ワンピースの世界での貿易
Synopsis
ワンピツービという名前の男の貿易日記
Chapter1
寂れた港町の、潮風が運んでくる錆と魚の匂いが混じり合う一角。ワンピツーピが営むささやかな貿易商の事務所で、二人の男が向かい合っていた。一人はこの世界の人間、ワンピツーピ。もう一人は、明らかにこの世界の者ではない空気を纏う男、ミハエル。
ミハエルは、どこから手に入れたのか、見事な熟れ具合のバナナを一本、優雅な手つきで剥きながら、唐突に口を開いた。彼の装いは、金色の緻密なアラベスク模様が施された黒いコート。場末の港には不釣り合いな、ヴィクトリア朝の貴族を思わせる豪奢なものだ。
「地図売ってよ」
もぐ、とバナナを一口頬張り、彼は言った。その口調は、まるで近所の店でパンでも買うかのように軽い。
ワンピツーピは、その突拍子もない申し出と男の奇妙な出で立ちに一瞬眉をひそめたが、すぐに肩の力を抜いた。帳簿の整理は昨日で一段落し、次の船の出港まではまだ間がある。今日明日は特に急ぐ用事もない。目の前の男は胡散臭いが、退屈しのぎにはなるかもしれない。
それに、彼が先ほど語ったばかりの体験談――聖地マリージョアでの、あの四皇カイドウとの一戦――は、常識では計れないほどの価値を持つ情報だった。
情報には情報で返すのが、商人の流儀だ。
「暇つぶしにはなるか。いいだろう、教えてやる。ただし、これは売り物じゃない。あんたがくれた話への、俺からの返礼だ」
「おっけ。ありがと」
ミハエルは満足げに頷き、バナナの最後の一口を飲み込んだ。彼が語った話は、にわかには信じがたいものだった。バナナの皮で竜の姿のカイドウに手傷を負わせただの、死んだふりをして相手の思想を揺さぶっただの、まるで吟遊詩人が語る英雄譚のようだ。
だが、彼の言葉には妙な真実味と、何より彼自身がそれを「面白い芝居」として楽しんだという狂気があった。ワンピツーピは、この男がただの法螺吹きではないことだけは直感していた。だからこそ、こちらも誠実に応じる気になったのだ。
ワンピツーピは立ち上がり、壁に貼られた古びた海図を指差した。それは彼が長年の航海で少しずつ継ぎ足し、修正を加えてきた、彼だけの宝だ。
「まず、大前提として理解してもらう必要がある」
と、彼は静かに語り始めた。
「この世界は、圧倒的に『海』だ。あんたがいた世界がどうだったかは知らんが、ここは陸地が非常に少なく、そのほとんどが巨大な大陸に集中しているか、あるいは大海原にぽつんと浮かぶ島々として存在しているに過ぎない」
彼の指が、海図に描かれた一本の赤い線をなぞる。
「第一に、二つの巨大な帯が存在する。一つは、これだ。レッドライン、『赤い土の大陸』」
指先が、海図を縦に貫くその巨大な陸塊をゆっくりと移動する。
「この世界を縦方向に、まるで地球を一周する大動脈のようにぐるりと囲んでいる、唯一の巨大な大陸だ。非常に高く、延々と切り立った崖が連なる場所も多い。この大陸が、この世界の陸地の大部分を占めていると言っても過言じゃない。あんたがさっき話していた聖地マリージョアも、このレッドラインの頂上にある」
次に、彼の指は赤い線と直角に交わる、広大な青い領域へと移った。
「そしてもう一つが、グランドライン、『偉大なる航路』だ。これは大陸じゃない。レッドラインとは垂直方向に、これまた世界を一周する巨大な海流そのものを指す。一度入れば、気候も天候も海流も、常識じゃ予測できない。コンパスすら役に立たない魔の海域だ。そこには危険な海獣がうろつき、磁気や気候が異常な島がごまんとある。航海の難所中の難所さ。この海とレッドラインが交差する場所が二箇所あって、それが有名なリバースマウンテンや、マリージョア直下を通るルートになるわけだ」
ワンピツーピは一息つき、ミハエルの青い瞳を真っ直ぐに見据えた。彼がどこまでこの世界の物理法則を理解しているかは不明だが、少なくとも真剣に耳を傾けてはいるようだった。
「さらに厄介なのが、カームベルトだ」
彼はグランドラインを挟むように存在する、海図上では何の変哲もない二つの海域を示した。
「『凪の帯』とも呼ばれる。グランドラインを南北から挟むように存在するこの二つの海域は、『風が一切吹かず』、『海流も全くない』。そして何より、『巨大な海王類の巣窟』となっている魔の海域だ。帆船はもちろん、外輪船でも航行は事実上不可能。下手に迷い込めば、まず生きては戻れない」
「ほう。ではどうやって渡るんだ?」
ミハエルが興味深そうに尋ねる。
「海軍は、船底に海楼石を敷き詰めることで海王類に気づかれずに航行する特殊な技術を持っているようだがな。俺たちみたいな一般の商人には縁のない話だ」
ワンピツーピの指が、再び海図全体を大きく円を描くように動く。
「そして最後に、四つの海。このレッドラインとグランドラインによって、世界は大きく四つの海洋に分断されているんだ。イーストブルー、ウェストブルー、ノースブルー、そしてサウスブルーだ。俺たちが今いるのは、このサウスブルーだな。これら四つの海は、グランドラインの外側にある分、比較的穏やかな海域とされてはいる。だが、それでも海賊や並の海獣の脅威は常に存在する。決して安全な航海が約束されているわけじゃない」
彼は腕を組み、締めくくりに入った。
「全体の比率で言えば、ざっくりとだが、海の割合が九割以上。陸地は一割にも満たないほどに少ないと考えていいだろう。地図上で見れば、ただただ広大な海が広がり、陸地はまるで『点の帯』のように点在しているのがほとんどだ。レッドラインという例外を除いてはな」
ワンピツーピは壁の海図から目を離し、再びミハエルの顔を見た。彼の表情には、この世界の厳しさを改めて突きつけるような、商売人としての冷徹な光が宿っていた。
「この特殊な地理が、物流を極めて困難にし、各地域を孤立させている。そして、世界政府や海軍、さらにはあんたが戦ったカイドウのような『能力者』といった、特定の組織や個人の力をことさら強大にしている要因の一つだ。商船が目立たないのも、これほど危険で広い海を、限られた陸地から陸地へと移動する途方もない労力、そしてリスクを考えれば、それもまた必然なのかもしれん」
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潮風が穏やかにコロシアム島の港を吹き抜けていた。ワンピツーピは汗を拭いながら、小船に積まれた荷物の確認を終えていた。今日も東の海の小さな島々との貿易は順調に進み、新たな交易品が船倉に収められ
潮風が穏やかに船上を吹き抜ける中、ワンピツーピは積荷の確認を終え、ほっと一息ついていた。東の海の小さな島々を巡る貿易は地味だが、確実な収入源として彼の生活を支えていた。
今日も無
潮風が穏やかに島の湾に吹き込む中、ワンピツーピの小船がゆっくりと桟橋に近づいていた。東の海の小さな島、ココナッツ島はその名の通り、海岸線に沿ってヤシの木が並び、白い砂浜が眩いばかりに輝いていた
潮風が穏やかに船上を吹き抜ける中、ワンピツーピは航路図を広げて次の寄港地を検討していた。東の海の小さな島々を結ぶこの貿易ルートは地味だが、確実な収入源として長年頼りにしているものだ。
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