Synopsis
怪盗リリーホワイト。世間を騒がす女怪盗。マスカレードマスクで素顔を隠し、しなやかで豊満な肢体がくっきりとわかる真っ赤なキャットスーツで世界中の希少な宝石を盗みに盗む伝説の怪盗だ。そして盗まれた宝石は盗まれて1時間だけ「リリーオークション」と言われるリリーホワイトが管理していると言われるネットオークションに出品され、必ず落札者の手に渡る。ネットオークションは1時間で完璧に痕跡は消え、落札者は皆、リリーホワイトの存在を知ることなく宝石を手にする。しかし、例外が1つだけある。宝石を盗まれた本人が落札した場合は、なんとリリーホワイト自身が直接返しにくるのだ(盗まれた本人達は躍起になっている為、むしろこのパターンが多い)。
そんなゲーム性に満ちたリリーホワイトの活躍に世界中は熱狂していたのだ。
Chapter1
漆黒のビロードを切り裂くように、純白の閃光が走る。
月光を浴びて妖しく輝くその姿は、闇に紛れることを良しとしない、絶対的な自信の現れだった。怪盗リリーホワイト。かつて、いや、今この瞬間も世界を騒がせている伝説の女怪盗。そのしなやかで豊満な肢体を惜しげもなく浮き彫りにするキャットスーツは、彼女の挑発的な美学そのものだ。今宵の獲物は、悪徳で肥え太った財閥がコレクションに加えたばかりの深紅のルビー。その価値よりも、持ち主の醜悪さが彼女の食指を動かした。
「いたぞ!囲め、逃がすな!」
怒号と共になだれ込んでくる警官と、財閥が私的に雇った屈強なガードマンたち。その顔には焦りと、手柄を立てんとする卑しい功名心が浮かんでいる。彼らの必死な形相を眼下に見下ろし、リリーホワイトは銀鈴を転がすような笑い声を夜空に響かせた。
「ふふっ、無理無理。あなたたちみたいな鈍重な亀さんに、私が捕まるわけないじゃない」
まるで鬼ごっこを楽しむ子供のように、ビルの屋上を軽やかに跳躍する。その動きの一つ一つが、計算され尽くした芸術だった。先回りしていた警官の一隊が、退路を塞ぐように立ち塞がる。前門の虎、後門の狼。完璧な挟み撃ちの陣形が完成した。
「もう逃げ場はないぞ、リリーホワイト!大人しく投降しろ!」
勝ち誇ったように叫ぶ警部の声に、リリーホワイトは初めて不安げな表情を浮かべた。マスカレードマスクの下で、艶やかな唇がきゅっと結ばれる。そして、まるで全てを諦めたかのように、ゆっくりと白いキャットスーツの胸元にかけられたジッパーに指をかけた。
「わかったわ…降参よ。私の体、好きに…し…て…」
ジッパーが引き下げられるにつれて、豊かな胸の谷間が惜しげもなく晒されていく。雪のように白い肌と、そこにかかる汗の雫があまりにも蠱惑的で、屈強な男たちの喉がゴクリと鳴った。誰もが息を飲み、その視線はただ一点、彼女の豊満な双丘に釘付けになる。欲望に染まった男たちの醜い顔を確認すると、リリーホワイトの唇の端が、にやりと三日月を描いた。その刹那、開かれた胸元から、小さな金属塊がボトリと地面に転がり落ちる。
「あら、ごめんなさい。落とし物」
それが高性能の小型フラッシュ弾だと気づいた者は、誰もいなかった。次の瞬間、世界が白に染まる。鼓膜を突き破るような炸裂音と共に、網膜を焼き切るほどの閃光が辺り一面を包み込んだ。男たちが呻き声と共に地面に崩れ落ちる。やがて光が収まり、涙で滲む視界がようやく焦点を結んだ時、そこに白い怪盗の姿はなかった。
「い、いない!リリーホワイトが消えたぞ!」
警部の絶叫だけが、静けさを取り戻した夜の屋上に虚しく響き渡る。こうして今宵もまた、伝説は傷ひとつなく、その輝きを増したのだった。
隠れ家に戻ったリリーホワイトこと山中小百合は、シャワーを浴びてキャットスーツからラフな部屋着に着替えると、慣れた手つきでラップトップを開いた。アドレナリンがまだ体内で静かに沸騰しているのを感じながら、彼女は自分が運営する闇のオークションサイト「リリーオークション」にアクセスする。先ほど盗み出したばかりのルビーが、すでにトップページで妖艶な光を放っていた。
「おおっ、跳ね上がってる、跳ね上がってる♪」
画面に表示される入札額が、数秒ごとに目まぐるしく更新されていく。その数字の羅列は、彼女の卓越した手腕への喝采であり、次の活動への軍資金だ。盗品は、盗まれてからきっかり一時間だけ、この痕跡の残らないオークションに出品される。落札者は誰であろうと、確実にその宝石を手にすることができるが、リリーホワイト自身の正体に繋がる情報は一切得られない。ただし、たった一つだけ例外が存在する。宝石を盗まれた張本人が落札した場合、リリーホワイト自らがそれを直接手渡しに行くのだ。プライドを傷つけられた被害者たちは躍起になって高額入札を繰り返すため、むしろこのパターンに陥ることが多かった。そして、一度彼女が手放した宝石が再び狙われることは、決してない。その完璧なゲーム性が、世界中の人々を熱狂させていた。
「よし、そろそろね」
タイマーが残り一分を切ったところで、入札額の伸びが止まった。最終的な落札者は、南アフリカの新興富豪。小百合は満足げに頷くと、オークションの終了ボタンをクリックした。瞬時にサイトはサーバーから完全に消去され、落札金額は彼女が独自に構築した複雑怪奇なマネーロンダリングシステムを経て、複数の海外口座へと振り込まれていく。
「さて、次は南アフリカか…ちょっと遠いわね」
小百合は紅茶を一口啜りながら、次の獲物を求めて情報網を巡らせる。南アフリカ。その地名に、ふと記憶の片隅に引っかかっていた情報が蘇った。確か、ごく最近、かの地で奇跡と称されるダイヤモンドが発掘されたという噂があったはずだ。
「あった…これだわ」
指先が軽快にキーボードを叩き、暗号化されたデータバンクの深層から目的の情報を引きずり出す。画面に表示されたのは、息を呑むほどに美しい五つの宝石の写真だった。全く同じカラット、同じクラリティ、同じブリリアンス。それでいて、一つ一つが燃えるような赤、澄み切った青、生命力あふれる緑、太陽の黄、そして夜空の紫と、それぞれ異なる色を宿しているという。奇跡のダイヤモンド――『ファイブ・スターズ』。それは、自然が生み出した偶然の産物とは到底思えない、神の悪戯のような代物だった。
「次のターゲットは、これね」
小百合の瞳が、宝石を前にした時特有の、純粋なまでの欲望と挑戦心で爛々と輝く。そして、彼女は記事の末尾に添えられた小さな記述に目を留めた。この奇跡のダイヤモンドを発掘したのは、一人の日本人だという。白石孝三。聞いたことのない名前だったが、なぜかその文字列が妙に心に引っかかった。
軍資金は潤沢にある。日々のオークションで稼いだ金は、世界中どこへでも飛べるだけの翼を与えてくれる。小百合は手早く航空券を手配し、ラップトップを閉じた。南アフリカへの旅支度を始める彼女の胸には、新たな大仕事への期待だけが満ちていた。これが、二つの世代を巻き込む、長く、そして哀しい物語の本当の始まりであることを、まだ彼女は知る由もなかった。
「白石…孝三、ね」
荷造りをしながら、彼女は無意識にその名前を口にしていた。ただの獲物の情報に過ぎないはずの名前に、なぜか微かな興味を覚えている自分に気づかないまま、彼女は伝説の怪盗リリーホワイトから、一人の女、山中小百合へと姿を変え、新たな運命が待つ地へと旅立っていく。
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パリィィィィン……ッ!!
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