転生したらまたブラック居酒屋だった件〜特別編:激闘!SeaBell桜祭り・ケータリング作戦〜
Synopsis
【あらすじ】転生したらまたブラック居酒屋だった件 〜激闘!SeaBell桜祭り・ケータリング作戦〜
「春眠暁を覚えず」を決め込むはずだった社畜エルフ・エルに、またしても非常事態が発生! ドワーフの鬼店長・ガンテツが持ち帰ったのは、次元を超えた伝説のコミュニティ『SeaBell』で開催される「桜祭り」への出店契約書だった。
「24時間・野外耐久飲み放題」を掲げ、美しい桜並木の楽園に殴り込みをかける『鬨の声亭』一行。しかし、そこで待ち受けていたのは、花見客の底なしの食欲と、桜を食い尽くす巨大幻獣『空飛ぶ桜鯨』だった!
在庫は枯渇、店長は逃亡。絶体絶命のピンチに、エルの社畜スキル「在庫管理(ハック)」が覚醒する。 「舞い散る花びらを、全部『天ぷら』に変えてやる!」 現地の助っ人も巻き込み、カオスと美味しい匂いが充満する、伝説のケータリングバトルがいま開幕する!
Chapter1
第1章:春眠は暁を覚えず、店長は空気と納期を読めず
魔界「グラ」にも、遅い春がやってきた。
一年を通して薄暗い紫色の空に、どこからともなく飛来した「魔界桜(ブラッディ・チェリー)」の花びらが舞う季節。
それは、私たちエルフにとっても、この世界に生きる全ての生物にとっても、特別な意味を持つ時期だ。
そう、「春眠」である。
「……ふわぁ」
『鬨の声亭(ときのこえてい)』の屋根裏部屋。
私はハンモックの上で、とろけるような欠伸を噛み殺した。
午前10時。奇跡的に、今日のシフトは午後からだ。
窓の外から差し込む、いつもより少しだけ柔らかな陽光。鳥(正体はハーピーだが)のさえずり。そして、布団の魔力的な重力。
(ああ……これよ。私が求めていたのは、これなの……)
前世、日本のブラック居酒屋で働いていた頃、春といえば「歓送迎会」の地獄だった。
桜を見る暇もなく、ゲロ袋を持って走り回り、酔っ払いの「俺の酒が飲めねえのか!」というハラスメントを笑顔でかわす日々。
「花見? なにそれ美味しいの?」状態だった私にとって、この穏やかな朝は、転生して初めて得た「春の恩恵」だった。
今日くらいは。
今日くらいは、泥のように眠ってもバチは当たらないはずだ。
私は愛用の抱き枕(クギザキくんがくれたオークのぬいぐるみ)を抱きしめ、二度寝の海へとダイブしようとした。
その時だった。
ドォォォォォン!!
階下から、爆発音のような轟音が響いた。
続いて、聞き慣れた、そして世界で一番聞きたくない野太い声が、屋根裏まで突き抜けてきた。
「エルーーーッ!! 起きろぉぉぉ! 緊急事態だぁぁぁ!」
「……チッ」
私の口から、エルフにあるまじき舌打ちが漏れた。
反射的に身体が跳ね起きる。
社畜の悲しい習性だ。「緊急事態」というワードを聞いた瞬間、脳内で「クレーム対応マニュアル」と「謝罪用菓子折りの在庫確認」が自動展開されてしまう。
私はパジャマ(ジャージ)のまま、梯子を滑り降りた。
---
「敵襲ですか!? それともドラゴンが食い逃げを!?」
ミスリルの包丁を構えて厨房に飛び込んだ私が目にしたのは、血相を変えたガンテツ店長……ではなく。
満面の笑みで、小刻みに震えている筋肉ダルマの姿だった。
その手には、この薄汚れた厨房には似つかわしくない、上品な「桜色(ピンク)の封筒」が握られている。
「……店長。なんですか、それ」
「来たぞエル! ついに来た! 俺たちの時代が!」
店長は鼻息荒く、私に封筒を突きつけた。
そこには、金色の箔押しで優雅にこう記されていた。
『SeaBell Community Spring Gathering Invitation』
(SeaBellコミュニティ 春の集いへの招待状)
「……シーベル?」
聞いたことがない。
魔界の新興宗教だろうか。それとも、怪しいマルチ商法の勧誘か。
「違う! 商人ギルドの顔役に聞いたんだがな、こいつは『次元の狭間にある伝説の桃源郷』からの招待状らしい!」
店長が興奮してまくし立てる。
「そこには、古今東西のあらゆる物語(ストーリー)が集まり、見たこともない種族たちが平和に暮らしているという……まさに夢の楽園! その楽園がだ! 今回の『春の大花見大会』で、うちの店にメイン・ケータリングを頼みたいって言ってきたんだよ!」
「……ケータリング?」
嫌な予感がした。
背筋に冷たいものが走る。
ケータリング。
それはつまり、完全アウェーの環境で、設備も不十分な中、予想外のトラブルに対処しながら料理を提供する、高難易度の出張サービスのことだ。
「断りましょう」
私は即答した。
「ただでさえ店が忙しいのに、そんな未知の場所へ出店なんて無理です。人員も足りませんし、そもそも移動手段が……」
「甘い! 甘いぞエル! 砂糖をまぶしたスライムより甘い!」
店長が私の肩をバシンと叩く(HP-10)。
「いいか? 『SeaBell』の住人たちは、まだ見ぬ『美味いもの』に飢えているらしい。つまり、そこは未開拓のブルーオーシャン! うちの『ドラゴンステーキ』や『ヒドラのレバー刺し』を出せば、大ヒット間違いなしだ!」
「でも……」
「それに見てみろ! 報酬の条件!」
店長が指差した契約書の欄外には、こう書かれていた。
『報酬:SeaBell特製・春の奇跡(願いを一つ叶える権利)』
「……願いを、一つ?」
私の動きが止まった。
願い。
もしそれが本当なら。
「ホワイト企業への転職」とか、「一生遊んで暮らせる不労所得」とか、あるいは「店長の性格を穏やかにする」とかも、叶うのだろうか。
私の揺れる心を見透かしたように、店長はニカっと笑った。
「俺の願いは決まってる! 『世界中にこの店の支店を出すこと』だ! そのためには、このビッグイベントを成功させるしかねえ!」
最悪だ。
店長の願いが叶ったら、私の地獄(労働)が世界規模に拡大するだけじゃないか。
これは阻止しなければならない。いや、逆に私がその権利を奪い取って、「店舗爆破」を願うべきか……?
「……わかりました。やりましょう」
私は覚悟を決めた(主に自分の野望のために)。
だが、店長の次の言葉で、その覚悟は粉々に砕け散ることになる。
「よーし、言質は取ったぞ! 実はもう、契約書にサインしてきちゃったんだがな!」
「は?」
「場所は『次元の丘』! 開催期間は3日間ぶっ通し! 予想来場者数は測定不能(無限)! もちろん、うちは『24時間・野外耐久飲み放題』の看板を掲げて勝負する!」
「……」
私は無言で包丁を握りしめた。
3日間? ぶっ通し? 無限?
それは花見ではない。
それは「デスマーチ(死の行軍)」だ。
「おいエル、なんで包丁を俺に向けてるんだ? 危ないぞ?」
「……店長。一つだけ確認させてください」
「なんだ?」
「その『SeaBell』とかいう場所……労働基準監督署はありますか?」
「あるわけねえだろ! 夢の楽園だぞ!?」
やっぱりか。
私は天を仰いだ。
屋根裏の窓から見えた、一瞬の春の陽光が、今は遠い過去のように感じられた。
「シルヴィアさん! クギザキくん! 全員叩き起こして! 今すぐ『野外戦(フィールド・バトル)』の準備よ!」
「お、おう! さすがエル、話が早いな!」
「うるさい! 準備しないと、私たちが『食材』にされる予感がするんです!」
私の社畜センサー(危機察知能力)が、警鐘を鳴らしていた。
その招待状の向こう側には、ドラゴンよりも恐ろしい「何か」が、大きな口を開けて待っている気がするのだ。
こうして、私、一ノ瀬エルの、優雅な春休みは消滅した。
代わりに始まったのは、次元を超えたブラック労働――『激闘! SeaBell桜祭り』の幕開けだった。
(第2章へ続く)
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「……デカい」
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第2章:桜色のスライムと、機械仕掛けの助っ人
「……店長。正気ですか?」
厨房のステンレス台(ミスリル製)の上に並べられた食
第1章:春眠は暁を覚えず、店長は空気と納期を読めず
魔界「グラ」にも、遅い春がやっ







