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討伐王と依頼成功率No.1は仲が悪い

討伐王と依頼成功率No.1は仲が悪い

Last Updated: 2026-03-11 02:10:43
By: Ayane
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Language:  日本語4+
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Synopsis

孤高で冷徹な討伐王・ゼクトと、依頼成功率No.1を誇る人気パーティ「ファイヤーサイド」の戦術派で仲間を重んじる魔法使い・リゼ。犬猿の仲の二人が難関ダンジョンで組むことに……!


Chapter1

ガヤガヤと活気の絶えない冒険者ギルド。

エールを呷る屈強な男たちの笑い声、武具が擦れ合う音、そして次の大金星を夢見る若者たちの熱っぽい話し声。そんな喧騒の真ん中で、ひときわ注目を集める一角があった。


依頼成功率No.1パーティ、『ファイヤーサイド』。


彼らのテーブルには大きな羊皮紙の地図が広げられ、それを真剣な眼差しで覗き込む三つの影があった。


「——次の遠征ルートだけど、西の湿地帯を抜けた後、一度この丘陵地帯で野営するのが安全だと思う。夜間の奇襲リスクを最小限に抑えたいから」


金緑色の髪をさらりと揺らし、地図の上に細い指を滑らせるのは、このパーティの頭脳であり、風を操る魔法使いのリゼ。彼女の立てる作戦は常に緻密で、危なげなく、だからこそ『ファイヤーサイド』は成功率No.1の名をほしいままにしているのだ。


「なるほどな。ゴブリンの斥候は丘の上からの方が索敵しやすいし、理にかなってる」


腕を組み、力強く頷くのはリゼの兄であるカイル。たくましい肉体を持つ前衛戦士で、妹の立てる作戦を誰よりも信頼している。


「りょーかいですっ! 丘の上からの眺め、よきこと間違いなしだね! スケッチブック持っていこ!」


元気いっぱいに挙手するのは、二人の幼馴染であるヒーラーのミリアだ。治癒士でありながら弓の扱いにも長けた彼女は、パーティのムードメーカーでもある。


兄妹と幼馴染。

信頼と実績で結ばれた『ファイヤーサイド』の雰囲気は、暖炉の火のように温かい。


その、穏やかな空気が——突如として氷点下に叩き落とされた。


ギルドの重い木製扉が、乱暴に蹴破らんばかりの勢いで開け放たれたのだ。


入り口に立つ、一人の男。

その姿に、今まであれほど騒がしかったギルド内の全ての音が、ぴたりと止んだ。


男は全身にどす黒い魔物の返り血を浴び、羽織ったマントの裾は焼け焦げ、あちこちが引き裂かれている。まるで地獄の底からたった一人で生還してきたかのような、圧倒的な存在感。


『討伐王』——ゼクト。


その二つ名で知られる彼は、仲間を持たず、常に単独で最高難度の討伐依頼をこなし続ける孤高の剣士。

ギルド最強の男にして、最も恐れられる男。


ゼクトは周囲の視線など意にも介さず、静寂を取り戻したギルドをまっすぐに横切ると、カウンターまで歩み寄った。


そして、持っていた巨大な麻袋を、ドンッ!!と無造作に叩きつける。

ずしり、と重い音。中身が魔物の討伐部位であることは、誰の目にも明らかだった。


---


受付嬢が青ざめた顔で検品を始めるのを横目に、ゼクトは掲示板に張り出された依頼書に目をやる。無数の依頼書の中から、彼は迷うことなく一枚の羊皮紙に指をかけた。


その瞬間、リゼは思わず立ち上がっていた。


「待って! その依頼書は……!」


ゼクトが指名したのは、数ヶ月も前から『ファイヤーサイド』が情報収集と準備を重ねてきた、伝説級ダンジョン『アビス・ラビリンス』の討伐依頼だったのだ。


リゼの鋭い声に、ゼクトは初めてちらりと視線を寄越す。感情の読めない、静かな灰色の瞳。


「ゼ・ク・ト!悪いけど、それは私たちが次に受ける予定の依頼よ。あなた一人が単独で乗り込んでいい場所じゃないわ」


「予定は予定だろう」


短く、切り捨てるような言葉。

リゼはカッとなって、一歩前に出た。


「自殺行為よ! あのダンジョンは階層構造が複雑で、特殊な罠も多い。仲間との連携なしに、どうやって攻略するつもりなの!?」


論理と正論。

それがリゼの武器だった。

しかし、目の前の男にはまるで通用しない。


ゼクトは心底面倒くさそうに、微かに眉を寄せた。


「足手まといを守りながら戦う方が、死に直結する」


冷たく、突き放すような一言。

それは、仲間との絆を何よりも重んじるリゼたちの信条を、根底から否定する言葉だった。


バチッ、と。

二人の間に、険悪な火花が散ったのが見えた。


---


「……そこまでだ、二人とも」


一触即発の空気を裂いて、低く、重い声が響いた。

カウンターの奥から姿を現したのは、この冒険者ギルドを取り仕切るギルド長その人だった。恰幅のいい体に、厳格な眼差し。その登場に、誰もが息を飲む。


「アビス・ラビリンスについてだが……現在、内部で正体不明の異常な魔力変動が観測されている」


ギルド長は重々しく告げる。


「もはや、単独での突入は許可できん。そして正直に言えば、『ファイヤーサイド』の火力だけでも心許ない。どちらか一方だけでの攻略は認めん」


リゼもゼクトも、押し黙るしかない。ギルド長の言葉は、この場における絶対の決定だ。


そして、ギルド長は二人の顔を交互に見比べると、最終宣告を下した。


「よって、これはギルドからの強制依頼とする。ゼクト、お前の圧倒的な前衛突破力。そしてリゼ、お前の戦略とお前たち『ファイヤーサイド』の結束力。これらを組み合わせた『共同攻略』を絶対条件とする!」


「なっ……!?」


リゼが驚愕に目を見開く。

共同攻略。

この、討伐王と? 水と油どころか、水と炎のように決して交わらないこの男と?


---


「ふざけるな! なんでこいつと俺たちが組まなきゃならないんだ!」


真っ先に反論の声を上げたのは、兄のカイルだった。

妹を溺愛する彼にとって、リゼをこの危険な男と組ませるなど到底受け入れられない。

鬼のような形相でゼクトに掴みかからんばかりの勢いだ。


しかし、当のゼクトはカイルに視線すら合わせない。


ただ、腰に提げた愛剣の柄を、親指でゆっくりと——まるで愛しいものを確かめるかのように、撫でているだけ。

その仕草は、どんな言葉よりも雄弁に、彼の絶対的な自信と他者への無関心を物語っていた。


やがてゼクトは静かに口を開く。

それは、カイルではなく、リゼに向けられた言葉だった。


「背後は守らなくていい。ただ、俺の射線にだけは入るな」


それだけを告げると、彼はもう用はないとばかりに踵を返し、ギルドから出て行ってしまう。

返り血に濡れた黒いマントが、ひらりと翻った。


たった一人で歩き去っていく、孤高の背中。


リゼは唇を噛み締め、その背中を睨みつけた。

腹立たしい。悔しい。こちらの話など何一つ聞こうとしない、傲岸不遜な態度。


けれど、それと同時に。

リゼの胸には、小さな疑問の棘が刺さっていた。


(あの人の、あの目は……)


ただの自信や傲慢さだけではない。


なぜ、彼はたった一人で、あれほどまでに先を急ぐのだろう。


リゼは、拳を握りしめながら、答えの出ない問いを胸に、ただその背中が見えなくなるまで見送るしかなかった。

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