简介
ヴァーレンス王国から衛生面で法的にとても厳しいカイアス王国とアンリ王国の国境の街にやってきたミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒ公爵と水鏡冬華、フレデリック=ローレンスとアリウス=シュレーゲル。罪を犯したとされて罰を受けさせられる流れとなってしまう。
その罪とはいったい何なのか!? そして本当に罪なのはどいつなのか!?
章節1
「宇宙一清潔な街」クリーンゲート——。
石畳は磨き上げられた鏡のようで、朝の光を受けて白く輝いていた。風が吹けば、排気の匂いどころか、草木の香りさえも立ち込めることはない。空気は無味無臭、まるで透明な水を呼吸しているような錯覚さえ覚える。
街の入り口に立つ四人の影が、長く伸びてから消えていった。
「……うわっ。本物だな、ここ」
最初に声を上げたのは、漆黒の鎧をまとったフレデリック=ローレンスだった。彼は肩の上で二振りの剣を回しながら、あからさまに面倒くさそうに街並みを見渡す。
「ゴミひとつ落ちてねぇ。小石すらないじゃねぇか。まさに"何もない"って感じだぜ」
ミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒが、苦笑いを浮かべて答えた。
「カイアスとアンリの国境に位置する交易都市のはずだが……ここまで徹底されているとはな」
彼は貴族的な仕草で顎を撫で、澄んだ空を見上げる。雲ひとつない。空気は澄み切って、遠くの山稜まで鮮やかに見えた。
「魔導浄化装置が三百六十基、常時稼働しているとのことです」
銀髪に赤い瞳のアリウス=シュレーゲルが、手帳をめくりながら淡々と説明する。
「維持費は推定で王国の通常予算の……おおよそ十二倍。これだけの投資を"衛生"に注ぎ込むとは、興味深い事例ですね」
「……息苦しい」
水鏡冬華が、小さく呟いた。長い黒髪を揺らし、白い指で自分の襟元を摘む。普段は感情を表に出さない彼女だが、眉が僅かに寄っている。
「冬華、大丈夫か?」
ミハエルが心配そうに声をかける。冬華は首を振った。
「わたしは……別に。ただ、あまりに清潔すぎて、声を出すのも憚られるような……そんな気がして」
実際、街を行く人々は皆、静かだった。歩調は整然として、会話は低い声で交わされる。笑顔は見られるが、大声で笑う者はいない。子供でさえ、落ち着いた足取りで歩いている。
「へぇ……"宇宙一"ってのは大袈裟じゃなかったな」
フレッドが、興味なさそうに呟いた。
「清掃用の魔導人形が巡回している。見てろ、あれが"サニタリー・スキャナー"だ」
アリウスが指差した先——。白い制服を着た衛兵たちが、杖のような装置を携えて歩いていた。杖の先端に浮かぶ小さな水晶が、淡い光を放っている。
「あれが、空気中の埃一つでも感知するらしい。0.1ミクロンの粒子でも見逃さないとか……」
「うるさいんだろうな、捕まったら」
フレッドが、ふっと唇を歪めた。
「道徳規範違反……つまり、大声を出したり、道端で腰を下ろしたり、食べ歩きをしたり……それだけで注意を受けるらしい。厳重注意だ」
「……退屈な街だ」
冬華の呟きに、三人が同時に頷いた。
だが、そんな彼らの"退屈"を裏返すように、事件は突然やって来た。
最初にそれを"嗅ぎつけた"のは、フレデリックだった。
「……ん?」
彼が鼻をひくつかせる。黒い鎧の胸元に、小さな音が鳴った。
「……なんだ、これは」
ミハエルが眉を寄せた。風が、変わった。さっきまで無味無臭だった空気に、かすかな"違和感"が混じった。
「……臭い?」
アリウスが、銀の髪を揺らして振り返る。彼の赤い瞳が、街の奥——中央広場の方向を見据えた。
「……いや、待て。これは……"臭気"ではない」
冬華が、ゆっくりと顔を上げる。
「……これは、'気配'だ。誰かが……"何か"をしようとしている」
瞬間、広場の方角で、小さなざわめきが起こった。人々の足が止まる。視線が、一点に集まる。
「……見に行こう」
ミハエルが先に立って歩き出す。残る三人が、続いた。
広場は、噴水を中心に整備された円形空間だった。白い石畳はピカピカに磨かれ、噴水の水さえも、人工的な青さを放っている。
その中心に——。
「……あれは?」
フレッドが、目を細めた。
噴水の縁に座り込む、一人の男がいた。年の頃は三十前後。普段着の上衣を脱ぎ捨て、半裸で肩で息をしている。額に汗の玉を浮かべ、目は血走っていた。
男の前に、小さな"穴"が空いている。円形に、石畳が抉れている。直径、おそらく五十センチ。深さは十センチほどだ。
だが、問題はその"穴"の中身だった。
「……なんだ、あれ……?」
冬華が、眉を寄せる。
穴の底に、黒い"塊"が見えた。不規則な形をした、掌大のそれは——。
「……"糞"……だろうか?」
アリウスが、恐る恐る呟いた。
「人間の……排泄物が、あんなに……」
言葉を濁す彼に、ミハエルが答える。
「……いや、違う。あれは……"合成"だ。見ろ、表面が……光っている」
実際、黒い塊は、まるでワックスでも塗ったように、ぬめりを帯びていた。異様に"整然"とした形だ。人間の生理産物とは、どこか"質"が違う。
「……つまり、あいつ……」
フレッドが、にやりと口元を吊り上げた。
「"宇宙一清潔な街"に……"汚物"を持ち込もうとしたってわけか?」
その瞬間——。
「——そこを動くな!」
鋭い声が響いた。白い制服の衛兵たちが、一斉に男を取り囲む。杖の水晶が、赤い光を発して、男を照らし出す。
「貴様……道徳規範第壱条、環境美化規程第参項に違反! 即座に自首せよ!」
だが、男は——笑った。
「……はは……はははは……!」
上ずった笑い声が、広場に響く。人々が、ざわめく。衛兵たちが、一歩詰め寄る。
「黙れ! この……"汚物"め!」
「……"汚物"?」
男が、ゆっくりと顔を上げた。目は爛々と輝いている。
「違う……これは……"芸術"だ……!」
彼は、震える手で穴の中の黒い塊を掬い上げた。衛兵たちが、一斉に剣を抜く。
「やめろ! 離れろ!」
「……見ろ……この"輝き"……!」
男が、両手で塊を掲げる。光を受けて、それはまるで……黒い宝石のように、輝いた。
「こんなに……"美しい"ものを……"汚物"だと……?」
「……"美しい"?」
アリウスが、眉をひそめる。
「……あの男、精神が……"壊れている"」
「いや……」
ミハエルが、首を振った。
「……"壊れている"のは……この"街"だ……!」
その瞬間、男が——叫んだ。
「——"おなら"だと……!?」
全員が、凍りついた。
「……は?」
フレッドが、目を瞬かせる。
「……"おなら"?」
冬華が、小さく呟いた。
「……そう……"おなら"だ……!」
男が、笑いながら、黒い塊を抱え込む。
「俺は……ただ……"おなら"をしただけだ……!」
衛兵たちの顔が、紙のように青ざめる。
「……"おなら"をしただけで……"罪人"にされた……!」
広場が、静まり返った。
「……"おなら"をしただけで……?」
アリウスが、信じられないという顔で呟く。
「……そんな……馬鹿な……」
「……"馬鹿"じゃない……!」
男が、叫んだ。
「これが……この"街"の……"真実"だ……!」
彼は、黒い塊を——頭上に掲げた。
「——見よ! これが……"宇宙一清潔な街"の……"真実"だ——!」
瞬間、風が——変わった。
空気が、重くなる。臭気ではない。だが、何かが……"腐っている"ような、そんな"気配"が、街全体を包んだ。
「……まずい」
ミハエルが、低く呟く。
「……これは……"始まり"だ……!」
その時——。
どこからか、鐘の音が響いた。低く、重く、街全体に響き渡る——"警鐘"だ。
「……"警報"だ……!」
アリウスが、顔を上げる。
「……"汚染"が……"検出"された……!」
人々が、ざわめき始める。足早に歩き出す。誰もが、同じ方向——街の外へ、向かって歩いていく。
「……"避難"だと……?」
冬華が、呟く。
「……"おなら"ひとつで……"避難"……?」
「……つまり……」
フレッドが、にやりと笑った。
「——これが……"おならしたら罪人"ってわけか……!」
四人の顔が、同時に——"覚悟"の色を帯びた。
「……面白くなってきたな……!」
最新章節
夜の風が、屋上を這い上がってきた。ミハエルは、まだ熱を帯びた魔法陣の上に立ち、眼下に広がるクリーンゲートを見下ろす。街灯が点々と並び、遠くで赤い警告灯が瞬いている。そして、頭上——。
<朝の光が石畳を白く照らす頃、クリーンゲートの市場通りはすでに騒がしかった。衛兵の靴音が規則正しく響き、清掃用の魔導人形がぶんぶんと円を描きながら埃を吸い取る。見知らぬ旅人が「きれいな街ですね
階段を降りる足音が、規則正しく響いていた。鉄の手すりは冷たく、指先が赤くなるほどだ。地下へ向かう螺旋階段は、まるで巨大な貝の中を這い下りているようだった。明かりは壁に埋め込まれた小さな魔導灯
宇宙一清潔な街クリーンゲート——。
石畳は磨き上げられた鏡のようで、朝の光を受けて白く輝いていた。風が吹けば、排気の匂いどころか、草木の香りさえも立ち込めることはない。空気は無味無
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