개요
地球じゃない、離れた星のヴァーレンス王国の風景。
장1
ヴァーレンスの昼下がりは、熟しすぎた果実が滴らせる蜜のような、粘り気のある黄金色に染まっていた。
上空300メートル。ブラックヴァルキリー・カーラは、その漆黒の翼を大きく広げ、大気の層を指先でなぞるようにして滑空していた。かつて、死者の魂をヴァルハラへと導くために羽ばたいていたその翼は、今やこの王都の微風を愉しむためだけの道具に成り下がっている。あるいは、昇華したと言い換えるべきか。重さにして七三キログラム――その肉体と、霊的な質量を伴う翼が、重力という名の古い規律を無視して宙に浮いている。シルバーホワイトの髪が、陽光を反射して白銀の糸のように乱れ、彼女の黄金の瞳は地上にひしめく「生」の断片を冷徹に、かつ慈しむように捉えていた。
眼下に広がるヴァーレンスは、他のどの王国とも異なる呼吸をしていた。ここでは貨幣という名の紙切れや金属片は、ただの形骸に過ぎない。
人々は自らの魂を爪先ほどの欠片として切り出し、それを対価としてパンを買い、ワインを啜る。
魂の価値は、その持ち主の清濁によって決まる。
欲にまみれた者の魂は濁った石ころのように価値を落とし、清らかな者の魂は宝石のように輝いて、その一欠片で豪奢な暮らしを約束する。この奇妙で公平な、あるいは残酷な経済体系が、街の色彩を独特なものにしていた。
ブラックヴァルキリー・カーラは、喉の奥から込み上げてくる熱い塊を抑えきれず、小さく、だが確かな音を立てて「げっぷ」をした。
先ほど、広場の屋台でせしめた甘い蜜団子の後味が、鼻腔を抜けていく。戦乙女としての矜持を捨て、下界の飽食に身をやつしている自覚はあるが、彼女に後悔はなかった。厳格な階級、果てしない神々の論理、そのすべてが、この一口の甘美な快楽よりも価値があるとは思えなかったのだ。
視線を繁華街の目抜き通りへと落とすと、そこには見慣れた、そして救いようのない光景があった。
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「……またやっているのか、あの男は」
漆黒の騎士鎧を纏い、腰に二振りの魔剣を佩いた男――フレデリック=ローレンスが、通行人の女性を呼び止めているのが見えた。彼の周囲には、炎を滅する氷の滅炎剣と、氷を滅する炎の滅氷剣が、まるで彼自身の浮ついた心を象徴するように、淡い光を放ちながらゆるやかに回転している。
フレデリックは、大仰な身振りで女性の手を取ろうとしていた。その緑色の瞳は、戦場での鋭さを微塵も感じさせず、ただ甘ったるい誘惑の色を湛えている。彼は女性に対して、この世で最も美しい花を見つけたと言わんばかりの熱烈な言葉を投げかけているのだろう。女性が困惑したように笑うと、彼はさらに距離を詰め、ウィンクを飛ばす。
「あのナンパ癖は病気だな。不治の病だろうアホめ」
カーラは空中で静止し、冷ややかな独り言を漏らした。フレデリックという男は、剣を持たせれば一級品の魔導騎士であり、その機転は戦況を左右するほどに鋭い。だが、女という存在を前にしたとき、彼の知性はすべて股間へと流れ落ちてしまう。彼は去り行く女を追わず、来る女を拒まない。その軽薄さは、ある種の哲学ですらあったが、高潔なヴァルキリーとしての記憶を持つカーラからすれば、それは魂の浪費に他ならなかった。
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風が向きを変え、街の喧騒が上空まで運ばれてくる。
次に彼女の視界に飛び込んできたのは、朱色の鳥居が並ぶ路地裏に近い、大通りのはずれだった。そこには、この街の風景に全くそぐわない、桃色の十二単を纏った少女がいた。
桜雪さゆ。富士の火口から生まれ、木花咲耶姫の懐刀とも称される強大な妖怪。その実力は、八百万の神々の中でも上位に食い込むほどであり、彼女が本気でその妖力を振るえば、一つの都市を灰燼に帰すことなど造作もない。
(現に以前ティルナノグから紀元前4世紀の地球に飛ばされた時は古代マケドニアの王都ペラを溶岩の海にし、蒸発させた)
だが、現在の彼女が没頭している「行為」は、その神格を根底から覆すほどに矮小で、滑稽なものだった。
さゆは、道端に転がっている犬か何かの「落とし物」――茶色く乾きかけた糞を、拾い上げた小枝で熱心につついていた。
「…………ガキか」
カーラは呆れを通り越し、深い溜息を吐いた。桃色の髪を揺らし、悪魔のような無邪気な笑顔を浮かべながら、糞の硬さや弾力を確かめるようにして枝を動かすその姿。彼女は時折、その糞を指差して
「もんもん、ももももーん!」
と奇妙な叫び声を上げ、一人で悦に入っている。かつて、時間さえも焼き尽くす炎を操り、神々を戦慄させたという「春女」の面影はどこにもない。ただの、いたずら好きな子供がそこにいた。
カーラは、さゆという存在の底知れなさを知っている。彼女にとって、この世のすべては「おままごと」の延長線上に過ぎないのだ。生も、死も、そして道端の汚物でさえも、彼女の遊び相手に過ぎない。その無邪気さこそが、この街における最大の脅威であり、同時に最も純粋な「生」の証明でもある。
「つまり、アホだ」
視線をさらに巡らせると、王宮へと続く大通りの上空を、優雅に、かつ整然と移動する一団があった。
リディア=ド=フレージュを筆頭とする、フローター・クレーヴの五人だ。かつてはカイアスの荒野で食い詰めた盗賊まがいの集団だった彼女たちは、今やミハエル公爵の家令として、この王国の経済を実質的に支配するまでになっていた。
リディアは、タイトなペンシルスカートに白いフリルのついたシャツという、洗練されたキャリアウーマンのような出で立ちで、空中に浮かぶ魔導端末を操作しながら、部下たちに何らかの指示を出している。その後ろには、フローラ、カトリーヌ、エミリエンヌ、クロディーヌが、それぞれの役割を完璧にこなすべく、凛とした表情で付き従っていた。
彼女たちの動きには、無駄がない。かつて生きるために泥を啜り、他者の足を掴んででも生き延びようとした執念が、今や「管理」という名の磨き抜かれた能力へと昇華されている。彼女たちは、このヴァーレンスというカオスな街において、唯一と言っていいほど「論理的」に機能している存在だった。
「あの五人はまともだな。……げっぷ」
再び漏れ出た空気と共に、カーラは彼女たちに一定の敬意を払った。この街に住まう者たちの多くは、どこか壊れている。
フレデリックのように性愛に溺れる者、さゆのように類稀なるアホな者、
(……あるいは自分のように使命を放棄した者)
しかしリディアたちは、自らの「欠落」を自覚し、それを埋めるために必死に働き、秩序を作り出そうとしている。その泥臭いまでの真面目さが、カーラには微かな安らぎを与えていた。
カーラは翼をわずかに傾け、旋回を始めた。
太陽は西に傾き始め、街の影が長く伸びていく。ヴァーレンスの街並みは、上空から見れば美しい幾何学模様を描いているが、その実態は、どうしようもなく不完全で、愛おしい人間たちの掃き溜めだ。
魂を切り売りして生きる彼らの営みは、神々の視点から見れば滑稽なほどに短く、儚い。
だが、その一瞬のきらめき、ナンパに精を出す軽薄さや、道端の糞をつつく無邪気さ、そして領地を豊かにしようとする献身――それらが混ざり合い、この世界にしかない「熱」を生み出している。
カーラは、自分の黄金の瞳が、かつてよりもずっと「近く」を、そして「深く」を見ていることに気づいた。魂を導くという大義名分を捨てたことで、彼女は初めて、魂が宿る「肉体」の震えを、その呼吸の音を聞くことができるようになったのだ。
「さて……夕飯は何にしようか」
彼女は、ミハエルの屋敷の空き部屋に転がっている自分の荷物を思い出した。散らかった部屋、脱ぎ捨てられた服や装備、そして昨日買ったままの甘い菓子。かつての自分が見れば眉をひそめるような自堕落な生活。
だが、今の彼女は、その「汚れ」こそが自分をこの世界に繋ぎ止める錨であることを知っている。
カーラは、もう一度だけ王都の全景をその目に焼き付けると、急降下を開始した。風を切る音が耳元で咆哮し、漆黒の翼が夕闇を切り裂く。彼女が着地する場所には、相変わらず病的なナンパ男と、糞をつつく妖怪と、必死に働く家令たちが、それぞれの「生」を謳歌しているはずだ。
そのカオスの中に、彼女もまた、一人の住民として、守護者として、そして一人の「食べる女」として、降り立つのだった。
ヴァーレンスの街角に、漆黒の羽が一枚、ひらりと舞い落ちた。
それは、かつての神聖な義務を捨て去った証であり、今この瞬間を生きる決意の断片でもあった。
カーラは、石畳を蹴って歩き出す。
その足取りは、かつて雲の上を歩いていたときよりも、ずっと重く、そして確かなものだった。
「…………今日は、餃子がいいな」
彼女の呟きは、夕暮れの喧騒に溶け込み、誰に届くこともなく消えていった。だが、その横顔には、神話のページには決して描かれることのない、一人の女としての静かな満足感が浮かんでいた。
최신 회
ヴァーレンスの夜は、魔導灯の青白い燐光と、至る所の調理場から漏れ出す芳醇な香りが混ざり合い、一つの生き物のように脈動している。石畳を濡らす夜露が光を反射し、まるで銀の河を歩いているかのような
ヴァーレンスの夜は、単なる太陽の不在を意味しない。それは、目に見えぬ霊波動が街の隅々にまで浸透し、石畳の一つ一つが淡い燐光を放ち始める、もう一つの現実の幕開けだった。魔導灯の青白い光が、道行
ヴァーレンスの街に、夜の帳が静かに、しかし確実な質量を持って降りてくる。琥珀色に染まっていた大気は、次第に濃紺の冷気を帯び始め、石畳の隙間に溜まった昼の余熱をじわじわと奪い去っていく。通りに
ヴァーレンスの夕暮れは、単なる一日の終わりを告げる光の減衰ではなかった。それは、王都全体を包み込む濃厚な琥珀色の底に、人々の営みが沈殿していく時間だ。上空を舞うことを一時的に止めたブラックヴ
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