Sinopsis
「幸運すぎること」を呪いだと感じる元最強の兵士レスター。彼は数々の死線をくぐり抜け、栄光も名声も捨てて異国の街へと逃亡する。彼が求めたのは、誰の記憶にも残らない「何もない平穏」だった。
過剰な幸運に愛された男が、やがて辿り着く「本当の幸せ」を描く、静かで温かな人生の物語。
Capítulo1
死線という言葉は、レスター・ヴァーンにとって抽象的な概念ではなかった。それは、鼻腔を突く焦げた硝煙の匂いであり、鼓膜を揺さぶる爆破音であり、指先にまとわりつく濡れた泥の感触だった。
「ヴァーン曹長! 左の崩落した壁の陰に退避しろ!」
耳元で叫ぶ小隊長の声を打ち消すように、敵の重機関銃が凶悪な火を噴いた。連続する着弾音が土嚢を削り、跳ね返った弾頭がレスターの頬のすぐ脇をかすめていく。だが、彼は眉ひとつ動かさなかった。慌てることなく一歩退き、ごく自然な動作で身を屈める。
次の瞬間、彼が先ほどまで立っていた場所に高熱の鉄塊が突き刺さり、背後の鉄パイプを激しく跳ね飛ばした。コンクリートの破片が雨のように降り注いだが、レスターの頭上には、たまたま崩れ落ちた鉄板が庇(ひさし)のように覆いかぶさり、傷ひとつ負わせなかった。
「……相変わらずだな、お前は」
物陰に飛び込んできた同僚の兵士が、肩で息をしながら呆れたように呟いた。レスターはただ黙って自らのアサルトライフルを点検し、静かに頷いただけだった。
レスター・ヴァーン。最高峰の特殊部隊に所属する彼は、軍の歴史上「最も幸運な兵士」と呼ばれていた。
彼が参戦した作戦は、どれほど無謀であっても生存率が跳ね上がった。彼が偶然足をとめれば、そこに埋められていた地雷の不発弾が見つかる。彼が突入を一番最後に回されれば、先頭の部隊が仕掛け罠に引っかかる直前で異変に気づくことができる。
もちろん、彼自身が卓越した戦闘技術と、研ぎ澄まされた洞察力を持っていたのは確かだ。しかし、それを差し引いてもなお、彼の周囲で起きる現象は奇跡と呼ぶほかなかった。極限の戦場において、彼の頭上にだけは常に目に見えない守護の盾が存在しているかのように。
数々の激戦を生き延び、彼は無数の勲章を授与された。武功章、名誉戦傷章、卓越奉仕勲章――彼の軍服の胸元は、眩いばかりの金属の輝きで埋め尽くされた。
やがて戦争が終結に向かい、レスターが退役を迎えた日、軍司令部では大々的な送別式典が催された。長官はレスターの胸に最後の勲章を留め、力強くその手を握った。
「ヴァーン軍曹。君の幸運と卓越した働きに、我が国は深く感謝する。君は我が軍の誇りだ」
フラッシュの眩い光が絶え間なく焚かれ、集まった大勢の兵士や報道陣から万雷の拍手が送られた。レスターは背筋を伸ばし、完璧な敬礼を返した。しかし、彼の心は不思議なほど冷めていた。
(幸運、か……)
拍手の渦の中で、レスターは自分に授与された光り輝くメダルを見つめた。
弾丸が自分を避けていくたび、彼は安堵すると同時に、小さな罪悪感を抱いていた。なぜ自分だけが助かるのか。なぜ隣で戦っていた同僚は倒れ、自分はかすり傷ひとつ負わないのか。その「幸運」とやらは、一体誰の犠牲の上に成り立っているのだろうか。
勲章の重みは、彼にとって誇りではなく、生き残ってしまったことへの静かな重圧だった。軍を去る彼の背中に送られる歓声を聞きながら、レスターは心の中で強く思った。もう、誰かの命と引き換えのような劇的な運などいらない。ただ静かに、何もない平和な場所で暮らしたいのだと。
Últimos capítulos
柔らかな陽光が、白いカーテンを透かして小さな寝室を照らしていた。
ベッドの上で横たわるレスターは、静かに自分の呼吸を感じていた。身体は鉛のように重く、視界も少し
あの激しい雨の夜から数日が過ぎ、街には再び穏やかな日常が戻っていた。
裏社会の残党は、レスターの通報により軍の手で一網打尽にされ、二人の平穏を脅かす影は完全に潰
雨が激しく街を叩きつける夜だった。
小さなアパートの室内で、レスターは冷めきった紅茶のカップを見つめていた。時計の針は午後八時を過ぎている。近所の洋裁店へ出かけ
出会いから二年が過ぎた頃、レスターとエマは小さな教会で静かに結婚式を挙げた。
参列者は数えるほどしかいなかったが、お互いに華やかな式など望んでいなかった。エマが







