Synopsis
スポーツやるのはこいつらには難しい!
Chapter1
「風まかせラジオ~~、本日は青い空と白い砂、そしてきらめく波が眩しいヴァーレンス王都近郊の特設ビーチから生放送でお届けしておりますっ! 題して『第一回・王都ビーチバレー選手権大会』! 実況は私、アン=ローレンが水着姿で張り切ってお送りしちゃいますよー!」
砂浜に立てられた日よけパラソルの下、三脚に固定された魔導携帯端末が青白い光の幕を放っている。画面の向こうでは、わ〜ちゃんねるの視聴者たちが狂ったような速度でコメントを流し続けていた。
その実況をかき消すように、鼓膜を激しく震わせる乾いた破裂音が響き渡る。
バシィィィィィィィィィィン!
白革のボールが、すさまじい速度の光条となってコートの境界線に突き刺さった。激しく跳ね上がった砂が、まるで爆発でも起きたかのように周囲へ飛び散る。
「やっ、たあぁっ!」
短い巫女装束を簡略化したような水着の裾を揺らし、天馬蒼依が両拳を天に突き上げた。豊満な胸がその動きに合わせて大きく波打つ。額ににじんだ汗が、正午の太陽光を浴びて真珠のように光っていた。
対戦相手のコートで砂まみれになって四つん這いになっているのは、エルフの忍者レティチュ=ド=エーロである。青い忍び装束をアレンジした露出の多い水着が、砂と汗で肌に張り付いていた。
「うう……今のは速すぎでーす! ニンジャの動体視力でも追いきれないなんて、反則的なスパイクですよぅ!」
「ふふん、野生の勘を甘く見ないことだね!」
蒼依は自慢げに鼻を鳴らし、次のサーブのためにボールを拾い上げる。
コートから少し離れた特等席。パラソルの影に木製のベンチを置き、冷たい麦茶を片手にその光景を眺めている親子がいた。
「バレーは参加しなくても見ておいた方がいいぞ、ラルス。もちろん、今からでも飛び入りで参加しても構わんがね」
金髪を潮風になびかせ、豪奢な黒い水着に身を包んだミハエルが、隣に座る息子へ穏やかに語りかける。その視線はコート上で躍動する少女たちの姿に固定されていた。
息子のラルス=ローゼンベルグは、水着の上から薄手の黒い上着を羽織り、窮屈そうに膝を抱えている。父親の整った横顔を見上げ、怪訝そうな声を絞り出した。
「どうしてですか? 父さん。僕はこういう騒がしい場所は、その……少し苦手なんだけど」
「簡単なことだ。このようなビーチバレーであれば、お尻がプルンプルンと揺れる様を堂々と鑑賞できる。普段の街中では制服や鎧に隠されているものが、砂浜という大義名分のもとで解放されているのだからな。これこそまさに目の保養というものだ」
「…………父さん」
ラルスは深くため息をつき、頭を抱えた。青い瞳には、底知れない疲労の色が浮かんでいる。
「息子に変なことを教えないの!」
背後から、氷の刃のような鋭い声が飛んできた。
振り向くと、そこには短い黒髪を濡らしたミレーヌ=ローゼンベルグが立っていた。普段の重厚なダークアーマーを脱ぎ捨て、機能美に特化したネイビーブルーのセパレート水着を着用している。鍛え上げられたしなやかな腹筋と、白い肌のコントラストが目に眩しい。ミレーヌは冷たい手元のうちわで、夫の脇腹を容赦なく小突いた。
「ラルスはまだ成長期の大事な時期なのよ。あなたの歪んだ審美眼を植え付けようとしないで」
「歪んでなどいないさ、ミレーヌ。私はただ、世界の美をありのままに肯定しているだけだ」
ミハエルは痛む素振りも見せず、当然の権利を主張するように胸を張る。
その時、実況を続けていたアンが、不自然に魔導携帯端末のマイクをこちらに向けた。
「……えー、ただいま会場の特設観覧席より、たいへん世俗的かつ不穏な親子会話が音声に乗ってしまいました〜。リスナーの皆様、これが我が国の公爵家の日常でございます。コメント欄の『お巡りさんこっちです』という流れは一旦ストップしてくださいねー!」
魔導ネットの画面には「さすが公爵閣下」「ブレない紳士」「ラルス君がんばれ」といった弾幕が猛スピードで流れていく。
ラルスは顔を赤く染め、上着の襟元を握りしめた。
「ほら、父さん! ラジオに拾われてるじゃないか! そういうことを息子に吹き込むのは本当にやめてよ」
「何を恥じる必要がある? 美しいものを美しいと感じ、それを口にするのは至極自然な感情だろう。私は人間としての本能に忠実なだけだ」
「そういう問題じゃないよ……」
「では、何が問題なのだ?」
「……僕に聞かないでよ」
ラルスは視線を泳がせ、助けを求めるように母親のミレーヌを見た。しかし、ミレーヌはあきらめたように額を押さえている。
「なるほど。つまり、お前もまだその良さが理解できないほどに若いということだな」
「結論がおかしい!!」
ラルスの叫び声が、波の音に吸い込まれていく。その様子を、日陰の冷やすスペースから見ていたフレデリック=ローレンスが、ニヤニヤと笑いながら近づいてきた。黒い水着の腰に、なぜかいつもの滅炎剣と滅氷剣を下げている。
「おいおい、ミハエル。相変わらず堅物な息子さんをからかって楽しんでるねぇ。でもよ、俺は賛成だぜ? 水着のねーちゃんたちを見て目が腐る奴はいねえ。特にあっちの出雲の巫女さんなんて、地味なようでいて素晴らしいラインをしてるじゃないか」
フレデリックが指差した先では、東雲波澄が白の透けるようなラッシュガードに、極端に短いマイクロミニ丈のスイムスカートを合わせて、ネットの支柱の影に隠れるように立っていた。男たちの視線を浴びるたびに、嫌がるそぶりを見せつつも、ポニーテールを揺らして位置を微調整している。
「ちょっと、フレッドさん……! そういう下品な目で見るのはやめてください。私はただ、式神の調整のためにここにいるだけですから……っ」
波澄は頬を染め、胸元を両手で隠すようにして身を縮める。しかし、その指の間から零れる豊かな膨らみは、男たちの視線をより惹きつける結果にしかなっていなかった。
「ふむ」
ミハエルが顎に手を当て、深く頷く。
「波澄のあの『隠しきれない自己主張』は実に見事だ。地味に見せておいて細部で魅せる。これぞ職人技だな」
「だから、そこを解説しなくていいんだってば!」
ラルスのツッコミも、もはや潮風にかき消される程度の抵抗でしかなかった。
試合はさらに熱を帯びていく。
コートの中央では、水鏡冬華がセーラー服の上着だけを脱いだような、露出の少ない紺色のワンピース水着姿で静かに佇んでいた。長い黒髪を一つにまとめ、鋭い視線を対戦相手のコートへ送っている。
「アホ女、次いくよ」
「ほいほーい! いつでも来やがれ、半竜殿!」
対戦相手のコートで待ち構えるのは、ピンクの十二単を強引に水着に仕立て直したような奇妙な衣装の桜雪さゆだ。頭の上に乗った子狐が、吹き荒れる潮風に落とされないようしがみついている。
冬華が手元で白革のボールを軽く弾ませる。その瞬間、彼女の周囲の空気が一変した。霊波動が目に見えない微振動となって、周囲の砂粒を細かく浮かび上がらせる。
「……はっ!」
冬華の手から放たれたサーブは、鋭い回転を伴って、地を這うような軌道で急降下した。
しかし、さゆは驚くべき反射速度で前方に滑り込み、膝を砂に擦り付けながらレシーブする。
「それっ!」
高く上がったボールに向けて、サリサ=アドレット=ティーガーが砂を蹴って跳躍した。銀色の長い髪と、白いホワイトライガーの耳が躍動する。三段フリルのついた水着の裾がひらりと舞い、健康的な太ももが太陽の光を浴びて輝いた。
「フィオラ、決めて!」
「ええ、任されよう」
後方から宙へと躍り出たのは、黒竜の因子を持つフィオラ=アマオカミだった。深紅のビキニスタイルに、背中からは純白の大きな翼が広がっている。黒い竜のしっぽが空気の壁を叩き、彼女の巨躯を空中で静止させた。
「……ふんっ!」
フィオラのしなやかな右腕がしなり、ボールを叩きつける。その腕力は、一撃で城壁を粉砕するほどの質量を秘めていた。
空気が悲鳴を上げる。ドゴォォォォォン! という重々しい打撃音と共に、ボールは音速の壁を突破して冬華のコートへ向かう。
「させないわ!」
前衛の空夢風音が一歩前に踏み出した。白いセーラー水着の胸元が大きく揺れる。風音は両腕を交差し、体内の霊波動を盾のように展開した。
激突。
バリバリと不穏な火花が散り、風圧だけで周囲のパラソルが何本も吹き飛ばされた。風音は砂の上を数メートル後退させられながらも、どうにかボールを上に弾き返す。
「うっ……くぅ! 重い、です……っ!」
「よく上げた、風音! 蒼依、決めておくれ!」
冬華が声を張り上げると同時に、蒼依が再び砂浜を力強く踏みしめた。ふくらはぎの筋肉が極限まで緊張し、爆発的な跳躍力を生み出す。
バシィィィィィィィィィィン!
本日一番の衝撃音が響き渡り、コートの半分がクレーターのように陥没した。舞い上がった砂煙が、一時的に視界を遮る。
観覧席のラルスは、目の前で起きた天変地異のような光景に、開いた口が塞がらない。
「す、すごい……! あんなの、普通の人間がやったら足の骨が折れてるよ……!」
「うむ。あれだけの踏み込みは見事だ。砂の流動性を完全に予測し、一瞬で自重を固定している。体の軸が一切ぶれていないな」
ミハエルが冷たい麦茶を一口すすり、至極真面目な顔で分析を口にする。
「父さん、ちゃんと競技そのものを見てるじゃないか。さすがだね」
「当然だ。そのうえで、跳躍した瞬間にめくれ上がる水着のラインと、太ももの付け根の柔らかそうな質感を視覚に焼き付けている。競技への敬意と、男としての本能の充足。これらは完全に両立可能だろう」
「そこに戻るの!?」
ラルスは脱力し、ベンチの背もたれに体を預けた。ミハエルの眼光には一切の邪念がなく、ただ純粋な真理を語る学者のそれと同じだった。だからこそ、ツッコミを入れる側としての精神的疲弊が大きいのだ。
実況席のアンが、さらに調子を上げてマイクに向かって叫ぶ。
「おおっと! 天馬選手の超重量級スパイクが炸裂! コートの地形が変わってしまいましたが、魔法技術による復旧作業がただちに行われます! 皆さん、怪我はありませんかー?」
砂煙が晴れると、そこには息を切らせた少女たちがそれぞれの水着姿で立っていた。
「はぁ、はぁ……やっぱりこの国の人たち、強すぎるよぅ……」
カイアス王国から移住してきたユイリーナ=シエル=ブレイユとエルファーネ=ストラード=ブレイユの姉妹が、互いに寄り添いながらため息をついている。二人は白と水色を基調とした、露出度の高い守護天使風の水着を着用しており、額のユニコーンの角と白いペガサスの翼が、波しぶきを浴びてキラキラと輝いていた。
「エルファーネ、大丈夫? 砂埃が目に入っていない?」
「うん、大丈夫だよお姉ちゃん。でも、バレーボールってこういうスポーツだったっけ……? もっとこう、ほのぼのしたものだと思ってたのに……」
隣のコートでは、海底王国マリーローズとの貿易を管轄する家令のリディア=ド=フレージュが、茶色の長髪をポニーテールにまとめ、黒のシックなモノキニ水着姿で日焼け止めを肌に塗っていた。
「あら、あなたたち。これでもまだ手加減している方よ? ミハエル卿の黒騎士団が本気を出したら、このビーチそのものが消滅しているわ」
リディアの背後では、同じフローター・クレーヴのメンバーたちがそれぞれの時間を過ごしている。
黄緑色のビキニ姿のフローラ=ド=ステヴナンは、波打ち際で足を濡らしてはしゃいでおり、白いフリル水着のクロディーヌ=ド=ロアンは、照れくさそうに胸元を隠しながら、砂浜に小さな山を作っていた。
「んっ……あ、あれ? 崩れちゃいました……」
クロディーヌは何か行動を起こすたびに、小さな声を漏らしてしまう。その赤い瞳が、遠くからこちらを見ているミハエルと一瞬交差し、慌てて視線を砂山へと戻した。
「クロディーヌちゃん、可愛いわねぇ」
水色の髪を揺らし、黄色いスイムウェアを身にまとったエミリエンヌ=ド=レアルが、くすくすと笑う。金髪を海賊風のビキニで包んだカトリーヌ=ディ=ルパージュは、冷たいトロピカルジュースを飲みながら、砂浜に寝転がっていた。
「まったく、平和なのは良いことだけど、これじゃスポーツのルールなんてあってないようなものじゃない」
その言葉通り、砂浜の各地では、ルールを無視した規格外のやり取りが始まっていた。
「アリウス! ちょっとは動いたらどうなんだい?」
白緑の翼のトップであるアリウス=シュレーゲルは、黒いラッシュガードをしっかりと着用し、砂浜に敷いたシートの上で読書に没頭していた。背中の白い半霊物質の翼は半分引っ込められている。
「僕は遠慮しておくよ、フレッド。情報を物理エネルギーに変換する効率を考えても、ビーチバレーという運動は僕の専門外だからね」
アリウスは赤い瞳を本から離さず、手元のおにぎりを一口かじる。
「冷たいやつだな。ほら、そこの可愛いお姉さんたちも見てるんだぜ?」
フレッドが視線を送った先には、魔導PCの普及に貢献した月日リアナがいた。普段の黒いベストを脱ぎ、白いシンプルなワンピース水着に黒いリボンをあしらった装いで、フィオラの隣で大人しく座っている。その赤い瞳は、波打ち際で楽しそうにする他の女の子たちを、少し羨ましそうに見つめていた。
「リアナちゃんも、あっちで一緒に遊んできたらどうだ?」
アリウスが優しく声をかけると、リアナは少し肩を跳ねさせ、顔を赤くした。
「えっ……い、いえ、わたしはこうしてフィオラ様のギャラリーのパンフレットを整理しているだけで十分です。その、水着姿を見られるのも、少し恥ずかしいですし……」
「そう言わずに行っておいでよ。せっかくの夏なんだから」
アリウスの穏やかな笑顔に、リアナは小さな声で「はい……」と頷き、ゆっくりと砂浜へと歩み寄っていった。
その時、突然上空から巨大な影が差した。
「おいおい! そこまでだ!」
漆黒の翼を大きく広げ、ブラックヴァルキリー・カーラが空から舞い降りてきた。黒いタクティカル水着のような、太ももを大きく露出した戦闘用スイムスーツを身につけている。手にはなぜか、大きな串焼き肉を持っていた。
「魂の導き手を差し置いて、これほど美味そうな肉と、楽しそうな催しを独占するとは良い度胸だな、ミハエル!」
「カーラ、君も参加するか? 今ならちょうど、サリサたちのチームに空きがあるぞ」
「ふん、わたしが本気を出せば、ボールごとあの猫科の女を吹き飛ばしてしまうがな!」
カーラが挑発的な視線をサリサへ向ける。
日陰で丸くなって寝ていたサリサは、耳をぴくりと動かし、薄く目を開けた。
「ん〜……カーラ、うるさい。せっかくの昼寝が台無しだよ。やるなら、容赦はしないけど」
サリサの尾が砂をパタパタと叩く。ネコ科の因子が、本能的に鳥の因子を持つヴァルキリーを警戒しているようだった。
「いい度胸でーす! レティチュも、今度は本気で行きまーす!」
エルフの忍者が立ち上がり、水術の構築を始める。
その周囲では、風を操る精霊シルフィードが黄緑色の水着姿で宙に浮き、風圧を調整していた。
「あはは! みんな楽しそうだね! 私も風のシールドを張って手伝うよ!」
「余計なことはしないで、シルフィード! ボールの軌道が変わるじゃない!」
アンが実況を続けながら突っ込む。
砂浜はすでに、バレーボールのコートというよりも、様々な属性の魔力と霊波動が錯綜する演習場の様相を呈していた。
その混沌とした光景を、ラルスはただ呆然と見つめ続けるしかなかった。
「……父さん。これ、本当にビーチバレーなのかな」
「そうとも。ルールがどうあれ、彼らが一堂に会し、一つのボールを通じて肉体を躍動させている。その事実こそが重要なのだ」
ミハエルは麦茶のコップを置き、立ち上がった。その堂々たる体躯に、周囲の女性たちからの視線が集まる。
「さて、私も少し体を動かしてくるとしよう。ラルス、お前も来い。男の鍛えられた肉体というものを、あそこのお嬢さん方に見せつけてやるのも、また一興だぞ」
「僕は絶対にパスするよ!!」
ラルスの魂の叫びが、再び響き渡る。
その横を、メイド長のレアが、黒と白のシックな水着の上にフリルのエプロンだけを着用した奇妙な姿で、冷たい飲み物を載せたトレイを持って静かに通り過ぎていった。
「ヤングマスター、旦那様の健康的な暴走は、今に始まったことではございません。あきらめて、こちらの冷たいお茶をお召し上がりください」
「レアさんまで……ありがとう、いただくよ……」
ラルスは受け取ったお茶を飲み干し、深くため息をついた。
目の前では、蒼依が再び跳躍し、冬華が呪禁道でボールを受け止め、サリサが砂を蹴り、フィオラが空を舞う。きらめく波と、舞い上がる砂煙の中、規格外の者たちの夏は、まだまだ始まったばかりだった。
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砂浜に響き渡るアン=ローレンの弾けた声。片手に掲げた魔導携帯端末の画面には、信じられない速度でコメ
「風まかせラジオ~~ビーチバレースペシャル! 皆水着でお送りしてますーーーー! わたしは1回戦で負けちゃいましたが、放送の方は続けていきますよ~!」
砂浜に響き渡るアン=ローレン







