เรื่องย่อ
敵国のカイアス。アイ=コウシャクレイジョウ=セイジョ=カイアス女王からヴァーレンス王国のミハエルに救援が来た!? どうするミハエル!
บท1
紙が、琥珀色の魔導ランプの光に照らされている。
ヴァーレンス城の奥深く、重厚な石壁に囲まれた執務室には、乾いたインクとわずかな魔力の残滓が漂っていた。机の上に広げられたその手紙は、四隅がわずかに焦げ、差出人の印章には見覚えのある、しかしおよそ救難要請には似つかわしくない紋章が刻印されている。
「……頭が痛いな」
ミハエルはこめかみを指先で押さえ、短く息を吐いた。指先に触れる皮膚は、かつて20代の若さで島流しにされた過酷な歳月を物語るように、わずかに硬い。机の上に広げられた文字をもう一度追うが、そこに書かれた傲慢な筆跡が変わるわけではなかった。
「敵国に言うのかよ、それを」
窓際に寄りかかり、愛用の二振り――滅炎剣と滅氷剣を器用に指先で弄んでいたフレデリックが、酷く億劫そうに唇を歪めた。緑の瞳には、いつもの軽薄な光はなく、ただ純粋な呆れが濃く滲んでいる。
「しかも、あのアイ女王からだからね」
卓の反対側で、魔導端末の画面に視線を落としたままアリウスが応じる。銀色の髪が、窓から吹き込む冷たい風に小さく揺れた。彼の前には、ルルメール製のアンドロイド工学やカイアス国内の最新の魔力波形データが映し出されている。
「圧政の張本人が、自分たちの領地で起きている虐殺を止めてくれ、と。どう好意的に解釈しても、罠の臭いしかしないよ」
手紙の主は、カイアス王国の女王、アイ=コウシャクレイジョウ=セイジョ=カイアス。
唯一奴隷制度を維持し、ヴァーレンスに対して常に牙を剥こうと画策している大国の支配者だ。その彼女が、国内の僻地で発生している「虐殺」に対し、私設騎士団を持つミハエルへ直々に救援を求めてきた。
「虐殺、か」
ミハエルは呟き、手紙の横に添えられた報告書に目を落とす。
カイアス王国の地方都市、その周辺で領主や貴族、法官といった特権階級ばかりが次々と命を奪われているという。首謀者は四人。彼らは民衆に向けてこう宣言しているらしい。
『圧政を終わらせる。真の平和のために、我らは立ち上がった』と。
「何をどこまで信じていいのやら」
喉の奥から絞り出すようなミハエルの声に、室内の空気が一段と冷え込む。
もしこれが単なる暴動であれば、カイアス正規軍が踏み潰して終わるはずだった。しかし、その正規軍すら返り討ちに遭い、地方の統治機能が完全に麻痺している。だからこそ、プライドの高いアイ女王が、憎きミハエルに頭を下げてきたのだ。
「おやおや、珍しく全員揃って難しい顔をして。せっかくの男前が台無しよ」
部屋の重い扉が静かに開き、滑り込むように入ってきたのはフィオラだった。深紅のスリットドレスから覗く白い脚が、石畳の上で影を作る。背中の白い翼は小さく折り畳まれ、黒竜の尻尾が床を優しく撫でていた。彼女は机の上の手紙を一瞥すると、ふっと鼻で笑う。
「虐殺の首謀者が4人? ずいぶんと効率的なお仕事ね。美術品を集めるのだって、4人もいれば結構な目利きができるもの。ただ、彼らの描く絵の具は、どうやら貴族の血のようだけど」
「冗談を言っている場合? フィオラ」
後に続いて入ってきた水鏡冬華が、セーラー服の袖を整えながら冷淡な声を掛けた。その腰には、数々の戦場を潜り抜けてきた愛刀が静かに収まっている。彼女の茶色い瞳は、机の上の地図の一点、カイアス王国の国境付近を見つめていた。
「権力者だけを狙う……。幕末の京でも、そんな大義名分を掲げて辻斬りを繰り返す手合いはごまんといたわ。彼らは自分たちを『天誅』と呼んで悦に入っていたけれど、結局のところ、残るのは死体の山と荒廃した街だけよ。頭が病めそうだわ」
「そうですね……」
水鏡冬華の背後から、恐る恐る顔を出したのは空夢風音だった。セーラー服に千早を羽織った彼女の手は、脇差の柄に添えられている。胸元が緊張で小さく上下していた。
「本当の平和を求める人が、そんなにたくさんの人を殺すなんて……。何だか、とても悲しいです。でも、もしその虐殺のせいで、何の関係もない普通の村人たちまで巻き込まれているのだとしたら、わたしは……放っておけません」
「風音ちゃんは相変わらず真面目だねえ」
銀色の長い髪とホワイトライガーの耳をぴこぴこと動かしながら、サリサが風音の肩に腕を回した。オッズの異なる左右の瞳が、面白そうに揺れている。
「でもさ、抑圧されてた奴らが爆発した時って、一番歯止めが利かないんだよね。悪者を倒すためなら、ちょっとくらいの犠牲は仕方ないって、自分たちを神様みたいに思い込んじゃう。そこを叩くのって、結構面倒くさいよ?」
「ももももーん! それは春女の出番の予感!」
場にそぐわない明るい声と共に、ピンク色の十二単を翻して桜雪さゆが飛び込んできた。頭の上には、ふっくらとした狐の子どもが丸くなっている。
「桜はね、生者を祝うためにも咲くけれど、死んだ人を慰めるためにも咲くのん。その4人の『正義の味方』さんたちにも、綺麗な桜を見せてあげないとね。もちろん、大人しく眠ってくれるなら、だけど!」
桜雪さゆの瞳の奥に、一瞬だけ燃え上がるような紅い光が宿る。彼女は富士山の火口で生まれた雪女の突然変異。その本質にある力は、対峙するものの寿命すら燃やし尽くす。
「……みなさん、少し落ち着いてください」
最後に部屋に入ってきた東雲波澄が、白いブラウスの襟元を正しながら、一同を宥めるように手を挙げた。黒いタイトミニスカートから伸びる脚の線が、窓からの光に照らされて妙に生々しい。
「カイアス王国の霊気の流れが、数日前から酷く乱れています。怨嗟と、それを無理矢理塗り潰そうとする執念の霊波……。手紙の真偽はともかく、現地で恐ろしいことが起きているのは間違いありません。式神を何体か飛ばしてみましたが、境界の手前で全て消滅させられました。相応の力を持った者が、そこにいるということです」
波澄の言葉に、室内の空気が一段と引き締まる。
ミハエルは椅子から立ち上がり、窓の外を見つめた。
ヴァーレンス王国の青い空は穏やかで、人々は魂の欠片を分け合いながら、平和な日常を享受している。だが、地続きのカイアス王国では、今この瞬間にも血が流れているのだ。
「アイ女王の思惑がどうあれ」
ミハエルは振り返り、集まった一同の顔を一人ずつ見つめた。
「圧政に苦しむ民が暴徒と化し、それを『平和のため』と自称する4人が率いている。そして、その結果として地域全体が血の海に沈もうとしている。……これを見過ごせば、次は海を越えて我が国にその火の粉が飛んでくる。何より、助けを求める声が聞こえてしまった以上、知らん顔はできないな」
「やっぱり、行くんだね」
アリウスが諦めたように笑い、魔導PCの電源を落とした。
「まあ、ミハエルがそう言うと思ったよ。フレッド、船の準備は?」
「おう、いつでも出せるぜ」
フレデリックが剣を鞘に収め、不敵な笑みを浮かべる。
「敵国の女王からの招待状だ。豪華なパーティじゃなさそうだが、退屈するよりはマシだろ?」
ミハエルは深く頷き、コートの襟を正した。
「よし。行くぞ、お前たち。カイアスの地で、何が起きているのか、この目で確かめる」
彼らの足元で、波澄の展開した呪符が微かに光を放ち始めた。平和な楽園から、血と硝煙の立ち込める戦乱の地へ。一行の影が、魔導の光の中に溶けていく。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
カイアス王国の辺境、かつて鉱山街として栄え、今は廃墟と化したデュランの街。
その境界に足を踏み入れた瞬間、鼻を突いたのは乾燥した土の臭いと、鉄錆に似た生臭い風だった。
「ひどい……」
空夢風音が思わず口元を押さえる。
瓦礫の隙間から覗くのは、かつてこの街を支配していたであろう領主の私兵たちの亡骸だ。鎧は叩き割られ、胸元には正確無誤な突きの跡が残されている。無駄な戦闘の跡はない。一撃で命を奪う、極めて冷徹な技術の行使がそこにあった。
「兵士だけじゃないわね」
冬華が屈み込み、転がっている死体の喉元を指先で指し示した。
「この傷口、刃物じゃないわ。霊気を極限まで収束させて、一気に肉体を破裂させている。それも、かなりの手練れよ。怨念の類じゃない、明確な意志を持って殺しているわ」
「そうねえ」
サリサが爪を立てて瓦礫を軽く引っ掻く。乾いた音が響いた。
「殺された奴ら、みんな死ぬ直前まで自分が死ぬって思ってなかったみたい。驚いた顔のまま固まってる。相当速いよ、これ」
「ふむ……」
ミハエルは周囲の様子を観察しながら、静かに歩みを進める。
確かに建物は破壊されているが、略奪の痕跡は少ない。穀物庫や井戸は手付かずのままだ。暴徒による無差別な破壊ではなく、明確な「排除」が行われた結果だった。
「ミハエル、上空から誰か来るよ」
アリウスが静かに告げると同時に、空から巨大な影が舞い降りた。
それは、黒い金属質の鎧を身にまとった四人の男女だった。それぞれが独特の武器を手にし、その瞳には歪んだ、しかし強固な光が宿っている。
「……何者だ」
4人の中心に立つ、大剣を肩に担いだ男が低い声で問いかけてきた。その体からは、尋常ではない量の霊波動が立ち上っている。
「曲者だ! あるいはおっぱい星人」
ミハエルが名乗ると、男は一瞬目を見張り、それから嘲るような笑みを浮かべた。
「貴族か。それも、海の向こうの温室で育った最高級の豚だな。なぜここにいる? ここは俺たちが解放した土地だ。奴隷を虐げ、げに卑しい豚どもは全て屠った」
「解放、か」
ミハエルはその言葉の響きを確かめるように繰り返した。
「君たちが『真の平和』を掲げて立ち上がった4人だな。確かに、この街の支配層は消え去ったようだ。だが、その後に残された民はどうなる? 彼らは怯え、飢えている。これが君たちの言う平和なのか?」
「黙れ!」
4人のうちの一人、細身の槍を持った女が叫んだ。その瞳は怒りに血走っている。
「お前たち貴族に何がわかる! 毎日鞭で打たれ、家族を奪われ、家畜のように扱われる痛みが! あいつらを皆殺しにしなければ、私たちは永遠に這い上がれなかった! これは聖戦だ! 私たちは正しい!」
その叫びは、執念に満ちていた。
彼女の背後に漂う霊波は、カイアス王国の歪んだ歴史そのものが生み出した怪物のように見えた。
「正しい、ね……」
東雲波澄が、静かに一歩前に出る。その指先には、数枚の呪符が挟まれていた。
「あなた方の怒りは理解できます。ですが、その怒りに任せて血を流し続ければ、いずれあなた方自身が、かつての支配者と同じ怪物になります。その霊気の濁りが、何よりの証拠です」
「うるさい! 偽善者が!」
大剣の男が地を蹴り、ミハエルに向けて突進してきた。その速度は、肉眼では追えないほどだった。
「おっと、そこまでだ」
割り込んだのはフレデリックだった。
滅炎剣と滅氷剣が交差し、大剣の凄まじい一撃を受け止める。火花と氷屑が四散し、周囲の空気が一瞬で沸騰し、凍りついた。
「威勢がいいのは結構だが、俺の連れに手を出そうなんて、100年早いぜ。英雄気取りの豚!」
「邪魔をするな!」
槍の女と、残る二人の術士が同時に動く。
しかし、それを阻むように、サリサの放った霊気の弾丸が地面を穿ち、フィオラの漆黒の魔力が障壁となって立ち塞がった。
「弱い……アルヴェロの方が良くやった」
サリサが呻く。
「戦うのはいいけれど、もう少し美しく戦えないかしら?」
フィオラがため息混じりに笑う。
「ただ力に任せて暴れるだけなんて、まるで野良犬の喧嘩よ。見ていて退屈極まりないわ」
「そこを退きなさい!」
戦況は一瞬で混沌へと陥る。
ミハエルは、抜刀せずに彼らの動きを見つめていた。その脳裏には、アイ女王の冷徹な顔と、この街で死んでいった者たちの無念が交錯している。
「冬華、風音、さゆ」
ミハエルが静かに呼ぶ。
「彼らを無力化する。命は奪うな。彼らの『正義』の結末を、見届ける必要がある」
「了解したわ」
冬華が刀を抜き放ち、その刃が冷たい光を放った。
「春女、合わせて」
「合点承知のすけ!」
さゆが宙に舞い、十二単の裾から無数の桜の花びらを降らせる。その花びらの一枚一枚が、熱を帯びた氷となって敵の動きを縛り付けていく。
「風音ちゃん、行くよ!」
「はい!」
風音が脇差を構え、冬華の背中を追う。
かつて血の雨が降る京を駆け抜けた半竜の巫女と、異世界から迷い込んだ霊波の剣士。二人の刃が、美しく、そして冷徹に、四人の『正義』を切り裂いていく。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
静寂が、再び廃墟の街に降り立つ。
地面に組み伏せられ、魔力を封じられた四人の首謀者たちは、息を荒くしながらミハエルを睨みつけていた。彼らの武器は全て叩き割られ、周囲にはさゆの降らせた桜の花びらが、血の跡を覆い隠すように降り積もっている。
「なぜ殺さない……」
大剣の男が、泥にまみれた顔を上げて呻いた。
「アルヴェロやヘスラーよりも弱いから」
サリサがそううめく。獲物としても面白くなかったらしい。
「俺たちを殺して、あの女王に突き出せば、お前たちは英雄になれるんだろう? さあ、殺せ!」
ミハエルは男の前に歩み寄り、その視線と同じ高さまで腰を落とした。
彼の青い瞳には、怒りも、蔑みもなかった。ただ、深い哀悼と、どうしようもない現実を見つめる静かな光だけがあった。
「君たちを殺しても、カイアス王国の奴隷制度が消えるわけではないし、」
ミハエルは静かに語りかける。
「そして、君たちを殺さずに生かしておけば、いずれまた新たな『正義』が立ち上がるだろう。この不毛な連鎖を終わらせるために、わたしはここへ来た」
「綺麗事を……!」
槍の女が涙を流しながら叫ぶ。
「じゃあ、私たちはどうすればよかったの!? ただ黙って、あの女王の足元で死んでいけばよかったっていうの!?」
その問いに、室内に沈黙が広がった。
アリウスは魔導端末の画面を消し、静かに目を閉じる。フレデリックは剣を収め、黙って空を見上げた。
「……いいえ」
風音が、そっと女の前に跪き、その汚れた手を包み込むように握った。
「怒ることは、間違っていません。でも、その手を血で染めてしまったら、救われるはずだった人たちまで、あなたたちを恐れるようになってしまいます。それは、本当に望んだ平和ですか?」
女は風音の手の温もりに一瞬目を見張り、それから、堰を切ったように泣き崩れた。
ミハエルは立ち上がり、遠くカイアス王国の王都がある方角を見据えた。
この4人をどう扱うか、そしてアイ女王とどう対峙するか。問題は山積みだ。だが、彼の背後には、信頼できる仲間たちがいる。
水鏡冬華が小さくため息をついた。
「全く、人騒がせな事件ね。帰ったら、美味しい和菓子でも作ってもらうわよ、風音」
「あ、はい! 喜んで!」
荒廃した街に残されたのは、静かに降り積もるピンクの桜の花びらと、動きを止めた風の音だけだった。
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重い鉄錆の臭いが、乾いた風に乗って鼻腔をくすぐる。
カイアス王国国境付近の即設陣地。土嚢が積み上げられただけの簡素な関所に、重装鎧に身を包んだカイアス騎士団の兵士たちが整列していた。そ
崩れかけた石壁の隙間から、乾いた風が吹き込んでくる。砂埃交じりの空気に、微かな鉄の臭いが混ざっていた。
ミハエルは右手を静かに持ち上げる。指先から溢れ出た蒼い光が、空中で複雑な
紙が、琥珀色の魔導ランプの光に照らされている。
ヴァーレンス城の奥深く、重厚な石壁に囲まれた執務室には、乾いたインクとわずかな魔力の残滓が漂っていた。机の上に広げられたその手紙
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