裏切られた天才は魔神の骨と化して蘇る 〜
Synopsis
かつての至宝たる血脈を奪われ、廃人として捨てられた青年・瀬戸口凌。だが、死の淵で彼は太古の神物『呑噬魔骨』と融合し、万物を喰らう『饕餮古経』をその手に収めた。神と魔の力を併せ持つ禁忌の修練——。
奪われた道骨、裏切りの聖女、傲慢な聖子。自分を貶めた全てを喰らい尽くし、凌は天罡大陸の頂点へと再び駆け上がる! 弱肉強食の理を覆す、至高の復讐ファンタジーが開幕!
Chapter1
「青元宗の弟子、瀬戸口 凌。同門を害し、聖女を辱めた罪により、本日をもって破門とする。二度と青元宗の地に足を踏み入れることは許さぬ。これに背く者は、斬る!」
百荒域。威厳に満ちた声が青元山の全域に響き渡り、青元宗全体に激震が走った。
あの瀬戸口 凌が破門だと?
しかも、聖女を辱めたというのか。
「あの野郎、聖女様に手を出すなんて、万死に値するぞ!」
「全くだ。破門だけで済むなんて、甘すぎるくらいだ」
「我が青元宗の面汚しめが!」
「聞いた話じゃ、聖女様と瀬良垣 浩兄様が親しくしているのに嫉妬して、不意打ちを食らわせたらしいぜ。瀬良垣兄様は今も療養のために閉関されているんだとか」
「罪人、瀬戸口 凌め。八つ裂きにしても足りん!」
「……俺は、死んでいないのか!?」
青元宗の山麓。昏睡していた少年が、唐突に目を見開いた。
起き上がろうとしたが、力が入らずに地面へ激しく倒れ込む。
その瞬間、混沌とした記憶が濁流のように脳内へなだれ込んできた。
「天罡(てんごう)大陸……青元宗……望月 婉児……瀬良垣 浩……」
混乱の中で凌は悟った。かつて三十三重天に名を馳せた天才である自分が、同名の少年、瀬戸口 凌の体に転生したのだということを。
「まさか、お前も俺と同じような境遇だったとはな……」
凌は自嘲気味に苦笑した。
前世の彼は、三十三重天における一大聖地の天驕(てんきょう)だった。しかし、天墳(てんふん)が開かれた際、あろうことか信頼していた師匠が、至宝を奪うための生贄として凌を捧げたのだ。そうして彼は命を落とした。
この体の持ち主も、同様に無残な末路を辿っていた。
愛していたはずの望月 婉児に血脈を抉り取られ、丹田を破壊され、再起不能の身にされていた。さらに、宗門内で権力を握る長老を親族に持つ瀬良垣 浩が、罪を凌に擦り付けて破門にし、山麓に放り出したのだ。
本来なら、凌が今夜を生き延びる術はなかったはずだ。
血脈を失い、丹田を壊され、手足まで自由を奪われた。もはや修行など夢のまた夢。しかも、青元宗の山麓には妖獣が徘徊している。最も弱い野獣一匹でさえ、凌の命を奪うには十分だった。
望月 婉児、そして瀬良垣 浩。
なんと残酷な二人だ。これほどまでに惨たらしい方法で、凌を辱め、苦しめ抜くとは。
その時だった。
至純にして強大なエネルギーが凌の胸元から湧き出し、瞬く間に四肢百骸を駆け巡った。
断裂していた筋脈が瞬時に繋がり、破壊されていた丹田が急速に形を成していく。
「何が起きているんだ!?」
凌は驚愕し、神識を内へ向けて、この不可解な力の源を探った。
意識が体内へと潜り込んだ瞬間、凌は自分の胸に、漆黒の胸骨が埋まっているのを見つけた。
あの迸る力は、この骨から流れ出していたのだ。
「これは……あの魔骨か! なぜ俺の体に!?」
その魔骨こそ、前世で無数の強者たちが血眼になって奪い合った至宝だった。凌の師匠も、この骨を手に入れるために彼を献祭したのである。
まさか、その魔骨が自分と共に転生していたとは。
「俺が生き返ったのは、この魔骨のおかげなのか……?」
突如として、さらに膨大で荒々しい黒い気流が魔骨から狂ったように溢れ出し、凌の識海へと突き抜けた。
黒い気体は激しくのたうち回り、やがて一つひとつの文字へと形を変えていく。
古の息吹を纏い、血生臭く、そして圧倒的な覇気を放つ文字。
「これは……太古神文か!」
凌の全身に戦慄が走った。
太古神文はとっくに絶滅しており、三十三重天ですら読み解ける者は極めて少ない。だが、凌はその数少ない一人だった。
「呑噬(どんぜい)魔骨、饕餮(とうてつ)古経!!」
凌は思わず息を呑んだ。
饕餮(とうてつ)とは太古の極凶の一つであり、天地万物を呑み込むと言われるほど強大な存在だ。この呑噬魔骨は、かつて強大な力を持った饕餮が天墳に遺したもの。そして今、その骨が凌の肉体と完璧に融合を果たしていた。
血に飢えたような覇道を往く太古神文が、天を衝くほどの魔気を放つ。至純なエネルギーが、凌のボロボロだった体を劇的に改造していく。
それだけではない。魔骨から、太古の極凶たる饕餮の血脈までもが凌へと継承された。
神級血脈だ。
天罡大陸は武を尊ぶ世界だ。修行者の資質は血脈の品級によって決まる。一般的に血脈は上から天、地、玄、黄の四等級に分けられ、それぞれに上、中、下の三段階の位がある。血脈の格が高ければ高いほど、武道の高みへと至ることができるのだ。
だが、伝説には続きがある。天級を超えた先に、神級、さらには聖級と呼ばれる血脈が存在するという。
この体の元の持ち主は地級上位、凌の前世ですら天級血脈だった。しかし今の彼は、神級血脈をその身に宿している。
かつての自分など比較にならないほど、強大な力を手に入れたのだ。
「これほどの造化があれば、武尊や武神の域など造作もない。伝説の武聖(ぶせい)境すら目指せるぞ!」
武者の境界は、搬血(はんけつ)、淬体(さいたい)、開脈、脱骨、造化、超凡、武尊、武神、武聖と続く。
そして、その至高の頂点とされる帝尊境は……九天十地の歴史を紐解いても、その到達を記した記録は存在しない。
瞬く間に凌の傷は完治した。体中には尽きることのない力が漲っている。
彼は思わず胸元に手を触れた。すべてはこの呑噬魔骨から始まったのだ。
「筋脈も丹田も再建された。天が与えてくれたこの機縁、無駄にはできん!」
魔と呼ばれるのなら、それで構わない。
前世、自分がいた宗門は正道の聖地と謳われていた。しかし、師匠は平然と弟子を生贄に捧げた。この青元宗も、百荒域の正道領袖を気取りながら、望月 婉児や瀬良垣 浩のような卑劣な輩をのさばらせている。
ならば今世。魔となって、世のあらゆる敵を斬り伏せるまでだ。
凌は地面にあぐらをかき、饕餮古経を巡らせた。
途端に天地の元気(げんき)が激しく揺れ動き、無数のエネルギーが凌の体へと猛然となだれ込む。
あまりに濃密な元気は液体と化し、胸の魔骨へと次々に吸収されていく。
その光景に、凌は再び戦慄した。
「流石は呑噬魔骨だ。天地の元気を自動的に吸収するとは……」
これは天がくれた最大の贈り物だった。魔骨が自ら周囲のエネルギーを吸い上げてくれるため、修行の効率は常人の比ではない。
修行できると分かれば、一刻も無駄にはできない。凌は全力で功法を回し、魔骨へと元気を注ぎ込む。
魔骨の中で精錬され、極限まで純度を高められたエネルギーが、再び凌の体内へと戻り、その筋脈と血肉を滋養していく。
わずか数呼吸の間で、凌の筋脈は淡い光を放ち始めた。毛穴からは耐え難い悪臭を放つ汚れが大量に排出される。
「洗筋伐髄(せんきんばつずい)か!」
武道の最初の三段階は、精血を強化し、肉体を造り替える過程にある。肉体は修行の根基であり、その土台が堅牢であるほど、将来の到達点は高くなる。凌はその理を誰よりも深く理解していた。
時が経つにつれ、凌が吸収する元気の量は加速度的に増していく。それに伴い、彼の修為(しゅうい)も飛躍的に跳ね上がった。
搬血(はんけつ)境一重。
搬血境二重。
搬血境三重。
そして、搬血境四重。
四重に達したところで、勢いはようやく穏やかになった。凌が目を開くと、その瞳から鋭い閃光が放たれた。
「ふぅ……」
凌は濁った息を吐き出した。全身の血が入れ替わったかのような清々しさを感じると同時に、体からは覇気に満ちた苛烈な気配が立ち昇っている。
「ここは長居する場所じゃない。一刻も早く離れなくては」
日はすでに傾き、夜の帳が下りようとしている。妖獣の危険もあるが、それ以上に懸念されるのは、青元宗から追っ手が差し向けられる可能性だ。
望月 婉児や瀬良垣 浩がこれまでに自分に仕打ったことを考えれば、彼らが慈悲深い人間であるはずがない。破門して山に捨てたのは、単なる体裁の問題だろう。
おそらく陰で監視をつけ、もし生き延びているようなら直接手を下すつもりでいるはずだ。
「とにかく、ここを離れるのが先だ」
凌が立ち上がろうとしたその時。耳を突くような鋭い声が、静寂を切り裂いて響いた。
「……へえ、やっぱり俺の読み通りだ。この雑種、まだ生きてやがったか!」
---
Latest Chapters
3年後。 蛇人皇城の外には、春風にそよぐ新緑の草原が広がっていた。かつての戦場に焦土の面影はなく、そこには数十里にわたって霊田と城壁が連なっている。各族の商隊がその間を行き交い、人族、妖族、蛇人族が、
大戦が終結した後、天地には長い沈黙が流れた。 魔気に侵された山々からは今なお黒煙が立ち上り、血の海と化した大地には多くの蛇人族の強者たちが倒れていた。瀬戸口 凌はその場に立ち尽くしていたが、その顔色
黒い潮流が押し寄せる中、瀬戸口 凌はもはや一歩も引かなかった。 彼は大荒戦戟を虚空へと突き刺し、両手で印を組んだ。呑噬魔骨の力が、この時初めて余すところなく解放された。だが、今回、彼は哀叫を上げる残
天際が突如として暗転した。 虚空に開いた亀裂は決して大きくはなかったが、それはまるで、見開かれた「邪眼」のようだった。そこから際限なく垂れ流される魔気が山河を覆い尽くす。触れた草木は枯れ果て、岩石は







