개요
大混乱を起こすのは呪術か、観光客か――
장1
ヴァーレンスの東、精霊たちが息づく土地ブルゴーニュ。空には白亜の線が一本、真っ直ぐに引かれていた。ミハエル一行を乗せた魔導船が、雲を分かち、風を切り裂いて進む軌跡だ。最新鋭の船体は海面を滑るように飛び、通常ならば数日を要する国家間の移動を、わずか三十分という瞬きのような時間に短縮する。
「空飛ぶ方の船も魔導船って、海ゆく魔導船とこんがらがるなあ」
ミハエルがぶー垂れる。
やがて船の速度が緩やかに落ち、眼下に広がる港町の全景が姿を現した。ラスロ。ブルゴーニュの西端に位置する、活気に満ちた海の玄関口。
ヴァーレンスからの船は、それが巨大な貨物船であろうと、彼らのような旅行者を乗せた客船であろうと、その地理的な関係から十中八九この港へと辿り着く。故に、ラスロの波止場は常に人で溢れ、多種多様な文化が潮風に混じり合っていた。
「わあ……! なんか、ヴァーレンスとは全然違うね!」
タラップを下りながら、ユーナ=ショーペンハウアーが星の髪飾りを揺らして歓声を上げた。彼女の言う通りだった。ヴァーレンスの王都が洗練された白と金の様式美で統一されているのに対し、ラスロの街並みは、石と木をふんだんに使った温かみのある建築物が肩を寄せ合うように並んでいる。
建物の壁には蔦が絡まり、窓辺には名も知らぬ花々が色鮮やかに咲き誇る。道の随所には小さな祠が祀られ、人々が通りすがりに軽く頭を下げていく姿が見られた。精霊との共存が、この土地の隅々にまで根付いている証拠だった。
魔導船の運賃は一人当たり12,000ウサギ。この世界の共通通貨であり、日本円とほぼ同じ価値を持つ。移動時間が劇的に短縮されることで、かかる金も安くて済む。
結果的に滞在費が浮くのだから、旅人にとってはむしろありがたい選択肢だった。
一行はラスロ・シーポートのターミナルビルに入り、壁際に設置されたラックから旅行者向けの無料パンフレットをそれぞれ手に取った。色鮮やかな紙面には、ブルゴーニュの美しい風景や名産品が踊っている。
「ふふ、骨董市もあるじゃない。これ目当てできたのよね」
フィオラ=アマオカミが、パンフレットの一角に印刷された小さな文字に目を留め、ルビー色の唇に満足げな笑みを浮かべた。その赤い瞳は、既にまだ見ぬ掘り出し物の幻影を捉えている。
「骨董市もいいけど、まずは腹ごしらえじゃないか? この土地ならではの珍味があるはずだ。わたしのグルメセンサーがそう告げている」
漆黒の翼を背負ったカーラが、腕を組んで尊大に頷く。彼女の関心は芸術よりも、常に未知の味覚へと向いていた。
しかし、美食や骨董品を堪能する前に、彼らには済ませておかなければならない、極めて現実的な手続きがあった。
「そうね。でもその前に、まず魂銀行に行かないと」
魂銀行。その名の通り、ヴァーレンスの魂で支払う経済に関連した銀行だ。もちろん、ヴァーレンス王国と友好国じゃないと、こんな施設は建てられない。
地球で言う、円をユーロやドルに両替したりする設備でもある。
セーラー服の上に羽織った千早の袖を揺らしながら、水鏡冬華が冷静に告げた。彼女の言葉に、天馬蒼依やアン=ローレンたちが
「ああ、そうだった」
と顔を見合わせる。
己の魂の欠片を対価として支払うという、特異な経済システムを持つヴァーレンス。金銭という概念そのものを、意図的に形骸化させているあの国は、世界広しといえども唯一無二の存在だ。一歩外に出れば、金属の硬貨と印刷された紙幣が絶対的な価値を持つ、貨幣経済の法則が支配している。
一行はパンフレットで最寄りの銀行の位置を確認し、石畳の道を歩き始めた。港の喧騒を背に、瀟洒なブティックやカフェが並ぶ大通りへと出る。その一角に、重厚な石造りの銀行はあった。
ガラスの自動ドアを抜けると、ひんやりとした空気が肌を撫でる。内部は静まり返り、ヴァーレンスの市場のような熱気はない。人々は黙々と順番を待ち、カウンターの向こうでは行員が淡々と事務処理をこなしている。そして壁際には、目的の機械――ATMが数台、無機質な顔で並んでいた。
「じゃあ、わたし下ろしてくるね!」
一行の会計係を自認している天馬蒼依が、元気よく一台のATMの前に進み出た。魔導携帯端末から魔導マネーのデータを転送し、慣れない手つきで画面を操作していく。引き出す金額を入力し、確認ボタンを押した、その瞬間だった。
画面に表示された一行の文字に、蒼依の動きがぴたりと止まる。
『手数料:1,200ウサギ』
数秒の沈黙。彼女はディスプレイを凝視し、自分の目がおかしくなったのではないかとでも言うように、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。そして、次の瞬間。
「ちょっとぉ! 高いよ手数料! なんなのこれ、ぼったくりじゃない!?」
静寂を保っていた銀行のロビーに、蒼依のバカでかい悲鳴に近い抗議の声が木霊した。近くで順番を待っていた紳士がびくりと肩を震わせ、怪訝な顔でこちらを見ている。
しかし、彼女の怒りはもっともだった。1,200ウサギ。ヴァーレンスの感覚で言えば、食堂で豪勢なランチが食べられる金額だ。ただ現金を魔導機械から引き出すというだけの行為に、それだけの対価を要求されるという事実が、彼女には到底理解できなかった。
その魂の叫びに対する仲間たちの反応は、実に様々だった。
「まあまあ、蒼依。郷に入っては郷に従え、って言うじゃない。仕方ないわよ」
アン=ローレンが苦笑しながら蒼依の肩を叩く。彼女自身も内心では「高いな」と思っているが、旅にこういう出費はつきものだと割り切っていた。
「ふふ、人間ってお金のことになると面白い顔をするのねぇ。もんもん、もんもーん!」
桜雪さゆは、蒼依の憤慨した顔がおかしくてたまらないといった様子で、十二単の袖で口元を隠してくすくす笑っている。彼女にとって、人間の定めるルールや貨幣の価値など、おままごとの道具と大差ない。
「だ、大丈夫? 蒼依ちゃん……」
ヒーラーのガートルード=キャボットは、オロオロと心配そうに眉を下げている。まるで自分が蒼依を怒らせてしまったかのように感じているらしく、その人の好さが表情に滲み出ていた。
「手数料……1,200ウサギ。なるほど、これがこの国の経済水準なのね。勉強になります」
水の魔法使いであるユーナは、まるで未知の魔法陣でも解析するかのように、真剣な顔でATMの画面を覗き込んでいる。彼女の尽きせぬ好奇心の前では、手数料の高さすらも貴重なデータの一つだった。
一方で、年長者たちの反応はもっと落ち着いていた。
「まったく、子供ねぇ。これだから俗世の金銭感覚ってやつは……」
フィオラは最初から興味などないとばかりに、銀行の壁に飾られた凡庸な風景画に退屈そうな視線を送り、小さくため息をついた。彼女の価値基準は美か否か、面白いか否かであり、千や二千の数字の増減など、竜の永い生涯においては塵にも等しい。
「警備員の配置は適切。出入り口は二か所。死角はカウンター裏のあそこか……。ふむ、悪くない布陣だ」
カーラは、手数料の騒ぎなど意にも介さず、鋭い黄金の瞳で銀行内の警戒態勢を分析していた。元ヴァルキリーの習性は、場所が変わっても抜けることはない。
セーラー服姿の巫女、水鏡冬華は、呆れたように首を横に振った。
「頭痛めそう……。いいからさっさと下ろしなさい、蒼依。その1,200ウサギで、この国で安全に現金を手にする『権利』を買うのよ。そう考えれば安いものでしょう。
安全には値段がつくのよ。世間じゃあね」
幕末から現代、そして異世界と、幾多の価値観の変転を見てきた彼女にとって、それは自明の理だった。
そして、その全てを微笑ましげに眺めていたミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒ公爵が、静かに一歩前に出た。
「まあまぁ、そう怒るな、蒼依君。これも一つの社会勉強だ。それに――」
彼は自分の魔導携帯端末をこともなげにATMにかざす。ピッという軽い電子音と共に、画面の表示が切り替わり、払い出し口から金貨が滑り出てきた。
「――この程度、問題ない」
公爵はこともなげに言うと、金貨を1枚を抜き取り、蒼依の手に握らせた。
「お前は行動力の爆発力があるからな。その爆発力に期待しているという証明だ」
呆気にとられる蒼依を尻目に、彼は残りの札を財布にしまいながら、皆ににこやかに向き直る。
「さて。これで当座の資金は確保できた。まずはどこへ行こうか? 骨董市か、それとも美味いものでも探しに行くか」
その手際の良さと揺るぎない態度に、さっきまで手数料に憤慨していた蒼依の怒りは、あっという間に霧散していた。銀行の冷たい空気とは対照的な、ブルゴーニュの暖かな陽光が、一行を待っている。
「……え、あ、はい! じゃあ、美味しいもの!」
現金なものである。蒼依はぱっと顔を輝かせ、今しがた握らされたばかりの紙幣を嬉しそうに眺めた。
その隣で、空夢風音がほっと安堵の息をつく。彼女は手数料の高さに内心驚き、皆の旅費は大丈夫だろうかと密かに胸を痛めていたのだ。ミハエルのスマートな解決に、彼の背中を見つめる瞳が、より一層の尊敬とほのかな熱を帯びる。
「では、決まりだな」
ミハエルが笑う。精霊の土地での旅は、こうして賑やかに幕を開けた。
최신 회
ブルゴーニュの遺跡群を後にした一行は、古代の石畳が敷き詰められた広場へと向かった。朝もやが立ち込める中、広場の中央には優雅な曲線を描く魔導船が静かに待機している。船体は真珠のような光沢を放つ特
ブルゴーニュの遺跡から宿泊施設へと戻った一行は、中庭で待っていた観光組のメンバーたちと合流した。夕暮れの空が深い藍色に変わりつつある中、古代の石造りの建物に囲まれた庭には魔法の灯りがほのかに揺
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ブルゴーニュの遺跡内部は、外から見るよりもずっと広く、古代の石造りの壁に刻まれた精霊文字が薄暗がりの中でかすかに輝いていた。ミハエルたち四人は、星読みのシャーマンと名乗る呪術師に導かれ、円形の
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