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午前3時のロスト・モール

午前3時のロスト・モール

更新时间: 2026-06-12 09:06:59
By: tune-00
已完结
语种:  日本語4+
4.7
7 评分
7
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简介

深夜のショッピングモールで、世界は止まった。


平凡な高校生・レンが忘れ物を取りに訪れたモールは、気づけば誰もいない異界へと変貌していた。時計は午前三時を指したまま動かず、出口はすべて閉ざされている。


そこでレンは、クラスに転校してきた謎の美少女・アキと出会う。


彼女は「禁区」と呼ばれる異界を狩る一族の末裔だった。


禁区とは、人々の未練や憎しみが積み重なって生まれる、現実から切り離された閉鎖空間。そして夜明けまでに脱出できなければ、人は存在そのものを失ってしまう。


脱出の鍵となるのは、禁区の中心に存在する「コア」。


しかし、その禁区にはレンが密かに想いを寄せていたクラスメイト・シオリが囚われていた。


消えた少女。


三年前の謎の転落死。


忘れ去られた姉の存在。


そしてショッピングモールの地下に隠された、誰も知らない真実。


レンは禁区を巡る謎を追ううちに、シオリの悲しみだけでは説明できない巨大な秘密へと辿り着く。


それは、アキの一族が何百年にもわたって続けてきた禁忌だった。


犠牲となった魂で怨念を封じる「禁区」。


忘れられた死者たち。


繰り返される封印。


そして、その果てに待つ選択。


人を犠牲にして世界を守るのか。


それとも誰一人見捨てないという不可能な理想を信じるのか。


午前三時の閉ざされたモールで、少年は答えを選ぶ。


これは、忘れられた少女の心臓を探す物語。


そして、世界のどこかに残された「禁区」を終わらせるために出会った、ひとりの少年とひとりの少女の最初の事件である。


章节1

 その異変に気づいたのは、モールの自動ドアをくぐった直後だった。

 静かすぎる。

 レンは思わず立ち止まった。

 平日の夜とはいえ、ここは市内でも有数の大型ショッピングモールだ。二十二時近くになれば人は減るが、それでも完全な無人になることはない。

 どこかの店舗から流れるBGM。

 遠くで響く店員の声。

 エスカレーターの駆動音。

 買い物客の話し声。

 本来なら耳に入ってくるはずの雑音が、ひとつも聞こえなかった。

 まるで世界から音だけが切り取られてしまったようだった。

「……なんだ?」

 独り言さえ妙に大きく聞こえる。

 レンはスマートフォンを取り出し、時刻を確認した。

 午後十時十三分。

 表示は正常だ。

 だが違和感は消えない。

 ガラス張りの吹き抜け広場にも人影がない。

 閉店準備をしている店員の姿すら見当たらなかった。

 それでも、目的はすぐそこだった。

 忘れ物を取って帰るだけ。

 それだけの話だ。

 レンは自分にそう言い聞かせると、エスカレーターへ向かった。

 数分後。

 二階の学習スペースにある机の上で、目的の本を見つけた。

 図書委員のシオリから借りていた小説だった。

 数日前から学校を休んでいる彼女に返そうと思っていたのに、うっかり置き忘れてしまっていたのである。

「よかった……」

 本を鞄へしまい、肩の力を抜く。

 これで帰れる。

 そう思った瞬間だった。

 カチリ。

 どこかで時計が鳴った。

 その音は妙に大きく、静まり返ったモール全体へ響き渡った。

 レンは反射的に顔を上げる。

 吹き抜け広場の巨大な壁掛け時計。

 その長針と短針が、ぴたりと重なっていた。

 午前三時。

 そして秒針は動いていなかった。

「……は?」

 思わず声が漏れる。

 さっきスマホで確認した時刻は十時過ぎだったはずだ。

 見間違えるはずがない。

 だが時計は確かに午前三時を示している。

 しかも。

 秒針が止まっている。

 故障だろうか。

 そう考えながらスマートフォンを見たレンは、息を呑んだ。

 画面上の時刻も。

 午前三時〇〇分。

 になっていた。

「なんだよ……これ」

 電波表示は圏外。

 再読み込みを繰り返しても繋がらない。

 嫌な汗が背中を伝う。

 レンは早足でエスカレーターへ向かった。

 帰ろう。

 とにかく帰ろう。

 一階へ降り、正面入口へ向かう。

 だが。

 自動ドアの向こうには、鋼鉄製のシャッターが降りていた。

 完全に。

 隙間ひとつなく。

「嘘だろ……」

 レンは駆け寄った。

 叩く。

 引く。

 蹴る。

 びくともしない。

 非常口へ向かう。

 閉まっている。

 裏口へ向かう。

 閉まっている。

 搬入口へ向かう。

 閉まっている。

 すべての出口が封鎖されていた。

 まるで最初から逃がすつもりなどないかのように。

 心臓が嫌な音を立てる。

 息が浅くなる。

 落ち着け。

 パニックになるな。

 だが理性は急速に削られていった。

 その時だった。

 コツ。

 足音が聞こえた。

 レンは振り返る。

 誰もいない。

 長い通路の先には、閉ざされた店舗が並んでいるだけだった。

 コツ。

 再び。

 今度ははっきり聞こえた。

 婦人服売り場の奥からだ。

「誰かいるのか?」

 返事はない。

 だが足音は近づいてくる。

 コツ。

 コツ。

 コツ。

 規則正しく。

 まるで人間のように。

 やがて売り場の陰から現れたものを見て、レンは凍りついた。

 白い脚だった。

 マネキンの脚。

 ただし、その上には何もない。

 胴体も。

 腕も。

 頭も。

 存在しない。

 脚だけが歩いていた。

 さらにその後ろから、無数の腕が這い出してくる。

 マネキンの顔。

 マネキンの指。

 マネキンの胴体。

 それらが溶けた蝋細工のように癒着し、一つの巨大な塊となっていた。

 人間の形を真似ようとして失敗した何か。

 そんな怪物だった。

 レンの喉から声にならない悲鳴が漏れる。

 怪物が動いた。

 異様な速度だった。

 逃げろ。

 本能が叫ぶ。

 だが足が動かない。

 怪物が迫る。

 白い腕が伸びる。

 指先が顔に届こうとした、その瞬間。

 銀色の閃光が闇を裂いた。

 怪物の身体が斜めに滑る。

 一拍遅れて、巨大な塊が崩れ落ちた。

 床に散らばったマネキンの破片が乾いた音を立てる。

 レンは呆然と顔を上げた。

 一人の少女が立っていた。

 長い黒髪。

 夜を切り取ったような漆黒の衣装。

 右手には、日本刀にも似た異様な剣。

 刀身の奥で、赤黒い光が脈動している。

 その姿を見た瞬間。

 レンは目を見開いた。

「……アキ?」

 同じクラスの転校生。

 いつも教室の窓際で本を読んでいる、あの少女だった。

 アキは怪物の残骸から視線を外さないまま言った。

「立てる?」

 まるで日常会話のような口調だった。

「え……」

「急いで」

 初めてレンへ視線が向く。

 その瞳は驚くほど冷静だった。

「ここは安全じゃない」

 そして少女は、さらに信じられない言葉を口にした。

「私たちはもう、現実の世界にはいない」

「私たちはもう、現実の世界にはいない」

 レンは言葉の意味を理解できなかった。

「なにを言ってるんだ……?」

「説明は後」

 アキは周囲へ鋭い視線を走らせる。

 その様子は、レンに話しかけているというより、見えない何かを警戒しているようだった。

「ここはもう嗅ぎつけられてる。移動する」

「待てよ!」

 思わず声が大きくなる。

「何なんだよ、あれ! 何でお前が刀なんか持ってるんだ!? ここはどこなんだよ!」

 アキは一瞬だけレンを見た。

 その目には苛立ちも呆れもなかった。

 ただ事実を確認するような冷静さだけがあった。

「質問は生き残ったら聞く」

 そう言うと、アキはレンの返事も待たずに歩き出した。

「お、おい!」

 レンは慌てて追いかける。

 一人で残る気には到底なれなかった。

 通路を曲がり、閉鎖された店舗の横を抜ける。

 やがてアキは従業員専用と書かれた鉄扉の前で立ち止まった。

 鍵は掛かっているはずだった。

 しかしアキが扉に触れると、金属が水面のように揺らぎ、そのまま静かに開いた。

 レンは絶句する。

「……今の何だ」

「後で」

 またそれだった。

 アキは中へ入り、レンも続く。

 扉が閉まる。

 その瞬間。

 外の世界が遠ざかったような感覚があった。

 バックヤードは暗かった。

 だが完全な闇ではない。

 非常灯らしき青白い光が天井に点々と灯り、細長い通路を照らしている。

 商品の段ボール。

 パレット。

 台車。

 本来なら日常的な光景のはずなのに、不気味なほど人気がない。

 アキは数十メートル進んだところでようやく足を止めた。

「ここなら少しは持つ」

「持つって……」

 レンは息を切らしながら壁にもたれた。

「いい加減説明してくれ」

 アキは数秒黙っていた。

 その沈黙が妙に重い。

 やがて彼女は剣を床へ立てかけた。

「まず確認する」

「何を?」

「今は何時?」

「は?」

「いいから答えて」

 レンはスマホを取り出した。

 画面を見る。

 そこに表示されていた数字を見て眉をひそめた。

「午前三時……」

 そして気づく。

 数十分は経っているはずなのに。

 秒表示は増えているのに。

 時間だけが変わっていない。

「……何だこれ」

「ここでは時間が進まない」

 アキは淡々と言った。

「正確には午前三時から夜明けまでの間が切り取られている」

「意味が分からない」

「分からなくていい。事実だから」

 レンは頭を抱えたくなった。

 だがアキの表情は冗談を言っている人間のそれではない。

「ここは真夜中の禁区。私たちはそう呼んでいる」

 禁区。

 聞き慣れない言葉だった。

「人間が残した負の感情。未練。後悔。憎悪。絶望。そういうものが長い時間をかけて蓄積すると、現実から切り離された空間が生まれる」

 アキは天井を見上げる。

「そして夜になると、それは目を覚ます」

「そんな話……」

「信じなくてもいい」

 アキは即座に言った。

「でも君はさっき怪物を見た」

 レンは言葉を失う。

 確かに見た。

 あれは夢でも幻覚でもない。

 今でも白い腕が脳裏に焼き付いている。

「禁区には核がある」

 アキは続けた。

「コア」

「コア?」

「禁区を維持している中心部」

 彼女は剣の柄を握った。

「それを破壊すれば出口が開く」

 レンの表情がわずかに明るくなる。

「じゃあ、それを壊せば帰れるのか?」

「帰れる」

 短い返答。

 だがその直後。

「夜明けまでなら」

 空気が冷えた。

「……夜明けまで?」

「夜明けを迎えると禁区は閉じる」

 アキの声は変わらない。

 だからこそ余計に重かった。

「閉じ込められた人間は禁区に取り込まれる」

「取り込まれるって……」

「消える」

 レンの背筋を冷たいものが走った。

「存在そのものが」

 沈黙。

 遠くで何かが軋む音がした。

 レンは無意識に唾を飲み込む。

「だから急がなきゃいけない」

 アキは立ち上がった。

「コアはモールの中心部にあるはず」

「待て」

 レンは慌てて呼び止める。

「お前は何なんだ?」

 アキが足を止めた。

 初めて少しだけ迷うような表情を見せる。

「私の家は代々、禁区を監視してきた」

 それだけ言った。

「現れた禁区を見つけて、壊す。それが仕事」

「仕事って……」

「だからここにいる」

 アキは再び歩き出そうとする。

 だがその時だった。

 通路の奥から。

 ガタン。

 何かが倒れる音が響いた。

 二人は同時に振り向く。

 暗闇の向こうから、かすかな声が聞こえた。

「……誰か」

 女の子の声だった。

 震えている。

 怯えている。

 助けを求めている。

 レンの心臓が大きく跳ねた。

 その声に聞き覚えがあったからだ。

「……シオリ?」

 アキの表情が初めて変わった。

 明らかな警戒。

 それは怪物と遭遇した時以上だった。

「レン」

 低い声。

「近づくな」

「え?」

「その声は――」

 アキが剣を抜く。 赤黒い刀身が不気味な光を放った。

「本物とは限らない」


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