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怪談教えろお父さん

怪談教えろお父さん

Last Updated: 2026-04-25 02:23:03
By: 白い月
Completed
Language:  日本語12+
4.7
6 Rating
3
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8.2k
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8.3k
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Synopsis

ラルス=ローゼンベルグが父ミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒに怪談を聞く。半分わざと無表情をしてそれを個性とするメイド長のレアも加わる。


Chapter1

夕暮れ時、ミハエル公爵の屋敷の書斎は暖かなオレンジ色の光に包まれていた。分厚いマホガニーの本棚が壁一面に並び、所々に置かれた魔法の灯りが柔らかな影を落としている。埃の立たないよう、常に清掃魔法がかけられた空間は、数千冊の蔵書が発する古い紙と革の香りで満ちていた。

「おとーさーん、怪談教えてー」

ラルスがソファの端に座り、父親の方に向き直って言った。彼の黒いヴィクトリア朝風のコートは少し大きめで、まだ成長途中の細い体を包んでいた。

ソファの反対側では、ミハエルが分厚い装丁の本を広げて読んでいた。表紙にはっきりと「禁断の夜の戯れ」と書かれたその本を、彼は何のためらいもなく堂々と読んでいる。ラルスの声に顔を上げると、金色の前髪が左目にかかったまま、眠そうな青い目を息子に向けた。

「なんでまた」

それだけ返すミハエルの声には、少し呆れたような響きがあった。

「学校のさー、みんなで自由にしようってので怪談に決まったんだよー。僕、怪談担当なんだ」

ラルスは興奮気味に説明した。学校の友人たちとの計画が、彼の顔を輝かせている。

「ふーん。じゃあ……」

ミハエルはエロ本を閉じ、ソファの背にもたれかかりながら考え込むようなポーズを取った。彼の着ている金のアラベスク模様が入った黒いコートは、書斎の重厚な雰囲気によく馴染んでいた。

ちょうどその時、書斎のドアが静かに開き、レアが銀の盆を載せたカートを押して入って来た。彼女の伝統的な黒と白のメイド服は完璧にアイロンがかけられ、青いリボンのアクセントが優雅さを添えていた。

「おや、ラルス様もいらっしゃいますね。紅茶と焼き菓子をお持ちしました」

レアの声は礼儀正しく、少し生意気な雰囲気を醸し出していた。エメラルドグリーンの瞳は状況を素早く把握し、しかし感情をあまり表には出さない。

「ちょうどよかった、レア。ラルスが怪談を聞きたいと言ってるんだ」
「まあ、怪談ですか」

レアは紅茶をテーブルに置きながら、少し興味深そうな表情を浮かべた。普段は感情を表に出さない彼女だが、本や物語の話題になると、ついついノッてしまう傾向があった。

「じゃあ、一つ教えてあげよう。これは海外のどこかの都市で実際にあったと噂される話だ」

ミハエルは紅茶のカップを手に取り、ゆっくりと語り始めた。

「ある若い女性が、新しいアパートに引っ越してきた。彼女の部屋の隣には、いつも電気がついていて、夜遅くまで生活音が聞こえる部屋があった。トイレの水を流す音、ドアの開閉音、時にはかすかな話し声さえ聞こえることがあった」

ミハエルの語り口は少し芝居がかっていて、物語の雰囲気を盛り上げようとしているのがわかった。ラルスは身を乗り出して聞き入り、レアも茶器を整える手を止めて耳を傾けていた。

「しかし、奇妙なことに、彼女は一度も隣人と顔を合わせたことがなかった。朝早く出かける時も、夜遅く帰宅する時も、いつも隣の部屋のドアは閉まったままで、中の様子はまったく見えなかった」

ミハエルは紅茶を一口すすり、物語のペースを意図的に遅くする。

「ある日、女性が真夜中にトイレに行こうとベッドから起き上がった時、隣の部屋から奇妙な音が聞こえてきた。カチカチ、カチカチ……と、何かが硬いものをたたくような音が、不気味に響いていた」

ラルスは思わず自分の腕をさすった。屋敷の外では風が窓をわずかに揺らし、物語の不気味さを増幅させているようだった。

「その音は一晩中続き、女性は恐ろしくて眠れなくなった。翌日、彼女は大家さんに相談することにした。大家さんは困った顔でこう言った。『ああ、あの部屋ね……実はずっと空室なんですよ。誰も住んでいません』」

レアはわずかに眉を上げた。

「それは……興味深い設定ですね」

「女性は青ざめた」

ミハエルは語調をさらに陰鬱に変える。

「誰も住んでいない部屋から、なぜ毎晩、あのカチカチという音がするのか?  その疑問が頭から離れない」

「その夜、女性はベッドの中で震えながら、隣の部屋から聞こえる音に耳を澄ませていた。すると、あることに気づいた。カチカチという音は、確かに隣の部屋から聞こえているのだが、同時に、自分の部屋の壁の向こうからも聞こえているような気がした」

ラルスの息が浅くなっているのがわかった。彼は無意識にソファのクッションにしがみついていた。

「そしてついに、彼女は理解した」

ミハエルの声はほとんど囁くようになる。

「その音の正体は、彼女の部屋の中にいる何かが、彼女との境にある壁を、内側から叩いている音だったのだ」

一瞬の沈黙が書斎を包んだ。ラルスは完全に固まってしまい、レアもわずかに目を見開いていた。

「……で、それで?」

ラルスがようやく声を出す。「その女の人はどうなったの?」

ミハエルは肩をすくめた。

「そこまでは噂に聞いていない。ただ、この話を聞いた別の人が、同じようなアパートに引っ越そうとしたら、大家が怪しげな態度を取ったという話はある」

レアが紅茶のポットを手に取り、ミハエルのカップにおかわりを注ぎながら言った。「なるほど、『隣人』という存在が実は『内部』にいたというオチですね。心理的な恐怖を巧みに利用した物語です」

「僕、これ階段で話すのやめようかな……」

ラルスは少し青ざめた顔で呟いた。

「みんな怖がりすぎて泣いちゃいそう」

ミハエルはくすくす笑った。

「でも、よく考えてみろよ。うちの屋敷だって、広すぎて誰かが隠れてたっておかしくないだろ?」

「お父さん、それやめてよ!」

ラルスは本気で慌てた様子で周囲を見回した。

レアはため息をついた。

「ミハエル様、ラルス様を怖がらせすぎです。それに、この屋敷の管理は完璧ですから、余計なものが潜んでいることなどありえません」

しかしレアのその言葉の直後、書斎の遠くの隅から微かに「カチッ」という音が聞こえたような気がした。三人は同時にその方向を見つめた。

「……風のせいでしょう」

レアが冷静に言い放ったが、彼女の指先がわずかに震えているように見えた。

ミハエルは楽しそうに笑いながら、エロ本を再び開いた。

「まあ、怪談ってのはそういうものさ。本当かどうかより、どう感じるかが大事なんだ」

ラルスはまだ少し震えていたが、ミハエルの言葉にうなずいた。

「うん……でも、学校のみんなにはもっと優しい怪談を話すよ」

夕暮れの光が次第に薄れ、書斎には魔法の灯りがより一層暖かな明かりを放ち始めていた。外では、ヴァーレンス王国の独特な経済システムを支える魂の欠片を運ぶ人々の気配が、かすかに感じられるころだ。

レアはテーブル上の紅茶茶碗を整えながら、

「それでは、夕食の準備に戻らせていただきます」

と告げ、カートを押して書斎を後にした。彼女の背筋は相変わらずピンと伸びていたが、ドアを閉める前に一瞬だけ振り返り、部屋の隅を確認するような仕草を見せた。

ミハエルはその様子を見てまた笑い、

「心配性だな、レアも」

と呟いた。

屋敷の外では、ヴァーレンス王国の夜が静かに訪れようとしていた。魔法で作られた街灯が淡い光を放ち、人々は魂の欠片を手に、それぞれの家路につく時刻である。ミハエルの屋敷でも、いつもの平穏な夜が始まろうとしていた――しかし、書斎の遠くの隅で、再び微かに「カチッ」という音が聞こえたような気がしないでもなかった。

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