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腹ペコ宇宙戦争

腹ペコ宇宙戦争

Última atualização: 2026-07-15 06:18:00
By: 白い月
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Idioma:  日本語12+
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Sinopse

宇宙をかけるグルメヴァルキリー。補給の大切さを説く男が乱入します。軍事。シリアスよりギャグより。


Capítulo1

ヴァーレンス王国の宇宙戦艦、その中ではいつもより三割り増しでカフェイン臭かった。  

 アリウス=シュレーゲルは、銀髪を後ろでひっつめ、赤い眼をスクリーンにくっつけるようにして座っている。  

 手元のカップは、もう三時間前に淹れたコーヒーの残りで、表面に膜が張っている。  

 そんなのを見ても、彼は「もったいない」と蓋をして温め直すだけで、新しいのを淹れる時間が惜しい。  

 だって今日だって、朝五時から魔力式レーダーの点検だ、異常値のグラフだで、眠いの我慢して働いている。  

 ——って、そこに、ピコピコ、という、安物のゲーム機みたいな警告音。  

 最初は、またフレッドが持ち込んだおもちゃが暴れているのかと思った。  

 でも、違う。  

 メインスクリーンの端に、小さな赤い点。  

 まるで、誰かが宇宙の黒板に「こいつだよ」ってチョークで丸を書いたみたいに、どんどん大きくなる。  


 アリウスの背筋が、ぞくり、と寒いのとは別の意味で震えた。  

 椅子が、がたん、と後ろに倒れる。  

 コーヒーカップが、ぶちゃ、と床に落ちて、茶色い水たまりが「の」の字を描く。  

 その瞬間、ドアが、ばたん、と開いて、ミハエルが顔を出した。  

「おっ、朝から床掃除? 勤勉だな、アリウスくん」  

「……宇宙船だ」  

「は?」  

「宇宙船が、こっちに向かってる。スピード、秒速で、えーと、とにかくすごい勢いで」  

「秒速とか知らねぇよ、わたしは理系でも文系でもない、アホ系だ」  

 ミハエルは、まだ寝ぼけた顔のまま、ポケットからおにぎりを取り出して、ぱくり。  

 のりが、ぱらり、と床のコーヒーだまりに落ちる。  

「あー、またアスタルロサがロボット送ってきたのか? 前みたいに、サリサとさゆが『お祭りだー』ってぶっ壊して、後処理がめんどくさいやつ」  

「いや、今回は違う艦種……って、なんでミハエルくん、のりだけ食べてるんだ」  

「梅干しは嫁が作ってくれたやつだから、後で大事に食う」  

 ——そこへ、もう一人、ドアを蹴飛ばすように入ってきたのは、フレデリック=ローレンス。  

 漆黒の鎧をがちゃつかせながら、  

「おはようございます、諸君。今日も平和な——って、なんで床が湖になってるんだ」  

「コーヒーだ」  

「湖だ」  

「コーヒーの湖だ」  

 三人で、三秒間、湖を見下ろす。  

 ——と、そのまま、アリウスがスクリーンを指差した。  

「とにかく、敵艦が来る。こっちの星に、まっすぐ」  

「で、誰が相手だ?」  

「……判別不能。でも、艦影が、なんだか、やたらとハートマークみたいな形してる」  

「は?」  

 ミハエルが、のりを口からはずして、画面を覗き込む。  

「おい、これって……まさか、『宇宙の彼女』とか、ギャルゲーのイベント?」  

「フレッド、きみねぇ——」  

 アリウスが、眉間にしわを寄せた瞬間、フレッドが、にやり、と笑った。  

「攻めてくるのが女なら、口説けば戦争終わるじゃん。オレが行くよ、愛の使者として」  

「……この野郎、今さっきまで、朝の市場でナンパして追い出されてきたばかりだろ」  

「フレッドの情報は漏れてるな? アリウスくん」  

「監視塔の窓から、見えてたんだよ。貴様が『お姉さん、朝から美しいね、僕の朝焼けじゃないけど』って、露店のおばちゃんに言って、スイートポテトでぶん投げられてるの」  

「うるさい、これは戦略だ。愛の戦略だ」  

 ——その時、スクリーンの端に、新しい光点。  

 今度は、もう一隻。  

 しかも、先のハート型の艦を、追うように、ぐんぐん近づいている。  

「おい、後ろの方が、ヤバそうなデザインだな」  

 ミハエルが、おにぎりを握りしめたまま、呟く。  

「まるで、中年のおやじが『俺は悪くない』って言いながら、酒のつまみにしてる魚の骨みたいな艦だ」  

「……その例え、わからん」  

「つまり、後の方が本隊で、前のハートは囮、あるいは——」  

「逃げてる女で、後ろがストーカー、とか?」  

 フレッドが、目を細めた。  

「なら、ますます口説かなきゃ損だろ」  

「フレッド、君は、宇宙戦争を、ギャルゲーと混同してる」  

「混同じゃない、昇華だ」  

 ——三人が、口論している間に、宇宙空間では、もう一件の“会議”が始まっていた。  


 サリサ=アドレット=ティーガーは、宇宙空間で、はだかんぼうだった。  これはヌードという意味ではなく宇宙服を着ていないという意味だ。

 長い銀髪が、スターダストを巻き込んで、ふわふわ、と浮かぶ。  

 耳がぴく、と動いて、  

「……あれ、またハート型の艦が来てる。今度は、どこの馬鹿だろ」  

 隣では、桜雪さゆも、また、はだかんぼう。  妖怪だからかなり物理法則は無視しようと意識すればできる。お化けだし。仕事も学校もない!

 桃色の髪が、宇宙の闇に、桜吹雪のように広がる。  

「もんもん、もんもん……あ、今度は、変な紋章がついてるやつね。奴隷船かー?」  

「また、おままごと相手に来たのかな」  

「違うんじゃない? 今度は、本気で『婿探し』って書いてあるわよ。船体に、でっかい看板」  

「……フレッドが喜びそう」  

「喜ぶ前に、わたしたちがぶっ壊すんでしょ」  

「まあ、そうだけど」  

 二人は、宇宙空間で、足を組んで、ぷかぷか、と浮かびながら、艦を見やる。  

 ——当然、ヴァーレンスの戦艦からは、  

「また、あいつら裸(宇宙服なし)で出てるぜ——!」  

 という、三人分の叫び声が、魔力波で届いていた。  

「うるさいなー、わたしら平気だって」  

「わたし、人間がこうすると血が沸騰するんだっけ? 知らないけどー」  

「……いや、お願いだから変な行動取らないで」  

 アリウスの、涙目の声。  

 ミハエルが、肩をすくめて、  

「まあ、いいじゃん。彼女ら、体も魂も、人間のレベル超えてるし」  

「超えてたって、はぁ——」  

「宇宙は公共じゃない、広すぎる」  

 ——そうこうしているうちに、ハート型の艦が、急に減速。  

 その後ろの“魚の骨”艦も、距離を詰める。  

「……まさか、ここで喧嘩売る気か?」  

 フレッドが、鎧の胸を、ごん、と叩く。  

「なら、オレの出番だな。愛のロープで、両方縛り上げて——」  

「縛る前に、相手の正体を確認しよう」  

 アリウスが、コンソールに指を走らせる。  

 スクリーンに、拡大映像。  

 ハート型の艦のブリッジ。  

 そこに立つのは——  

「……女、一人?」  

「しかも、ドレス着てる。ウェディングドレス」  

「……やっぱり、ギャルゲーだろ」  

 ミハエルが、ため息。  

 ——その隣では、サリサとさゆが、宇宙空間で、  

「あー、また、『宇宙一の花嫁』とか名乗ってくるやつね」  

「前に来た子は、『銀河の純愛』って名乗って、最後に泣きながら、『やっぱり結婚は無理』って逃げてったっけ」  

「今度は、どう転ぶかな」  

「まあ、見てようよ。ヴァーレンスの馬鹿たち、どう口説くか」  

 ——二人は、くすくす、と笑いながら、艦の行く末を、足をぶらぶらさせて見守る。  


 監視塔に戻る。  

 アリウスが、大きくため息をついた。  

「……とにかく、相手の意図を確かめに行こう。ミハエル、フレッド、準備を——」  

「おっ、やっと本気出す?」  

「……今回は、まず、会話から。暴力は、最後の手段だ」  

「つまり、フレッドの口説きは、最後の手段?」  

「……そうだ、宇宙の平和のため、黙っててくれ」  

「ひどいな、フレッド」  

 ——三人が、ぞろぞろと、エアロックへ向かう。  

 その背中を、サリサとさゆが、遠くから見送る。  

「……今度は、どうなるかな」  

「まあ、面白くなるには、決まってるけど」  

 ——宇宙船のハッチが、ゆっくりと開く。  

 そして、三人の、お馴染みの——  

「とりあえず、行ってみよう」  

「女の子なら、笑顔で迎えてあげるよ」  

「……貴様ら、本当に、戦争を終わらせたいのか」  

 ——そんややり取りを、宇宙の真ん中で、桜吹雪のように、  

 ふわり、ふわり、と、桃色の髪が、踊る。

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