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屋根裏の死体は、私の物語を知っている

屋根裏の死体は、私の物語を知っている

更新時間: 2026-05-08 11:32:16
By: MAX4592
已完結
語種:  日本語4+
4.7
6 評分
8
章節数
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简介

古い家に引っ越してきた少女・澪は、屋根裏で正体不明の死体を見つける。


そのそばにあった原稿には、澪が屋根裏に入るまでの行動がすべて書かれていた。


さらに原稿は、まだ起きていない“明日”まで記していて――。


章節1

屋根裏に死体があった。

悲鳴を上げるべきだったのだと思う。

階段を転げ落ちるように逃げて、警察を呼ぶべきだったのだと思う。

あるいは、これは夢だと自分に言い聞かせて、今すぐ扉を閉めるべきだったのかもしれない。

けれど私は、どれもできなかった。

足の裏が床に貼りついたみたいに動かない。

喉の奥がひゅっと細くなって、声が出ない。

手に持っていた懐中電灯だけが、かすかに震えていた。

光の輪の中に、その人はいた。

古びた机に突っ伏している。

背中は少し丸く、右手には黒い万年筆。

左手は、何枚もの原稿用紙の上に置かれていた。

死体だ、と理解するまでに時間がかかった。

だって、その人はあまりにも静かだったから。

血の匂いもしない。

腐った匂いもしない。

眠っているみたいだった。

ただ長い時間、ここで書き物をして、疲れて眠ってしまっただけのように見えた。

けれど、眠っている人間なら、呼吸をする。

肩が上下する。

体温がある。

その人には、何もなかった。

「……うそ」

ようやく口から出た声は、ひどく小さかった。

ここは、昨日から私たちが暮らし始めた家の屋根裏だった。

母が再婚して、新しい父親ができて、私たちはこの古い一軒家に引っ越してきた。

海から少し離れた坂の上にある、古い洋館みたいな家。

築年数はわからない。

不動産屋は「少し古いですが、雰囲気のある家ですよ」と笑っていた。

少し古い、どころではない。

廊下は歩くたびに鳴るし、窓枠は歪んでいるし、夜になると壁の中で何かが軋む。

それでも母は、この家を気に入っていた。

「澪も、きっと好きになるわよ。本がたくさん似合う家だから」

母はそう言った。

私は曖昧に笑った。

本が似合う家という言い方は嫌いじゃなかった。

でも、知らない男の人とその家に一緒に暮らすことを、すぐに好きになれるほど、私は素直ではなかった。

だから荷ほどきもそこそこに、家の中をひとりで歩き回った。

逃げ場を探していたのだと思う。

リビングでもなく、母のいるキッチンでもなく、新しい父親の書斎でもない。

私だけが息をできる場所。

そして二階の廊下の突き当たりで、天井に小さな取っ手を見つけた。

引いてみると、折りたたみ式の階段がぎしぎし音を立てて降りてきた。

埃が雪みたいに舞った。

屋根裏部屋。

秘密の場所みたいだと思った。

それが、ほんの数分前のことだった。

「誰……?」

私は死体に向かって、そう問いかけた。

返事があるはずもない。

屋根裏は狭く、天井が低かった。

梁が斜めに走り、古い木材の匂いと埃の匂いが混ざっている。

小さな丸窓から夕方の光が差し込み、空気の中の埃だけを金色に浮かび上がらせていた。

部屋の隅には古い椅子。

破れたカーテン。

蓋の開いたトランク。

積み上げられた本。

そして、机に突っ伏した死体。

まるで、この人だけが最初からここにいたみたいだった。

私は一歩だけ近づいた。

床板が鳴る。

びくりとして、足を止める。

死体は動かない。

もう一歩。

懐中電灯の光が、その人の手元を照らした。

万年筆。

黒い軸に、銀色の細い飾りが入っている。

古いけれど、手入れされているように見えた。

そのペン先には、まだインクがついていた。

乾いていない。

私は息を呑んだ。

おかしい。

死体がどれくらい前からここにあるのかなんて、私にはわからない。

でも、少なくとも今さっき死んだようには見えなかった。

屋根裏の床にも机にも、分厚い埃が積もっている。

この部屋は、長い間誰にも開けられていなかったはずだ。

なのに、万年筆のインクだけが濡れている。

黒い雫が、今にも原稿用紙に落ちそうだった。

私は机の上を見た。

原稿用紙が積まれている。

古い紙だった。

少し黄ばんでいて、端が丸まりかけている。

けれど、そこに書かれた文字は妙に新しかった。

黒々として、今まさに書かれたばかりのようだった。

読んではいけない。

そう思った。

死体のそばにある原稿なんて、読んでいいものではない。

警察を呼ぶべきだ。

母を呼ぶべきだ。

この部屋から出るべきだ。

そう頭ではわかっていた。

でも、私はその場から動けなかった。

なぜか原稿から目を離せなかった。

一枚目の上部には、タイトルらしきものが書かれていた。

文字は綺麗だった。

細く、少し癖のある字。

私は懐中電灯を近づける。

そこには、こう書かれていた。

屋根裏の死体は、私の物語を知っている

その瞬間、背中を冷たいものが滑り落ちた。

私の物語。

そう読めた。

でも、私の思い違いかもしれない。

そういうタイトルの小説なのかもしれない。

たまたま、そういう言葉が書いてあっただけかもしれない。

私は震える指で、一枚目をめくった。

めくってしまった。

そこには、私の名前があった。

澪は、屋根裏に死体を見つけた。

息が止まった。

私は原稿から顔を上げた。

目の前の死体を見る。

そして、もう一度原稿を見る。

文字は変わらない。

澪は、屋根裏に死体を見つけた。

私の名前。

今、この瞬間。

この場所。

頭の中が白くなる。

偶然だ。

偶然に決まっている。

澪なんて名前は珍しくない。

屋根裏に死体が出てくる小説だって、どこかにはあるかもしれない。

でも、次の行がそれを許さなかった。

悲鳴を上げるべきだったのだと思う。 階段を転げ落ちるように逃げて、警察を呼ぶべきだったのだと思う。 けれど澪は、どれもできなかった。

私は、自分の喉に手を当てた。

さっき私が思ったことだ。

誰にも言っていない。

声にもしていない。

頭の中だけで考えたこと。

それが、そこに書かれていた。

「なに、これ……」

今度は、声が出た。

けれどその声も、屋根裏の埃に吸い込まれていくみたいに小さかった。

私は原稿をさらに読んだ。

そこには、私がこの家に引っ越してきたことが書かれていた。

母が再婚したこと。

私が新しい父親をまだ「お父さん」と呼べないこと。

この家を少し気味悪いと思っていること。

二階の廊下の突き当たりで、天井の取っ手を見つけたこと。

全部、書かれていた。

細かすぎるほどに。

まるで、誰かが私の背後にずっと立っていて、心の中まで覗き込みながら書いたみたいだった。

私は原稿を落としそうになった。

指先が冷たい。

胸の奥がどくどく鳴っている。

誰が書いたのか。

この死体が?

だとしたら、この人はいつから私を知っていたのか。

どうして私の家にいるのか。

どうして私がここに来ることを知っていたのか。

いや、違う。

この家に来たのは昨日だ。

この屋根裏を見つけたのは今日だ。

私自身ですら、数分前までここに来るなんて知らなかった。

なのに。

私は、原稿の続きを読んだ。

彼女はまだ知らない。

そこで、手が止まった。

次の一文を読みたくなかった。

でも、目は勝手に追っていた。

その死体が、自分の結末を知っていることを。

膝から力が抜けそうになった。

結末。

その言葉だけが、やけにくっきりと目に焼きついた。

私の結末。

私の終わり。

私がどうなるか。

死体が、それを知っている?

「……ふざけないで」

誰に向かって言ったのか、自分でもわからなかった。

死体にか。

原稿にか。

それとも、こんなものを読んでしまった自分にか。

私は原稿を机に戻そうとした。

けれど、その時だった。

机の上で、万年筆がかすかに動いた。

ほんの少し。

死体の指に挟まれたまま、ペン先が紙を擦った。

私は息を止めた。

動いた?

死体が?

違う。

手は動いていない。

指も動いていない。

けれどペン先だけが、黒い線を引いていた。

ゆっくりと。

震えるように。

原稿の余白に、新しい文字が生まれていく。

私は逃げることもできず、それを見ていた。

黒いインクが紙に染み込む。

一文字。

また一文字。

澪は、原稿を閉じる。

私は反射的に原稿を閉じようとした。

その瞬間、全身が凍った。

いま、私は書かれた通りに動こうとした。

怖くなって、手を止める。

原稿はまだ開いたまま。

私の指は、紙の端に触れたまま。

すると、書かれた文字が滲んだ。

水を垂らしたみたいに輪郭が崩れ、黒い染みになっていく。

そして、その下に別の文字が浮かび上がった。

澪は、原稿を閉じようとして、やめた。

「……っ」

私は後ずさった。

床板が大きく鳴る。

背中が梁にぶつかり、埃が落ちてきた。

くしゃみが出そうになったが、そんなことをしている場合ではなかった。

原稿が、私を見ている。

そう思った。

いや、違う。

原稿が私を見ているのではない。

原稿は、私を書いている。

私が何をするのかを、先に知っている。

そして、私が違う動きをすると、それに合わせて書き換わる。

そんな馬鹿なことがあるはずない。

あるはずがないのに、目の前で起きている。

「澪?」

下から母の声がした。

私は肩を跳ねさせた。

「どこにいるの? 夕飯、もうすぐできるわよ」

現実の声だった。

母の声。

一階から聞こえる、いつもの声。

その声を聞いた瞬間、私はようやく自分がまだこの家にいることを思い出した。

この屋根裏の下には、キッチンがあって、母がいて、新しい父親がいて、普通の夕飯がある。

死体も原稿も、ここだけが悪い夢みたいだった。

「澪?」

もう一度、母が呼ぶ。

私は返事をしようとした。

けれど、原稿の上にまた文字が浮かんだ。

澪は、母に返事をしない。

ぞっとした。

私は歯を食いしばった。

そして、喉の奥から無理やり声を出した。

「いる! 二階!」

声が震えた。

下で母が小さく笑う気配がした。

「屋根裏? 埃っぽいから、あまり長くいないでね」

普通の返事。

普通の会話。

私は泣きそうになった。

原稿を見る。

さっきの一文が、ぐずぐずに滲んでいた。

澪は、母に返事をしない。

その文字は溶けるように消え、代わりに別の文章が浮かぶ。

澪は、母に返事をした。 声は震えていた。

私は唇を噛んだ。

変えられる。

少なくとも、少しは。

原稿に書かれた通りにしか動けないわけじゃない。

私が違うことをすれば、文字も変わる。

でも、それは安心ではなかった。

むしろ、もっと怖かった。

だってそれは、この原稿がただ未来を予言しているわけではないということだから。

私と原稿の間に、何かがある。

私が動くと、原稿が変わる。

原稿が書くと、私は動きそうになる。

どちらが先なのか、わからない。

私は机の上の原稿を見つめた。

死体は何も言わない。

ただ、万年筆を握ったまま机に伏せている。

その横顔は髪に隠れていて、よく見えなかった。

男なのか女なのかも、年齢さえもはっきりしない。

でも、なぜかその人の顔を見るのが怖かった。

もし見てしまったら、もっと戻れなくなる気がした。

私は机の上から、原稿の束をそっと持ち上げた。

重い。

紙なのに、やけに重かった。

一枚目。

二枚目。

三枚目。

そこには、私の今日が書かれていた。

朝、母が新しい制服のしわを気にしたこと。

新しい父親が「何か困ったら言ってね」と言ったこと。

私が「はい」とだけ答えて、自分でも冷たい声だと思ったこと。

昼に部屋で荷ほどきをしていて、昔のノートを見つけたこと。

そのノートに、書きかけの小説が入っていたこと。

そこまで読んで、私は手を止めた。

それは誰にも見せていない。

母にも、友達にも。

私は昔から物語を書くのが好きだった。

でも、それを誰かに読まれるのは怖かった。

私の中身を見られるみたいで嫌だった。

だから、書いては隠して、また書いて、また隠した。

そのノートも、段ボールの底に入れてあったはずだった。

なのに、それも書かれている。

私は震えながらページをめくった。

さらに先へ。

もっと先へ。

今日の夕飯。

母の作ったシチュー。

新しい父親が、私に屋根裏は危ないから気をつけるように言うこと。

私が何も答えず、スプーンでじゃがいもを潰すこと。

そこまでは今日のことだった。

でも、次のページの上に書かれていた日付を見て、私は息を止めた。

明日の日付だった。

まだ来ていない日。

その下には、明日の朝の私が書かれていた。

澪は目覚まし時計が鳴る三分前に目を覚ます。 夢の中で、屋根裏の床板が鳴っていた。

私はもう、それ以上読めなかった。

原稿を閉じる。

今度は自分の意志で。

机の上に戻そうとして、やめた。

置いていけば、この部屋にまた戻らなければならなくなる。

でも持っていけば、これを家の中に連れていくことになる。

どちらも嫌だった。

下から食器の音がした。

母の声。

新しい父親の声。

普通の家族みたいな音。

私は原稿の束を胸に抱えた。

死体をもう一度見る。

「あなたは……誰なの?」

返事はない。

けれど、万年筆のペン先から黒いインクが一滴落ちた。

ぽたり。

原稿の一番上に、黒い染みが広がる。

その染みは、ゆっくりと文字の形になった。

明日、澪は気づく。 この家に、出口がひとつ足りないことに。

私は、息をするのを忘れた。

屋根裏の外で、母が私を呼んでいる。

「澪、降りてきなさい」

私は原稿を抱きしめたまま、階段へ向かった。

背後に死体を残して。

扉を閉める直前、振り返った。

机に伏せたその人は、やはり少しも動いていなかった。

けれどなぜか、その人が笑っているような気がした。

私は急いで扉を閉めた。

暗闇に戻る直前、屋根裏の中で床板が一度だけ鳴った。

まるで、誰かが立ち上がったみたいに。

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