Synopsis
OC(わたしのオリジナルキャラ)のミハエル、水鏡冬華、アリウスがドラゴンクエスト2したら~こうなりました。彼らにさせると、普通じゃない魔王退治になるのをご覧ください。
Chapter1
鉄と獣の脂が焦げる臭いが、夜の重たい空気に混ざり合っている。
石造りの城壁が崩れ落ちる音は、地響きとなって足裏から心臓を揺らした。悲鳴はすでに途絶え、代わりに聞こえるのは肉を裂く爪の音と、羽ばたきの風切り音ばかり。ムーンブルグの城は、半日も経たずに地獄の底へと突き落とされた。
水鏡冬華は、煤で汚れた巫女装束の袖を翻し、本丸の回廊を走っていた。手元には、ずしりと重い鉄の太刀。本来ならこの星のものではないはずの刃が、魔物の返り血でぬらぬらと黒く光っている。
(頭病めそう……何なのよ、この数は)
額から流れる血が目に入り、視界が赤く染まる。呪禁道の霊波動を練り上げようとするが、大気中に満ちた邪悪な瘴気が、術の構築を激しく阻害していた。
背後で、巨大な影が跳ねる。ギガンテスか、あるいは地獄の使者か。太い棍棒が風を切り裂き、彼女の頭上をかすめた。石壁が爆発したように砕け、その破片が頬を切り裂く。
「王女様!」
老いた兵士の声が上がったが、それも一瞬の叫び声でしかなかった。振り返る余裕すら与えられない。正面の闇から現れたのは、悍ましい紋章の刻まれた杖を持つ魔道士だった。ハーゴンの配下。奴の濁った眼球が、冬華の姿を捉える。
「忌々しい竜の血脈め。その力を封じてくれる」
呪言が詠唱されるよりも早く、冬華は地を蹴った。踏み込みの一歩で石床を割り、太刀を斜め下から跳ね上げる。手応えはあった。しかし、魔道士の肉体が裂けるのと同時に、杖の先端から紫色の光が炸裂する。
熱ではない。冷気でもない。全身の繊維が歪み、縮んでいくような、悍ましい感覚。
(しまっ――)
視界が急速に低くなる。床に落ちた太刀の柄が、見上げるほど遠い位置に移動した。手の平を見たかったが、視界に入ったのは白と茶の混ざった毛皮の足だった。爪があり、肉球がある。
「ガルル……」
喉から出た声は、人の言葉をなさず、ただの低い唸り声となって消えた。
魔道士は事切れたが、背後からはさらに多くの魔物の足音が迫っている。四本の足で走る感覚など、経験したこともない。それでも本能が泥だらけの足を動かした。崩れ落ちた外壁の隙間へ滑り込み、ただひたすらに暗い森へと駆け出す。冷たい雨が降り始めていた。泥水を浴び、藪をかき分け、咆哮する魔物の声を背中に浴びながら、小さな犬の身体は走り続けた。
どれほどの時間を走ったのか。
辿り着いたのは、ムーンペタの街だった。夜が明け、どんよりとした曇り空の下で、街の人々が行き交っている。
冬華は、広場にある小さな犬の水飲み場の脇に丸くなっていた。水面に映る自分の姿を見る。垂れた耳、ぬれた鼻先、むくむくとした毛並みの小犬。竜神の力も、鋭い剣技も、この身体では何一つ使えない。
(本当に、頭病めそう)
溜息をついたつもりだったが、出たのは「ふん」という鼻息だけだった。通りかかる人々は、哀れみの目を向けるか、あるいは汚い野良犬を見るような顔をして避けていく。
「おい、そこの犬。腹が減っているのか?」
八百屋の主人が、腐りかけたカブの端切れを放り投げてよこした。地面に落ちたそれを、冬華はじっと見つめる。
(わたしにこれを食えと? 水鏡冬華に、この泥のついた生野菜を?)
喉はお腹の虫の代わりに、情けない鳴き声をあげた。背に腹は代えられない。前足でカブを抑え、泥を前足で払おうとして、結局は鼻先を汚しながら齧り付く。苦味と土の味が口いっぱいに広がった。不老不死の半竜神が、異世界の片隅で泥カブを齧る犬に成り下がっている。この屈辱をハーゴンにどう返してやるか、それだけを頭の中で反芻していた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
サマルトリアの城の空気は、穏やかすぎて退屈なほどだった。
アリウス=シュレーゲルは、自室の机に古い歴史書を広げ、指先で頁をめくっていた。銀色の髪が、窓から差し込む朝日に細かく光る。背中には、霊的な光を帯びた白い翼が静かに畳まれていた。
「アリウス、出発の準備はできたの?」
部屋の扉を開けたのは、妹の王女だった。彼女の顔には、旅立つ兄への心配と、どこか呆れたような色が混ざっている。
「できているよ。ほら、この通り」
アリウスは、机の脇に置かれた革の鞄を叩いた。中に入っているのは、何冊かの考古学の写本と、携帯用の小型魔導端末、そして少しの干し肉だけだ。王から与えられたサマルトリアの軽量な甲冑は、身につけてはいるものの、どこか窮屈そうに見える。
「ローレシアの王子が、ハーゴン討伐のために旅立ったそうだね。私も彼と合流しなければならない」
「わかっているなら、どうしてそんなにのんびり本を読んでいるの? もう三日も遅れているわよ」
「焦っても情報は手に入らないよ。世界を救うのも大事だけど、この地に残された古代の霊波動の痕跡を調べるのも、同じくらい有意義なことなんだ」
アリウスは穏やかに笑い、本を閉じた。彼にとって、魔法とは「情報のエネルギー化」に他ならない。世界に満ちる情報を正しく理解することこそが、強大な術を紡ぐ鍵なのだ。焦る必要など、どこにもない。
城門を出ると、乾いた風が銀髪を揺らした。
「さて、どこへ行こうか」
ローレシアは東だ。しかし、アリウスの足は自然と西の荒野へと向いていた。そこには古い神殿の遺跡があるはずだった。
「まずは、あの遺跡の碑文を読んでからにしよう。ローレシアの王子も、少しは待ってくれるだろうしね」
サマルトリアの兵士たちが門の上から見守る中、その第二の勇者は、予定とは全く異なる方向へと、楽しげな足取りで彷徨い始めていた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ローレシア城の謁見の間。
冷たい石畳の上に、ミハエルは立っていた。
184センチの長身に、仕立ての悪い青い服。金髪の髪をかき上げ、青い瞳で正面の玉座を見つめる。
その隣には、重々しい表情をしたローレシア王が座っていた。
「ミハエルよ。邪悪なるハーゴンを討ち果たし、世界の平和を取り戻すのだ」
王の声が響く。そして、厳かに差し出されたのは、古びた革の袋と、一本の抜き身の剣だった。
「これを受け取るが良い。旅立ちの支度金と、我が国に伝わる剣だ」
ミハエルは一歩前に進み出ると、恭しくそれらを受け取った。
重さを確認する。革の袋を指先で開けると、中から出てきたのは、くすんだ銅色の硬貨が数枚。
50ゴールド。
そして、手渡された「国に伝わる剣」とやらは、どう見てもただの量産品の銅の剣だった。刃先には小さな刃こぼれがあり、柄の革紐は手垢で黒ずんでいる。
ミハエルの眉が、ピクリと動いた。
「……王よ。これは?」
「うむ。我が国が誇る最高の装備と、旅の路銀である。励めよ」
王は満足そうに頷くと、そのまま護衛の兵士たちと共に奥の部屋へと引っ込んでしまった。謁見の間の扉が、重々しい音を立てて閉まる。
静寂が残された。
ミハエルは、手の平の上の50ゴールドを見つめた。親指で弾くと、鈍い音が響く。彼はそれをポケットにねじ込み、銅の剣を鞘に収めると、城の長い回廊を早足で通り抜け、城下町へと向かった。
町の宿屋の食堂。
昼時だというのに、客はまばらだった。充満する安物のラードの臭いと、酸っぱい麦酒の香りが鼻を突く。
ミハエルはテーブルの端に腰掛け、店主を呼び寄せた。
「へい、一番安い食事っていくら」
「パンと薄い塩スープのセットで、八ゴールドだね。肉を付けるなら15ゴールドだ」
「宿代は?」
「一晩で20ゴールドさ。これでも国境の町に比べりゃ安いもんだよ」
ミハエルは計算した。
50ゴールド。
一食で八ゴールド消費する。一日三食で24ゴールド。それに宿代が20ゴールド(1人1泊4Gだが店主がぼったくっている)。
つまり、初日の夜を迎える頃には、手元の資金はほぼ底をつく。二日目の朝には、宿から叩き出され、朝食すら摂れずに荒野を彷徨うことになる。
「ご飯もろくに買えないんだけど……」
ミハエルは額に手を当て、深い溜息をついた。
「バイト生活になっちゃうよ? 魔物倒せないって、実力がないんじゃなくて、ひもじすぎて食料の確保で手いっぱいだっての」
彼はテーブルの上の銅の剣を指先で叩いた。カチ、カチと軽い音がする。
「この身体は確かに頑強だ。握力もあるし、筋肉も申し分ない。だがな、燃費というものがある。184センチ、81キロの男が、一日にどれだけのカロリーを消費すると思っているんだ。パンと薄いスープだけで、あの荒野の凶暴な大ナメクジやスライムと戦えと? 冗談がきつすぎる」
コップに注がれたぬるい水を一口飲む。カルキの臭いが鼻に抜けた。
「そもそも、一国の王子が旅立つというのに、なぜ旅費が50ゴールドなんだ?
国庫が破綻しているのかローレシア?
それとも、あの王はわたしを暗殺するつもりか!? 普通、軍資金としてせめて数千、いや数万ゴールドは用意するべきだろう。馬の一頭も買えないじゃん。
ローレシアはディアドコイ戦争なんて起こりようもないし、後継ぎひとりっこのわたし一人しかいない世継ぎの王子だぞ。兵士に支給しているレベルの装備よりヘボいんだが」
愚痴は止まらなかった。
周囲の席にいた商人風の男たちが、関わり合いになりたくないという顔で席を外していく。
「魔導冷蔵庫も、魔導PCもない。それはいい。だが、貨幣制度があるにもかかわらず、そのシステムが機能していない。この国は一体どうなっているんだ。ここではあの薄汚い銅貨だけが絶対的な価値を持っている」
ミハエルは懐から革袋を取り出し、中の硬貨をテーブルに並べた。
「10、20、30……本当に50ゴールドだ。これで何を買えというんだ。薬草一つで何ゴールドすると思っている。もし戦闘で怪我をしたら、治療費すら払えずに野垂れ死ぬぞ。魔物を倒して金を奪う?
あいつらは財布を持ち歩いているのか?
ゴールドを体内に貯め込んでいる野生動物など、生態系としておかしいだろう」
頭痛をこらえるように、こめかみを指先で押さえる。
「フレッドがいれば、少しは金を工面できたかもしれないが、彼は今ここにはいない。
アリウスは……彼は今頃、どこかの遺跡で呑気に本でも読んでいるんだろうな。
サマル王子としての義務など、ハナから放棄して自分自身の知的好奇心を満たしているに違いない」
窓の外を見やる。
ローレシアの城壁の向こうには、荒涼とした野原が広がっていた。時折、青いこんにゃくのような生命体が、草むらから顔を覗かせている。スライムだ。
「……まずは、バイトだな」
ミハエルは立ち上がった。銅の剣を腰に吊るし、宿屋の主人に向かって声をかける。
「へい、この町で一番手っ取り早く稼げる仕事はなんだ。力仕事なら何でもいいわ。薪割りでも、ドブさらいでも、荷物運びでもやるぞ。勇者の仕事の前に、今日の宿代を稼がなきゃならん」
宿屋の主人は、王子の紋章が薄く刻まれた革鎧を着た大男を、怪訝そうな目で見つめた。
「あんた、本当に王様んとこの……いや、何でもない。裏手に薪用の丸太が山ほどある。全部割ったら10ゴールドやるよ」
「交渉成立だ。斧を貸せ」
ミハエルは上着の袖をまくり上げた。世界の命運をかけた戦いの第一歩は、ローレシア城下の宿屋の裏庭で、乾いた薪割りの音とともに始まった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ムーンペタの街の夕暮れは、冷たい霧を伴って訪れた。
犬の姿となった水鏡冬華は、広場の隅の荷車の下で、寒さに身を縮めていた。犬の身体は、体温の低下に敏感だ。巫女の時に使っていた霊波動の障壁も、この小さな喉からはうまく出力できない。
(あのバカミハエルは、今頃どこで何をしているのかしら)
前足で顔をこすりながら、冬華は考える。
彼の性格だ。おそらくはローレシアで贅沢な暮らしをしているか、あるいはその逆で、理不尽に悪態を吐き散らしていることだろう。
何にせよ、この呪いを解くには「ラーの鏡」が必要だった。その鏡がどこにあるのか、犬の嗅覚では探しようもない。
(早く来なさいよ。来たら、思い切り吠えて噛みついてやるんだから)
彼女は小さく鼻を鳴らし、乾いた泥の上に顎を乗せた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
その頃、サマルトリアから数マイル離れたオアシスの近くで、アリウスは古い石碑の拓本を取っていた。
「なるほど、この時代の魔力回路は、情報の圧縮技術が未熟だったんだね。だから詠唱に余計な動作が必要だったんだ。面白いな」
彼は夜空を見上げ、ピザの代わりに持ってきた干し肉を齧った。
「ローレシアの王子は、そろそろサマルトリアに着く頃かな。まあ、急ぐ旅でもない。明日はあの洞窟を調べてみよう」
そしてローレシアの城下町では、ミハエルが血のマメができた掌を見つめながら、宿屋の主人から受け取った十ゴールドを、忌々しそうに財布に押し込んでいた。
「ちょっとー、これだけ働いて10ゴールド……。発展途上国の給料かよ……王都なのに。ハーゴンを倒す前に、腱鞘炎で腕が動かなくなるぞ。絶対にあの王の小遣い設定はおかしい」
勇者たちの旅路は、未だ交わることなく、それぞれの理不尽な現実の中で停滞していた。
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ロンダルキアへ至る洞窟の空気は、常に死と硫黄の匂いに満ちていた。
剥き出しの岩肌を伝う滴は凍りつき、足元を滑りやすい氷床に変えている。松明の炎が、湿った冷気の中で細く揺れていた。
「……ねえ、ミハエル」
「なんだ?」
「あんた、本当にローレシアに戻るつもりなの?」
冬華の問いに、ミハエルは手を止めた。
「どういう意味だ?
ペルポイの地下ドームを埋め尽くした土砂の撤去は、暴力的なまでの速度で進められた。
瓦礫を分子レベルで霧散させるアリウスの魔力。崩落する岩盤の重力をその場で固定し続けるミハエルの呪
「で。ハーゴンもシドーも倒したんだけど」
煤けた白の羽織を叩きながら、冬華は呟いた。
ロンダルキアの激戦は、ついに終結した。
その場に残ったのは、崩壊したハ







