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ミッション:バカンス

ミッション:バカンス

更新時間: 2026-07-20 02:42:27
語種:  日本語4+
4.5
4 評分
7
章節数
8k
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简介

銀河最強のバウンティハンター、サムス・アラン。 立て続けに発生した事件を解決した彼女は、心身ともに疲弊していた。そんな時、ある依頼の報酬で手に入れたリゾート惑星の招待券を思い出す。 一方、かつてサムスに命を救われた令嬢オウカ・ゴドールは、自身の送った招待券が使われたという報告に胸を躍らせる。彼女はサムス・アランに恋心を抱いていた。相手が女性だという事を知らずに……


IPチャレンジ #14:あの多忙を極めるキャラクターが、強制的に休暇を与えられたら?


章節1

鈍い金属光を放つグラスの中で、琥珀色の液体がゆっくりと揺れていた。氷が立てるささやかな音。コマンダーは革張りの椅子に深く身を沈め、その音に耳を澄ませる。アジトの深く、最も安全なこの部屋では、外の喧騒など届きはしない。静寂こそが権力の証だった。

「フン……」

口の端から、満足の息が漏れる。数日前に襲った商船。ありふれた定期航路を飛ぶ、何の変哲もない一隻。それが、これほどの僥倖をもたらすとは。銀河連邦の息がかかった星域で五指に入るゴドール・グループ。その令嬢が、まるで引き寄せられるかのようにこの手に落ちてきた。

テーブルの上に置かれたデータパッドには、身代金の要求額がデジタル数字の羅列となって表示されている。ゼロの数が、現実感を失わせるほどに長い。この数字が現実のものとなるまで、あと数日。このアジトの維持費、部下たちの報酬、次の襲撃計画の資金。それらすべてを払っても、なお有り余る富。

グラスを傾け、喉を潤す。惑星ダゴバの沼の底で数百年熟成されたという、希少な酒。その芳醇な香りが鼻腔をくすぐり、勝利の味を確かなものにする。

(オウカと名乗ったか、あの小娘……)

捕らえた令嬢の顔を思い浮かべる。気丈にこちらを睨みつけていた瞳。だが、その奥に隠しきれない怯えの色。それがまた、征服欲を心地よく満たした。泣き叫び、命乞いをする姿を想像する。あるいは、身代金が支払われたと知った時の、安堵と屈辱に歪む顔。どちらにせよ、楽しめることには違いない。

「せいぜい、高い勉強代だったと思うことだな」

独りごちて、再びグラスに手を伸ばした、その時だった。

ずん、と。腹の底に響くような、鈍い振動。一瞬ではなかった。床から、壁から、全身を揺さぶるような断続的な衝撃。グラスの中の液体が波紋を広げ、テーブルの縁にこぼれた。

「……なんだ?」

眉をひそめる。演習の予定はなかったはずだ。隕石の衝突か?いや、このアジトは小惑星帯の内部、安定した軌道を持つ岩盤をくり抜いて作られている。外部からの物理的な衝撃には、並の軍艦の主砲でも耐えられる設計だった。

インカムに手をかけようとした、まさにその瞬間。

『──ガッ、ぐぁ……!』

ノイズ混じりの、短い悲鳴。部下の一人のものだ。直後、通信は途絶えた。静寂が戻る。だが、先ほどまでの心地よい静寂とはまるで違う。死が、すぐ隣に口を開けているような、不吉な沈黙。

背筋に冷たいものが走る。一体、何が起きている?

立て続けに、インカムから断末魔が響き渡る。悲鳴。怒号。何らかの爆発音。意味のある言葉を発する者は誰一人いない。ただ、苦痛と恐怖に満ちた音声の断片が、一方的に鼓膜を叩きつけてくる。

「状況を報告しろ!どこのブロックだ!」

椅子から立ち上がり、怒鳴る。返事はない。ただ、先ほどよりも大きく、そして近い場所から、爆音と金属の軋む音が聞こえてきた。アジトの分厚い隔壁が、内側から破壊されていく音。

(銀河連邦か?いや、奴らのやり方にしては手際が良すぎる……)

連邦の介入は、もっと手続き的で、鈍重なはずだ。警告、勧告、最後通牒。こちらの顔色を窺うような、じれったい手順を踏んでから、ようやく重い腰を上げる。こんな風に、何の予兆もなく、内部から崩壊させられるような奇襲は、奴らの流儀ではない。

では、誰だ?ライバルの海賊か?それとも、モネチ・グループが差し向けた私設の傭兵団か?

思考を巡らせる中、指令室の扉が凄まじい勢いで開かれた。

「コ、コマンダーッ!」

転がり込んできたのは、若い部下だった。ヘルメットはどこかに落としてきたのか、顔は煤と汗で汚れ、大きく見開かれた目は恐怖に引きつっている。その肩口からは、おびただしい量の血が流れていた。

「落ちつけ!何があった!敵の正体は!」

「わ、分かりません!敵は、たった一人……!」

「一人だと?」

馬鹿な、と喉まで出かかった。このアジトには百人以上の兵士がいる。最新鋭の装備で武装した、歴戦のならず者たちがだ。それが、たった一人の侵入者にここまで攪乱されているというのか。

「ど、どんな奴なんだ!」

部下の肩を掴み、揺さぶる。その体は小刻みに震えていた。

「パ、パワードスーツ……。赤い、ヘルメット……緑色の、バイザー……」

途切れ途切れの言葉が、コマンダーの思考を停止させた。

赤いヘルメット。
緑のバイザー。

その特徴を持つ存在を、宇宙に生きる無法者で知らぬ者はいない。それは、恐怖の象徴。死神の異名。銀河にその名を轟かせる、最強の……。

「腕が、腕がキャノンになってて……ビームを……仲間が、次々と……」

部下の言葉が、遠くに聞こえる。血の気が引いていく。指先が、氷のように冷たくなるのを感じた。グラスを取り落とし、床に叩きつけられて砕ける甲高い音さえ、もはや認識できない。

まさか。そんなはずはない。何故、あのハンターがここに?我々は、ただのしがない海賊団だ。国家を揺るがすような大それた計画があるわけでも、古代文明の超兵器を隠し持っているわけでもない。ただ、運良く大物の令嬢を攫っただけ。それだけだ。

惑星規模の危機でもなければ動かない。そう聞いていた。

なのに、なぜ。

震える唇が、自分のものではないように動く。掠れた声が、乾いた喉から絞り出された。

「……サムス・アラン……」

その名を口にした瞬間、部下の顔から最後の色が失われた。そして、コマンダー自身も。希望という名の光が、音を立てて消えていくのを、ただ呆然と感じていた。

絶望とは、こういう音を立てて訪れるものらしい。

通路の壁に背を預けながら、男は荒い息を繰り返していた。ブラスターの冷却装置が放つ熱だけが、この凍てつくような恐怖の中で唯一の現実感だった。すぐ側で、仲間が壁ごと蒸発した。悲鳴を上げる間もなかった。黄色い閃光が走り、一瞬の後には、焦げ付いた金属の匂いと、黒い人型の染みが残されただけ。

『Aブロック、突破された!』
『クソッ、どこから撃ってやがる!』
『見えな──ぐぅっ!』

インカムから聞こえてくる叫び声が、一つ、また一つと途絶えていく。数分前まで威勢の良かった声が、今は死の沈黙に変わっている。

こちらには、百人以上の兵士がいる。強固な装甲で守られた要塞。地の利はこちらにあるはずだった。それなのに、まるで蜘蛛の巣に絡め取られた虫のように、一方的に狩られていく。

足音が聞こえる。

カツン、カツン、と。

無機質で、冷徹なリズム。焦りも、迷いも感じられない、あまりに規則正しい足音。それが、じりじりとこちらに近づいてくる。このアジトの構造など、すべて把握しているとでもいうように。

恐怖が、喉の奥で氷の塊になる。引き金を引く指が、鉛のように重い。

角の向こうから、影が伸びてくる。長い影。そして、その影の主が姿を現した。

見上げるほどの大柄な人影。白と橙を基調とした、流線形のパワードスーツ。肩は丸く、しかし力強く張り出し、胸部装甲は赤く塗られている。そして、顔を覆う赤いヘルメットと、感情の一切を読み取らせない、深淵のような緑色のバイザー。

右腕のアームキャノンが、静かに前方を向いている。その先端は、黒く、深く、死そのものを凝縮したかのような空洞だった。

「……ッ!」

誰かが息を呑む音が、やけに大きく響いた。

「撃て!撃てぇぇぇっ!」

誰かの絶叫が、合図だった。通路にいた十数人の兵士たちが、一斉にブラスターの引き金を引く。赤いレーザー、青いプラズマ。あらゆる殺意が、その人影へと殺到した。通路が、光と熱で白く染まる。

しかし、そのどれもが届かない。

人影は、まるで未来を予知しているかのように、最小限の動きで弾道を避ける。身を屈め、横にステップし、時には宙を舞う。その動きは、戦闘というよりは舞踏に近い。重力を感じさせない、しなやかで、あまりに美しい動き。

そして、反撃。

アームキャノンから放たれるチャージビームが、こちらの隊列を薙ぎ払う。一瞬の閃光の後、三人の仲間が跡形もなく消し飛んだ。悲鳴が上がる。隊列が乱れる。そこへ、的確に追撃のビームが撃ち込まれる。

「こ、光学迷彩!カマキリ!どこにいる!」

一人が叫ぶ。そうだ、我々には切り札がいる。アジト最強の兵士、その姿を周囲の風景に溶け込ませる光学迷彩の暗殺者。通称、「カマキリ」。奴ならば、あの化け物の背後を取れるはずだ。

その時、サムスの背後の空間が、陽炎のように揺らいだ。

きた!

誰もがそう確信した瞬間。

サムスは、振り返らなかった。

ただ、左腕を軽く後ろに振るう。その手の中から、細く、青い光の鞭のようなものが伸び、空中で何かを捉える。

「──ッ!?」

何もない空間から、カマキリの姿が実体化した。その首に、プラズマの鞭が巻き付いている。必死にもがくが、鞭は皮膚に食い込むばかりだ。

サムスは、そのままカマキリを軽々と持ち上げると、おもちゃでも捨てるかのように、前方の兵士たちに向かって投げつけた。

「うわあああっ!」

凶器と化した仲間が、盾となり、壁となる。数人が巻き込まれて倒れた。その一瞬の隙を、サムスは見逃さない。

アームキャノンから、小さなミサイルが三発、連続で発射される。それは、それぞれ違う軌道を描き、壁や天井で跳ね返りながら、残った兵士たちを正確に捉えた。

爆発。

爆発。

爆発。

耳を覆うこともできず、男は最後の光景を目に焼き付けていた。

気づけば、立っているのは自分一人だった。

周囲には、かつて仲間だった肉片と、焼け焦げた金属の残骸が散らばっている。ひゅう、と風が吹き抜けるような音が、自身の喉から漏れていた。

足が、動かない。

目の前に、あの人影が立っていた。緑のバイザーが、真っ直ぐにこちらを見つめている。距離は、三メートルほど。絶望的なまでに、近い。

「ひ……」

声にならない声が漏れる。震える手でブラスターを構えようとするが、それよりも速く、サムスのアームキャノンが持ち上げられた。

眼前へと突きつけられる、黒い砲口。

その円の中に、男は自分の死を見た。

静寂。

わずか数分前までの喧騒が嘘のように、アジトは死の沈黙に支配されていた。通路の壁には無数の弾痕が刻まれ、床には破壊されたドロイドの残骸と、二度と動くことのない者たちが転がっている。焦げ付いた肉と、オゾンの匂いが混じり合った、不快な空気が淀んでいた。

その中心に、サムス・アランは立っていた。

パワードスーツについた返り血を振り払うような、わずかな身じろぎすらない。ただ、緑色のバイザーが、ゆっくりと周囲をスキャンしていく。

手首の通信デバイスを操作し、ホログラムのマップデータを空間に投影する。このアジトの簡易的な構造図。襲撃の前にハッキングで入手したものだ。生命反応のあった地点は、すべて赤く点滅し、そして今は消えている。ただ一つ、隔離された区画に、微弱な反応が残っていた。

おそらく、そこが人質のいる場所だろう。

マップデータをヘルメットのディスプレイに転送し、ホログラムを消す。次の行動に移ろうとして、ふと、小さく息を吐いた。ヘルメットの遮音機能がなければ、ため息として外に漏れていたかもしれない。

「……救出依頼など面倒だ」

誰に聞かせるともない、小さな呟き。報酬額は大きかったが、そういう問題ではない。

思考を切り替える。目の前には、分厚い隔壁と、その上部に設置された小さなメンテナンスハッチ。正規のルートを行けば、無駄に時間がかかるだろう。

サムスはアームキャノンを構え、ミサイルモードに切り替える。ロックオンの電子音が、静かなヘルメット内に響く。ターゲット、メンテナンスハッチ。

一瞬の後、放たれたミサイルがハッチを正確に撃ち抜き、小規模な爆発とともに、黒い穴が口を開けた。

サムスはその穴を見上げると、流れるような動作でスーツの機能を切り替える。ごとり、という硬質な音とともに、巨大なパワードスーツが光に包まれ、収縮していく。

そして、光が収まった後には、直径一メートルほどの、輝く金属球だけが残されていた。モーフボール。

ボールは静かに回転を始めると、重力に逆らうように壁を駆け上がり、先ほど開けたばかりの暗いダクトの中へと、音もなく吸い込まれていった。

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