简介
宇宙をかけるグルメヴァルキリー。補給の大切さを説く男が乱入します。軍事。シリアスよりギャグより。
章节1
ヴァーレンス王国の宇宙戦艦、その中ではいつもより三割り増しでカフェイン臭かった。
アリウス=シュレーゲルは、銀髪を後ろでひっつめ、赤い眼をスクリーンにくっつけるようにして座っている。
手元のカップは、もう三時間前に淹れたコーヒーの残りで、表面に膜が張っている。
そんなのを見ても、彼は「もったいない」と蓋をして温め直すだけで、新しいのを淹れる時間が惜しい。
だって今日だって、朝五時から魔力式レーダーの点検だ、異常値のグラフだで、眠いの我慢して働いている。
——って、そこに、ピコピコ、という、安物のゲーム機みたいな警告音。
最初は、またフレッドが持ち込んだおもちゃが暴れているのかと思った。
でも、違う。
メインスクリーンの端に、小さな赤い点。
まるで、誰かが宇宙の黒板に「こいつだよ」ってチョークで丸を書いたみたいに、どんどん大きくなる。
アリウスの背筋が、ぞくり、と寒いのとは別の意味で震えた。
椅子が、がたん、と後ろに倒れる。
コーヒーカップが、ぶちゃ、と床に落ちて、茶色い水たまりが「の」の字を描く。
その瞬間、ドアが、ばたん、と開いて、ミハエルが顔を出した。

「おっ、朝から床掃除? 勤勉だな、アリウスくん」
「……宇宙船だ」
「は?」
「宇宙船が、こっちに向かってる。スピード、秒速で、えーと、とにかくすごい勢いで」
「秒速とか知らねぇよ、わたしは理系でも文系でもない、アホ系だ」
ミハエルは、まだ寝ぼけた顔のまま、ポケットからおにぎりを取り出して、ぱくり。
のりが、ぱらり、と床のコーヒーだまりに落ちる。
「あー、またアスタルロサがロボット送ってきたのか? 前みたいに、サリサとさゆが『お祭りだー』ってぶっ壊して、後処理がめんどくさいやつ」
「いや、今回は違う艦種……って、なんでミハエルくん、のりだけ食べてるんだ」
「梅干しは嫁が作ってくれたやつだから、後で大事に食う」
——そこへ、もう一人、ドアを蹴飛ばすように入ってきたのは、フレデリック=ローレンス。
漆黒の鎧をがちゃつかせながら、
「おはようございます、諸君。今日も平和な——って、なんで床が湖になってるんだ」
「コーヒーだ」
「湖だ」
「コーヒーの湖だ」
三人で、三秒間、湖を見下ろす。
——と、そのまま、アリウスがスクリーンを指差した。
「とにかく、敵艦が来る。こっちの星に、まっすぐ」
「で、誰が相手だ?」
「……判別不能。でも、艦影が、なんだか、やたらとハートマークみたいな形してる」
「は?」
ミハエルが、のりを口からはずして、画面を覗き込む。
「おい、これって……まさか、『宇宙の彼女』とか、ギャルゲーのイベント?」
「フレッド、きみねぇ——」
アリウスが、眉間にしわを寄せた瞬間、フレッドが、にやり、と笑った。
「攻めてくるのが女なら、口説けば戦争終わるじゃん。オレが行くよ、愛の使者として」
「……この野郎、今さっきまで、朝の市場でナンパして追い出されてきたばかりだろ」
「フレッドの情報は漏れてるな? アリウスくん」
「監視塔の窓から、見えてたんだよ。貴様が『お姉さん、朝から美しいね、僕の朝焼けじゃないけど』って、露店のおばちゃんに言って、スイートポテトでぶん投げられてるの」
「うるさい、これは戦略だ。愛の戦略だ」
——その時、スクリーンの端に、新しい光点。
今度は、もう一隻。
しかも、先のハート型の艦を、追うように、ぐんぐん近づいている。
「おい、後ろの方が、ヤバそうなデザインだな」
ミハエルが、おにぎりを握りしめたまま、呟く。
「まるで、中年のおやじが『俺は悪くない』って言いながら、酒のつまみにしてる魚の骨みたいな艦だ」
「……その例え、わからん」
「つまり、後の方が本隊で、前のハートは囮、あるいは——」
「逃げてる女で、後ろがストーカー、とか?」
フレッドが、目を細めた。
「なら、ますます口説かなきゃ損だろ」
「フレッド、君は、宇宙戦争を、ギャルゲーと混同してる」
「混同じゃない、昇華だ」
——三人が、口論している間に、宇宙空間では、もう一件の“会議”が始まっていた。
サリサ=アドレット=ティーガーは、宇宙空間で、はだかんぼうだった。 これはヌードという意味ではなく宇宙服を着ていないという意味だ。
長い銀髪が、スターダストを巻き込んで、ふわふわ、と浮かぶ。
耳がぴく、と動いて、
「……あれ、またハート型の艦が来てる。今度は、どこの馬鹿だろ」
隣では、桜雪さゆも、また、はだかんぼう。 妖怪だからかなり物理法則は無視しようと意識すればできる。お化けだし。仕事も学校もない!
桃色の髪が、宇宙の闇に、桜吹雪のように広がる。
「もんもん、もんもん……あ、今度は、変な紋章がついてるやつね。奴隷船かー?」
「また、おままごと相手に来たのかな」
「違うんじゃない? 今度は、本気で『婿探し』って書いてあるわよ。船体に、でっかい看板」
「……フレッドが喜びそう」
「喜ぶ前に、わたしたちがぶっ壊すんでしょ」
「まあ、そうだけど」
二人は、宇宙空間で、足を組んで、ぷかぷか、と浮かびながら、艦を見やる。
——当然、ヴァーレンスの戦艦からは、
「また、あいつら裸(宇宙服なし)で出てるぜ——!」
という、三人分の叫び声が、魔力波で届いていた。
「うるさいなー、わたしら平気だって」
「わたし、人間がこうすると血が沸騰するんだっけ? 知らないけどー」
「……いや、お願いだから変な行動取らないで」
アリウスの、涙目の声。
ミハエルが、肩をすくめて、
「まあ、いいじゃん。彼女ら、体も魂も、人間のレベル超えてるし」
「超えてたって、はぁ——」
「宇宙は公共じゃない、広すぎる」
——そうこうしているうちに、ハート型の艦が、急に減速。
その後ろの“魚の骨”艦も、距離を詰める。
「……まさか、ここで喧嘩売る気か?」
フレッドが、鎧の胸を、ごん、と叩く。
「なら、オレの出番だな。愛のロープで、両方縛り上げて——」
「縛る前に、相手の正体を確認しよう」
アリウスが、コンソールに指を走らせる。
スクリーンに、拡大映像。
ハート型の艦のブリッジ。
そこに立つのは——
「……女、一人?」
「しかも、ドレス着てる。ウェディングドレス」
「……やっぱり、ギャルゲーだろ」
ミハエルが、ため息。
——その隣では、サリサとさゆが、宇宙空間で、
「あー、また、『宇宙一の花嫁』とか名乗ってくるやつね」
「前に来た子は、『銀河の純愛』って名乗って、最後に泣きながら、『やっぱり結婚は無理』って逃げてったっけ」
「今度は、どう転ぶかな」
「まあ、見てようよ。ヴァーレンスの馬鹿たち、どう口説くか」
——二人は、くすくす、と笑いながら、艦の行く末を、足をぶらぶらさせて見守る。
監視塔に戻る。
アリウスが、大きくため息をついた。
「……とにかく、相手の意図を確かめに行こう。ミハエル、フレッド、準備を——」
「おっ、やっと本気出す?」
「……今回は、まず、会話から。暴力は、最後の手段だ」
「つまり、フレッドの口説きは、最後の手段?」
「……そうだ、宇宙の平和のため、黙っててくれ」
「ひどいな、フレッド」
——三人が、ぞろぞろと、エアロックへ向かう。
その背中を、サリサとさゆが、遠くから見送る。
「……今度は、どうなるかな」
「まあ、面白くなるには、決まってるけど」
——宇宙船のハッチが、ゆっくりと開く。
そして、三人の、お馴染みの——
「とりあえず、行ってみよう」
「女の子なら、笑顔で迎えてあげるよ」
「……貴様ら、本当に、戦争を終わらせたいのか」
——そんややり取りを、宇宙の真ん中で、桜吹雪のように、
ふわり、ふわり、と、桃色の髪が、踊る。
最新章节
火明星の軌道上に浮かぶ宇宙ステーション「雲雀」では、今日も平和な一日が始まろうとしていた。
「ねえ、今日のランチ、何にする?」
通信士の若い女性
戦艦アスタルロサの食堂は、いつもよりも重苦しい空気に包まれていた。
「でももうダメだ...あの黒い戦艦が現れたら、俺たちは終わりだ」
若い通信士が震える声で呟いた。彼
通称「腹ペコ戦争」の真っただ中——。
アスタルロサ艦隊の旗艦《赫き獅子号》の厨房で、今日も朝飯前の喧騒が始まっていた。
床に置か
(宇宙の果ての戦場ってのは、どうしてこうも「ガラクタ」が浮いてるんだろうな)
と雑務兵のヤスはまた今日も思った。錆びた補給コンテナの蓋を開けて、中から出てきたのは味のしないパウダー
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