第四天災を率いる最強の館主 〜超リアルなVR武道ゲームを配信したら、プレイヤーたちが勝手に世界を救っていた件〜
Synopsis
西暦2325年、バーチャル競技が全盛期を迎える地球。廃屋同然の「黒曜武術館」で目覚めた桐生啓(きりゅう けい)は、謎の『伝承武芸システム』を起動する。そこは、人間や有翼族、晶石族、半鱗族などが覇を競い、生身の肉体で戦う過酷な異世界「高武世界」だった。
武術館を再建し自らの実力を高めるため、啓は地球のプロゲーマーたちを不死身の労働力『第四天災』として召喚すべく、仮想現実度100%のゲーム『高武降臨』をリリースする!
「このゲーム、リアルすぎてヤバい!」「ただの木こり任務なのに、現実の肉体が進化してるぞ!?」
ゲーム感覚で過酷な開拓や死闘に明け暮れる最狂のプレイヤーたち。彼らの武術熟練度をシステムで吸い上げ、啓は急速に強くなっていく。やがて押し寄せる未曾有の「第一級獣潮」に対し、啓とプレイヤーたちの不死身の軍団が立ち上がる!
Chapter1
システム:ソウルリンクを開始……接続成功……
システム:伝承武芸システムを導入します……
システム:導入完了。伝承武芸システムを正式に起動します。
頭の中に無機質なシステム音声が響く。荒れ果てた武術館の床にへたり込んでいた桐生啓は、ようやく緊張を解き、深く息を吐いた。
システム:ホストは初回ログイン料を設定してください。費用はすべてプレイヤーが負担します。
システム:設定額が高いほど、プレイヤーの初期身体能力は本来の状態に近づき、死亡後の復活待機時間も短縮されます。その代わり、復活費用は高くなり、ソウルリンクの同期率と、痛みを含む全感覚の再現度も上昇します。
「ゲームなんだから、リアリティが命だよな。最大値に設定してくれ」
プレイヤー負担だと聞いて、啓は何の迷いもなく最高値を選択した。
システム:ゲームの紹介文を設定してください。
「紹介文、か……」
「少しハッタリをきかせた格好いいやつがいいな。プレイヤーが挑戦したくなるような、思わずクリックしたくなるような文章にしよう」
啓は少し考えた後、システムパネルの入力欄に文字を書き込んでいった。
百国が争い、万族が覇を競う。生命の階梯を駆け上がり、神の座へ至れ。武者の伝説を刻むのは、あなただ。
※本ゲームの仮想度は100%です。あまりにもリアルすぎるため、ダウンロードおよびプレイには十分ご注意ください。相応の実力がないプレイヤーにはおすすめできません。
システム:この紹介文で確定しますか? 一度確定すると変更できません。
「確定だ」
啓は文面を注意深く読み返し、問題がないことを確認すると、画面上の決定ボタンを押した。
システム:ゲームを藍星ネットワークへ公開しました。30分後にサービスを開始します。しばらくお待ちください。
西暦2325年、藍星。
「狙え! 深呼吸だ。もう一度吸って、精神を集中させろ。体全体の力を抜くんだ。そうすれば照準サークルも小さくなっていく」
「心が落ち着いていればいるほど、鼓動も静かになる。それだけ照準サークルの収縮範囲も狭くなるんだ」
「焦るなよ。サークルが限界まで縮まるのを待つんだ」
「……今だ!」
バーチャルゲームポッドの中で、三十路手前のがっしりした髭面の男――頼れる兄貴分といった風貌の陸震が、配信の視聴者に狙撃のコツを教えながら、巨大な機甲を操縦していた。
乾いた銃声が響く。弾丸は砂嵐が吹き荒れる5キロ先を正確に貫き、そこに身を潜めていた機械巨獣を直撃した。
ピピッ。
2キロ先の機械巨獣に赤いマーカーが点灯し、撃破判定が表示される。
「ワンショット・ワンキル! しんさん、ハンパねえ!」
「これがプロの戦い方かよ……!」
「しんさん、あんたこれだけの腕がありながら、本当に半年後に引退するつもりなのか? このレベルなら、機甲大陸の全国大会でベスト16に入るようなチームの奴らと比べても、引退を考える必要なんて全然ないだろ」
配信画面のコメント欄は、陸震が見せた極限距離からのスナイプに、驚きと感嘆の声で埋め尽くされた。
『機甲大陸』というこのバーチャルゲームは、仮想度が75%に達しており、藍星でここ数年最もヒットしている機甲対戦ゲームの一つだ。
一般のプレイヤーなら、機甲をスムーズに動かすことすらおぼつかない。数百メートル先の標的に当てるだけでも、普通は2、3ヶ月の練習が必要になる。
これほど視界が遮られた環境下で、5キロ先の機械モンスターを正確に撃ち抜くなど、まさに神業と言うほかなかった。
「人間、年を取るとどうしても反射神経が鈍くなる。それに、プロゲーマーの世界じゃ俺の年齢はもうかなりの大ベテランだ。今年引退しなかったとしても、来年にはチームの若手にすら勝てなくなっているだろうさ」
陸震はしみじみと呟いた。「まあ、その話はこれくらいにして。今日は何か面白い新作ゲームでもないか探してみよう」
陸震の言葉に、配信の視聴者たちも否定はしなかった。
バーチャルeスポーツの世界は苛烈を極める。現役でいられる期間は短く、全盛期を維持できるのはせいぜい25歳までというのが一般的だ。30歳手前というのは、確かに「高齢」に分類される。
そのため、プロの世界で年齢を重ねた選手たちの多くは、配信活動やセカンドキャリアの選択肢を模索し始める。
陸震も5年前に配信を始め、今では『機甲大陸』の配信界隈でそれなりの知名度を得ていた。視聴者数ランキングでも、しばしばトップ100に食い込むほどの人気を誇っている。
視聴者たちが雑談を交わす中、陸震がゲームロビーを開くと、黒い五頭の竜が描かれたアイコンを持つ新作ゲームが、すぐに目に留まった。
「うわっ!」
「4999クレジット!? なんだこの神ゲーは!」
陸震は自分の目をこすった。ゼロの数を数え間違えたのではないかと思ったのだ。
近年はバーチャルゲームエンジンの普及により、数人規模の個人開発スタジオでもゲームを作れるようになった。そのため大手ゲームプラットフォームには、毎日大量の新作が投稿される。
その大半が100クレジット以下であり、たとえ超大作であっても、価格が500を超えることはまずない。
しかし今、目の前にある『高武降臨』という名の新作ゲームは、その10倍もの価格を設定している。一般人には到底手が出せない値段だ。
この法外な価格設定に、配信のチャット欄も一気に沸き立った。
「おいおい、このゲーム、仮想度100%って謳ってるぞ!」
「仮想度100%? そんなの絶対ハッタリだろ。世界的な大手メーカーですら、現時点の最高技術で80%に届かないっていうのに。この『リアリティ第一』なんて開発メーカー、聞いたこともないぞ。どうやって100%のバーチャルゲームを作るんだよ」
「強気なゲームは見たことあるけど、ここまでふざけたのは初めてだわ。価格が4999で、しかもキャラが死ぬたびに復活費用として648が必要? さらに24時間以内に復活しないとアカウント即削除かよ。俺みたいな貧乏人には遊ぶ資格すらないな」
「でも、妙に作り込まれてるな。最初のベータテストの枠がたったの10人制限になってるぞ」
「絶対詐欺だって。本当に仮想度100%の神作があるなら、たとえ開発段階でもトップニュースになってるはずだろ。ベータ版がリリースされるまで一切情報が出ないなんてあり得ない。もし本当に100%の神作なら、俺は逆立ちしながらラーメンを食ってやるよ」
「『リアリティ第一、一定の実力がない者はお断り』か。よくここまで大口を叩けるな。しんさん、突撃してやってくれ!」
『高武降臨』の紹介ページを見ながら、視聴者たちは大盛り上がりだった。その議論の白熱ぶりに引きずられるようにして、陸震の配信の同接数は瞬く間に跳ね上がり、わずか30秒足らずで通常の3、4倍に達した。大手配信者にも迫る勢いだ。
陸震は、これこそ視聴者を惹きつけるチャンスだと直感した。
「よし、みんながそこまで気にするなら、俺が人柱になって確かめてやろうじゃないか」
陸震は奥歯を噛み締め、4999クレジットの購入ボタンを押し込んだ。「『リアリティ第一』か。もし看板倒れだったら、2時間以内に即返金して、みんなで一斉に通報祭りだ。メーカー側に本物の『現実』ってやつを教えてやろう」
「しんさん男前!」
「4999クレジットをどぶに捨てる度胸、見事だ!」
視聴者たちも大喜びだった。どうせ金を払うのは配信者だ。自分たちはそれを見て楽しめばいい。「お供します」と言わんばかりの態度だが、実際にこのゲームに金を出す者がいるとすれば、彼らの負けである。
「あまりにもリアルすぎる、か。なら、どれほどのものか見せてもらおう」
盛り上がるチャット欄を見つめながら、陸震は笑みを浮かべて『高武降臨』のゲームアイコンをクリックした。
気がつくと、薄暗い狭い部屋にいた。天井からぶら下がる照明が、不安定に明滅を繰り返している。鉄格子の向こうの廊下からは、ヒューヒューと吹き抜ける風の音が聞こえてきた。
目覚めたばかりの陸震は、何が起きているのか分からず、ただ呆然とするばかりだった。
「なんだこれ……ここはどこだ?」
「俺は確か、『高武降臨』を始めようとしていたはずだろ? なんでこんな場所にいるんだ?」
何かが腐ったような生臭い臭いが鼻をつく。両手両足に巻き付けられた鉄の鎖からは、金属特有の冷ややかな感触が肌に伝わってきた。どこからともなく吹き込んでくる刺すような寒風に、陸震は思わず全身を震わせた。
そして、ある最悪のシナリオが脳裏をよぎった。
拉致だ!
俺は誰かに誘拐されたのか!?
「名前は?」
パニックに陥りかけた陸震の耳に、厳格で冷ややかな問いかけが響いた。反射的に、陸震は口を開いていた。
「陸震。陸地の陸に、地震の震だ」
「年齢は?」
「29だ」
「その歳か……少しばかりいっているな。役に立ちそうにない」
「待ってくれ! 俺はまだ若い! 貯金もそれなりにあるし、まだやれる……!」
厳しい声に問い詰められるうちに、陸震も徐々に落ち着きを取り戻し、周囲の景色がはっきりと見えてきた。
鉄格子の向こう側には、漆黒の武道着を身にまとった、少し青白い顔をした端正な顔立ちの青年がいた。青年は鉄製のテーブルの前に静かに腰掛け、片手に鉛筆を持ち、こちらを時折見上げながらノートに何かを書き留めていた。
「俺は……ゲームに入ったのか?」
陸震は目の前の美しい青年を見つめた。服装は違えど、その口調や佇まいは、間違いなくゲームのキャラクターのものだ。誘拐などではないと確信し、陸震は慌てて釈明した。
「おい、お兄さん。何か勘違いしてないか? 俺は違法なことなんて何もしてないぞ。ただのゲーム配信者だ。何かの間違いだって!」
「手緩い態度を取るな。お前と親しくなった覚えはない」
「じゃ、じゃあ、お巡りさん……いや、行政の方ですか?」
「厳粛にしろ。私のことは『館主様』、あるいは『桐生様』と呼べ」
「館主様? 桐生様?」
陸震は思考が追いつかなかった。目の前にいる桐生という青年が何者なのか、まったく整理がつかない。
誘拐犯なのか?
それとも警察関係者なのか?
あるいは頭のおかしい精神病患者か?
「29歳、か……29歳……」
桐生は陸震の動揺を気にする様子もなく、ノートに目を落とし、指先で鉛筆を器用に回しながら何事かを呟いた。それから、再び視線を陸震に向けた。
「ならば、証明してみせろ。2時間以内にヒンズースクワットを2000回だ。さあ、始めろ」
「は……?」
陸震は呆然とした。と同時に、背筋に冷たいものが走った。
29歳という年齢を証明するのに、なぜスクワットが必要なんだ?
しかも2時間に2000回だと? 最近のイカれたNPCは、こんな無茶な要求をしてくるのか?
「私が手伝ってやろうか?」
「いや! 自分でやる、やれます! 任せてくれ!」
桐生が立ち上がろうとするのを見て、陸震は余計なことを考えるのをやめた。手足に絡みつく鎖の重みも気に留めず、必死になってスクワットを開始した。
1回……2回……3回……。
「ふむ、悪くない。フォームもかなり正確だ。鎖を外してやる必要はなさそうだな」
必死にスクワットを繰り返す陸震の様子を見て、桐生は小さく頷いた。そしてそのまま席を立つと、薄暗い地下室から去っていった。
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一条の光柱が、黒曜武術館から天を突いた。それは天地を繋ぐ支柱のようであり、人々が見守る中、逐光の街の上空に淡い光の幕が展開された。獣潮の猛攻に揺らいでいた城壁が、その瞬間に不思議な安定を取り戻す。
黒甲金翼蛇王は、すぐには城へ攻め込まなかった。ただその巨大な顎を開き、天に向かって長咆を放つ。 次の瞬間、獣の群れが狂乱した。数千もの怪物が一斉に城壁へと躍りかかり、黒い奔流となって押し寄せる。
南西の城壁の上には、押し潰されそうなほどの静寂と圧迫感が漂っていた。荒野の果てを見渡せば、もはや地面の色はどこにも見えない。山林から、谷間から、そして廃墟の影から、隙間なく怪物の群れが溢れ出していた。







