クリスマス・ガーディアンズ〜雪の都を守る赤き光〜
説明
北極の奥深くに存在する伝説の都市――クリスマス・タウン。 サンタクロースの工房や妖精たちの村、魔法のトナカイ厩舎などが整然と並び、世界中の子どもたちの“願い”が星のように降り注ぐ神秘の街。
しかし、この街には一つの真実があった。 サンタが安全に世界へ旅立つためには、街全体を包む結界“ホーリー・ベール”を維持しなければならない。 だが近年、世界の悪意や絶望が増すにつれ、この結界が弱まりつつあった。
その護り手として選ばれたのが―― 聖夜の戦乙女「ノエル」 赤鼻の戦鬼トナカイ「ルドルフ」
二人は〈クリスマス・ガーディアンズ〉と呼ばれ、人知れず街の平和と結界の維持のため戦っている。
エピソード1
クリスマス・タウンの中央広場は、人であふれかえっていた。
石畳の道は朝からの雪で白く、足元がぬるぬるする。それでも、子どもたちは平気な顔で駆け回り、親たちは笑いながらその後を追う。屋台からは焼きたての林檎の甘い匂いが立ちのぼり、トナカイの餌を売るおじさんが大きな声で「特製干し草いかがです!」と叫んでいる。
ノエルは、広場の端にある鐘台の下に立っていた。赤と白のコートを着て、大きなサンタバッグを肩にかけている。風が吹くと、コートの裾がぱたぱたとはためく。彼女は空を見上げた。
――今日も、星がきれい。
普段なら、金色や銀色の星がゆっくりと降ってくる。子どもたちの願いが形になったものだ。星は街の上で光り、やがてゆっくりと消えていく。でも今夜は、星の光が少し薄いように見える。
「ノエルさん、どうしました?」
声をかけてきたのは、隣の屋台で働いているフィンという若者だった。彼はホットミルクのカップを差し出しながら、心配そうに眉を寄せている。
「ありがと。空を見てただけ」
「また、何か気になること?」
「うん。星が、少し暗い気がして」
フィンも空を見上げた。彼は首を傾げて、
「そう言われれば……でも、今日は祭りですよ。少しは羽を伸ばしましょう」
その時、耳の奥で小さな音がした。
――ぷつ。
まるで、指で蝋燭の火を消すような音。ノエルは思わず空を見上げた。
星が、一つ消えていた。
金色に光っていた星が、音もなく闇に溶けていく。紙を焼いた後のような白い欠片が残り、それも風に乗って消えた。
「……まさか」
ノエルは、胸のポケットに入れた小さな石を握りしめた。サンタの工房で作られた“ミラクル・コア”だ。石が、冷たくなっている。
次の瞬間、また同じ音がした。
――ぷつ。
今度は、オレンジがかった大きめの星だった。星はゆっくりと色を失い、まるで水に落ちた砂糖のように消えた。
「ルドルフ!」
ノエルは叫んで、広場を駆け出した。人混みを掻き分け、屋台の陰に立つ大きな影に向かう。影はゆっくりと振り返った。
身長三メートルはありそうな、巨大なトナカイの獣人だった。体は人のような形をしているが、頭はトナカイそのもの。特に目立つのは、鼻の赤い光りだ。ルドルフと呼ばれる彼は、低い声で答えた。
「ああ、見てた」
「どういうこと?」
「今年も、来やがった……シャドー・クラッカーどもが」
ルドルフは、空を見上げた。赤い鼻が、ぴくりと動く。星は、また一つ消えた。
「侵入経路は?」
「森だ。ミッドナイト・ウッズの奥、霧の抜け穴を使ってる」
二人は顔を見合わせた。背後では、子どもたちが歌を歌い始めた。鐘が鳴り、花火が小さく上がる。明るい光と、やわらかい音。それなのに、空はどんどん暗くなっていく。
「行こう」
ノエルが先に立つ。ルドルフが大きくうなずいた。
広場を出ると、急に静かになった。石畳の道は、雪でぬかるんでいる。靴底が滑り、ノエルは何度かよろめいた。でも、立ち止まるわけにはいかない。星が消えれば、サンタは子どもたちの願いを受け取れなくなる。
街の灯りが遠のくにつれて、空気が冷たくなった。息が白く、すぐに消える。足元の雪が、ぎしぎしと音を立てる。街を囲む木々が、風に揺れてざわざわと鳴った。
「ルドルフ、急ごう」
「ああ」
二人は足を速めた。ノエルのコートの裾が、雪をはねる。ルドルフの足取りは重いが、確実だった。雪が膝までかかっても、彼の体は揺れない。
やがて、石畳が途切れた。先は、もう雪と木々だけだ。ミッドナイト・ウッズ――クリスマス・タウンの外れにある、古い森。入り口には、苔むした石碑が立っている。“ミッドナイト・ウッズ”と、かすれた文字で刻まれている。
風が、木々の枝を鳴らす。枝同士がぶつかって、かちゃかちゃという音。まるで、歯を鳴らしているようだ。ノエルは、スノーブレードと呼ばれる小さな剣を腰から抜いた。銀の刃が、星明りを受けて光る。
「……臭いぜ」
ルドルフが、低く唸った。赤い鼻の穴が広がり、白い息を吐く。
「腐った蜜みたいだ。あいつらの体臭だ」
確かに、空気に、変な匂いが混じっている。鉄を焼いた後のような、焦げ付いた臭い。星を食う影の臭い――“願い”を腐らせる臭いだった。
森の中へ踏み込む。雪は、木の根元に深く巣くっている。足を取られる。ノエルは剣で枝を払い、道を作る。切り口から、甘い樹液の匂いがして、すぐに冷たさで固まる。
しばらく行くと、雪の上に黒い筋が走っていた。星明りで見ると、それは“足跡”ではない。まるで、誰かが墨を垂らしたような染みだ。染みは木の幹を這い上がり、枝から枝へ飛び移り、やがて空へ向かって伸びている。星が消えるたび、染みは大きくなる。
「こいつら……星を“這い上がって”食ってる」
ノエルは、唇を噛んだ。胸の奥が熱くなり、剣を握る手に力がこもる。ルドルフが、低く唸る。
「奥だ。まだ間に合うかもしれん」
二人はさらに足を速めた。雪が飛び散り、息が白くなる。星は、また一つ、音もなく欠けた。
最新エピソード
時計塔のてっぺんに立つ大きな時計が、ゆっくりと顔を上げた。錆びついた針がきしみながら動き始め、古びた文字盤の下から金色の光がにじみ出す。最初はほんのりとした明かりだった。まるで朝日が雲の間か
時計塔の機械室で、火の粉が舞っていた。焼けた鉄の臭いが鼻を突き、床に落ちた歯車が石を割って残り温かい。ノエルの肩でルドルフの息が遠のき、腕に絡んだ蹄がゆるゆると力を失っていた。向かい側ではグリ
雪原を下りきると、街の灯が見えた。いつもなら赤や緑の豆電球が木々に絡まってにぎやかなのに、今夜は列が半分ほど消えている。光るはずの所がぽっかりと黒く開き、風が吹き抜けるたびガラスががたがた鳴っ
黒い霧は生き物のように蠢き、雪のない円形の地面を舐めるように広がっていた。
ミッドナイト・ウッズの最深部。風は死に絶え、木々のざわめきすらここには届かない。
そこにあるのは、た







