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ヴァルハラで魂の扱いを学んだ戦乙女は食欲でそれを使う

ヴァルハラで魂の扱いを学んだ戦乙女は食欲でそれを使う

Last Updated: 2026-04-20 02:07:33
By: 白い月
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Language:  日本語16+
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Synopsis

食欲が動機で魂入れ替わりを企むブラックヴァルキリー・カーラ。果たしてうまくいくのか!


Chapter1

ティルナノグAIテーマパークの喧騒が遠い記憶となり、ヴァーレンス公爵邸に日常という名の静寂が戻って久しい、ある日の昼下がり。事件は、ほとんど戯れのような衝動から始まった。

「(……ミハエルになれば、もっと美味いものが、もっとたくさん食べられるのではないか?)」

 ブラックヴァルキリー・カーラの思考は、いつだって単純明快だ。公爵という地位。その周りに傅く人々。

(彼が望めば、山海の珍味が際限なく運ばれてくるに違いない)

 その光景を想像しただけで、彼女の口内にじゅわりと唾液が湧き上がる。ヴァルハラで魂の扱いを学んだ戦乙女にとって、他者の肉体という器を一時的に借り受ける術は、禁忌ではあっても不可能ではなかった。

 彼女が『ブラックヴァルキリー・ハーモニー』と呼ぶ、他者に戦士や魔法使いなど、クラス特性を付与する能力も、突き詰めれば魂の構造に干渉する技術の応用だ。ならば、魂そのものを入れ替えることなど、少しばかり大胆な応用問題に過ぎない。

 まさか霊波動を扱う人間が、魂そのものの「色」や「形」を視る癖をつけているなど、彼女の頭脳は考慮に入れていなかった。緻密な計画性など、腹の足しにもならないのだから。

 漆黒の翼を持つ元戦乙女は、書斎で書類に目を通していたミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒ公爵の背後に、音もなく降り立った。悪戯を仕掛ける猫のように目を細め、その両掌から仄暗い霊気の糸を伸ばす。

「――ブラックヴァルキリー・ハーモニー……エクスチェンジ」

 囁きは呪詛のように空間に染み渡り、二人の魂を繋ぐ光の橋を架けた。通常ならば、術をかけられた側の魂が激しく抵抗し、拒絶反応を示すはずだった。ミハエルの魂は、霊波動の使い手として、並の神格すら弾き返す強靭な城壁に等しい。だが――。

その城壁は、門を開いた。

抵抗がない。それどころか、まるで待っていたかのように、彼の魂は自ら器を明け渡し、カーラの魂が流れ込んでくるのを許容した。一瞬の浮遊感。視界が白く染まり、次の瞬間、カーラは自分の体を見下ろしていた。いや、かつて自分のものだった、白銀の髪と漆黒の翼を持つ戦乙女の体を。

「――っ!?」

そして今、彼女が立っているのはミハエルの視点。彼の身長、彼の体重、彼の服がもたらす感触。喉の奥で咳払いをすれば、聞こえてくるのは慣れ親しんだ自分の声ではなく、低く、それでいてよく響く男の声だ。

「……ふむ。成功、か」

ミハエルの声で、カーラが呟く。視界の高さが違う。手足の長さが違う。全身に漲る力が、質からして違う。だが、そんな些末な問題はどうでもよかった。彼女の頭は、既に次の目的で満たされている。

「よし! まずは厨房だ! 今日は晩餐会並みのフルコースを要求してやろう! 胸が軽いなー男って!」

公爵の権威を笠に着て、彼女は意気揚々と書斎の扉を開けた。その足取りは、いつものミハエルの優雅なものではなく、どこか跳ねるような、子供じみた軽やかさを帯びていた。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「誰か! 誰かいないのか!」

公爵邸の長い廊下に、ミハエルの、しかしどこか性急で威圧的な声が響き渡る。近くを通りかかったメイドが、驚いて駆け寄ってきた。

「ミハエル様、いかがなさいましたか?」
「ああ、君か。ちょうどいい。料理長を呼べ。今すぐだ。今日は特別に、わたしが食べたいものを全て作らせる。前菜はフォアグラのソテー、主菜はロッシーニ風ステーキ、デザートは……そうだ、この世の全てのケーキを持ってこい!」

矢継ぎ早に、しかし食欲に忠実な命令を下す「ミハエル(カーラ)」に、メイドは目を白黒させる。

(どちらかと言えば、小食なのに……ミハエル様)

普段の思慮深い主人からは想像もつかない、我儘な子供のような要求だった。

「は、はあ……かしこまりました」

困惑しつつもメイドが去っていくのを見送ると、カーラは満足げに腕を組んだ。これで極上の食事が約束された。この肉体も、なかなか使い勝手がいいではないか。気分良く鼻歌でも歌い出しそうな、その時だった。

「もんもん、ももももーん! 息子さーん、なんだか今日は随分と桜の香りがしないわねぇ。代わりに鉄と甘い蜜の匂いがするじゃないの」

ひらり、と。まるで一枚の花弁が舞うように、桃色の十二単を纏った妖怪、桜雪さゆがどこからともなく現れた。その悪戯っぽい桃色の瞳が、じっと「ミハエル」を見つめている。

「……さゆ、か。何の用だ。わたしは今、機嫌がいい」

カーラはミハエルの口調を真似て、尊大に言い放つ。

もともとブラックヴァルキリー・カーラとミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒの口調は男の女という違いはあれど、結構似ていた。

だが、さゆはくすくすと笑うだけだった。

「あらあら、怖い顔。

 でもねぇ、息子さん。あんたの魂、いつもの深い夜の湖みたいな色じゃないわよ。

 まるで、星空を盗んで隠し持ってる、欲張りな小鳥の色よ。見てて飽きないけど、それは息子さんの色じゃないわねぇ」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 断言だった。霊波動の使い手が見るまでもない。この妖怪は、存在そのものの「本質」を、匂いや色として感じ取っている。カーラは内心で舌打ちしたが、表情には出さない。

(ミハエルなら、こういう時どうする?  おそらく、冗談めかしてはぐらかすだろう!)

「何を言っている。寝惚けているのか、春女。それとも、また悪戯のつもりか」
「あら、バレた? でも、半分は本当よ。今のあんた、すごく『美味しい』匂いがする。魂ごと食べちゃいたいくらい」

さゆはそう言うと、ふわりと宙に浮き、廊下の天井近くを漂いながら、楽しそうに「ミハエル(カーラ)」の周りを一周した。彼女にとって、この異常事態はただの面白いおままごとに過ぎないらしかった。カーラはこれ以上相手にしても無駄だと判断し、さゆを無視してダイニングルームへと向かう。さゆはその後ろ姿に「もんもーん!」と楽しげな声をかけ、またどこかへ消えていった。

ダイニングルームの重厚な扉を開けると、そこには既に数人の影があった。窓辺に立ち、静かに外の景色を眺めている水鏡冬華。テーブルの近くで、何やら霊符の点検をしている東雲波澄。そして、大きなソファにだらしなく寝そべり、美術雑誌を眺めているフィオラ=アマオカミ。

カーラは、わざとらしく咳払いを一つした。

「ああ、皆揃っていたか。ちょうどよかった」

その声に、三人が一斉に振り向く。そして、三者三様の反応を示した。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



最初に口を開いたのは、水鏡冬華だった。彼女はゆっくりと「ミハエル(カーラ)」のほうへ歩み寄ると、その深い茶色の瞳で、恋人の顔をじっと覗き込んだ。その視線は、何かを探るように、確かめるように鋭い。

「ミハエル……あなた、どうしたの?  少し……雰囲気が違うわ」
「そうか?  いつも通りだと思うが」
「いいえ、違う。あなたの霊波動が、妙にささくれ立っている。それに……」

冬華はそっと「ミハエル(カーラ)」の頬に手を伸ばした。その指先が触れた瞬間、彼女の眉が微かに顰められる。

「……温かい。でも、いつものあなたの温かさじゃない。これは、まるで他人の肌に触れているみたいだわ」

 長年連れ添った夫婦同然の彼女にとって、魂の繋がりは肌の温もりと同じくらい確かなものだった。今、目の前にいる男からは、その繋がりが感じられない。ただ、物理的な肉体の熱だけが伝わってくる。空っぽの器に触れているような、奇妙な違和感。

「考えすぎだ、冬華。少し疲れているだけだろう」

カーラは咄嗟にその手を払い除けた。その拒絶の仕草に、冬華の瞳に確信に近い疑念の色が浮かぶ。

その時、今まで黙って様子を窺っていた東雲波澄が、すっと立ち上がった。彼女は礼儀正しく一礼すると、しかし厳しい表情で口を開いた。

「失礼、ミハエル。先程からねぇ、邸内の霊脈に奇妙な乱れが生じてるわ。

 そして、その乱れの中心は……申し上げにくいのですが、ミハエル自身から発せられているように感じられます。魂の波長が、普段観測されるデータと著しく乖離してるわ。これは一体……?」

 式神使いであり、霊波動士でもある波澄の指摘は、冬華の感じた情緒的な違和感とは違い、どこまでも技術的で分析的だった。彼女の茶色い瞳は、まるで未知の霊的現象を解析する機械のように、冷徹な光を宿している。

「……わたしの屋敷だ。霊脈の一つや二つ、わたしの気分でどうとでもなるな」

カーラは苦し紛れに言い返すが、その答えが的外れであることは、波澄の失望したような表情が物語っていた。

そして最後に、ソファに寝そべっていたフィオラが、気だるげに上半身を起こした。彼女は美術雑誌を閉じると、赤い瞳で「ミハエル」を頭のてっぺんから爪先まで、まるで値踏みするように眺め回した。

「……ふぅん。なるほどねぇ」
「何がだ、フィオラ」
「あなたよ、ミハエル。今日のあなたは、実に興味深いわ。

 まるで、レンブラントの傑作の隣に並べられた、精巧な贋作。筆致も、絵の具の質感も、構図も完璧に模倣している。

 ぱっと見では誰もが見過ごすでしょう。

 でもね、魂の『筆致』が違うのよ。作者の息遣いが感じられない。美しいけれど、空っぽ。……ねえ、一体誰が描いたのかしら、その絵は?」

 黒竜の芸術家は、くつくつと喉を鳴らして笑った。彼女にとって、この事態は真作と贋作を見分けるゲームの一環に過ぎないのかもしれない。だが、その言葉は、この場にいる全員が感じていた違和感の正体を、的確に言い当てていた。

三方向から突きつけられた疑念の視線に、さすがのカーラも冷や汗を禁じ得ない。美味いものにありつくまでの道のりは、思ったよりも遥かに険しいらしい。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



その頃、公爵邸の二階。ミハエルがブラックヴァルキリー・カーラに与えている、彼女の私室で。

「くしゅんっ!」

「カーラ(ミハエル)」は、慣れない小柄な体で盛大なくしゃみをした。自分のものではない、どこか鈴を転がすような可愛らしい声に、彼は思わず苦笑する。部屋の中は、彼女の性格を反映してか、脱ぎ散らかした服や食べかけのスナック菓子が散乱していた。

「首んとこあついなぁーーーー! これ、髪でこう、ふさがって熱がこもるからか! じゃあスカートもロングの履いた時に空気がこもって熱くなるんだな。ああ、女がパンツ見える危険侵してでもミニスカートにしたいという気分分かったよ」

「カーラ(ミハエル)」は、今は自分のものとなった白銀の髪を指で弄び、背中に感じる霊気の翼の感触を確かめる。軽い。驚くほどに体が軽い。これが空を飛ぶ者の感覚か、と少し感心した。

窓辺に寄りかかり、階下で繰り広げられているであろう混乱に、彼はそっと意識を向ける。冬華の疑念、波澄の分析、フィオラの看破、そしてさゆの戯れ。全てが手に取るように伝わってくる。

「ミハエル(カーラ)」が彼の体を使って、大食堂で晩餐を要求している光景が目に浮かぶようだ。その単純さに、「カーラ(ミハエル)」は思わず笑みを漏らした。

(やはり、動機は食い気か。分かりやすくて、いっそ清々しいな)

 彼はこの魂の入れ替わりを、故意に受け入れた。一つは、この元戦乙女に、他者の立場というものを身をもって学ばせるため。そしてもう一つは――。

「カーラ(ミハエル)」は、カーラの姿のまま、部屋の隅に置かれた質素な果物籠からリンゴを一つ手に取った。シャリ、と一口かじる。甘酸っぱい果汁が口の中に広がり、空腹感を刺激した。なるほど、この体の燃費はあまり良くないらしい。

(さて、どこまでやれるか見ものだな。わたしの仲間たちが、あの『贋作』をどう扱うのか。そして君が、わたしの『器』で何を学び、何に絶望するのか)

彼は窓の外を見つめた。ヴァーレンスの空は、どこまでも穏やかに晴れ渡っている。階下から聞こえてくる、恋人たちの困惑した声と、偽物の主君の虚勢に満ちた声をBGMに、「カーラ(ミハエル)」は静かにリンゴを齧り続けた。まるで、最高の席で始まった喜劇を鑑賞する観客のように。

「とりあえずおっぱい揉むか。入れ替わったんだから、しかもわたしが被害者の立場だから、これくらい許されるよなぁ! こんな経験は結婚してようがそうは訪れないからな」

もみもみ。

厄介な男に魂入れ替わりの術を使ったことに、まだ、ブラックヴァルキリー・カーラは気づかない。

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