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ポニーテールは振り向かない

ポニーテールは振り向かない

Dernière mise à jour: 2026-07-13 13:51:10
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Synopsis

高1の夏。テニス部のアオイは、同じ中学出身のバスケ部男子・ユウトからの急な接近に、淡い恋心を抱き始める。しかし、距離が縮まった夕暮れの帰り道、彼から告げられたのは予想もしない「ある質問」だった――。近づくほどに切ない、嘘のない友情と初めての片思いを描いた、ひたむきで爽やかな青春ストーリー。


Chapitre1

新調したローファーのかかとが、アスファルトに何度も跳ね返る。校門をくぐるたびに感じる、薄い膜に覆われたような違和感は、六月に入ってもまだ消えてくれない。


県立瑞穂高校。

中学の同級生のほとんどが隣町の公立へ進む中、アオイがこの学校を選んだのは、母親の出身校であるという、ただそれだけの理由だった。


「はい、そこ、もっと膝落として!」


テニス部の先輩の声が、乾いたクレーコートに響く。

アオイは額の汗を手の甲で拭い、ラケットを握り直した。ポニーテールに結んだ髪が、首筋にまとわりつく。じりじりと照りつける太陽は、すでに夏の匂いを孕んでいた。中学の頃から使っている年季の入ったラケットだけが、この見知らぬ場所で唯一、自分の体の一部として馴染んでいる。


放課後の部活動が終わると、昇降口のあたりはいつも、運動部特有の熱気と泥の匂いで満ちる。

スクールバッグを肩にかけ、靴を履き替えようとしたときだった。


「お疲れ、アオイ」


背後から降ってきた低い声に、肩がびくりと跳ねる。

振り返ると、水色の上履きを履いた大きな足元が目に入った。視線を上げると、少し濡れた短い黒髪と、白い歯が見える。


ユウトだった。


「……あ、うん。お疲れ」


アオイは小さく会釈をして、自分のスニーカーに足を滑り込ませる。


同じクラスの坂上ユウト。

中学時代、彼は常に学校の中心にいた。男子バスケットボール部のキャプテンで、背が高く、他校からも名前が知られているような存在。同じ学年というだけで、三年間で言葉を交わした記憶など片手で足りる。廊下ですれ違う際、その高い頭頂部を目で追うだけの、文字通り遠い存在だった。


それなのに、この新しい高校で同じクラスになった途端、ユウトの距離感は奇妙なほど縮まっていた。


「今日の練習、きつそうだったな。外コート、日除け何もないし」


ユウトは自分の大きなスポーツバッグを肩にかけ直し、歩調を合わせてくる。歩幅が広い。アオイが二歩進む間に、彼は一歩で追いついてしまう。


「まあ、夏前だしね。そっちは? 体育館、蒸し風呂でしょ」

「死ぬよ。サウナの中でダッシュさせられてるみたい」


ユウトは首にかけたタオルでがしがしと頭を拭き、破顔した。その屈託のなさに、アオイは少しだけ目のやり場に困る。


同じ中学出身というカードは、このアウェイな環境において、想像以上に強力な接続詞になるらしかった。クラスの他の男子はまだ、互いに牽制し合うような微妙な距離を保っているというのに、ユウトだけは最初から「身内」のような顔をして話しかけてきた。


「あ、そうだ。数学のプリント、あそこの大問三解けた?」

「……まだ見てない。帰ってからやるつもりだけど」

「見せてよ、明日。俺、あそこの公式からしてさっぱりで」


合流した通学路の坂道を下りながら、ユウトがひらひらと手を振る。

彼の手のひらは、ボールを扱い慣れているせいか、驚くほど大きくて厚みがあった。


「気が向いたらね」


アオイはそう言って、少しだけ歩幅を早めた。

並んで歩く影が、夕暮れの道路に細長く伸びている。ユウトの影がアオイの影の肩のあたりに重なり、それがなんだか落ち着かなくて、アオイは爪先を少し外側に向けた。


同じ中学だった。

本当に、ただそれだけのはずだった。


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