Sinopse
黒竜のフィオラ=アマオカミはギャラリー黒竜に飾るものを探しに、まずはヴァーレンス国際珍しいもの取引場に足を運ぶ。そして遺跡の街の塔にもいったりしてドタバタする物語。
骨董品はいくつも出てくるが、物語の鍵となる道具はどれだ!?
Capítulo1
午後の光が、ギャラリー黒竜の床に長い影を落としていた。フィオラ=アマオカミは、入り口近くの古い木の椅子に腰を下ろし、腕を組んでいた。脚を組んだまま、時計を見るでもなく、ただぼんやりと空間を見つめている。窓から差す陽射しは柔らかく、空気には古いキャンバスと木のフレームの匂いが混じっていた。誰も来ない。
今日は三時間目の来客だったが、あのデブのあぽぽーは静かに帰って行っただけだ。
「暇ね」
彼女は小さく呟いた。赤い瞳が、部屋の隅にある一幅の風景画をなぞる。
描かれているのは、彼女が前に買ったヴァーレンスの古い港だ。当時はまだ街も小さかった。今ではこの国も大きくなり、彼女の画廊も少しずつ有名になった。でも、客が増えたわけではない。魂を支払う価値があると思う人は、まだ少ない。
カーラの姿が目に入った。黒い鎧に包まれた体を壁際の絵の前に据え、金色の瞳を細めている。彼女が見ているのは、先月フィオラが手に入れた小品だった。
色使いが荒く、筆致も乱暴だが、なぜか目を離せない力がある。カーラはじっとそれを見つめ、時折首を傾げる。羽根が微かに震え、鎧の金具が小さな音を立てた。
「あの絵、気に入った?」
フィオラは声をかけた。カーラは振り向き、苦笑いを浮かべる。
「わたしには、まだ何を描いているのかわからない。でも、見ていると胸の奥がざわつく」
「それが答えよ。絵は、頭で理解するものじゃない」
フィオラは立ち上がり、カーラの隣まで歩いた。床が古いため、一歩ごとにきしむ音がする。「この絵はね、ある男の夢なの。彼は毎晩、同じ場所を見る。暗い海と、光る島。でも、島に近づこうとすると必ず目が覚める。だから、島の上に何があるのか、誰も知らない」
カーラは再び絵を見た。今度は、瞳に興味の色が浮かんでいた。
「夢を描いた、か。なるほど、だから筆致が宙に浮いているような不安定さがあるのだな」
二人の背後で、小さな音がした。振り返ると、月日リアナが雑巾を握り、床を這うように拭いていた。黒い髪が揺れ、赤い目がちらりと上がる。彼女は黙々と作業を続け、隅の埃まで逃さない。フィオラは微笑んだ。
「リアナ、休憩してもいいのよ。今日は客も少ないし」
「いつも少ないけどな」
ブラックヴァルキリー・カーラがそう付け加える。
「いいのよ。たくさん来られてもめんどうね~~」
とフィオラが反論する。
「だ、大丈夫です。あと少しで終わりますから」
リアナは顔を上げ、慌てて返事をした。声は小さく、手は休まない。フィオラはため息をついた。こういう子だから面倒を見がいがある、と思う反面、時にはもう少し楽をしてもいいのに、とも思う。
カーラがくすりと笑った。

「彼女、まるで働きアリだな。休むことを知らない」
「元の世界では、教育実習生だったそうよ。子供相手に忙しくしてたせいか、体が動かないと落ち着かないのかも」
フィオラは肩をすくめた。
「ま、画廊が綺麗で助かってるけどね」
その時、入り口のチャイムが鳴った。重い足音がして、伊藤あぽぽーが現れた。彼は体の半分以上を占めるような腹を抱え、額に汗を浮かべながら店内を見回す。眼鏡のレンズが光って、目の位置がわからなくなった。
「やあ、フィオラさん。今日もいい品々が並んでいますね」
伊藤あぽぽーは、以前なら
「この色使いは低俗だ」
「筆致が甘い」
などと毒づいていた。でも、今日は珍しく穏やかだった。彼は一番大きな風景画の前に立ち、しばらく黙って見上げている。額の汗をハンカチで拭い、小さく息を吐いた。
「……これは、ヴァーレンスの旧市街だな。懐かしい」
「気に入った?」
フィオラは訊ねた。
「まあな」
伊藤あぽぽーは短く答え、くるりと背を向けた。
「また来るよ」
それだけ言って、彼は重い足取りで出て行った。扉が閉まる音がして、再び静けさが戻った。フィオラは首を傾げた。
「……変わったわね」
「人も、絵も、変わるものだ」
カーラが呟いた。
「時間というやつは、埃を落としてくれることもある」
フィオラは、カーラの言葉を噛みしめるように頷いた。そして、ふと思い出したように奥の部屋へ向かった。数分後、彼女は大きなキャンバスを抱えて戻って来た。新しい絵だ。まだフレームに入っていない。
「これを、あの壁に掛けたいの。手伝ってくれる?」
カーラは頷き、リアナも立ち上がった。二人が絵を持ち、フィオラが指示する。三人は壁の中央に立ち、高さを調整しながら、一番良い位置を探した。
「ん……もうちょっと丁寧に」
フィオラは眉を寄せた。
「カーラ、端を持ちすぎ。絵が曲がってる」
「ご、ごめんなさい」
月日リアナが慌てて謝る。
「あなたじゃないの。むしろカーラに言ってるんだけどね」
フィオラは苦笑いし、首を振った。
「この人、力が強すぎて、絵が悲鳴を上げてるわ」
カーラは照れくさそうに羽根を小さく動かした。
「すまん。戦場の癖が出てしまった」
「画廊は戦場じゃないのよ」
フィオラは笑いながら、絵の位置を直した。
「ここでは、力よりも呼吸が大事。絵と絵の間に、ちゃんと余白を作ってあげないと、見る人が息苦しくなる」
リアナが小さく頷いた。彼女はフィオラ的の言葉を真剣に受け止め、もう一度絵の端に手を添う。今度はゆっくりと、まるで生き物を扱うように、そっと動かした。
「……そう、それでいい」
フィオラは満足そうに頷いた。
「配置のバランスが悪い。もうちょっと隣の絵と離して」
三人は息を合わせて、絵を少し右にずらした。隣の風景画との距離が開き、空間にゆとりが生まれた。フィオラは腕を組み、しばらく眺めてから、再び口を開いた。
「魔導ライトの光量、落ちてるわね。変えておくか」
彼女は背中の白い翼を広げた。羽根が風を切り、部屋中に小さな旋風が起こる。フィオラは軽く地面を蹴ると、ゆっくりと宙に浮いた。天井近くのライトに手を伸ばし、古い球を外して、新しいものに交換する。カチリ、という小さな音がして、明かりが明るくなった。
床に降り立つとき、彼女の黒いしっぽがぴんと立ち、バランスを取った。羽根を収めると、再び画廊は静けさを取り戻した。
「……やれやれ」
フィオラは息を吐き、髪を手で整えた。
「面倒くさがりのくせに、こういうことだけは手を抜かないな」
カーラが笑った。
「それが、お前の美学ってやつか」
「かもね」
フィオラは赤い瞳を細め、新しく掛かった絵を見つめた。
「絵は、見る人の心を映す鏡。だから、飾る場所も、光も、全部大切。少しでも粗雑にすると、絵が泣く」
リアナが黙って頷いた。彼女の目に、新しい絵が輝いて見える。光と影のバランスが整い、部屋の空気までが柔らかくなった気がした。
フィオラは再び椅子に座り、脚を組んだ。今度は、少しだけ表情が柔らかい。
「……ま、今日はこれでいいか」
カーラは絵に向き直り、腕を組んだ。リアナは雑巾を握り、また隅の方へ歩いて行く。外では、風が木々を揺らし、遠くで鐘の音がした。
画廊は、再び日常の時間を取り戻した。誰も語らないが、三人の間に流れる空気は、穏やかで、温かかった。絵は黙って吊るされ、光は静かに注がれ、埃はまた少しずつ溜まって行く。でも、それでいい。ここは、時間がゆっくり流れる場所なのだから。
Últimos capítulos
朝のヴァーレンス国際珍しいもの取引場は、まるで巨大な獣が目を覚ましたような活気に包まれていた。円形の建物の外壁を這う太陽の光が、白い大理石を金色に染め、正面の魔導スクリーンには「本日325回
雨が窓を打つ音が、まるで小石をばら撒くように続いていた。古いギャラリーの奥室、フィオラは重い椅子に腰を沈め、膝の上に置いたパソコンの画面を見つめている。部屋の明かりは一つだけで、明かりが足りな
スレイプニルが最後の蹄を空に響かせて消えたあと、風が急に静かになった。雲の裂け目はふつふつと閉じていき、まるで誰かが大きな幕を引いたように、青い空がぴたりと落ち着く。街の喧騒が遠のき、代わり
スレイプニルがいななった。八本の足がばらばらと動き、たてがみが逆立つ。でも、その瞳にあったのは先ほどまでの狂おしい焦燥ではなかった。巨大な獣が、小さな子供のように戸惑っている。笛の音を探してい
Tags
Personagens relacionados
Você também pode gostar
Nenhuma recomendação
Nenhuma recomendação no momento—volte mais tarde!

