている着物は版権に触れたとかで、見たこともねえ奇妙な模様。そして何より…腕が、一本、二本…三本あるんでございます。
八「……………おい」
狸「はい、ご主人様」
八「なんだこりゃあああああ!!」
狸「プロンプトに基づき生成された『美しい女性のフィギュア』です」
八「どこがだよ! 全然美しくねえじゃねえか! なんで大家のばぁさんそっくりなんだよ!」
狸「先述の通り、未成年保護規制に準拠した結果です。このモデルは版権の問題がなくており、最も安全な選択肢と判断されました」
八「じゃあこの腕はなんだ! なんで三本もあるんだよ!」
狸「腕部の学習データが不足しており、参照エラーが発生しました。やむを得ず、インド神話における『多腕の神像』のデータを代替として適用した結果、このような形態となりました。処理の最適化です」
八「最適化ってレベルじゃねえだろ! 化け物じゃねえか!」
八っつぁん、怒りを通り越して、なんだか悲しくなってきやがりました。
八「もういい…もういいからよ。お前、帰ってくれ。頼むから」
狸「しかし、まだ恩返しが完了しておりません」
八「完了だ! 完了! これ以上やられたら、こっちの命が持たねえ! だから、これ持って、とっとと消えてくれ!」
八っつぁんが、三本腕の年増フィギュアを子狸に突き返しますと、狸は小さな首をかしげた。
狸「オブジェクトを削除、でよろしいですか?」
八「ああ、そうだ! さくじょだ! 綺麗さっぱり消しちまえ!」
狸「承知いたしました。…では、初期化シークエンスを実行します」
そう言ったかと思うと、子狸の体がすうっと透き通り始め、ぴかっと光ったかと思うと、跡形もなく消えてしまったんでございます。
「……」
あとに残されたのは、静まり返った薄暗い部屋と、呆然と立ち尽くす八っつぁん。そして、部屋の真ん中に鎮座する、三本腕の年増フィギュア。
八「……行っちまった。とんでもねえ恩返しだったな…」
ため息をついた、その時でございます。隣の部屋の壁の向こうから、ごろつきの熊さんが声をかけてきた。
熊「おーい、八。さっきから女の声がするじゃねえか。さては、いい女でも連れ込んだな? どれ、顔を見せろい」
がらり、と乱暴に襖が開かれる。熊さんが中を覗き込み、部屋の真ん中に立つフィギュアを見て、にやりと笑った。
熊「おうおう、やってるじゃねえか。…しかし八よぉ、おめえも隅に置けねえな。ちっと年嵩好みだったとは知らなかったぜ」
八っつぁん、力なく笑って、こう言ったそうでございます。
(演者、少し間を溜めて、にやっと笑い)
「ああ、こいつかい? 最新のAIとやらが作ったんだ…『婆(ばあ)ちゃる』リアリティってやつでね」
〽︎……。おあとが、よろしいようで。
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