真龍、牢獄を出る!
Synopsis
三年間の服役を終え、葉楚は江都へ戻った。しかし、彼は兄の代わりに姜家へ婿入りすることを余儀なくされる。誰も知らない――名門一族から見捨てられた存在と見なされているこの青年が、かつて龍潭監獄で薬皇を師として仰いでいたことを。さらに誰も知らない――彼の体には真龍の血脈が流れており、幼少期に奪われた真龍骨は怨龍の気へと化し、昼夜を問わず彼の命を蝕んでいることを。
入り婿の身から葉大師へ、楚覇王から大夏龍主へ。葉楚は卓越した医術、丹道、武道を武器に一路成長し、豪門、裏社会、宗門、そして数々の強敵を打ち破っていく。真龍骨、祖龍の墓、四象の継承、そして大夏の気運が次々と世に現れる中、彼の出生に隠された陰謀もまた、彼を山河を守るための最終決戦へと導いていく。
Chapter1
「師匠。弟子はこれで参ります。どうか、ご自愛ください」
江南省、龍潭監獄。
葉楚は薄汚れた身なりの老人へ深々と礼をした。別れがたい思いが、目の奥に滲んでいる。
老人はわずかにうなずき、静かな声で言い聞かせた。
「わしの言いつけを忘れるな。外へ出たら、体内の怨龍気を一刻も早く始末しろ。心脈まで蝕まれれば、とんでもない災いを招くぞ」
葉楚は表情を引き締めた。
「はい、師匠。心得ております」
三年前、兄の罪を被って、彼はここへ入れられた。
当時はまだ十五歳。監獄では、いつも誰かに目をつけられ、痛めつけられていた。
そんな葉楚を救ったのが、この老人だった。弟子に取り、多くの技を授けてくれたのである。
老人は葉楚に告げた。おまえには真龍血脈が宿っている、と。だが、どういうわけか体内にあるはずの真龍骨は、すでに抉り取られていた。
そのせいで怨龍気が生まれ、絶えず肉体を侵している。このままなら、十八歳まで生きられまいという。
老人から武道を学び、気血と体質を整えたからこそ、葉楚は辛うじて怨龍気を押さえ込めていた。
もっとも、それは時間を稼ぐだけの処置にすぎない。
怨龍気を根絶する手段は、二つあった。
ひとつは、特殊体質を持つ女を探すこと。龍は元来、淫性を持つ。怨龍気もまた龍の一種であり、特殊体質の者と双修してその元陰を借りれば、怨龍気を調和できる。
中でも、真凰体と真龍体が最良とされていた。
もうひとつは、失われた真龍骨を取り戻すことだ。
怨龍気は真龍骨を奪われたことで生じたもの。真龍骨さえ戻れば、自然と消え去るはずだった。
老人は手を振った。
「うむ、行け。だが、わしの弟子の名を汚すなよ」
葉楚は老人の前にひざまずき、三度、額を床へ打ちつけた。それから立ち上がり、監獄を後にする。
彼が出ていった直後、龍潭監獄は一気に沸き立った。
「ははは! 楚霸王が、ついに出ていきやがった!」
「最高だ! 今日は祝杯をあげなきゃな!」
江都城に四つある名門、四大豪族。その一角を占める葉家では、当主の葉天成と妻の謝雨珊が、屋敷の居間で重い顔を突き合わせていた。
「どうすればいい? あと三日しかない。このまま打つ手がなければ、俺も当主の座を追われる」
葉天成は眉間の皺を深くした。
謝雨珊は悔しげに唇を噛む。
「お義父さまは、わざとやっているのよ」
「そんなことは分かっている。父さんは遠回しに、俺へ当主の座を明け渡せと言っているんだ」
謝雨珊の声が揺れた。
「じゃあ、どうするの?」
葉天成は歯を食いしばった。
「こうなれば、逸飛を犠牲にするしかない」
謝雨珊の顔色が変わる。
「逸飛が承知するかしら? 姜家のお嬢さまは植物状態で、それに顔にもひどい傷が残っているって聞いたわ」
姜家の長女は一年あまり前、交通事故に遭って植物状態となった。
各地の医師を頼っても治らず、姜家は近ごろ、厄払いを兼ねて入り婿を迎えようとしていた。
葉家は富と栄華を得ようと、自らその話を引き受けたのだ。
葉家の老当主はすぐに一族会議を開いたが、話し合っても結論は出なかった。そこで最後には、当主である葉天成へと問題を押しつけてきた。
夫婦が途方に暮れているところへ、葉家の執事が入ってきた。
「旦那さま、楚少爺さまがお戻りです」
謝雨珊が眉をひそめる。
「楚少爺? 誰のこと?」
葉天成も怪訝そうな顔をしたが、すぐに何かを思い出したらしい。
執事が説明する。
「旦那さま、三年前に収監された葉楚少爺さまです」
夫婦はようやく葉楚の存在を思い出した。
三年以上も姿を見せていなかったため、二人とも、そんな息子がいたことすら忘れかけていたのである。
二人の目が同時に光った。謝雨珊は笑みを浮かべる。
「天成。葉楚を姜家へ婿入りさせればいいのよ」
葉天成も同意した。
「悪くない。前科者と植物状態の女、まさにお似合いの縁談だ」
だが謝雨珊は、なおも不安そうだった。
「葉楚は妾腹の子だし、刑務所にも入っていたでしょう。姜家は嫌がらないかしら?」
葉天成は少し考え込んだ。
「電話で聞いてみよう」
そう言うとすぐに携帯電話を取り出し、姜家へ連絡を入れた。
通話を終えるなり、謝雨珊が尋ねる。
「どうだったの?」
「姜家は、検討すると言っている」
そこへ執事が、葉楚を連れて入ってきた。
色褪せ、何度も洗われた服とズボン。その姿を目にした二人の瞳には、あからさまな嫌悪が走る。
だが婿入りの話を思えば、笑顔を取り繕うほかなかった。
葉天成は足早に近寄り、葉楚の手を取った。
「小楚。この三年間、苦労をかけたな」
謝雨珊も続ける。
「小楚、待っていてちょうだい。母さんがご飯を作ってあげるわ」
そう言って、台所へ向かった。
葉天成は葉楚を引き留め、しきりに気を遣う言葉を並べた。
監獄での三年間はどうだったか。会社のことで手一杯で、面会にも行けなかったのだ。
そんなことを、もっともらしく語り続ける。
葉楚は一言も暴こうとせず、黙って聞いていた。
胸の内では、ただ冷たく笑っていた。
今の彼は、三年前の葉楚ではない。どれほど耳触りのいい言葉を並べられても、信じるつもりなど一文字もなかった。
かつて葉家で、葉楚に居場所などなかった。
日常的に殴られ、罵られていた。
三年前には葉天成が、兄の葉逸辰の身代わりになれと命じた。
未成年なら刑も軽くなる、と言ったのだ。
そして出所した暁には、一生、栄華を約束してやるとまで誓った。
だが、結果はどうだったか。
葉楚が収監されてから、葉家の者は誰ひとりとして面会に訪れなかった。
あのころの葉楚は幼く、葉家に抗う力などなく、うなずくしかなかったのである。
本来なら、出所後に葉家へ戻るつもりはなかった。
だが師匠から、自分に真龍血脈があると聞かされた。
葉天成も、すでに亡くなった母も、ただの人間だった。真龍血脈など受け継げるはずがない。
考えられるのはひとつ。二人が本当の親ではないか、あるいは、そのどちらかが血のつながらない親なのだ。
葉楚がここへ来たのは、自分の出自を確かめるためだった。
なぜ葉天成が急に親しげに振る舞うのか、見当はつかない。だが、妙なことには必ず裏がある。
いったい何を企んでいるのか、見届けてやろうではないか。
一時間以上たっても、葉天成はなおも話し続けていた。さすがにうんざりした葉楚は、冷えた声を出す。
「茶番はやめろ。何が目的だ?」
葉天成は一瞬、面食らった。だがすぐに、愛想よく笑う。
「小楚、何を言うんだ。父さんがただ、おまえのことを心配しているだけじゃいけないのか?」
葉楚は答えず、ただ黙って葉天成を見つめた。
葉天成は居心地悪そうに視線を揺らした。ちょうどそのとき、携帯電話が鳴る。
彼は電話を取り、応答した途端に顔をほころばせた。
二、三言交わしてから、通話を切る。
そして葉楚へ、慈愛深い父親のような笑みを向けた。
「小楚。三年間のおまえの苦労に報いるため、父さんが縁談をひとつ整えてやった」
ついに本題か、と葉楚は悟った。
「相手は姜家の長女だ。彼女と結婚すれば、この先は衣食に困らず暮らせる」
葉楚の胸の内で、冷笑が広がった。予想はしていたとはいえ、ここまで恥知らずだとは思わなかった。
姜家の長女のことなら、以前、監獄で知り合った男から聞いたことがある。
姜家の宝とまで呼ばれた娘が、不慮の災難で植物状態になったという話だ。
出所したばかりの自分に、植物状態の女と結婚しろと言う。
まったく、大した父親である。
葉天成は得意げにまくしたてた。
「小楚、姜家は江都屈指の豪門だ。力は我が葉家よりも上だぞ。この好機を、絶対に逃すな」
葉楚は嘲るような目を向けた。
「そこまでいい話なら、なぜ次兄や長兄に娶らせない?」
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