神代樺乃の逃れられない◯◯な運命(さだめ)〜苦行編
Synopsis
100章到達✨
神代樺乃の逃れられない◯◯な運命(さだめ)〜警視庁編 からの続編です。
母方の祖母に引き取られ、祖母が営む神社で暮らしていた神代樺乃。この神社には『淫妖蟲』と呼ばる蟲達を代々封印する仕事を担っていた。そんなことは知らない樺乃は、8歳のときに誤ってその封印を解いてしまう。樺乃は祖母にこのことを話すと祖母は絶句した。なぜなら、もう一度封印するには『乳感の儀』という儀式が必要であり、それは代々封印を解いたもののみが『乳感の儀の巫女』となり、その壮絶な使命を背負うものだった。
警視庁での出来事は、樺乃の完全敗北で幕を閉じた。 乳感の儀の巫女の現継承者は樺乃たった一人。。。 このまま神代一族は滅亡し、この世は淫妖蟲らの毒で汚染されてしまうのか?
Chapter1
警察病院、
十五階。
特別集中治療室。
無機質なモニターの電子音が、
一定の間隔で空間を刻んでいる。
金属的な反響。
ここは生と死の境界が極めて薄い場所。
空調の風さえもが、
死の気配を運ぶために回っているようだった。
ベッドの上、
白いシーツの海に沈む樺乃。
その肢体は、
まるで誰かに所有され尽くした
玩具のように放置されている。
かつてあったはずの巫女の凛とした面影は、
そこにはない。
白目を剥いたまま、
瞳孔は虚空のどこか一点で凍りついたまま動かない。
喉からは、
掠れた、
獣の鳴き声に近い吐息が漏れ続けている。
「……樺乃」
名前を呼ぶ。
掠れた声が、
静自身の耳にさえ届いたかどうかも怪しい。
看護師が入り、
慌ただしく点滴の袋を交換する。
彼女たちの顔には、
形容しがたい困惑が張り付いている。
この一週間、あらゆる検査を行った。
しかし、
身体に致命的な外傷はなく、
脳波にも異状は見当たらない。
それなのに、
樺乃の身体は絶えず痙攣し、
乳首は異常なほど硬く突き出し、
秘部からは言いようのない潮が漏れ出し続けている。
白衣の医師がタブレットを抱えて溜息をついた。
視線は樺乃の腹部へ落ちる。
そこには、
赤黒い、
蟲の爪痕のような痣がうっすらと浮かび上がっている。
「看護師長。……異常です。数値上は健常者と変わらない。それなのに、なぜこれほどの……発汗と、痙攣が続くのか」
医師の吐息には、
科学では解明できない「何か」に対する
生理的な嫌悪が混じっている。
静は黙って、
その様子を見守る。
彼らには分からない。
この身体に何が刻み込まれたのか。
かつて、
ここを蹂躙した『将』という名の怪物が、
どんな絶望を樺乃の魂に植え付けたのか。
カーテンを閉め切り、
看護師が出ていくと、
病室には再び濃厚な澱みが戻ってきた。
静は、
樺乃の細い指先をそっと包み込む。
冷たい。
氷のような感触ではない。
どこか湿り気を帯びた、
熱を持った冷たさ。
樺乃の肌の下で、
何かが蠢いている。
封印されたはずの蟲の残滓が、
未だに彼女の神経を直接操作しているのだ。
ふと、
自分の背後に誰かの気配を感じた。
振り返る。
誰もいない。
だが、確かな温度がある。
飛鳥。
亡き娘の面影が、
病室の片隅で揺れているように思えた。
「……飛鳥、見ておいでか」
独りごちる。
飛鳥もまた、
最後はこうして壊れていった。
巫女としての矜持を保ちながら、
その身体を淫妖蟲という名の穢れに捧げ続け、
ついには「乳感の儀・零」の副作用によって、
自らの存在を霧散させた。
樺乃を救いたかった。
一族の呪いから解放し、
普通の少女として生きてほしかった。
だが、
その願いは、
十五階のこの冷たい個室で、
無残に踏みにじられている。
樺乃の乳首が、
衣擦れの振動だけでピクリと跳ねる。
本人の意思とは無関係に、
淫らな刺激が身体を貫いている。
それは、
かつて男たちの欲望を飲み込んだ名残。
少女の身体が、
いまだに排泄されぬ絶頂の残滓を、
消化しきれずに毒として溜め込んでいる証拠だ。
「……ごめんね。樺乃。お祖母様が、もっと早くに……あの子たちを断ち切っていれば」
爪の剥がれた指先が、
シーツを掻きむしる。
樺乃の意識は、
すでに遠い場所へ飛ばされている。
そこは、
泥と粘液と、
果てのない絶頂の海。
蟲の触手が彼女の神経を張り巡らし、
痛みと快楽の境界を完全に消し去った世界。
一度開いた子宮口は、
いまだに固く閉じることを拒んでいる。
静は、
傍らに置かれた消毒用シートで、
彼女の太腿を拭う。
透明な、
だが少しだけ粘り気のある体液。
それを拭うたびに、
樺乃の身体がびくりと跳ね、
喉の奥から小さな鳴き声を上げる。
それは、
拒絶ではない。
反応だ。
身体が、
刺激を求めている。
快楽という名の地獄を、
記憶がなぞっている。
そのあまりの悍ましさに、
静は自分の手が震えているのを感じる。
巫女であった時の感覚が、
今の樺乃を見て、
叫びを上げている。
この子はもう、
元には戻らない。
神代の血は、
ここで途絶える。
重い扉が開く音。
担当医の入江が入ってきた。
表情は硬い。
手には、
書類の束が握られている。
「神代さん。……少し、お話が」
「……何でしょうか」
「この一週間、あらゆる最新治療を施しました。鎮静剤、神経抑制剤、点滴による水分と栄養の補給。ですが、彼女の……反応は、日に日に激しくなるばかりです」
入江は、
樺乃の身体を直視することを避けるように、
窓の外を見つめた。
「正直に申し上げます。当院の設備と医療知識では、彼女の『症状』をこれ以上制御することは不可能です。いえ、そもそも……これは医学の範疇を超えているのかもしれません」
入江の声は、
わずかに震えている。
彼は、
この一週間で樺乃の身体を触診するたびに、
理由のない寒気と、
自身の身体が不当に熱せられるような違和感に
悩まされてきたのだ。
「……専門の、別の施設へ。そう言いたいのですか」
「はい。……もっと深い、専門的な知見を持つ施設へ。ここには、彼女を……診るための術がない。このままでは、彼女の生命が、何かに食い尽くされてしまう」
入江の言葉は的確だった。
それは、
静にとって最も聞きたくなかった宣告。
だが、
避けられない現実。
静は、
ベッドの上に横たわる樺乃の顔を覗き込んだ。
閉じた瞼の裏で、
眼球が小刻みに動いている。
夢を見ているのか。
それとも、
まだ自分を蹂躙した者たちの感触が、
脳内で再生されているのか。
「……どこへ、移せば」
「……国立精神衛生研究センターの、隔離棟です」
入江は、
一枚の承諾書をテーブルに置いた。
そこには、
転院という名の、
永劫の幽閉への同意が記されている。
樺乃は、
そこで「患者」として一生を終えるか、
あるいは、
もっと別の……何かになってしまうか。
静の手が、
震えながらペンを掴む。
窓の外では、
カラスが鳴いている。
不吉な鳴き声。
樺乃の細い、
あまりに細い首筋に、
入江の視線が止まる。
彼は無意識のうちに、
自身のネクタイを緩めた。
部屋の空気が、
急激に重くなっている。
静は、
承諾書に目を落とす。
文字が歪んで見える。
樺乃の口元が、
わずかに歪んだ。
「……お母様」
掠れた、
子供のような声。
それは、
誰に対する助けを求める言葉でもない。
ただ、
記憶の断片が漏れ出しただけの、
音。
静は、覚悟を決めた。
ペンを滑らせる。
名前の欄に、神代静、と書き込む。
その瞬間、
窓がガタガタと音を立てた。
病室に、
湿った泥の匂いが立ち込める。
医師の入江が、
突然、壁に手をついた。
呼吸が乱れている。
彼もまた、
樺乃が放つ蟲の残滓に、
少しずつ毒されているのだ。
「……すまない、神代さん。……少し、めまいが」
入江の額から、
脂汗が滴り落ちる。
彼は、
何かに抗うように頭を振り、
早足で病室を出ていった。
一人、
残された静。
静かな、
あまりに静かな病室。
モニターの音だけが、
命の残り火を刻んでいる。
「樺乃……」
静は、
彼女の冷たい頬を優しく撫でた。
その指先に、
何か温かいものが付着する。
樺乃の目元から、
涙のように滲み出した、
体液。
それは、
蟲の唾液の匂いがした。
終わりの始まりは、
もうすぐそこまで来ている。
静は、
震える手で、
樺乃の手を握りしめ、
ただ祈り続けることしかできなかった。
この子の中にある、
終わりのない淫らな地獄が、
少しでも静まることを。
あるいは、
その地獄そのものが、
彼女の魂を完全に塗りつぶしてしまうことを、
ただ待つしかないのか。
病室の影が、
少しずつ、
形を成して伸びていく。
それは、
かつて彼女を汚した者たちの残滓か。
それとも、
これから彼女を待ち受ける運命の影か。
静の瞳にも、
絶望が映り込む。
ただ、
冷たい看護師のヒールの音が、
廊下を遠ざかっていく。
十五階、
特別集中治療室。
そこは、
少女が壊れたまま、
永遠の夜を過ごすための、
聖域であり牢獄であった。
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天井から吊り下げられた神代樺乃の精神は、
すでに人間の形状を留めていなかった。
意識の底に広がるのは、
饐えた銀の液が波打つ無限の沼だ。
扉が叩かれる音は、
人間の拳のそれではなかった。
湿り気を帯びた肉の塊が、
薄い合板のドアへ無差別にぶつかる重い鈍音。
雑居ビル三階の狭い一室に、
古書の腐葉土めいた臭気と油紙の匂いが満ちていた。
神代神社の境内から三キロ離れた雑居ビルの一角。
<
喉の奥で、
銀色の蜜が泡を吹いていた。
天井から吊り下げられた四肢の先が、
冷え切った大講堂の空気を微かに揺らす。







