CAT & BIRDY~その日、罪の街の破壊確率は120%~
Synopsis
【あらすじ】 ネオンと酸性雨が降り注ぐ「罪の街」メガロ・アーク。 かつて企業を震え上がらせた元・最強暗殺者のノワール(黒猫)と、この世界をゲームと勘違いしている極彩色の天才ハッカー・パレット(インコ)。正反対の厄介者バディは、パレットの浪費癖のせいで今日もその日暮らしの金欠状態にあった。
ある日、腐敗した警察署長から「ギャングに奪われた企業の”最高機密コンテナ”を奪還しろ」という裏仕事が舞い込む。 報酬の一年分の弾薬と商品券のため、敵のアジトである廃ディスコへ潜入するノワール。彼女はプロとして、事を荒立てず隠密(ステルス)で任務を終わらせるはずだった――パレットが面白半分で、全館の音響と照明を最大出力でハッキングするまでは。
「……プランBだ。全員吹き飛ばす」
かくしてステルス任務は一転、レーザーと重低音が飛び交う最高にポップな大乱闘へ! さらにはノワールの過去を知る組織の「猟犬」まで立ちはだかり、事態はハイウェイでの大爆走へと発展する。 爆発上等、負傷者多数! 厄介者バディが罪の街を(物理的に)ハッキングする、狂騒のサイバーパンク・アクション、開幕!
Chapter1
ネオンの瞬きすら、この街が吐き出す極彩色の吐瀉物でしかない。
メガロ・アーク――天を突き刺す巨大企業の摩天楼群と、その足元に這いつくばるように広がるスラムが共存する「罪の街」。分厚いスモッグに覆われた空からは、肌を焼くような酸性雨が絶え間なく降り注ぎ、錆びついたハイウェイの上空を企業広告の巨大なホログラムが亡霊のように這い回っている。法の番人たる警察ですら、資本という名の首輪をつけられた番犬に過ぎない。この街のシステムそのものが、誰かが書き殴った悪意あるコードのように、根本から歪みきっていた。
その最下層、第8区の廃棄区画。ひび割れたアスファルトには油膜が虹色に光り、行き交う者たちは皆、コートの襟を立てて足早に路地裏へと消えていく。その暗がりの中、ひっそりと佇む崩れかけの雑居ビルがあった。エレベーターはとうの昔に死に絶え、階段には得体の知れないシミがこびりついている。
その最上階、雨漏りのする薄暗い一室。換気扇の低い唸り音だけが響く中、カチャリ、と冷たい金属音が鋭く鳴った。
窓際の壊れたソファに腰掛け、手にした大型の対物狙撃銃(レールガン)を分解・清掃しているのは、漆黒のタクティカルコートを纏った女――ノワールである。彼女のしなやかな肢体は、暗闇に溶け込む一頭の黒猫そのものだ。亜麻色の髪の奥で冷たく光る金色の双眸は、感情の一切を削ぎ落とした捕食者の静寂を保っている。かつて、組織お抱えの「死神」として数多の命を刈り取ってきた彼女の指先は、弾倉のバネの反発力を確かめる際も、まるで精密機械のように微動だにしない。
「ぐぅぅぅぅ……」
だが、その張り詰めた静寂は、ノワールの腹の虫によって無残にも打ち砕かれた。
ノワールは小さく舌打ちをし、部屋の反対側を睨みつける。
「ねえねえ、ノワール! 聞いてよ! 昨日の夜ね、裏のダークウェブのオークションで超レアな『七色に光るゲーミングひまわりの種・限定エディション』が出品されてたの! もちろん、私のスーパーハッキング技術で競り落としたんだけどね! 見てこの輝き! テンション上がるぅ!」
部屋の隅、複数のホログラムモニターに囲まれたジャンク品の山の上で、極彩色のシルエットが跳ね回っていた。パレットである。
インコの遺伝子を持つ彼女の羽は、薄暗い部屋の中でも目が痛くなるほどの蛍光ピンクとシアンに輝いている。オーバーサイズのゲーミング・ジャケットを着崩し、腰には不釣り合いな二丁の大型拳銃。彼女の瞳には、飢えや貧困への悲壮感など微塵もない。あるのは、この理不尽な世界すら「最高のオープンワールドゲーム」として楽しむ、子供のような無邪気さと狂気だけだった。
「パレット……」
ノワールの声は、絶対零度の吹雪のように冷たかった。
「私たちの全財産は、明日の食事代と、私のレールガンの予備バッテリー代だったはずだ。なぜ、それが光る種に変わっている?」
「え? だって、限定版だよ? 食べたらHPと一緒にテンションも回復するバフ効果付き(自称)だよ!? ほら、ノワールも食べる?」
無邪気に差し出された、けばけばしいネオンカラーに発光する種を前に、ノワールはこめかみに青筋を立てた。暗殺者としての本能が、目の前の極彩色の鳥の首をへし折るべきだと告げている。しかし、彼女は深く息を吐き出し、レールガンのパーツを乱暴にテーブルに置いた。
彼女は、この「狂気」を殺せない。かつて暗殺のターゲットであったはずのこの少女の笑顔に、どうしようもなく人間としての「情」を呼び覚まされてしまったという、ノワール自身の背負う『罪』ゆえに。
その時、部屋の片隅に放置されていた旧式の通信端末が、無機質な電子音を鳴らした。
暗号化された回線。発信元は偽装されているが、ノワールにはすぐにピンときた。
『……生きてるか、厄介者ども』
モニターに浮かび上がったのは、音声波形だけ。声の主は、この第8区を管轄する警察署長だ。表向きは腐敗した権力の犬だが、裏ではノワールたちのような「存在しない者」に汚れ仕事を回す元締めでもあった。
「用件を言え。ただし、報酬が前払いか、食料現物支給の仕事に限る」
ノワールが冷たく言い放つと、通信の向こうで署長が鼻で笑う気配がした。
『食いっぱぐれてるようだな。なら、ちょうどいい案件だ。昨夜、ウォーマートの輸送車が襲撃された。やったのは、この区画で最近のさばっている武装強盗団《マッド・ドッグス》だ』
「企業間の小競り合いか。警察が介入すればいいだろう」
『そうはいかんのだよ。奪われたのは、企業にとっても警察にとっても“明るみに出てはまずい最高機密のコンテナだ。連中、中身の価値も分からず、アジトである廃ディスコ・タワー《バビロン》に運び込みやがった』
署長の言葉に、パレットがモニターの前に顔を出し、目をキラキラと輝かせた。
「ねえねえ! それってレイドボス討伐クエスト!? コンテナの中身はウルトラレアの装備!?」
『……相変わらず頭のネジが飛んでる鳥だな。中身は知る必要はない。とにかく、コンテナの中身が他所に漏れる前に奪還しろ。報酬は弾薬一年分と、ウォーマートの無記名商品券一ヶ月分だ』
「商品券……!」
ノワールの金色の瞳が、獲物を前にした猫のように細められた。
「……悪くない」
「やったー! これで光るゲーミングお菓子が一年分買えるね!」
「お前にはカロリーメイトのカスしかやらん」
ノワールは立ち上がり、組み上げたばかりのレールガンを背中に背負った。その瞳には、すでに死神の冷酷な光が宿っている。
「行くぞ、パレット。狩りの時間だ」
「アイアイサー! BGMはEDMでいくよ!」
外では、メガロ・アークのネオンを滲ませる酸性雨が、いっそう激しさを増していた。二人の「ドンちゃん騒ぎ」の幕が、今上がろうとしていた。
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酸性雨が叩きつける第8区のハイウェイ。眼下には腐敗したスラムの暗闇が広がり、頭上では企業広告の巨大なホログラムが亡霊のように明滅している。
その濡れたアスファルトの上を、鼓膜を震
数万ワットのレーザー光線が明滅を止め、狂ったような重低音が鳴り止んだメインホール。そこは今や、硝煙と焦げたゴム、そして甘ったるい合成麻薬の匂いが入り混じる、壮大なスクラップ置き場と化していた。
第8区の中心にそびえ立つ廃ディスコ・タワー『バビロン』。かつてはメガロ・アークの富裕層がスラムの熱狂を安全圏から楽しむ
ネオンの瞬きすら、この街が吐き出す極彩色の吐瀉物でしかない。
メガロ・アーク――天を突き刺す巨大企業の







