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VTuberのクリスマスイブ

VTuberのクリスマスイブ

Last Updated: 2026-01-05 07:24:56
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Synopsis

クリスマスイブに、VTuberのレイは不思議な少女に出会う。


この小説はフィクションです。実在の人物や実在のVTuberとは一切関係ありません。


Chapter1

「――みんな、今日も見てくれてありがとう。おつレイ!」

モニターの向こうに手を振って、私はマイクをオフにした。

チャット欄には「おつレイ」「楽しかった!」の文字が流れ続けていた。

画面を閉じると、部屋に静寂が戻った。

私はレイ。VTuber。

私はこれまで外に出ることがほとんどなかった。

学校もあまり行けず、友達と遊ぶことも少ない日々。

唯一の居場所は、家の中——そして配信の画面の向こうだった。

0からのスタートだった。

最初は数人しか見てくれなかったけれど、コメントが一つ増えるたび、胸が温かくなった。

「レイちゃんの声、落ち着くね」

そんな言葉をもらえたとき、私は泣きそうになった。家にいながら誰かを笑顔にできる喜びを知った。

配信を重ねて、少しずつスパチャが増えた。

それがただの数字じゃなく、誰かが“私に時間をくれている”って思えた。

——その時間は、私の青春そのものだった。

だから――私はいつも心の中で家族に誓っていた。

少しでも恩返しをしようって。




「私……やっぱりプレゼント、買いに行きたい。」

もう夜更けだけど、今日はクリスマスイブ。ショッピングモールは遅くまで開いているはずだ。

そっと玄関へ向かい、静かに外へ出る。

いつのまにか雪が降り始めている。

気温は0℃を下回ってるかも?だけど、不思議と寒くはない。

「どこへ行くの?」

声のした方を見ると、赤と白の衣装を纏った見知らぬ少女が立っている。

ふんわりと裾が揺れ、聖夜の雪にひときわ目を引く存在感を放っている。

誰だろう?

赤と白の色合いに、思わず目を奪われる。

ミサと名乗るその子は、どこか懐かしいような気配をまとっている。

「少しだけ、買い物に行くだけ。家族へのプレゼントを……。」

「じゃあ、わたしも行こう。夜道はさみしいから。」

彼女の声は、聖夜に静かに溶け込むように優しい。


 


ミサは服の裾を揺らしながら、私の隣を歩いている。

雪が、静かに舞っている。

街はイルミネーションでいっぱいだ。

カップルたちが笑い、店先ではケーキが並んでいる。

歩きながら、私は周りを見渡した。

すれ違う人々は皆、まったくこちらを見ない。

——街中なのに、誰も私に気づかない。

配信ではみんな私を知ってるけど、やっぱりリアルでは誰も私を知らない。

画面の向こうでは私が映ってるのに、ここではまるで透明人間みたい。

VTuberだから、顔を知られていないんだろう。

そう思って少し安心した。




幸い、ショッピングセンターはクリスマスの特別営業で夜遅くまで開いているらしい。

「ねえミサ、あのぬいぐるみかわいい!」

「うん、かわいいね。」

ミサは微笑み、ぬいぐるみを抱えてレジへ向かう。

レジの前に立ったとき、私はハッとする。

「どうしたの?」とミサが首をかしげる。

「クレカ、家の中だ。どうしよう……。」

クリスマスの前日に、なんてあわてんぼうな私。所持金0だ。

ミサは少し笑って、自分の財布を取り出す。

「いいよ。今日はわたしのプレゼントでもあるんだから。」

その言葉に、私は小さく頭を下げる。

ミサがレジで会計を済ませる。コミュ力0の私と違って、店員さんにもしっかり話す。

私は見ているだけ。

「ありがとう。……これで、きっと喜んでくれるよね。」

「うん、きっと。」

ミサの隣にいると、心が少し温かくなる。

プレゼントを抱えたミサの衣装の赤が、私の目にいっそう鮮やかに映る。




雪が少しずつ強くなる。

家に着くころには、街灯の灯りが雪にぼやけて見える。

家の明かりはもう落ちている。

ミサがそっとドアノブに手を添えると、鍵は抵抗なく開く。

「……あれ、開いてたんだ」

ミサは小さく笑って、「きっと、あなたを待っていたのかもね」とつぶやく。

家族を起こさないように、ミサが静かにドアを開け、そして閉じる。

私は、ミサを静かに部屋へ案内する。

「家族に渡す前に、ちょっと押し入れに隠しておこう。びっくりさせたいんだ。」

私はミサに笑いかける。

ミサは優しくうなずき、プレゼントの包みを押し入れの奥へとしまう。

押し入れの奥を見ると、古い金魚柄の貯金箱が置いてある。

ずっと忘れていたもの。

プレゼント代には十分な金額が入っている。

本当はみんなからの大切なスパチャで支払いたかったけど、この際仕方ない。

ミサに渡そう。

ミサは首を振った。

「いいの。あれは、私が勝手に立て替えただけだから」

「だめ。このプレゼントは、私のお金で贈らないと意味がないの」

ミサは少しだけ迷ったあと、そっとそれを受け取る。

「……わかった。ちゃんと受け取るね」

これでやるべきことはすべて終わった。

お父さんもお母さんも妹も、明日喜んでくれるかな?




「ねえ、ミサ。私、VTuberになってよかった。VTuberってね、病弱で引きこもりがちだった私が、ようやく見つけた居場所だったんだ。みんなの笑顔を見られて、スパチャで家族に少しは恩返しもできて……。本当に、幸せだった。」

ミサはそっと微笑む。

「これまで支えてくれた人たちにも感謝しているよ。ミサ、あなたもそのひとりだよ。今日は本当にありがとう。」

ミサは少し驚きつつ、優しくうなずく。




「ねぇミサ。あなたは、何者なの?」

「わたし? ……迷える魂を導く者、かな。」

その言葉に、私は思わず目を見開く。

でももう、理解していた。

自分がもう、生きてはいないことを。




翌朝。

窓の外は一面の銀世界。

クリスマスの朝。

家族が、静かにレイの部屋を片づけている。遺品整理のために。

レイの部屋の押し入れから、母へのマフラー、父へのコーヒーカップ、妹へのふわふわのぬいぐるみが見つかる。

父:「……これは、私たちへのプレゼント……?」

妹:「ぬいぐるみ……。お姉ちゃんから……??」

母は涙をこぼし、静かに呟く。

母:「……ありがとうね。」


その瞬間、窓の外で風が舞い、鈴の音がかすかに響く。




玄関から淡く透き通るレイが出てくる。——昨日のように静かにドアをすり抜けて。

そしてそこには——白と朱の巫女装束を纏った少女、ミサが待っている。

その姿は凛としていて、けれどどこか幽玄で、光の粒に溶け込むようだ。

「ありがとう、ミサ。これで……心残り、なくなったよ。」

レイは静かに目を閉じ、柔らかく呟く。

「小さいころから病弱で、外に出られない私でも、VTuberになれた。支えてくれた家族に、ちゃんと感謝を伝えられた。ありがとう……。」

ミサは微笑み、手を合わせる。

「あなたの願いは、ちゃんと届いたわ。病のせいで長生きできなかったけれど——あなたの声は、画面の向こうに届いていた。そして昨夜、あなたの想いは家族のもとへ届いたの。」

レイは静かに目を閉じる。

「みんな、ありがとう——メリークリスマス。」

光の粒が、雪のように舞い上がる。

それは、VTuberのレイが送る最後の配信のように、やさしく世界を照らしていく。




こうして、ひとりのVTuberの霊は安らかに旅立った。

レイの姿がふわりと消えたあと、ミサはひとり空を見上げる。

微かな風が、雪を巻き上げる。

小さく息をつき、救いの巫女は歩き出す。

「――さて、また別の迷える魂を救いに行こう。」

けれどその微笑みは確かに、誰かの心に温かさを残していた。



白む空の下、朝焼けに染まる、ミサの袴の朱が、静かに揺れた。

それはサンタの衣の赤にも似て——「誰か」を救うための、優しい色だった。



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