Synopsis
遺跡の街デュポンに日本の城がいきなり現れたという。
レティチュはその近くの森で修行していた。そんな中、ミハエルとフィオラが来る。城の調査に来たらしい。そして明かり1つない、降って湧いて出た日本の城で見たものとは――
Chapter1
漆黒の闇が森全体を覆い尽くしていた。月は雲に隠れ、星々の光さえも分厚い樹冠に遮られ、地上にはほとんど届かない。ただ、闇の中を泳ぐように漂う蛍光灯草が、かすかな青白い光を放ち、周囲の輪郭をぼんやりと浮かび上がらせるだけだった。深い静寂の中、木々の葉がわずかに擦れ合う音と、遠くで鳴く虫の声だけが、この時間がまだ動いていることを証明していた。
レティチュ=ド=エーロは、その深い闇の中に佇んでいた。金髪のポニーテールは闇夜の中でかすかな光を帯び、エルフ特有の長い耳がわずかに震える。青い忍者装束は暗闇に溶け込み、白いサッシュだけがぼんやりと浮かび上がっていた。彼女の緑色の瞳は、闇を見透かすように細められていた。
「くっ……また失敗でーす」
彼女は呟くと、手にした手裏剣を構え直した。深く息を吸い、吐く。集中。しかし、闇の中的は見えづらく、感覚だけを頼りに投げねばならない。手裏剣が放たれる――シュッという鋭い音と共に、的を外れ、遠くの木々に消えていった。
「なんででしょうねー」
彼女は首を傾げ、顎に手を当てて考えるポーズを取る。
「わ~ちゃんねるで見たあの忍者さんは、もっとカッコよかったのにでーす。暗闇でもバシバシ当ててたでーす」
彼女は仕方なさそうに肩を落とす。訓練を始めてから数時間経っていたが、なかなかコツが掴めない。エルフの森で生まれ育った彼女にとって、忍者の修行はまだまだ未知の世界だった。魔導ビジョンで見たあのカッコいい水遁の術に憧れて、忍者になることを決意したときの興奮は、今では少しずつ現実の壁にぶつかっていた。
「う~ん。なんか違いますねー。わ~ちゃんねるで忍者動画見帰そうかな~」
彼女は思わず本音を零してしまった。自分に言い聞かせるように、もう一度手裏剣を構える。しかし、闇はますます深く、的はますます見えなくなっていく。集中力が続かない。空腹も感じ始めていた。
その時――バッサバッサという羽音が頭上から響いた。
漆黒の翼が闇夜を切り裂き、黄金の瞳が輝く。銀白色の髪が闇の中で妖しく光る。ブラックヴァルキリー・カーラが、優雅に、そして少し生意気に森へ舞い降りてきた。彼女の現代的な戦闘服は伝統的なヴァルキリーの要素を残しつつ、黒いスカートがふわりと翻った。
「おやおや」カーラは片手にウインナーを持ち、かじりながら言った。
「がんばっとるかね。エセ外国人でエセ忍者」
レティチュはぷりっと頬を膨らませた。
「エセ忍者じゃないですよーぅ! 本物の忍者です!」
彼女の声には明らかに悔しさが滲んでいた。緑色の瞳がカーラを睨みつける。エルフの長い耳もぴんと立って、怒りを表現していた。
「へえ~」
カーラはからかうような笑みを浮かべ、ウインナーをもう一口かじった。
「でもさ、本物の忍者なら、暗闇だってへっちゃらだろ?それに、あんたエルフだぜ。マジック使えるんだから、手裏剣なんかより魔法でなんとかしろ」
「そんなことないでーす!」
レティチュは真剣な顔で反論する。
「忍者は術と体術の調和が大事なのでーす! 魔法だけに頼ったら、それはもう忍者じゃないでーす!」
カーラは
「ふーん」
と興味なさそうに返事をし、ウインナーを食べ続けながらレティチュの様子を見ていた。彼女の黄金の瞳には、からかいの裏にわずかな好奇心も光っていた。
レティチュは再び集中しようとする。深く息を吸い、吐く。手裏剣を構える。しかし、カーラの視線が気になる。食べているウインナーの匂いも、空腹をさらに刺激する。
「もう……集中できないでーす」
彼女は諦めの表情を浮かべ、手裏剣をしまう。

「カーラさん、そんなところで見てないで、何かアドバイスくれませんかー?」
カーラは鼻で笑った。
「アドバイス? ヴァルキリーが忍者にアドバイスするなんて、ジャンル違いだろ。神話も違うし。それに」
彼女はウインナーをかざして、
「こっちは観戦専門ってことで」
レティチュはため息をついた。仕方なく、再び訓練を再開する。今度は体術の練習だ。暗闇の中で、音を立てずに移動する。木々の間を静かに潜る。しかし、何度か小枝を踏んでしまい、パキンという音が静寂を破った。
「おっと」
カーラが茶化す。
「本物の忍者なら、もっと静かに動けるんじゃないの?」
「もう!カーラさんったら!」
レティチュは悔しさで足を踏み鳴らす。
「邪魔しないでくださいよー!」
しかし、カーラは相変わらずウインナーを食べながら、興味深そうにレティチュの奮闘ぶりを見つめ続けていた。暗闇の中、金色の瞳だけが不気味に輝いている。
レティチュは深呼吸して気持ちを切り替える。そうだ、水遁の術を試してみよう。魔導ビジョンで見たあのカッコいい術だ。彼女は手を組み、集中して呪文を唱え始める。
しかし、いくら努力しても、あの映像のような見事な水の渦は現れない。かろうじて手のひらサイズの水の玉ができる程度だ。
「なんでだろうなー」
彼女は首をかしげる。
「魔力はあるはずなのにでーす」
カーラはため息をついた。
「おいおい、それじゃおまえが言ってた『カッコいい忍者』にはなれないぞ。まあ、でも」
彼女はウインナーの最後のかけらを食べながら付け加えた。
「諦めずに続けてるその根性だけは評価してやる」
レティチュはその言葉に少し元気づけられたようだった。
「でしょでしょ?わたし、絶対に本物の忍者になるんですから!」
再びやる気を取り戻した彼女は、訓練を続行した。暗闇の中、時々転びながらも、何度も何度も術の練習を繰り返す。手裏剣の投擲、体術、術の練習――全てが完璧には程遠いが、少しずつではあるが上達の兆しが見え始めていた。
カーラは相変わらずウインナーを食べながら、時々生意気なコメントを挟みつつ、しかし最後までレティチュの奮闘を見守り続けていた。闇夜の森で、エルフの忍者志望と元ヴァルキリーという奇妙な二人組の、ちょっとした修行の一幕が静かに進行していった。
Latest Chapters
暗闇はより深く、より濃密になっていた。レティチュは壁に手を触れながら慎重に前進する。忍者としての訓練で磨かれた暗視能力でさえ、この異常な闇の中では限界を感じていた。石壁の冷たさが手のひらから伝
城内の闇はより深く、より濃密になっていた。レティチュは壁に手を触れながら進む。忍者としての訓練で磨かれた暗視能力でさえ、この異常な暗がりでは限界を感じる。石壁の冷たさが手のひらから伝わり、微か
城は闇に沈んでいた。壁の隙間から漏れるわずかな光も、内部に踏み入ればすぐに吸い尽くされる。レティチュ=ド=エーロはその入口に立ち、忍者装束の襟元を整えた。ポニーテールの金髪が、自分の呼吸の気流
夜の帳が森を包み込むとき、レティチュ=ド=エーロは木の枝から木の枝へと身を翻していた。青い忍者装束が闇に溶け、白いサッシュだけが一瞬だけ視界に残って消える。足音はない。息づかいすら消し去った身
Rating Rating
You Might Also Like
No Recommendations
No recommendations right now—check back later!

