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# 本音パニック!~俺の口が勝手に暴走する日~

# 本音パニック!~俺の口が勝手に暴走する日~

Last Updated: 2026-06-29 09:10:03
By: レール
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Synopsis

本音が止まらいな


Chapter1

# 本音パニック!~俺の口が勝手に暴走する日~


## 第一章 8:00 通勤路の地獄


朝8時ちょうど、俺、安芸義雄はいつも通り駅から職場までの10分間の道を歩いていた。曇り空がなんとなく重苦しい。今日は大事なプレゼンの日なのに、なんだか落ち着かない。


「あれ、前を歩いてる人…スーツの襟がめっちゃ曲がってる」


と思った瞬間、口が勝手に動いた。


「おいおい、そのスーツの襟、寝癖ついたみたいにグシャっとしてるぞ。ちゃんとアイロンかけた?」


前方のサラリーマンが振り返った。40代前半くらいかな。目が点になっている。


「えっ?」と男が声を出した。


「いや、すまん、そういうつもりじゃ…」


また口が動く。


「それにネクタイの結び目もゆるゆるだし。今日は大事な商談とかないの?」


男の顔が一気に真っ赤になった。「お、お前…誰に向かってそんなこと言ってるんだ!」


周囲の通行人たちが足を止めた。まずい、まずいぞこれは。謝らないと。


「ごめんなさい、つい…」


「ついって何だ!お前みたいな青二才に服装のことを言われる覚えはない!」


男が怒鳴り返したその時、別の声が響いた。


「あんたも人のこと言えないじゃない。その靴、擦り切れてヒールが減りきってるよ」


振り返ると、30代くらいの女性が、さっきのサラリーマンに向かって言っていた。彼女の口元がぷるぷると震えている。どうやら彼女も「本音」を抑えきれていないようだ。


「な、なんだと!」サラリーマンが女性を睨みつける。


「だって事実でしょ!それに髪の毛も薄くなってきてるのに、無理に横から梳かしてるでしょ、あからさますぎて見てられないわ!」


「お前こそその化粧、厚塗りすぎだ!ファンデーションの境目が顎ではっきり分かるぞ!」


通りがかった高校生風の少年が突然叫んだ。「うわっ!おばさん、それマジで気持ち悪い!」


「な、なによあんたは!そのジャージ、三日は洗ってなさそうな臭いがするわよ!」


「えっ?まじで?昨日洗ったばかりなんだけど…」


「嘘つけ!その黄ばみ、漂白剤でも使わないと落ちないレベルだわ!」


## 第二章 8:15 大混乱


あっという間に通勤路が戦場と化した。


「あんたのその鞄、三年前から同じの使ってるでしょ!流行遅れすぎ!」


「お前のその歩き方、内股すぎて気持ち悪い!」


「そのメガネ、顔に対して小さすぎ!カエルみたい!」


「あなたのその口ひげ、無精ひげと区別つかないわ!」


次から次へと本音が飛び交う。みんな口を押さえたり、頬を押さえたりしているが、どうしても言葉が溢れ出てしまうようだ。


俺も必死に口を押さえた。喋っちゃダメだ。絶対に喋っちゃ…


「あっちのオジサン、完全にスキンヘッドなのに、側頭部の毛三本だけで必死に梳かしてる!諦めたら?」


口がまた動いた。視線の先には、がっちりした体格の50代くらいの男性がいた。作業服を着ているが、その風貌からしてかなり厳つい。


男の顔が一瞬で険悪になった。周囲の喧騒が一瞬で止んだ。


「…なんだと?」


低い、危険な声だ。まずい、本当にまずい。


「い、いえ、なんでも…」


「お前、今なんて言った?」


男がゆっくりと近づいてくる。身長は180cmはあるだろう。腕は俺の腿くらい太い。


「あの…その…」


「聞こえてるんだよ。スキンヘッドのオジサンってな」


「すみません!つい、口が滑って…」


「口が滑った?」


男の拳が光った。次の瞬間、左頬に衝撃が走った。


「がぶっ!」


視界が白く揺れる。地面に倒れそうになるのを必死で堪える。頬が熱く、脈打つように痛む。


「若造のくせに調子に乗りやがって」


男が睨みつける。周囲の通行人たちは、一瞬静かになったが…


「暴力はよくないわよ!それにあなたも人のこと言えないじゃない!その作業服、油汚れがこびりついて洗濯しても落ちなさそう!」


別の女性が叫んだ。


「うるさい!」


男が怒鳴り返すが、もう彼の暴力に誰も注目していない。再び本音の応酬が始まっていた。


俺は這うようにその場を離れた。左頬が腫れ上がっているのを手で押さえながら、職場へと急ぐ。時計を見ると8時25分。遅刻しそうだ。


## 第三章 8:30 職場の本音バトルロイヤル


8時30分、頬を赤く腫らしたまま、なんとか会社のオフィスに滑り込んだ。


中に入ると、そこはもう地獄絵図だった。


「藤田さん、その資料のまとめ方、毎回わかりにくすぎるんだよ!図表一つ入れたらどうなの?」


「山下君こそ、プレゼンの声小さすぎて聞こえない!もっと腹から声出して!」


「課長のそのネクタイ、今日も奇抜すぎる!どこでそんなの買うの?」


「お前ら静かにしろ!この騒ぎの中じゃ集中できねえ!」


デスクの間を行き来しながら、同僚たちが互いに本音をぶつけ合っている。みんな必死に口を押さえているが、どうしても言葉が漏れてしまうようだ。


「あ、義雄君!遅刻じゃないの!」


受付の鈴木さんが俺に気づいた。40代のベテラン事務員だ。


「すみません、途中でちょっと…」


「それよりその頬どうしたの?すごく腫れてるわよ!」


鈴木さんの目が心配そうに細まった。その優しさに、つい…


「鈴木さん、今日のそのブラウス、若作りすぎじゃないですか?50過ぎたらもう少し地味な色がいいと思います」


口が勝手に動いた。ああ、またやってしまった。


鈴木さんの表情が凍りついた。


「…な、なんですって?」


「いえ、つまり…そのピンクがお顔のシワをより強調してしまって…」


「あらあら、義雄君こそそのスーツ、安っぽいポリエステル100%でしょ?擦れる音がカサカサって、聞いてるだけで肌が痒くなるわ」


鈴木さんの口元がぷるぷる震えている。本音を抑えきれないようだ。


「それにその髪型、10年前から変わってないじゃない。もう少し現代風にしたら?」


「す、すみません…」


「義雄君って、いつも昼食の時にくちゃくちゃ音立てて食べるよね。あれ、本当に不快なんだけど」


隣のデスクの佐藤先輩が割り込んできた。30代後半の営業マンだ。


「えっ?くちゃくちゃ?」


「うん。まるで豚みたいだよ。それにカレーの時は特にひどい。スプーンの音もあんまり立てないでほしい」


ショックだ。自分では全く気づいていなかった。


「そ、そうでしたか…気をつけます」


「でもな」と佐藤先輩が続けた。「義雄君はいつも残業を率先してやってくれるよな。あの姿勢は見習いたいと思う」


「え?」


「本当だよ」と鈴木さんも加わった。「義雄君はどんな細かい仕事も手を抜かない。先月の請求書処理、ミス一つなかったわよね。あれには感心した」


照れくさい。こんなこと言われるなんて…


「ありがとうございます。でもそれは当たり前のことですから…」


「いや、当たり前じゃないよ」と別の声がした。システム部の田中さんだ。「みんな面倒な仕事は押し付け合うのに、義雄君だけはちゃんと引き受けてくれる。それに、あの丁寧な報告書の書き方、見ていて気持ちがいいよ」


「私もそう思う」と経理の高橋さん。「義雄君の経費精算の明細、いつもきちんと揃っていて確認が楽なの。他の人のはレシートぐしゃぐしゃだったりするのに」


次々と称賛の言葉が飛んでくる。なんだか胸が熱くなってきた。


「皆さん…ありがとうございます。そんな風に思ってくれていたなんて…」


「でもやっぱり食べる音は直してね」と佐藤先輩が笑った。


「はい!必ず直します!」


## 第四章 9:00 沈黙の時間


時計の針が9時を指した瞬間、オフィス中の喧騒がピタリと止んだ。


「…あれ?」


誰もが口を押さえ、周囲を見渡す。さっきまで溢れ出ていた本音が、突然堰き止められたようだ。


「…喋れる?」


小さな声で誰かが呟いた。


「…喋れるみたい」


別の声が返った。


でも、誰もそれ以上話そうとしない。みんな恐怖で固まっている。もしまた本音が漏れ出したら…もう収拾がつかなくなるかもしれない。


課長が咳払いをした。


「…とりあえず、仕事を始めよう」


誰も反対しない。みんな黙ってデスクに戻り、パソコンを立ち上げる。


オフィスにはキーボードを叩く音と、時折響く咳払いだけが聞こえる。電話が鳴っても、必要最小限の言葉しか交わさない。


「はい、○○株式会社でございます」


「…承知しました」


「…ではよろしくお願いいたします」


いつもなら雑談が飛び交うランチタイムも、今日は異様に静かだ。みんな黙々と弁当を食べ、視線を合わせない。


俺もカレー弁当を食べるのを控え、サンドイッチを選んだ。一口噛むごとに周囲を伺う。誰もこっちを見ていないが、それでも緊張で喉が詰まりそうだ。


午後の会議も異様だった。プレゼンをする営業部の山下君は、資料を指さしながら淡々と説明するだけ。質疑応答の時間には誰も手を挙げない。


「…質問はありませんか?」


課長が尋ねる。全員が首を振る。


「では…次に移ります」


こんな会議は初めてだ。いつもなら「ここはもっと詳しく」「この数字は本当か?」と活発な議論が交わされるのに。


## 第五章 18:00 退社後の重い空気


午後6時、定時になると、みんな息を殺すように退社していく。いつもなら「飲みに行こうぜ」「明日またな」という声が飛び交うのに、今日は無言で会釈するだけ。


俺も鞄を持ち、オフィスを後にする。頬の腫れは少し引いたが、まだ痛みが残っている。


今日は彼女の麻衣とデートの日だ。付き合って三ヶ月。そろそろ関係を進展させたいと思っていた。いいレストランを予約し、プレゼントも用意した。


待ち合わせ場所のカフェに着くと、麻衣がもう来ていた。白いワンピースがよく似合う。


「麻衣、ごめん待った?」


「ううん、私も今来たところ」


いつもなら自然に笑い合えるのに、今日はなぜかぎこちない。


店内に入り、席に着く。メニューを渡されても、なかなか注文が決まらない。


「えっと…義雄さんは何にする?」


「そうだな…麻衣は?」


「んー…」


沈黙が流れる。店員が近づいてくる。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


「あ、えっと…」


「私は…パスタにします」


「じゃあ僕もパスタで」


店員が去り、再び沈黙。いつもなら仕事の話や趣味の話で盛り上がるのに、今日はなぜか言葉が出てこない。


「その…今日、会社でちょっと変なことがあってさ」


口を開いたものの、続きが思いつかない。本音を全部喋ってしまったらどうしよう。麻衣の何気ない欠点まで口に出してしまったら…


「私も今日、職場で大変だったの」


麻衣も言い淀む。どうやら彼女も同じ現象を経験したようだ。


「もしかして…本音が勝手に出ちゃうやつ?」


「えっ?義雄さんも?」


二人の目が合った。


「うん。朝からずっと。大変だったよ」


「私も…同僚に言ってはいけないこと言っちゃって」


麻衣の目がうるんでいる。きっと辛かったんだろう。


「大丈夫?誰かに何か言われた?」


「ううん…でも、私が言ったことで傷ついた人がいるかもしれない」


俺は頬の腫れを隠すように手を当てた。


「僕も…結構ひどい目に遭った」


「え?どうしたの?」


「いや、なんでもない」


本当は話したい。でも、もしまた本音が暴走したら…麻衣に「その話し方、時々うるさい」とか「その服、似合ってない」とか言ってしまったら…


料理が運ばれてきても、会話はぎこちないまま。美味しいと言いながらも、どこか表面だけの会話に終始する。


「デザートはどうする?」


「私はいいや」


「僕も」


いつもなら「シェアしよう」となるのに、今日はそれすら提案できない。


## 第六章 22:00 帰路の省察


デートを終え、麻衣を家まで送り、一人帰路につく。街灯に照らされた道を歩きながら、今日一日を振り返る。


あの本音の洪水…なぜ起きたんだろう。超常現象?集団催眠?それとも何かの実験?


でも、それ以上に気になるのは、あの現象が露わにした人間関係の現実だ。


俺は今日、多くの人を傷つけた。でも同時に、多くの人から称賛もされた。普段は絶対に口に出さないようなこと、隠していること、それが一気に表面化した。


「本音と建前か…」


呟くと、口から自然に出た。もう暴走はしていないようだ。


世の中は本音だけでは回らない。かといって建前だけでも息苦しい。そのバランスの中で、人は生きている。今日はそのバランスが完全に崩れた日だった。


鈴木さんに「若作りすぎ」と言ってしまったこと、後悔している。でも、彼女が俺の仕事ぶりを評価してくれていたことは、素直に嬉しかった。


佐藤先輩に食べる音を指摘されたのはショックだったが、直すきっかけをもらえた。それに、残業を評価してくれたことも心に残る。


一番怖かったのは、自分ではコントロールできない何かが、自分の口を動かしていたことだ。あの厳ついおじさんに殴られた時、自分では止めたかったのに、体が言うことを聞かなかった。


「偏見も、勝手に出てくるんだな」


駅までの坂道を上りながら思う。あのスキンヘッドのおじさんを見た時、頭に浮かんだのは「怖そう」という先入観だった。それが口に出て、暴力を招いた。


自分の中にそんな偏見があったこと、恥ずかしい。でも、それも自分なんだ。


## 第七章 23:00 自宅での葛藤


自宅に戻り、シャワーを浴びる。湯船に浸かりながら、今日のことをもう一度整理する。


スマホを見ると、麻衣からメッセージが来ていた。


「今日はありがとう。ちょっとぎこちなかったけど、また今度ゆっくり話そうね」


返信を考える。何と書けばいい?本音で「今日のデート、少し物足りなかった」?それとも建前で「とても楽しかった」?


結局、こう返した。


「うん、また今度。今日はお互い大変だったね。ゆっくり休んで」


送信ボタンを押すと、すぐに既読がつき、返信が来た。


「そうだね。お互い今日はゆっくりしよう。おやすみ」


「おやすみ」


スマホを置き、天井を見上げる。今日一日で、人間関係がどれだけ脆いものか思い知らされた。たった一日で、築いてきたものが崩れかけた。


でも同時に、見えなかったものが見えた日でもあった。鈴木さんや佐藤先輩、田中さんたちの本心。あの称賛は、きっと本物だった。


「自分では止められない心の声か…」


また呟いてしまう。今日はもう大丈夫そうだ。現象は収まったようだが、その影響は残る。


明日、会社に行ったらどうなるだろう?みんな今日のことを覚えているだろうか?それとも何もなかったように振舞うだろうか?


麻衣との関係も、このままぎこちないままなのか?それとも、今日の経験をきっかけに、もっと深い話ができるようになるのか?


分からないことだらけだ。でも一つだけ分かったことがある。


人間は本音と建前の狭間で生きている。時にはそれが苦しくても、それがないと社会は成り立たない。今日はそのバランスの大切さを、身をもって学んだ日だった。


「明日からは…もっと気をつけよう」


湯船から上がり、鏡に向かう。左頬にはまだ少しあざが残っている。あの痛みを忘れないために、このあざが消えるまで覚えていよう。


自分の中の偏見にも、向き合わなければ。無意識に人を傷つける言葉を持っていることに、今日気づけた。それはある意味、成長の機会かもしれない。


ベッドに入り、天井を見つめる。今日は長い一日だった。疲れているのに、なかなか眠れない。


窓の外から都会の明かりが漏れている。あの光の一つ一つに、本音と建前のバランスを取って生きる人々がいる。


俺もその一人だ。明日からまた、そのバランスを取りながら生きていく。でも今日学んだことを忘れずに。


「おやすみ」


自分に言い聞かせるように呟くと、ようやく眠りについた。


(完)



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