# 鎖国の波間で
Synopsis
大航海時代末期の、侍と海賊の駆け引き。
Chapter1
## 第一章 異国の船影
寛永三年(1626年)春、九州平戸の港は朝霧に包まれていた。潮の香りとともに、異様な緊張が港全体を覆っていた。松浦家の若き当主、松浦隆信 は、港を見下ろす丘の上に立ち、目を細めて水平線を見つめていた。彼の着ている小袖には松浦家の紋である「三つ星」が控えめに染められ、腰には家伝の打刀が下げられていた。
「あれが噂の『レッド・ドラゴン』か」
隆信の隣に立っていた老練な家臣、黒田重兵衛が低く呟いた。霧の向こうから、三本マストの帆船がゆっくりと姿を現していた。船体は黒く塗られ、船首には赤く塗られた竜の彫刻が施されている。イギリス船特有の高い船尾楼は、この海域では異様な威容を放っていた。
「そうです。オランダ商館からの情報では、船長はウィリアム・ホーキンスという男。東インド会社の許可を得ていると主張していますが……」
重兵衛の言葉が途切れた。彼は今は亡き祖父である松浦鎮信からこの任務を与えられていた。平戸は長年にわたり外国貿易の拠点として栄えてきたが、徳川秀忠の治世下、鎖国政策は徐々にその歯車を回し始めていた。将軍家の意向は明確だった――貿易は統制され、キリスト教の拡大は阻止されねばならない。
しかし現実は複雑だった。平戸松浦家は貿易による富で家を支えてきた。完全な鎖国は経済的な死を意味した。その狭間で、松浦家は綱渡りのような外交を迫られていた。
「ホーキンスは半商人、半海賊と言われています」重兵衛が続けた。「マラッカ海峡ではポルトガル船を拿捕したとの報告も。しかし、彼が持ってきた商品は我々にとって必要不可欠なものばかりです」
隆信は頷いた。鉄砲の火薬となる硝石、錫、そして最新式の航海器械。これらは松浦家が九州の他の大名に対抗するために必要な物資だった。
「重臣達の意見は?」
「皆、慎重です。将軍家の目が光っている。一歩間違えれば、松浦家の貿易特権すら剥奪されるかもしれません」
その時、港から警鐘の音が響いた。『レッド・ドラゴン』が碇を下ろし、小舟が船から降ろされ始めていた。
「彼奴らが上陸しようとしている」隆信は腰の刀に手をやった。「参ろうか」
重兵衛は、困惑した。「お待ちを!御屋形自ら出迎えの必要は、ありません、危険すぎます!」重兵衛は反対する「素性の知れぬ彼奴とは、我々が…」隆信は遮る「だからこそわしが出向いて見極めるのだ、お主らの事後報告ではなくわしがこの目で耳聞するのが大事なのだ、我が一族の命運がかかっている!」隆信は重兵衛の顔を少しニヤけた表情で見つめる「お主が使節代表で、わしは護衛だ素性を隠して参るのだ、一言も話さぬ!政に長けたお主の手並みを拝見させて貰う。」隆信は他の家臣達に命ずる「仕度をいたせ!」
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窓の外では、春の風が西から吹き、港の船の帆を膨らませていた。その風は、遠くヨーロッパから来た風であり、やがて日本から世界へと吹き返す風でもあった。
大航海時代の
その翌日、『レッド・ドラゴン』は積み荷の陸揚げを始めた。硝石、錫、毛織物が丁寧に検査され、記録された。キリスタンの物品は別途保管され、後に処分されることになった。
<『レッド・ドラゴン』が平戸に戻ってきたのは、それから三日後のことだった。ホーキンスは、長崎での形式的な検査を無事通過したことに満足しているようだった。
一週間後、長崎からの早船が平戸に到着した。それは、隆信にとって良い知らせでも悪い知らせでもあった。
『レッド・ドラゴ







